国はNICU増床を言うけれど、補助金は出さないという矛盾
こうして、NICUでも高速道路と同じような収支モデル分析をして、どれだけのお金が足りないのかを、はっきりさせることができた。問題はこれまで、この赤字をどうやって処理してきたかである。
高速道路の場合は、東名高速などの黒字路線から赤字路線にお金をまわしていた。NICUの場合も同じように、他の診療科から産婦人科にお金をまわしている。また、同じ産婦人科のなかでも、赤字の周産期医療と違って、正常分娩は収益が見込める。そのため正常分娩を増やすことで、NICUの赤字を埋め合わせてきた。
本来なら、正常分娩は地域のクリニックが引き受け、緊急時の周産期医療に大病院が対応する形が望ましい。しかし、NICUが赤字だから、大病院では正常分娩を増やして埋めるしかない。その結果、正常分娩で大病院が忙しくなり、緊急時に対応できなくなるという悪循環が生じている。地域のクリニックとの役割分担ができない状況になっている。
収支モデル分析でNICUを増やせば増やすほど赤字が膨らむことが明らかになったころ、厚労省の「周産期医療と救急医療の確保と連携に関する懇談会」で、NICU増床という方針が打ち出された。出生1万人対20床という従来のNICUの整備目標を見直し、出生1万人対25〜30床を目標にするものだ。現在の目標は出生1万人対比でおおむね20床となっている。東京都では出生数が10万人なので、NICUは207床、従来の整備目標はすでに達成している。
新たな整備目標を達成するには、NICUの収支を改善しなくては増床するインセンティブがない。しかし、厚労省の周産期センターへの補助金はNICUに対して出されておらず、MFICU(母体・新生児集中治療管理室)という別の病床に対してのみ補助を出している。新しい方針が出たのに、従来のままの補助システムではちぐはぐである。
診療報酬の引き上げ、もしくはNICUへの適正な補助金──2点を提言
国として、NICUを増やすという方針を出したのなら、そうなるような政策を具体的に実行する必要がある。赤字を埋めるような政策ができなければ、NICUを増やすというインセンティブは働かない。かけ声だけで実のある政策が打てなければ、また問題が繰り返される。
僕は舛添厚労相との会談で、次の2点を提言した。
まずは実態に見合うように、NICUの診療報酬を引き上げること。現行の診療報酬は1日あたり8万6000円だが、収支モデル上の赤字額700万円を診療報酬で埋めるためには、1日あたり2万3000円プラスして11万円程度の水準に引き上げる必要がある。
これが直ちに難しい場合は、現在MFICUしか対象としていない国の周産期センターの運営費補助金を見直して、今後はNICUも対象としていくこと。東京都ではすでにNICUを対象に運営費補助金を出しているのだから、国も見習ってほしい。