今年5月、台風のメッカ、フロリダ州アメリア・アイランドで開かれた自然災害対策業界のコンフェレンスで、米ハリバートン社が新製品「サバイバボール」を発表した。
人間一人が着る風船式の服で、台風や地震などから中の人間を守り、内部には食料などサバイバルに必要な装備がそろっているだけでなく、携帯電話やパソコンなどオフィスとしての機能もある。
これは災害の復興事業を請け負うハリバートン社のような企業の管理職のための製品なのだ(値段は1億円)。しかし、「サバイバボール」を着た姿を見ると……マーブル・チョコM&Mのマスコットにしか見えず……マヌケだ。
実はこれ、二人の男がハリバートンの社員の名を騙ってコンフェレンスに参加してやったイタズラなのである。
彼らの名は「ジ・イエスメン」。
その名に反し、世界を搾取する大企業の偽善を撃つお笑いテロリストだ。イエスメンは後にマスコミにその動機を語った。
「ブッシュ政権は石油産業のために地球温暖化を野放しにしている。そのために起こったハリケーン・カトリーナで破壊されたニューオリンズの復興事業をブッシュ政権から請け負ったのは、石油業者のハリバートンだ」
ディック副大統領は元ハリバートンのCEOで、ハリバートンはイラクの戦後復興もブッシュ政権から受注している。もともとイラク戦争もハリバートン社のような石油企業のために起こしたと言われている。そんなハリバートン社の悪事は、Halibutoncontrants.comというサイトで知ることができる。それはイエスメンが作ったハリバートン社の公式サイトに見せかけた偽サイトだ。
マイク・ボナーノとアンディ・ビックルボームという二人のアート・スクール卒業生が、2000年の大統領選挙の時に、GWBush.comというサイトを立ち上げた。ブッシュ候補の公式サイトそっくりに見えるが、よく読むと石油業界との癒着やコカイン使用、飲酒運転での検挙歴などがホメ殺し口調で書かれている。これに怒ったブッシュはテレビで「表現の自由は規制する必要がある」と発言して物議を醸した。
「偽善的な連中の本音を代わりに語って、彼らの正体を暴くのが使命なんだ」
そう言うイエスメンは、続いてWTO(世界貿易機関)の偽サイト、Gatt.org(GattとはWTOの前身)を作って、発展途上国の奴隷労働や環境破壊を告発した。すると、なぜか本物のWTOと勘違いしたマスコミや学会から取材や講演の依頼が飛び込んだ。
アンディはWTOのスポークマンのふりをしてケーブルTV局MSNBCに出演してグローバライゼーションに反対する運動家を卑劣な言葉の羅列で論破した。
フィンランドの学会で、奴隷労働者の体に電極を埋め込んでサボらないように監視するボディスーツを紹介した。アンディが自ら着用したそのスーツは、監視モニターが股間からそそり立つ巨大なペニスの亀頭部に埋め込まれているのだ! しかし、そのマヌケな格好はWTOの企画としてヨーロッパで報道された。
イエスメンはそのまま偽WTOとしてアメリカの大学で講演し、飢えた発展途上国のためにマクドナルドのハンバーガーのリサイクルを提唱した。「人間は食べ物の2割しか吸収せず、8割を排泄してしまいます」だから排泄された8割を回収してハンバーガーにとして貧しい国に安く売ればいい、というのだ。
学生たちは怒り狂った。「発展途上国の人間を家畜だとでも思ってるのか!」アンディはWTOとして答えた。「思ってません。すでに彼らは家畜として扱われていますから」
さらにイエスメンはオーストラリアの学会でこう発表した。「我々WTOは今までの非人間的な行為を反省して解散し、国連の人権宣言を実現するための団体として生まれ変わります」これはニュースとして報道され、カナダではある議員がこの新聞記事を信じて国会で質問した。
また、インドの工場で有毒ガスを漏出させ、数万の命を奪っておきながら補償を拒んできたダウ化学のスポークスマンのふりをして「数十億ドルの賠償をします」と宣言した時もBBCが大ニュースとして世界に配信した。
2004年の大統領選挙では「YesBushCan!」と描かれたバスで全米を回った。ブッシュ応援キャンペーンだと思って集まった人々に署名を求めて言う。
「あなたもブッシュ支持ですね! じゃあ、ブッシュが始めた戦争に子供を送り、ブッシュが増やした財政赤字を負担するため年金を放棄する誓約書にサインしてください!」
イエスメンのような行為を「カルチャー・ジャム」と呼ぶ。大資本にコントロールされた現代の文化をイタズラで脱構築していくことで、アメリカではビートニクの時代から続いている。たとえばイッピー(過激派ヒッピー)のアビー・ホフマンは「この本を盗め」という本を出版して書店を困らせた。また、偉そうな政治家や企業のボスにクリームパイをぶつけてマヌケな顔にする「パイイング」はアメリカの伝統だ。
ボナーノは、イエスメンをやる前に「バービー解放組織」と名乗って、オモチャ屋で買ってきたGIジョーとバービー人形のトーキング機構を入れ替えてオモチャ屋の棚に戻すというイタズラをしていた。それを買った子供は「わたし、ショッピングが好きなの!」と女声でしゃべるGIジョーにびっくりした。
イエスメンを見ていると「それって犯罪じゃないの?」とも思うが、彼らは「犯罪かもしれない。実はよくわからない」と実にノンキに答えている。今のところ、裁判にはなっていない。
お前のブログが読みたい。 こういうの大好きだ。
増田の[イエスメン]を[2009年3月25日のヘッドラインニュース - GIGAZINE]でメモ、凄まじいまでのイタズラの数々と、紹介されてて、読んで、「あれ?なんか読んだことあるぞ。」って思っ...