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社説:北朝鮮「衛星」 MD対応含め万全の態勢を

 北朝鮮が「人工衛星」と主張する長距離弾道ミサイル発射問題で、政府は今週中にも自衛隊法82条の2に基づく「弾道ミサイル等破壊措置命令」を発令する方針だ。ミサイル防衛(MD)を発動するこの条項の適用は初めてとなる。

 北朝鮮は4月4~8日に衛星を発射すると通告している。通告通りなら秋田、岩手両県のはるか上空を飛ぶため日本に被害が及ぶことはない。しかし、何らかのトラブルで日本の領域に落下する可能性を否定できないのも事実だろう。自衛隊法は、ミサイルでなくとも落下物で重大な被害が発生するおそれがある場合はMDによる対応ができるとしている。

 具体的には、日本海に配備したイージス艦の海上配備型迎撃ミサイル(SM3)が迎撃し、失敗した場合は地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)で対応するという2段構えだ。

 発射予告に対しては、何より北朝鮮に自制を求める外交努力を最後まで続けなければならない。予告日直前の米中首脳会談やその前の日米韓3カ国の協議は重要な場面となる。とはいえ、いざという時に備えて万全の態勢を取ることも政府の責務である。米国を狙ったミサイルをMDで迎撃しようとすれば、集団的自衛権の行使にあたるが、日本の領域に限る今回は問題にはなりそうもない。

 破壊措置命令は、日本に飛来するおそれがある場合に閣議決定を経て防衛相が出すケースと、そのおそれは少ないが事態の急変に備えてあらかじめ防衛相が命じておく場合の2種類がある。前者は公表を前提にしており、後者は非公表が原則だ。政府は今回、後者を適用する方針という。

 しかし、北朝鮮の発射準備も日本政府のMD対応も報道を通じて国民には周知のことだ。関東や中部地方にしか配備されていないPAC3を東北地方に移動する必要もある。文民統制(シビリアンコントロール)の観点からも、政府は後者の方法をとるとしても、非公表でなく国民に事態を詳しく説明すべきである。

 ミサイルをミサイルで迎撃するMDに関して、政府高官が「当たるわけがない」と語り、物議を醸した。確かに過去のMD実験は失敗も多く、ましてトラブルで弾道が乱れた場合は、短時間に軌道計算を修正しなければならず迎撃は難しいと言われる。しかし、当たるわけがないなら、多額の費用で開発・配備されたMDそのものを再検討すべき事態だろう。政府内の無責任な迷走発言にはあきれるばかりだ。

 また、実際に危険が迫った時に住民にいかに緊急事態を伝えるかという問題も残る。人工衛星と防災無線を利用した「全国瞬時警報システム」(J-ALERT)は、秋田、岩手両県では未整備である。政府には、きめ細かい対応の準備が求められている。

毎日新聞 2009年3月26日 東京朝刊

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