100年に一度の大不況。近年稀に見るこの不況は、今や皆さんの生活を脅かしています。今回は、その脅威がどの程度のものであるのか、様々な数字を用いてその本質を探ってみたいと思います。
ビデオコラムよりテキスト化・一部抜粋
(図1.日本の鉱工業生産指数)
今、世界は大不況と言われています。グリーンスパン前アメリカ連邦準備銀行の総裁は、これを「100年に1度の事態」とこう呼びました。確かに今世界は大不況なんですね。この世界大不況の実態について今日そして次の回、2度に分けてお話をしたいと思っています。
まず、簡単に日本の状況でございますが、これは日本の鉱工業生産指数でございますけれども(図1参照)、ご覧のように去年の後半にいたってドンドンドンと段々と下げ幅が大きくなるように落ち込んでいます。こういうように見事に下げ幅が大きくなる、こんな事は滅多になかったんですね。
これを更にグラフにしてみますとどういう格好になっているかといいますと、これは日本のGDPの前期比、前の期に比べてどうかということなんですが、この最期の部分をご覧下さい。最期の所で猛烈な勢いで垂直に落下してますね。それまでも下がったことはございましたけれども、こういうときは高い水準で下がってたんですが、今度の下がり具合は最後に前期比で見ますと3.0%、1年に直すと11.4%の下落という、嘗てなかった大きな下落です。
しかもこれは日本だけではございません。世界中が同様でございます。例えばアメリカでございますけれども(図2参照)、アメリカのこのGDPの下がり方、やはりこの最後の方ですね、この部分は垂直落下と言えるような形で水面下にドーンと突っ込んでおります。
(図2.米国GDP推移)
またヨーロッパ、EUの鉱工業生産もこの最後の段階になりますと水面下よりもはるかに低い水準で動いていると、こういった事態です。こういう事態を誰もが想定しただろうか、といいますとそうではありません。これを想定できた人は非常に僅かなんですね。
例えば去年の6月、北海道の洞爺湖でサミット、主要先進国首脳会議がありました。その時に世界の首脳、当時日本の首脳は福田康夫さんでございましたが、福田康夫総理大臣以下ブッシュ大統領とかフランスのサルコジ大統領とか、集まった方々がみんな心配していたのは実はインフレなんです。物価がどんどん上がるんじゃないか。このインフレを心配していました。まさか不況になるとは思わなかったんです。
それは何故かと言うと、その頃石油を始めとしていろんな物の値段が値上がりしていました。これは石油の値段でございますけれども(図3参照)、国際石油価格、ずーっとこの水準ですね、大体20ドル台で推移していたんです。それがようやく3年前、05年の頃から、徐々に上がりだしました。そしてやがてこの40ドル水準にきた。
(図3.原油価格推移)
そうするとドドドドッと上がって、一番高いときには140ドルまで上がるような非常な急騰を示しました。丁度このサミットが開かれたのは、この一番の天井の所でございまして、この辺りですね、一番の天井の所だったもんですから、みんなこれ以上石油が上がったら大変だと、こういう警戒をしていたんです。
石油だけではありません。例えば最も身近な食料であります小麦。小麦の数値を見てもやはりこういう具合に、ずーっと小麦というものは1ブッシェル=2ドル50セントぐらいでずーっとこう推移していたんですね。それがこの最後の所へきて猛烈な勢いで値上がりをいたしました。
もっとも小麦の場合は石油よりも少し前に値下がりに転じています。またトウモロコシ。これもずーっとブッシェル=2ドル、トウモロコシといえば1ブッシェル=2ドルの物だと、こう思っていたんですけれども、06年、3年ほど前から徐々に値上がりをして、去年の中頃には(6月には)これが7ドル65セントまで値上がりいたしました。
このトウモロコシが値上がりしたという背景には、トウモロコシからバイオエネルギー、エタノールを作るという、石油が高くなったからトウモロコシからアルコール燃料を作って自動車を動かす、そういうのをやったことも原因です。従って石油に引っ張られて値上がりをしていた。ところがその後は大暴落をいたしました。
何も農産物だけではありません。銅の相場、これを見ていただくともっと荒っぽい相場が見えています。こんなに値上がりしていた物がここで劇的な値下がりを演じたわけですね。そういう具合に、つい去年の夏までみんな物価が値上がりする、インフレの方を心配していた。ところが、このインフレの結果、アメリカの景気が悪くなって、それであのサブプライムローン、所得に低い人々に貸し付けている住宅ローンが破綻して、それから金融破綻になって一挙に不況になりました。
その原因をつくったアメリカの住宅着工件数を見てみますと、こんな形になっています。見事にダダッと下がりまして、今やアメリカの住宅着工件数は1950年代に逆戻りをした、というような有様です。
もう一つ不況の元凶となったのはこの自動車であります。自動車が急に売れなくなった。これが非常に大きいんですね。一番多い時には3ヶ月で360万台、1年間に直しますと千数百万台売れていたんですが、それが今や240万台、1年間に直しても一千万台を切れると、これまた1950年代の水準に下がってしまいました。
そういった事がどんどんと起こったもんですから、世界大不況になった。そして日本もご多分に漏れず同じような状況でございまして、日本の住宅着工件数もこの10月以降非常な勢いで下がりました。日本の場合はそれ以前、非常に低い水準からようやく9月、10月に高くなった。その前に非常に低い、これは日本が建築基準法を改正いたしまして、一昨年の6月です、そして非常に着工をしにくくしたし許認可も遅れた、そういう事でぐっと下がってたんですね。それがようやく回復してきたところでまた下がりだしたと、こういう様な状況になっています。
日本でも非常に目立っているのはこの自動車ですね。自動車の販売件数は物凄い勢いで下がっています。これで自動車産業はトヨタ自動車をはじめ、皆さん赤字に転じたという様な状況です。こういう具合に世界中で同時不況が始まった。これが今の経済の大きな問題なんです。