厳しい現実どう支える 診療センター無床化

 岩手県医療局の地域診療センター無床化の4月実施が25日、正式決定した。医師の過酷な勤務の改善策として計画が公表されて4カ月余り。達増拓也知事が県議会議場で土下座する異例の展開の末、浮かび上がったのは地域医療の厳しい現実だ。無床化しても医師不足は解決するわけではない。県民ぐるみで地域医療を支える体制をどう整えるか。県、県議会、医師、住民の動きが真に問われるのはこれからだ。(盛岡総局・安野賢吾)

 「(地域医療を守るという)議論が高まり、厳しい医師不足などの情勢について、県民が深い認識を持つようになった」。達増知事は25日の定例会見で、4カ月余りの議論を総括するように語った。

 昨年11月に公表された計画は、6カ所の県立病院と診療センターの入院施設をなくすのが柱だが、地元自治体は「唐突だ」と一斉に反発。野党系会派を中心に県議会の過半数が一時凍結を求め、関連予算を修正したり、達増知事が議場で土下座して再議権を行使するなどの事態に発展した。

<県議会の関与重要>
 異例の展開は達増知事が総括したように、診療所の当直応援をしている基幹病院の相次ぐ医師退職の実態が明るみに出るなど、医師不足の深刻さを鮮明にした。

 その効果をどう生かすか。県側には無床化対象地域を中心に住民の不安を解消する丁寧な説明を繰り返すとともに、医師不足解消に向けた議論の輪を広げることが求められる。

 「住民と対立していたのでは他県との医師確保競争に負けてしまう」。県南で独自の地域医療を実践し、黒字経営を続ける藤沢町民病院の佐藤元美院長は指摘している。

 県議会の責任と役割も大きい。計画の一時凍結を求めた過半数の県議は「計画を強行すれば、無床化問題をきっかけに勤務医の負担軽減策を考え始めた地域の芽を摘むことになる」と口をそろえるが、事態を混乱させたとの印象も抱かせた。

 誤解を解くなら、「県の取り組みを監視する」(野党系会派)だけでは不十分。まずは議会の予算修正動議を受け、県が運営費を予算化した2次保健医療圏ごとの協議会に積極的にかかわることが重要。県立病院関係者らと地域医療のあり方を議論し、具体化する努力が必要になる。

<傍観者から脱却を>
 県立病院長らの姿勢も問われる。全病院長会議で無床化計画の原案を決めるまで、SOSを十分に発信してこなかった。

 ある院長は県議会会派の勉強会で「医師はバッシングに不慣れで、コンビニ受診抑制を訴えられない」と話した。それが事実としても、本音で向き合わない限り、住民と病院の新しい関係は築けない。

 そして何より、県民には当事者意識が求められる。無床化問題では計画撤回を求める住民の動きばかりが目立った。コンビニ受診などで基幹病院の勤務医環境を悪化させている都市部の住民は傍観者でいた。

 無床化問題を地域医療再生の契機にできるかどうか。「医師と患者が納得できるシステムのある地域に医師は集まる」。千葉県東金市のNPO法人地域医療を育てる会の藤本晴枝理事長は語っている。

 ◇岩手県医療局の無床化計画をめぐる動き
〈2008年〉
11.17 医療局が無床化計画を公表
12.3 地元市町村が計画見直しを県などに要望
  10 県議会が無床化撤回を求める請願を採択
〈2009年〉
1.9 医療局が無床化対象地域での地元説明会をスタート。19日までに6市町村で開催するが、達増知事は出席せず
2.16 野党系会派など26人の県議が計画の一時凍結を県に要請
  17 県が無床化計画を了承
  26 達増知事が県議会で「地域に不安や心配を掛けていることにおわびする」と陳謝
3.5 県議会常任委員会が2月補正予算で無床化を前提にしたマイクロバス購入費を減額する修正案を可決
  6 県議会が本会議で補正予算の修正案を可決。達増知事が議場で土下座し、再議権を行使。審議は7日未明まで続き、再議の結果、修正案を否決
  11 達増知事が地域説明に出向くことを表明
  16 県議会が予算特別委員会で、予算修正か補正予算の提案を求める動議を可決
  19 県が動議に応じて補正予算を提案。これを受け県議会は当初予算案を可決。無床化の4月実施が確実に
  23 県議会常任委員会が補正予算案を可決。マイクロバス購入予算は否決
  25 県議会が本会議で一般会計など関連予算案を可決し、無床化の4月実施が正式決定
2009年03月26日木曜日

岩手

政治・行政



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