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『らき☆すた』『true tears』に学ぶ、アニメツーリズムの可能性 (4/6)
[堀内彰宏,Business Media 誠]
アニメでは実写と違った形で地域をアピールできる
続いてアニメ製作会社ピーエーワークスの菊池宜広専務が、アニメ『true tears』をきっかけに富山県南砺市で起こった聖地巡礼の話を紹介した。『true tears』は地方に住む高校生たちの恋愛模様を描いたアニメで2008年1月から3月まで放送された。
菊池 私どもがどういう会社か大半の方はご存じないのかもしれませんので、簡単に自己紹介をさせていただきますと、2000年創業(のアニメ製作会社)で、2009年には創業9年目ということになります。会社の場所は富山県南砺市という平成の大合併で生まれた市にあり、南砺市は全国的どころか富山県内でも場合によっては知らない人もいるくらい無名な市です。アニメ業界の大半の会社は東京やその近郊に集中していて、私たちの一番近くの同業者さんは奇しくも『らき☆すた』をお作りになった京都アニメーションさんになります。それで「半径300キロ以内に同業者はいないです」とよく枕詞のように申し上げています。
『true tears』は2008年1月〜3月に放送したのですが、地元の富山では深夜アニメは放送されていなかったので、『らき☆すた』さんと違って当初富山で見ることはできませんでした。そんな折、放送開始直後から真冬の富山にリュックを背負った主に男性の方が、城端というお寺が有名な門前町にちらほらとおいでになりました。そして、(城端は)お寺が有名なのですが、大半の人はお寺に興味を示されずに、あるお寺に付属した会館やある地方銀行の支店にカメラを向けられるのです。「これは何だ」ということで、『らき☆すた』さんと同じように当初(地元の)皆さんは不安がられていたようです。そして、「どうもピーエーワークスという会社が作っているアニメに関係あるらしい、大丈夫なのか」という話になりました。
私どもは製作会社としては当初ご協力的なことは一切できなかったのですが、ファンの皆さまが「地元の皆さんに怖がられたり、気味悪がられたりすると困る」ということで、自主的に聖地巡礼ノートというものを「駅にある観光協会に置かせてほしい」と直接かけあわれたそうです。聖地巡礼ノートには、『true tears』の舞台である富山県南砺市城端で聖地巡礼をするためのルールのようなものが書いていました。私も後日拝見したのですが、マナーを非常に大事にされており、「(アニメに登場した)公共施設などに不用意にカメラを向けたりしないでください」といったことが書いてあり、その結果(聖地巡礼者たちは)非常にマナーがいいと(いう評判になりました)。4月に「城端しだれ桜まつり」という小さなお祭りがあるのですが、その際に全国からお集まりいただいた時にも、非常に皆さんマナーが良かったということで、地元の商工会議所の皆さんや観光協会さんたちも好意的になりました。
(当初富山では)放送していなかった作品だったこともあり、私たちは地元に対して積極的にアピールしていませんでした。また、放送当初は(物語の)結末が決まっていなかったので、まずい結末になると良くありません。一応私たちはすべて許可をとってロケハンをしているのですが、「許可を取ってロケハンをしてできあがったものがこれか」と言われるとまずいので、しばらくそっとしておりました。そっとしていたのですが、最後の方が見えてきて「これはいけるかもしれない」と思った途端、「なかなかいいでしょ」と積極的にアピールするようになりました。
(放送当初の2月に)富山テレビさんに(地元を舞台にしたアニメということで)ニュースで取り上げていただいたのですが、そのニュースが流れたころはそれほどでもありませんでした。ただ、(その時に)「そうなればいいですね」と言っていたようなことが、今かなり実現していることは確かだと思います。
地元の商工会さんから「鷲宮さんのような関連グッズをお作りになりたい」というお話も来ていて、ポスター、クリアファイル、ポイントカードなどを作りました。地元の商店街で買い物をして、「『true tears』のポイントカードください」と言えばただでもらえるのですが、ヤフオクでは何千円かで出品されていたようで「どうなのか」というのはあるのですが。権利者さんから「富山の町おこしになることであれば」ということで、寛容な精神を持ってご対応いただいていることで、私たちも地元の人間として「大変ありがたい」と思っています。
作品中にいくつか実際の建物(が登場しますが)、制作の現場ではやはりないものを作るというのは難しい、ロケーション的なものはあるものを使わせていただく方が奥行き、リアリティが増します。そこで、そういうところを探し求めていろいろ交渉させていただくのですが、私が今日ここに座っているのは「こういった場でこういうことを考えているんですよ」と言うと、「お願いに行った時に快く引き受けていただけるかな」というスケベ心もあるからです。今年放送予定の作品の舞台は上海ですが、来年は北陸のある公共施設を舞台にする予定で、全面協力をいただいていて「できればエンドロールに協力●●と入れませんか」という話をしています。隣の石川県金沢市までクルマで30分くらいの場所に会社があることもあり、何回かに1回は北陸を舞台にしたいと思っています。
別のシンポジウムでフィルムコミッション※の話も出たのですが、そのものズバリが出る実写に比べて、アニメーションはそのものズバリではないのでなかなか難しいと思います。しかし一方、これは大変失礼な言い方かもしれませんが、アニメーションではありえない映像を作ることができます。(『true tears』の舞台は)山の中で、世界遺産の五箇山の合掌集落まで15〜20分くらいでいけるようなところなのですが、アニメの中では町の坂を下ると海が見えるんですね。(実際は)海までクルマで最低1時間以上かかる場所なのですが、アニメだとすぐにつなげられる。しかも非常に自然な空気感を伴って表現できるので、場合によっては実写と違う意味での各地域にとってのアピールにつながるのではないかとも思っています。
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