2009-03-24

イエスメン

今年5月、台風メッカフロリダ州アメリアアイランドで開かれた自然災害対策業界のコンフェレンスで、米ハリバートン社が新製品「サバイバボール」を発表した。

人間一人が着る風船式の服で、台風地震などから中の人間を守り、内部には食料などサバイバルに必要な装備がそろっているだけでなく、携帯電話パソコンなどオフィスとしての機能もある。

これは災害復興事業を請け負うハリバートン社のような企業管理職のための製品なのだ(値段は1億円)。しかし、「サバイバボール」を着た姿を見ると……マーブルチョコM&Mのマスコットにしか見えず……マヌケだ。

実はこれ、二人の男がハリバートン社員の名を騙ってコンフェレンスに参加してやったイタズラなのである。

彼らの名は「ジ・イエスメン」。

その名に反し、世界搾取する大企業偽善を撃つお笑いテロリストだ。イエスメンは後にマスコミにその動機を語った。

ブッシュ政権石油産業のために地球温暖化を野放しにしている。そのために起こったハリケーンカトリーナ破壊されたニューオリンズ復興事業をブッシュ政権から請け負ったのは、石油業者のハリバートンだ」

ディック副大統領は元ハリバートンのCEOで、ハリバートンイラク戦後復興ブッシュ政権から受注している。もともとイラク戦争ハリバートン社のような石油企業のために起こしたと言われている。そんなハリバートン社の悪事は、Halibutoncontrants.comというサイトで知ることができる。それはイエスメンが作ったハリバートン社の公式サイトに見せかけた偽サイトだ。

イエスメンは、偽サイトから始まった。

マイク・ボナーノとアンディ・ビックルボームという二人のアートスクール卒業生が、2000年大統領選挙の時に、GWBush.comというサイトを立ち上げた。ブッシュ候補の公式サイトそっくりに見えるが、よく読むと石油業界との癒着コカイン使用飲酒運転での検挙歴などがホメ殺し口調で書かれている。これに怒ったブッシュテレビで「表現の自由規制する必要がある」と発言して物議を醸した。

偽善的な連中の本音を代わりに語って、彼らの正体を暴くのが使命なんだ」

そう言うイエスメンは、続いてWTO世界貿易機関)の偽サイトGatt.org(GattとはWTOの前身)を作って、発展途上国奴隷労働環境破壊告発した。すると、なぜか本物のWTO勘違いしたマスコミ学会から取材や講演の依頼が飛び込んだ。

アンディはWTOスポークマンのふりをしてケーブルTV局MSNBCに出演してグローバライゼーションに反対する運動家卑劣言葉の羅列で論破した。

フィンランド学会で、奴隷労働者の体に電極を埋め込んでサボらないように監視するボディスーツを紹介した。アンディが自ら着用したそのスーツは、監視モニターが股間からそそり立つ巨大なペニスの亀頭部に埋め込まれているのだ! しかし、そのマヌケな格好はWTO企画としてヨーロッパ報道された。

イエスメンはそのまま偽WTOとしてアメリカ大学で講演し、飢えた発展途上国のためにマクドナルドハンバーガーリサイクル提唱した。「人間食べ物の2割しか吸収せず、8割を排泄してしまいます」だから排泄された8割を回収してハンバーガーにとして貧しい国に安く売ればいい、というのだ。

学生たちは怒り狂った。「発展途上国人間家畜だとでも思ってるのか!」アンディはWTOとして答えた。「思ってません。すでに彼らは家畜として扱われていますから」

さらにイエスメンオーストラリア学会でこう発表した。「我々WTOは今までの非人間的な行為を反省して解散し、国連人権宣言を実現するための団体として生まれ変わります」これはニュースとして報道され、カナダではある議員がこの新聞記事を信じて国会で質問した。

また、インド工場で有毒ガスを漏出させ、数万の命を奪っておきながら補償を拒んできたダウ化学スポークスマンのふりをして「数十億ドルの賠償をします」と宣言した時もBBCが大ニュースとして世界に配信した。

2004年大統領選挙では「YesBushCan!」と描かれたバスで全米を回った。ブッシュ応援キャンペーンだと思って集まった人々に署名を求めて言う。

「あなたもブッシュ支持ですね! じゃあ、ブッシュが始めた戦争子供を送り、ブッシュが増やした財政赤字を負担するため年金を放棄する誓約書にサインしてください!」

イエスメンのような行為を「カルチャージャム」と呼ぶ。大資本コントロールされた現代の文化をイタズラで脱構築していくことで、アメリカではビートニクの時代から続いている。たとえばイッピー(過激派ヒッピー)のアビーホフマンは「この本を盗め」という本を出版して書店を困らせた。また、偉そうな政治家企業ボスクリームパイをぶつけてマヌケな顔にする「パイイング」はアメリカ伝統だ。

ボナーノは、イエスメンをやる前に「バービー解放組織」と名乗って、オモチャ屋で買ってきたGIジョーとバービー人形トーキング機構を入れ替えてオモチャ屋の棚に戻すというイタズラをしていた。それを買った子供は「わたし、ショッピングが好きなの!」と女声でしゃべるGIジョーにびっくりした。

イエスメンを見ていると「それって犯罪じゃないの?」とも思うが、彼らは「犯罪かもしれない。実はよくわからない」と実にノンキに答えている。今のところ、裁判にはなっていない。

トラックバック - http://anond.hatelabo.jp/20090324225651