注目される北海道洞爺湖サミットがいよいよ始まりました。世界中で吹き荒れる経済や資源の問題。あまり期待はできない日本のイニシアティブ。果たして、『日本外交惨敗』というレッテルを削ぐ成果は挙げられるのでしょうか?
ビデオコラムよりテキスト化・一部抜粋
北海道洞爺湖サミットが始まりました。このサミットでは、日本が提案する環境問題などが主要な議題になっておりまして、日本の外交としてどんな成果があげられるか非常に注目されるところです。もちろん環境問題もさることながら、世界で今吹き荒れている経済の問題、例えばアメリカのサブプライムローンに発生した信用不安の問題、ドル安の問題、これに対応してアメリカはインフレ抑制を重視した金利引き上げをする。そうなりますと、また日本のゼロ金利政策を続けていると日本とアメリカとの金利差から円安が始まるんじゃないか、そんな問題もあります。
またもっと世界中が熱くなっている問題としては、石油を初めとする資源の値上がり、そして食料の値上がり、これをどう対処するか、こういった問題が大きな問題です。
日本はこれらの問題について、あまりイニシアティブがとれないのではないか。そういう印象があるんですね。何故そうなのかといいますと、日本自身があまり決め手を持っていない。例えば金融問題でも突っ込んでいくと、日本のゼロ金利をどうするんだ。この問題が出てまいります。で、日本は今ほとんど実質ゼロ金利というような水準になっておりますけど、これは私が経済企画庁長官の時に始めた政策なんですけれども、当時は物価は下落しておりました。消費者物価が下がる。だから金利が無くても同じ金額を預金しておくと、それだけ預金者の財産が増える。そういうことがあったから、ゼロ金利だったんですけども、最近は消費者物価が堅調に値上がりしてる。それにもかかわらずゼロ金利ということは、確実に目減りする訳ですね。そういうことが許されていいのかどうか。こんな問題があるのですけれども、政府は景気対策その他の点からなかなかこれが解除出来ない。世界との格差が益々広がるんじゃないか。こういうことがあるので、日本としてはあまり積極的な発言が出来ないという問題が有ります。
また資源問題でも、日本は元々資源が無いうえに、資源開発のプロジェクト、あるいは技術の面でも、特に世界が注目するような物が存在しない。そういう点でもただ買い手一方である。という点であまり有力な発言が出来ない。そういういろんな点で拘束があります。そんな中から考え付いたのが、すぐに成果が現れる物ではない、すぐになになにしなきゃいかんもんじゃない、という環境問題だった、こういう皮肉な見方もあるんですね。これから世界の国々が、どういうようにこれを考えていくか。そういったところが注目されるところです。
で、それ以上に、そういった今回のサミットがどうなるかということ以上にもっと重大な問題があります。それは、サミットの枠組みがだんだんと効用を失ってきているんじゃないか、ということなんですね。このサミットの前には、北朝鮮の問題がありました。で、北朝鮮とアメリカの間に、ある種の妥協が成立して、アメリカが十何年続いておりました北朝鮮に対するテロ支援国家というレッテルをはずした。そういう制裁を解除した。これは北朝鮮にとっては大きな進歩なんですね。ところが日本がかねがね言っておりました拉致問題については全然進展が無い。ようするに日本の主張を通り過ぎて、頭の上で北朝鮮とアメリカが手を結んじゃったんじゃないか。そんな印象があります。そういうことを並べて、日本の外交は惨敗したのではないか。惨敗日本外交という声も出ています。これからのサミットを前にして、早くもそうゆう評価をするのは僭越ですけども、そういわれても仕方の無い部分が見えてくるところがあります。で、問題は日本が今まで世界の大国として位置づけられている、そういう誇りと機能をもっておりました、この主要8カ国の会議、いわゆるサミットですね。これがだんだんと効用を失いつつあるんじゃないか。特にフランスなんかはですね、この8カ国プラスEUの枠組みの他に、もう3カ国、中国やブラジルやインドなどを入れて11カ国の枠組みにしたらどうか。こんな提案もしてまいりました。どんどんと増えていくと、やはりその中での日本の比重というのは軽くなっていく。そういう問題が現にあるわけです。そういう案がかなり有力に出てくるというのには、2つの理由があります。
1つは、日本自身に責任があるのですけれども、サミットと言いながら、首脳会議と言いながら、日本は官僚の根回しがひどい。先にシェルパと言うんですが、あのエベレスト登山のときに荷物を運ぶ人の事ですね、このシェルパが、先にずーと官僚が打合せをして、サミットになったらこういう発言をすると、こういう答が返ってくると、全部シナリオを書いちゃうんですね。だからせっかく首脳が会う意味が無いじゃないか。もっと本当に首脳同士が議論をし、その場で「成る程」というところは、筋書きと違っても妥協出来る。あるいは結論が出る。そういうものでないと。実を言いますと、アメリカ・ヨーロッパの国々では、1年に何回も首脳が会っているのです。例えばフランスとドイツなんていうのは、大体1年に3回か4回、首脳が会っているんですね。また、アメリカとヨーロッパの国々も毎年、首脳が会っている。だから、わざわざこのサミットだけを張り切ってやることはないんだと。そういう感じなんですけども、日本だけはこのシェルパ役人がですね、この問題については、まず議題はこうしましょう。そしてこの問題については、まずアメリカ大統領が発言したら、それに対して日本の首相がこう発言します。それに対して次はドイツが、というのを全部細かく筋書きを書いて、それと違わないようにやりたい。勿論それは役人の希望で、必ずしも違わないようにやるわけでは無いのですけども、とにかくこれは議題にするとか、これは何分かけるとか、ものすごくこう綿密な事をやるんですね。そんなことをやるんなら、何も首脳会議でやらなくていいんじゃないか。というので、首脳会議・サミットの価値が下がってきたと、こういう批判は15年程前から、1990年代からずーと有ったわけです。
そうしてもう1つ出てきたのは、この8カ国、始まりは7カ国だったのですが、ロシアが入って8カ国、8カ国だけでは世の中が決まらなくなっているよ、という問題があります。例えばここに用意いたしましたのが、世界の生産、いわゆる国内総生産GDPですね。これを全世界の中で、各国がどのくらいの比重をもっているかというのを示したのがこれです(資料参照)。
 |
映像の配信には富士ソフト(株)の【FSStream】を使用しています。 |
・映像配信(ストリーミング)は、Windows用「Internet Explorer 5.5以上」に対応します。ほかのブラウザ、OSには対応していません。
・初めてご覧になるときはプラグインをインストールします。「セキュリティ警告」のダイアログボックスが表示されますが、「はい(y)」を選びます。自動的にプレーヤーがインストールされ、ストリーミングがスタートします。 |
>>初めてストリーミングをご利用になる際の注意点 |
>>堺屋太一ビデオコラム
シリーズ一覧: