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議論に勝つ常識
2008年版
[がん医療についての基礎知識]
[基礎知識]なぜ「がん難民」が生まれるのか?


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がん生存率、全がん協が初公表
 二〇〇七年一〇月四日、厚生労働省研究班は、高度ながん医療を担う「全国がん(成人病)センター協議会」(全がん協)に加盟する三〇病院を対象に(回答は二五病院)、病院ごとの治療成績を数値化し、一部の病院は匿名扱いとしながらも、胃がん、大腸がん、肺がん、乳がんという日本人に多い「四大がん」の五年生存率を初めて公表した。
 がんの治療成績を開示せよという世論の強い要望に応じるとともに、病院間の「実力格差」の要因分析を促し、がん医療の均てん化、すなわち、質の高いがん医療を全国どこでも受けられるようにすることが狙いだ。
 今回開示されたのは、一九九九年中に入院治療を受けたがん患者の五年生存率で、胃がんでは、生存率の数値が最も高い国立がんセンター中央病院が八四・一%、最低の匿名施設が四五・五%(図参照)。大腸がんは最高八七・六%、最低六三・八%。さらに乳がんは最高九二・九%、最低七二・三%。肺がんは最高五五・五%、最低二四・七%とやはり施設間の「差」が大きかった。
 厚生労働省研究班の主任研究者である猿木信裕群馬県立がんセンター手術部長は、取りまとめ役の立場から、〈数字は、治療技術のみを反映するものではない。数字をそのまま医療の質が高いととらえず、治療について医師と話す際の資料にしてほしい〉(朝日新聞〇七年一〇月五日付)とコメントしたが、手術、抗がん剤、放射線治療など、がん診療の総合力において、地域や病院ごとに格差が存在している実情が改めて印象づけられる皮肉な結果となった。
 同年四月、がん対策基本法が施行された。これは日本人の死因トップであるがん対策への取り組みを強化するため、国や地方自治体に「がん対策推進基本計画」の策定を義務づけ、がん医療の地域格差解消、患者参加型医療の実現などを図るものである。
 同年五月七日には、厚生労働省のがん対策推進協議会が、「七五歳未満のがん死亡率を一〇年で二〇%削減する」という数値目標を決め、国の政策上でも、がん医療は新たな局面を迎えた。


がん患者の過半数が「がん難民」
 一方、〇六年に近藤正晃ジェームス東京大学特任准教授(日本医療政策機構副代表理事兼事務局長)らが、医療に対する患者の要望を集約しようと、がん患者一一八六人に対してアンケート調査を行った。
 同調査によると、いわゆる「がん難民」を「治療説明時に不満、または治療方針決定時に不納得を感じたがん患者」と定義した場合、全国のがん患者の五三%を占めると推計できるという。
 近藤准教授は、〈これは、日本のがん患者一二八万人に当てはめると六八万人に相当する。このうち、治療方針決定時に納得しなかった患者のみを抜き出すと、がん患者の二七%の三三万人に相当することもわかった。がん難民は、特定の性別や年齢層に集中しているわけではなく、また、がんの種類や進行度(病状)にもよらないことも確認された。つまり、こうした属性とは関係なく、あらゆるがん患者が、がん難民化する危険がある。がん難民は進行度の進んだ患者だけの問題であるという認識は誤りである〉(「週刊東洋経済」〇七年一月二七日号)と指摘。
「患者本位」という美辞麗句の裏で、依然として「医者上位」「説明不足」という悪弊がはびこるわが国のがん医療に対し、一石を投じる形となった。
 同調査によれば、がん難民の九一%が、日本のがん医療に対して「不満がある」。不満は、上から順に、「行政による治療薬承認(九五%)」、「病院や医師の質についての情報開示(八七%)、「心のケア(八一%)」だった。


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論 点 がんはどこまで治せるのか 2008年版

私の主張
この三〇年、激変したがん医療――生存率二〇%向上はまだ夢か
森 武生(都立駒込病院院長)


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