時折、中高生から進路相談の手紙が届く。私が女だからか、差出人は女子生徒が多い。
小学生の時には飼育係として小動物の世話をしていたという女子高校生は、最近、自分の飼っていたウサギを9歳で天国へ見送ったという。平均寿命は5、6歳だから、長生きだった。そんな経験から、獣医師になりたい、とつづってあった。
私が大学生の時は、獣医学科の女子学生は2割ほどだった。最近は女子が半分以上の大学もあると聞き、同じ女性としてうれしく思っていた。だが、獣医師が集う学会などでは、相変わらず女性は多くない。増えたはずの「彼女たち」は、どうしてしまったのだろう。
推測されるのは、妊娠、出産を機に職場を去ったことだ。大手企業は産休・育休の制度が整い、出産後も働きやすい環境になってきた。でも、個人経営が多い動物病院で産休・育休を取った例はあまり聞かない。
私は、きっと不妊症なんだろうと思い、子どもはあきらめて開業した。けれど、開業2年目に妊娠した。34歳だった。妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)で入院する前日まで働き、退院の翌日には職場に向かった。1週間後には、いつもの仕事に戻った。自分が自分の雇い主だから、そうするしかなかったのだ。妊娠中の私をただの肥満と思っていた飼い主もたくさんいたくらい、つわりもほとんどなく、産後の肥立ちもよかったので、こんなことができた。
将来の目標に悩んでいる女子中高生に出産後のことを言っても、遠い未来と思うかもしれない。でも、もしも仕事と子育てを両立したいと願うなら、家事労働の分担に理解のある人をパートナーに選ぶといいということを、心の隅で覚えておいて欲しい。
(獣医師・石井万寿美)
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