「バントのサインが出た時、君たちは何を考える?」。四十年近く前、米国から当時の南海球団へコーチとして招かれたドン・ブレイザー氏が日本人選手に尋ねたそうだ。
彼らは答えられなかった。基本中の基本といえるそんなことさえ、昔は多くの選手が十分考えていなかったと、楽天の野村克也監督が述懐している(著書「巨人軍論」)。ブレイザー氏は一塁側か三塁側か、状況や自分の得意をよく考えるよう丁寧に指導したという。
時がたち、ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で日本が韓国を破り、連覇を果たした。日本の野球は進歩したといえるだろう。米国を倒した翌朝、本紙は「戦術の差」と伝えていた。
決勝を前に原辰徳監督が「韓国に対して尊敬の念がある」と語っていたのが印象深い。確かに韓国も強かった。今WBCで決勝までの戦績は二勝二敗。最後の勝利は、時の運でしかなかったろう。
チャンスに凡退しても誰かが補う。終盤にきて、日本はチームとしてのまとまりが出てきたようだ。日本に考える野球とチームプレーの大切さを伝えたブレイザー氏は、四年前に亡くなった。天国で彼も喜んでくれているのではないか。
野球はしばしば人生と重なる。人間や組織の可能性を感じさせるWBCだった。励みにしよう。