ビデオコラムよりテキスト化・一部抜粋
――先週から大連立の話をしています。先日、福田総理大臣と小沢民主党代表がお会いになったときに、両党が連立内閣を組んだらどうか、という話が飛び出した。ここで、にわかに大連立が現実味を帯びてきたわけですけれども、先週はこの大連立を組んだらどんな便利なことがあるのか、その大連立の「効果」のほうを言いました。これは主として当面の問題が解決できるということです。しかし、大連立には大変に大きな罪の方、悪い方があるんですね。今日はこの大連立の「罪」ということをお話ししたいと思っています。
実を言いますと、大連立には前例があります。昔、近衛内閣というのがあったんですね。ここに大連立のシナリオ、最悪のシナリオというのを書いておりますが(ビデオコラム参照)、大連立というのは現在言われているのは、この自由民主党とそれから民主党とおそらく公明党も一緒になるでしょう、これらの政党が一つになって内閣を連立で作る、こういうことなんですね。もし、そうなったとしますと、衆議院議員480人のうちで440人ぐらい、だいたい9割ぐらいの人が与党になってしまいます。参議院も同様でしょうね。そうなるとどうなるか。
実はこの前例として、1938年から41年、近衛内閣がありました。昭和13年から16年にかけて近衛文麿という人が3回内閣を組織したんです。その内閣は大政翼賛会と言われまして、当時の政党のほとんどが与党になった。それで与党、大政翼賛会が推薦した候補者ばかりが通る。なかには斎藤隆夫さんという兵庫県の代議士とか、あるいは安倍晋三さんのおじいさん、一人は岸信介さんですが安倍晋太郎さんのお父さんですね、父方のお父さん。この方は実は大連立の推薦なしに山口県で通った数少ない立派な代議士でした。そういう人もおられましたけれども、だいたいもう9割は与党になってしまう、そういう情勢があったんです。仮に今、自由民主党と民主党と公明党が一緒になって、そういうものができたらどういうことが起こるか。これを今日はお話ししたいと思っています。
この大連立の危険、大連立が起こったらどうか……。実は10年ほど前にドイツでも一時ありました。この場合は、この問題と、この問題と、この問題を大連立で解決したら必ず国会を解散してその次は連立していない内閣を作る、という申し合わせのもとに1年半か2年弱これをやったんです。けれども、今度の場合はそうではなしに近衛内閣と同じように最後のない、エンドレスな連立だと仮定しましょう。
そうなると、まず第1に起こってくるのは、この連立与党の中でないと当選しない。たとえば自由民主党と民主党と公明党が連立与党を組む、そうすると当然この与党の中で候補者調整が行われますから、次の選挙の時には自由民主党が立ったところには民主党が立たない。民主党が立ったところには自由民主党が立たない。そうなりますと、国民の選択の余地がなくなる。ところどころに競争する選挙区もあれば無所属で出る人、他の政党から出る人もいるでしょうけれども、内閣全体、大連立の内閣全体をひっくり返すようなことはできません。
したがって、どうせこの連立内閣がまたできるだろう、つまり国民に選択の余地がなくなる、どんな投票をしても必ず大連立内閣なのだ、こういうことになるんですね。これでは民主主義の根幹である国民の選択制というものがなくなってしまいます。
そうなると、第2の問題として政府がやりたい放題になる。選挙で負ける心配がない。国会でも法案を出せば全部通る。したがって、政府のやりたい放題になってしまう。国民の民主的なチェックが効かないんではないか、こういう問題が生じてきます。国会議員の方々も、どうせ大連立なら俺は当選するんだから選挙民の言うことをそれほど聴かなくてもいい。非常に気楽になりますが、国民の側から言うとチェックのしようがなくなる。それゆえ、ついには意見が続出する。意見が乱出しまして、最後には官僚の言いなりになる。こういう事態が起こるんですね。――
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