トピックス 教育新聞社

HOME > トピックス

[3月23日]

子どもの「なぜ」を引き出す

 「子どものなぜ?を引き出す理科授業とは」をテーマに、社会人講師活用型教育支援プロジェクトの成果発表会がさきごろ、東京・江東区のパナソニックセンター東京で開催された。同プロジェクトは「企業と教師がいっしょにつくる理科授業」として、経済産業省が全国10地域で推進しているもの。今年度は、122の企業が146の授業案をもって、353校、延べ児童数2万4142人に理科の授業を担任教員らと実施した。
 
■「考えるスキル」を与えよう
 成果発表会の冒頭、経済産業省の二タ村森産業技術人材企画調整官は、「先進国の労働力需要は質的に変化し、状況に応じて適切な判断能力を要する労働力の需要が上昇している。イノベーション人材の育成が重要で、そのためには、学習意欲や活用力、探究力などを引き出す取り組みが、ますます大切になる」と同プロジェクトの意義を語った。
 つづいて広島大学大学院の角屋重樹教授が「新学習指導要領と企業との連携授業の重要性」と題して講演した。
 同教授はまず、「基礎基本の習得については、これまでも重視されてきたが、習得のさせ方を十分に吟味してこなかった。思考力、判断力、表現力についても、それらを伸ばすスキルを与えてこなかったことが問題」と指摘。
 「そこで、例えば元素記号について『明日までに10個覚えてきなさい』と指示すると、それだけの数を一気に覚えられない子は自信を失う。ならば、『朝昼晩と寝る前に1個唱えて覚えよう』とすると無理がない。こうして『やればできる』機会を多く持たせることが肝心」とした。
 また「実験結果などについて単に『考えなさい』と促してもだめ。『よく見て○○と比較してごらんなさい。違いは何かな』などと、思考のスキルを示さなければいけない。いきなり『なぜですか』と質問しても、子どもの『なぜ』は引き出せない」と強調した。
 企業の社会人講師が教師とともに理科の単元学習を進めていく意義については、「社会人講師による話から、既知の学習内容との比較や、それとのずれによる驚きが学習意欲につながっていく。教師が授業を設計し、授業のどこで講師が話すかを十分に打ち合わせることが大切。企業人からは、研究や仕事に注ぐ情熱や責任感など、人間的な魅力も伝わり、キャリア教育や道徳教育の一環ともなる」と語った。
■驚きの現物で実感を伴った観察と考察
 成果発表を行った1企業の株式会社ニッピは、社員が千葉県市原市立牧園小学校6年生の、発展授業の単元「生きていくための体のしくみ」を支援した(写真)。「牛肉を食べてもウシにならないのはナゼ?」というユニークな授業名に、児童は興味津々。
 同社はコラーゲンを製造しており、授業の冒頭で大きな骨を取り出し「これなんだ?」と問いかけた。骨であるのは分かるが、牛の大腿骨と聞いて「えー!」と驚きの声。児童は手に取ってその固さや重さを実感。
 次に取り出したのは、はじめに触った骨の形と一緒だが、なんだか柔らかい。自社の専門分野によって、骨からカルシウムだけを抜いたもので、コラーゲンだけの状態になったもの。
 コラーゲンは皮膚や靱帯、骨などをつくっている大事な成分。牛は、草を食べて消化し、体の中でこのようなものに変えて自分の体をつくっている。人間も、牛肉などを食べて自分のからだを形づくっている。
 現物の持つ情報伝達力は大きく、興味関心をもった多くの児童が、授業後も盛んに質問に訪れたという。子どもの「なぜ」を引き出せた授業が展開したことをうかがわせるものであった。
 社会人講師活用型教育支援プロジェクトの専用サイト(http://www.shakaijin-koshi.net/)で、各地域での実践が公開されている。



[3月19日]

家庭でしつけ、学校で学び、地域で鍛える

 横浜市立神奈川中学校では、生徒、家庭、地域をめぐる課題に教職員が一丸となって取り組み、チャイム着席を徹底するなどの学習規律を確立することで、生徒の学びの意欲、学力向上などを実現している。「家庭でしつけ、学校で学び、地域で鍛える」という標語をもとに、学校、保護者、地域がそれぞれの役割と責任を明確に持ち、共に子どもたちと向き合う状況づくりを推進。「当たり前のことを普通にやる学校づくりをしたい」との葛原孝治校長の思いのもと、全教員がこれまで続けてきた取り組みを生かしつつ、生徒一人ひとりにていねいに向き合っていける教育を、あらゆる活動の中で追究している。
 

 同校は、複数の行政区をまたいだ中学校区を持ち、それに伴い、生徒、家庭、地域の様々な課題を抱えていた。取り組みをスタートする4年前には、遅刻や授業中の立ち歩きなど生徒の問題行動に加え、保護者からの一方的な苦情が数多く寄せられるなど、学校の教育活動にも影響が及んでいた。
 そこで葛原校長は、「家庭でしつけ、学校で学び、地域で鍛える」という標語を掲げ、それぞれが果たすべき教育の責任を明確にしようと声を上げた。各自の役割を意識しながら、学校、家庭、地域が一丸になって健全な生徒を育てることを願い、家庭からの意見には耳を傾けつつ、内容に応じた適切な機関への紹介などを行い、学校が本来の教育活動に力を入れる状況を少しずつ実現していった。
 そして、校内では、教職員一人ひとりが子どもたちの課題にていねいに向き合う教育を実践。その際、無理をせず、現状のメンバーでより有効な活動を実現していこうと、「積極的な継続」というキーワードのもと、これまでの取り組みをまずは肯定し、その土台をさらに生かす知恵を探っていったことを葛原校長は語る。
 取り組みでは、教職員一丸となって、まず、授業を受ける上での基本的な姿勢をはぐくんでいこうと、遅刻や授業中の立ち歩きなどの行動を改めるチャイム着席の徹底などを推進。その上で、個々の生徒に応じた基礎基本を重視した授業づくりと互いの授業研究などに取り組むことで、生徒にとって分かる、楽しい授業を実現していった。
 また、「生徒の話をしっかり聞こう」という共通目標によって、それぞれの教職員が目の前の生徒に何ができるかを考える状況もつくり、一人ひとりが課題を意識しながら、対応するリーダーも活動を進める中で育成。各教職員の視点から、学年、学級通信で生徒の思いをていねいにくみ取るといった日常の積み上げを大事にした活動が進んでいったことも成果に挙げる。
 学力差が付きやすい英語授業の例では、小学校と連携するパイプをつくることで、生徒の課題をさかのぼって見取れる状況をつくり、個々の課題に対応した授業編成の工夫などを果たせた。
 特別活動では、生徒の問題行動が頻発する中で、特に意欲的な取り組みが進んでいた合唱コンクールに着目。生徒への期待を込めて活動をさらに励ます中で、自信や意欲が高まり、毎年、レベルの高い合唱が披露されるようになったという。
 この合唱コンクールに関しては、生徒たちが小学生時代に適切な合唱指導を受けた経験を持ち、良い発表を実現したいという思いが大きな支えになっていることを小中連携によって知ることができ、たいへん良かったとも。
 このほかにも、校内のオープンスペースを活用することで生徒の話や相談に気軽に乗れるようにする環境を整えたほか、生徒一人ひとりに責任感をはぐくませる中で、生徒主体のイベントや取り組みへの支援も行っている。
 現在では、一連の取り組みにより、生徒の落ち着きや、学びの意欲が高まり、家庭からの苦情もほとんどなくなったとし、同時に、学校行事、職業体験などにPTA、地域が積極的に関わり、生徒に向き合うことで互いの信頼感がより高まっている状況も挙げる。
 同校は、学校が一丸となって挙げた優れた教育成果を表彰する横浜市教委の、今年度優秀教育実践校にも選ばれている。



[3月16日]

全教員の授業公開で学びの共同体築く

 東京都板橋区立高島第六小学校(安藤吉高校長)は平成20年度から、教師間の同僚性の構築と、子ども同士の協同学習の実現などを視野に、校内に学びの共同体を築く取り組みを進めている。全教職員が子どもたちの状況をていねいに見据えながら、授業テーマを自由に設定。1人年間2回の授業公開で、互いに授業力向上を図っている。2月27日には、そんな研究の中間発表が公開された。算数、国語の3部会のうち、4年3組では、「ごんぎつね」を題材にした国語の授業が行われ、登場人物の気持ちの変化を文章からていねいに読み取る学習が進んだ。
 
■教員1人年2回の実施で授業力向上
 「他校での指導経験がない若手教員の増加」や「校内の教員の4分の3が本校での経験3年未満」という状況を踏まえ、若手もベテランも共に成長し合う「学びの共同体」づくりを目指したことを語る安藤校長。
 子どもたちに、より骨太で確かな学びを提供していくために、全教員が1人あたり年間2回の授業を公開し、授業力の向上を実現していくとともに、計40回の授業を見合う中で、成果や課題などを互いに語り合える「同僚性」を校内で育てていきたいとする。
 公開する授業については、各教員が自由にテーマを設定。子どもたちの状況を見つめる中で、「自分の思いを伝え合うことができる児童の育成(1年・算数)」「想像力を高め共に学び合う児童の育成(6年・総合)」などの、思いがこもった提案がなされていた。
 また、2回の授業公開では、「聞き合い、学び合う授業の創造」という視点で、それぞれの授業の分析を行い、子どもの様子などを見取りながら、効果的な授業改善につながる協議を工夫している。
 このような流れを実現するために、組織体制のスリム化にも着手した。従来の学校運営組織を、「学習推進」「生活指導」「健康教育」の3部会へと統合し、機能の合理化、会議時間の削減を果たすことで公開授業と協議の時間をうまく創出していけるようになった。このことで、従来、学年間の関わりが深い教員の横のつながりを、学年を超えて共通テーマを見据えた縦のつながりの強化へと変えることができた点なども成果に挙げる。
 ほかにも、子どもの学び合いを実現するための「授業分析シート」の活用や、「高六ミニマム」をもとに、子どもたちの学習と生活ルールの検証を図るなど、きめ細かい指導アプローチに取り組んだ。
 これまでの研究を振り返った教員からは、「大変だが、取り組むことで授業力がついたことを実感する」などといった声があり、苦労した分、学び合いを通じた授業力向上を喜び合う状況もはぐくまれているようだった。
■変化に気づき、表現を深め合う
 中間発表では、各学年の算数と国語、研究協議が行われた。
 そのうち、「ごんぎつね」を題材にした4年3組の国語の授業では、土田政志教諭の指導で、子どもたちが物語終盤の文章を読み解き、ごんと兵十の気持ちの変化を探る展開が進んだ。
 これまでのいたずらを後悔し、お詫びの気持ちから、毎日、兵十の家に栗を持ち込むごん。その一方、度重なるいたずらでごんへの怒りを持った兵十は、とうとう家に侵入したごんを火縄銃で撃ち殺してしまう。
 子どもたちは、そんな展開から、両者の気持ちを読み取ろうと、時と場所、それぞれの言動などに着目して考えを深めていった。
 「その明くる日も、ごんは、くりを持って兵十のうちへ出かけました」の文章に着目した子は、「明くる日も」などを意識しながら、「ごんは、兵十が気づいてくれるまで毎日でも栗を持っていくつもりなんだ」との思いを説明。
 兵十に撃たれてしまったごんの様子を表す「ぐったりと目をつぶったまま、うなずきました」の部分では、土田教諭の支援も交え、子どもたちがごんの「うなずきました」の部分を様々に考察。「ようやく分かってくれたんだ」など、自分なりの言葉でごんの気持ちを子どもたちが発表する中で、撃ってしまった兵十の思いについても文章表現から丹念に探り、仲間の発表と合わせて、言葉の表現を深め合う授業が進んでいった。
 授業後の校内協議では同僚教員からの「仲間の意見を踏まえた発言が交わされていて良い話し合いになっていた」「特定の子の発言だけでなく、引っ込み思案の子の意見を聞くケアが必要」などの意見が交わされ、授業づくりの糧としていた。



[3月12日]

英語活動でことばの力が育った

 平成19・20年度文部科学省「小学校における英語活動等国際理解推進事業」拠点校の1つ、東京都新宿区立戸塚第一小学校(下田康信校長)が2月27日、「自ら輝き ひびき合う子〜英語活動を通してことばの力を育てる」をテーマに、研究発表会を開催した。

■メタ言語の育成図る
 開校132年の歴史がある同校の研究実践は、全学年で行われ、第二言語である英語の活動を通して、自ら考え話す力と、そのもととなるメタ言語の育成など母語の能力の伸長を図るもの。発達段階に応じて、歌・チャンツ・絵本など英語にふれる活動や劇づくり、クイズづくりなど創造的な活動が取り入れられ、全学年で公開授業が行われた。また、併設の戸塚第一幼稚園でも「ゲームやリズムを楽しもう(えいごであそぼう)」という活動が公開された。
■6年生「自分を見つめて」で集大成
 なかでも6年生の「自分を見つめて」の活動は、同校の研究テーマと実践の集大成ともいえるもの。アクティビティーや会話の基本的なスキットなどを中心に組み立てられてきた従来型の英語活動とは、ひと味違ったものだ。
 英語活動を通してどんな教育的な意図を実現させていくのかが、明確にあらわれていた。
 「自分を見つめて」の活動の要点をまとめると――。
 これまでの時間に、英語で方向を指示する簡単なゲームや自分のことを英語で表現する活動、近隣の日本語学校の留学生を対象とした学校案内活動などを通して、相手の話を聞き、その内容を理解する力、場面に応じて考え表現する力を育成してきた。
 一方、総合的な学習の時間では、職業体験やあこがれの職業などについて学習を進めてきた。
 それらの集大成として、将来の夢や生き方について、グループごとに意見交換を行った。
 こうして、英語活動を通して自分自身を見つめていく。
 授業の中で、児童が考えながらポツポツと話す姿に、自己の内面でことばを紡ぎだし、生みだそうとするメタ言語の育成が表れていると、授業を参観した専門家は指摘した。
■こんな英語活動はいらない!
 同校では、従来型の英語活動の問題点として、(1)ALT中心の授業展開(2)型にはめた練習(3)現実味のない架空の場面設定による会話――の3点を挙げ、「こんな英語活動はいらない!」として、これらへの対抗軸として(1)ホームルーム・ティーチャー主導による授業(2)目的がはっきりしたプラクティス(3)現実的な設定――の3点を提案し、実践に努めた。
 研究協議では、2年間の取り組みを通して、児童が英語活動に参加する意欲が高まったほか、聞く・話すといったことばの力が育ってきたことが報告された。
 一方、教員の側では、「1単位時間の基本的な流れができ、見通しをもった指導ができるようになった」「単元のつながりや年間を見通した単元構成、他教科や総合的な学習の時間と関連させた単元開発ができた」などの成果が得られたことが報告された。



[3月9日]

ALT指導するアドバイザーを配置

 埼玉県の行田市教育委員会(丸山綱男教育長)では、国際社会で活躍できる人材育成を目指し、平成17年度から市内の全公立小学校の全学年で英語活動モデルシステムの構築に努めてきた。「行田モデル」には、文部科学省の「英語ノート」に対応した活動内容、ALTを指導するALTスーパーアドバイザーの配置、事前に教員が相互に指導内容を確認する模擬授業の実施などの特色がある。
 
■導入の経緯
 同市では、平成15年度に市内の公立小学校6校を英語活動推進校に指定し、翌年度にはカリキュラムや指導組織体制、指導方法などについて実践研究を実施してきた。
 「国際社会に貢献できる人材の育成」を目指して平成17年度から、英語活動教育特区として、全公立小学校16校の全学年での英語活動を行う「行田モデルシステム」づくりを進めている。
 英語活動の時数は、1・2年生が年間10時間(月1時間)、3〜6年生は、年間35時間(週1時間)実施している。3〜6年生の総合的な学習の時間は、英語活動とは別に70時間設定されている。
■3月末までに全学年のモデル案完成
 全小学校が同じレベルの英語活動を実施できるように、同市では、全学年の年間カリキュラム計画をまとめた「行田市英語活動系統表」、各授業時間の活動内容スケジュール表と使用する教材、歌やチャンツを紹介した「行田市英語活動モデル案」を平成18年度に低学年から作成している。今年3月末までに全学年のモデル案が完成する予定だ。
 同市のカリキュラムは文部科学省の「英語ノート」に出てくる表現方法や熟語、単語などの内容が盛り込まれているため、あらためて「英語ノート」で学ぶ必要がない。
■ALTスーパーアドバイザー
 同市では現在、英語教育の充実のために、ALTを小学校16校に8人、中学校8校に4人配置している。ALTは1人につき、小規模校と大規模校の2校を1組にしたペア校を担当する。加えて、担任を補佐し、ALTと担任とのパイプ役の「のびのび英語ボランティア」(市民公募)も、配置している。
 同市の英語活動は、学級担任を中心としているが、ALTの果たす役割も大きい。そこで、同市では全国で唯一のALTのスーパーアドバイザー職を設け、直接、ALTへの指導を行っているほか、カリキュラムづくりの指導などに当たっている。
■小中連携と教員研修
 英語活動の研修はペア校単位で実施されている。一方の教員が他方の学校に行き、研究授業などを実施する。この研修にはスーパーアドバイザーが指導講評を行っている。
 このほかにも、毎年夏休みの夏季英語活動特別研修、校内での授業研究会や校内模擬授業も行われている。校内模擬授業は、実施前日の放課後に、授業者が他の教員を児童に見立てて模擬授業を行う。この中で、課題が明らかとなり、その解決策を講じて、翌日の授業本番に臨むなど、授業の質の向上に取り組んでいる。
 また、小中連携のために、▽中学校の学習内容に、小学校で実施していた歌、チャンツ、ゲームなどの活動を取り入れる▽小学校教員が中学校の授業を参観する▽小・中学校で合同の研究協議会を実施する――などに取り組んでいる。
 来年度からは、1校1人のALTの配置、評価や模擬授業の充実を推進する方針だ。



[3月2日]

幼小中連携で主体性を育成

 幼稚園から中学校までの11年間を見通した幼小中連携教育の実践研究を推進している東京学芸大学附属竹早幼稚園舎・竹早小学校(藤井斉亮主事・校長)・竹早中学校(山崎謙介校長)が2月14日、研究会を開催し、その成果の一端を公開した。主体性の育成を重視した取り組みから、各成長段階の特徴などを探った。
 
■11年間を4つのステージに
 同校園の連携教育実践研究の歴史は古く、86年から始まり、これまで数段階にわたって取り組まれている。現在の実践は平成15年度から推進されているもので、「主体性」を3校園の共通教育目標とし、「主体性を育む幼・小・中連携の教育」を研究主題に、成長段階に応じた学校段階間の円滑な接続に関する研究に取り組んでいる。
 「子どもがよりよく生きるために、自分(あるいは集団)の願いに基づき、自らの意思・判断で行動しようとする姿勢や態度」というのが、実践における「主体性」のとらえ方だ。これをもとに、幼・小・中それぞれの教員が、それぞれの段階の子どもたちが主体性を発揮している姿を話し合い、そこから幼〜中11年間の成長に見られる過程を大きな4つのステージと小さな8つのステップに分類しているのが、大きな特徴だ。
■成長の過程を適切に把握して
 各ステージの特徴の概略は次の通り。
▽第1ステージ(幼稚園〜小学校2年生前期)=やりたいことを思う存分やろうとする時期であり、安心感や親しみを抱く中で、友だちや遊びへの関心や広がりが見られる。
 ▽第2ステージ(小学校2年生後期〜小学校4年生前期)=集団と自分の関わりにひたる時期であり、時には自己主張をしながら積極的に友だち関係を広げ、仲間との学び合いを楽しむ、まさに“小学生らしい姿”を見せる。
 ▽第3ステージ(小学校4年生後期〜中学校1年生)=集団と自分との関わりの中で、自分とは何かを意識する時期であり、集団の中で自分らしさを求め、新しい知識や技術をどんどん吸収しようとする姿を見せる。
 ▽第4ステージ(中学校2年生〜中学校3年生)=集団の中で自分らしさを追究する時期であり、心と体が不安定になり、戸惑いを見せることもあるが、自己の適性を客観的に見つめ、目的をもった主体性が芽生えてくる。
■ステージらしさを最大限生かす
 今年度の取り組みは、この第2ステージと第4ステージに焦点をあてた研究である。
 実践にあたって、この2つのステージの子どもたちに対して行った配慮、工夫、留意点などは、次のようである。
 第2ステージは、友だちと一緒の活動を好むようになるが、一人ひとりの興味・関心の差が大きくなるため、「思いや願いがぶつかり合う」ことが出てくる。この「ぶつかり合う姿」を、「もみ合ってお互いが成長していく姿」と肯定的にとらえていく。
 さらに、教師は、具体的には「子どもたちが考え、経験が広がる活動を構想する」「思いや考えを伝え合う機会を設ける」「子ども自身が振り返り、見つめる場を設定する」などの手立てをとっていった。
 第4ステージは、その初期においては、心と体が不安定な時期ではあるが、一方では生徒会活動、部活動、学校行事などに意欲的に取り組む時期でもある。また、後期においては、自分を客観的に見られ、適性にあった場面で主体性を発揮する。
 そこで教師は「生徒に任せる部分と教師がリードする部分を明確にする」「生徒一人ひとりとじっくりと向き合う」ことを重視し、「生徒と一緒に解決の糸口を探っていく」ことを心がけた。
 これらの取り組みの成果を、同校園では「そのステージらしさに浸ることが、次のステージの支えになっていることを実感した」「校種を超えて、ある1人の子どもの変容を語り合うことができるようになった」「他校種の子どもの姿を連携カリキュラムづくりに生かすことができた」などとまとめており、今後は教科の視点から研究を進めていく方針であるという。



[2月26日]

中学生のリトルティーチャーが活躍

 小・中学校を通した共通目標の設定や、中学生による小学生の学習支援などを通じた小中連携教育の研究に取り組んできた東京・練馬区立光が丘第五小学校(鈴木久校長)と、同第三中学校(小林一英校長)が2月13日、研究発表会を開き、2年間の成果を公開した。研究では、中1ギャップなども視野に、小・中学校間の円滑な接続と9年間を通した多様な教育を実現させるのが目標。両校の教職員交流によって互いの教育内容や方法を理解するとともに、共通の児童・生徒像の設定や小・中学生が共同で学ぶ場を計画的に位置づける工夫を進めた。公開授業では、中学生のリトルティーチャーが参加し、児童の実験や考察をサポートする5年生理科の単元「もののとけ方」などが行われた。
 
■系統的な授業で円滑につなぐ
 両校は、小学校から中学校への進学時に子どもたちがつまずく「中1ギャップ」などの課題も背景に、昨年度から、あるべき小中連携教育について研究を深めてきた。
 この研究では、小・中学校9年間の見通しある学びを実現するため、両校教員の交流による共通目標の設定や、児童・生徒が関わり合う多様な学びを追究しているのが特長。そして、「子どもたちの学びをひろげ、豊かな心をはぐくむ」というテーマのもと、進んで学び深く考える力や、心の形成を小・中学校間でうまく受け継ぎ深めることで、優しい心、思いやりの心、慈しむ心を持った子を育てていこうとしている。
 具体的な取り組みでは、一体型校舎という利点を持ちながら、これまで互いの交流が不十分だった点を反省し、小・中学校の教員がそれぞれの教育内容や方法を理解しようと交流を促進。
 小・中学校の学習の特色や違いを共有しながら、小学校3年生理科なら「問題解決型学習の基本的な流れをつかむ」など、教科ごとに9年間ではぐくみたい力を共に設定し、小・中学校間を円滑につなぐ系統的な授業改善に生かした。
 ほかにも、小・中学校教員が合同した授業も実施。外国語活動では、子どもたちの実態に合わせた支援を行うことで、抵抗感なく自分の思いを発言できるようにするなど、基礎・基本の習得や、喜びを持ち主体的に学べる授業づくりにも意識を配っている。
 一方、教員間だけでなく、児童・生徒が共同して学ぶ場や交流機会なども計画的に設置。学校行事の合同開催として小学校運動会で中学生が支援活動を行ったり、中学生が小学生に計算方法を教えたりするといった各種学習サポートを行う「リトルティーチャー」による授業なども実現し、発達段階を見据えた異学年間の関わり活動によって、思いやりや尊敬などの豊かな心をはぐくむことができたともいう。
■中学生が実験を支援し学びを深める
 授業では、光が丘第五小が、リトルティーチャー参加による算数・数学、英語活動、理科の授業を実施。光が丘第三中では、社会、国語、数学などの各教科で、小学校の既習内容を生かした学習が公開された。
 同小5年1組では、理科の単元「もののとけ方」の授業が行われた。五小、三中両校教諭の合同指導によるもので、児童は「ホウ酸を水にたくさん溶かすためにはどうするか」について、中学生のリトルティーチャーのサポートを受けながら考えた。
 実験は「水の量を増やす」「水の温度を上げる」の2通りで実施。その際、前時の食塩を水に溶かす実験を踏まえ、それぞれの方法の予想立てを理由とともに考えさせることで、科学的思考を高めるよう意識した。
 そんな中、子どもたちは、「食塩のときは水を増やせば溶ける量が増えたから」などの理由から「水の量を増やせばよい」などの予想を挙げ、グループごとの実験に着手。
 実験器具の設置や、記録をとる際の助言などを中学生リトルティーチャーが担いながら、水の量を増やすグループでは、50、100、150mlごとに水を増やし1gずつホウ酸を投入。水の温度を上げるグループでは、20、30、40、50度と水温を上げ、同様に1gずつホウ酸を溶かし、それぞれの結果をまとめていった。
 最後の結果報告では、水の量を増やすことで溶けるホウ酸の量が増えることを理解する一方、食塩とは異なり、ホウ酸は温度を上げることでもたくさん水に溶かすことができることなども学んでいった。
 児童からは「中学生の助けでいつもより実験がはかどった」などといった感謝の言葉が飛び出し、中学生も「小学生の顔を見ながら勉強できて良かった」など互いの刺激と感謝につながっている様子が見えた。



[2月23日]

エネルギー環境教育を展開

 平成14年度からの研究指定などによって、早くからエネルギーと環境を考える実践に取り組んできた東京・練馬区立高松小学校(金井由紀江校長)は2月6日、同区研究校として「感じよう、考えよう、行動しよう」をテーマにしたエネルギー環境教育の授業を公開した。研究では、児童の実態調査から環境改善への行動力を育てる目標を見いだし、環境教育を全学年・全教育活動で行うための指導計画などを練って推進。公開授業では、沖縄の気候風土を検証しながら、自然を生かした住宅構造や人の知恵を学ぶ5年生の社会科授業などが行われた。
 
■感じ・考え・行動する力をはぐくむ
 平成14年度からの資源エネルギー庁「エネルギー教育実践校」指定などを受けてエネルギー環境教育に力を注いできた同校。その成果を整理しながら進めた練馬区教委教育研究校としての今研究では児童の実態調査をもとに、全学年、全教育活動でエネルギー環境教育を行う体制や学習計画を構築していった。
 実態調査からは、エネルギー・環境についての理解度が高まっている一方、行動面での格差や、主体的な行動ができないといった課題が浮き彫りとなり、研究主題を元に、「感じ・考え・行動する」の3つの力を養う学びを各学年で進めるようにした。
 その際、身近な自然とふれあう学習やエネルギー・環境と関わる学習を工夫することで、エネルギー環境問題への関心と自主的な行動力をはぐくむことも目指した。
 また、これを実現するために、研究主題に沿って3つの力を育てる活動の方向性なども検討。低・中・高学年ごとに「めざす児童像」を目標として掲げた。
 この目標とは、低学年の「感じよう」なら「五感や体験を通し、身近な物事に目を向け、驚いたり、感動したりする」、中学年の「考えよう」なら「違いや共通点に目を向け、調査したことや集めた情報をもとに課題を解決することができる」、高学年の「行動しよう」なら「自分の生活に生かせることを考えて実践したり、発信したりしていく」などといった具合。明確な目標のもとで確かな学びを構築できるようにした。
 こうして、特定の教科だけでなく、全学年・全教育活動でエネルギー環境教育を行う指導計画を作成した。
 単元開発と指導の工夫では、学校と地域の特色を生かした体験活動や、身近な問題を題材に、生活の中で何気なくやってしまう「もったいない」行動を振り返る学びを実施。子どもたちが自分にできるエコ活動をまとめる「高小エコ宣言」など子どもたちが主体的に取り組む活動を大切にしたり、校内環境を活用して屋上緑化やプールを使ったビオトープ活動なども実施している。
 そして、これらの活動は、様々な学外団体(企業、区など)との協働で推進している。ほかにも、学内だけでなく、家庭での環境活動や啓発につなげるため、緑のカーテン栽培を呼びかけたり、保護者と児童の夏休みの体験講座なども行っている。
■暮らしの工夫から自然環境に気づく
 そんな背景の中で行われた研究授業では、風車づくりを通して自然エネルギーへの気づきをはぐくむ2年生の生活科や、太陽光を利用して水を温める方法を模索する3年生の総合的な学習などが公開された。そのうち、5年生では、日本各地の土地や気候にふれながら、自然環境を生かした住宅やエネルギー活用への理解を図る社会科の単元「自然を生かしたくらし」の授業が行われた。
 1組の佐藤ちはる教諭による今時の授業テーマは「沖縄県の住まいの工夫」。沖縄県内各地の住宅写真を見比べながら、風土に合わせた家の工夫や気候を生かした生活の知恵に「気づくことができたか」が学習活動の評価のポイント。
 最初に提示されたのは、瓦屋根が鮮やかな沖縄南部八重山諸島の竹富島の家屋。子どもたちは、「屋根が低い」「瓦をしっくいで固めている」などの気づきを語る一方、「台風が来るからだ」など建築構造の意味についても探究した。
 また、中庭にある「水がめ」への着目では、「これは雨水を貯めるためのものだ」という発見をする中で、水が不足しがちな島の知恵を実感。自然の恵みを生かす視点を理解していった。
 また、もう1つの写真では、那覇市内の近代的な建物を提示。子どもたちは、コンクリート造りであることや、エアコンが設置されている点を指摘しながら、「広いベランダは強い日差し対策だね」「屋根の上のタンクは雨水を貯めるものだ」などの発見をし、昔と今の建物の違いとともに、共通点を学び、自然とともに生きる暮らしへの理解も深めていた。



[2月19日]

読書に集中する子どもを育成

 活用学習、探究学習が重要視される中で、学校図書館や読書活動の役割がますます高まり、その活用に注目が集まってきている。2月10日に、文部科学省の読書活動推進協力校として研究発表会を開催した東京都荒川区立第六日暮里小学校(小川博規校長、児童数123人)の実践から、学校図書館の効果的な運営、学習指導での活用のあり方を探った。
 
■つかむ・調べる・まとめる・伝え合う
 同校の研究は、平成20年度文部科学省「生きる力をはぐくむ読書活動推進協力校」、19〜21年度東京都教育委員会「日本の伝統・文化理解教育推進モデル地域事業研究指定校」として推進しているもの。研究主題を「自ら考え、まとめ、伝え合う児童の育成―学校図書館を活用した伝統・文化理解教育の推進」とし、教育課程の展開に役立つ学校図書館の基盤整備と授業力向上に取り組み、学校全体として児童が本と出合う機会を計画的に設け、目指す児童像である「本を読むことが大好きな子ども・調べることが大好きな子ども・地域が大好きな子ども」の具現化を図っている。
 研究主題に掲げた児童を育てるために「学びのプロセス」を次の4過程に分けて考え、学習活動を推進しているのが特長だ。
 (1)つかむ学習=各教科の学習活動を通して得た知識・理解・技能や体験したことなどから、興味関心をもち、自分なりに課題を見つける(課題発見能力、学習計画能力)
 (2)調べる学習=学校図書館などを活用し、課題を解決するために必要な情報を調べる(資料収集能力、資料探求能力)
 (3)まとめる学習=集めた情報資料を、学習シートや新聞などに自分なりに再構成してまとめる(資料構成能力、資料活用能力)
 (4)伝え合う学習=調べた学習成果を相手にわかるように工夫して伝え合う(発表伝達能力、コミュニケーション能力)
■特色のある3つの学校図書館を整備
 実践を支えるために、3つの学校図書館が整備されているのも大きな特色だ。
 まず、「六日未来図書館」は、図書、情報ファイル資料、新聞などを配備した調べる学習のための学習情報センターの役割をもつ。「六日の森図書館」は絵本、むかし話、紙芝居などを備え、読書好きの児童を育てるのが目的。「六日ミュージアム」は同校や地域の歴史資料や昔の道具などを展示した郷土資料室である。
 この3館で教育課程の展開に寄与するため、「百科事典・図鑑・辞典の充実」「使用頻度の高い図書の別置(伝統文化に関する図書などは一般図書とは別に設置)」「情報ファイルなど図書以外の資料の充実」「教師用『単元別参考図書目録』の作成」「児童用パスファインダー(調べるテーマに対してどんな資料があるかをまとめたリーフレット)の作成」「児童の目で確かめることができる展示資料の整備」などの工夫を進めている。
■昼読書、読書月間、ブックバイキングなど
 これらを踏まえ、実践は多岐にわたるが、主な特色は次のようにまとめられる。
 (1)昼読書=読書習慣を形成するために、毎日掃除終了後、全校一斉読書を実施。教師やボランティアによる読み聞かせ、自由読書、図書紹介を行うなど多様な読書体験の場を設けている。
 (2)読み聞かせの充実=年に2回、読書月間中に保護者のブックボランティアが、朝読書の時間や昼読書の時間に入り、読み聞かせを実施。教師も朝の会や帰りの会などで「読み聞かせ」を日常的に展開。学校の教育活動全体で、読書に親しむ機会の工夫改善に努めている。
 (3)ブックバイキング=年2回の読書月間中に行う、全教職員による読み聞かせ会。児童は聞きたい物語の場所に行き、どの教師が読み聞かせにくるのかとドキドキしながら待っている。
 (4)学校図書館指導員との連携=児童の読書活動や調べ学習を支援する活動を展開。教科書に掲載された作者の生い立ちや作品の背景を紹介するなど児童の興味・関心を高める活動や、伝統・文化理解のための調べる活動でも図書資料の選定、収集を実施。
 (5)図書館の時間=各学級週1時間の「図書館の時間」を位置づけている。図書館は、登校時間から下校時間まで常にオープンしている。
 (6)国語科との関連=物語や説明文の単元では並行読書を取り入れ、まとめに読書紹介活動(帯づくり・ブックトーク・読書発表会)を多様に導入。また、事・辞典、年鑑などの充実を図り、国語辞典8種類を各5冊ずつと、学級全員分の国語辞典を整備している。
 (7)調べ学習との関連=もっと知りたい、調べたいといった知的欲求を高めることをねらいに授業の展開を計画。様々な図書資料を読むことにより、「自分で課題を追究していく楽しさ」「調べて自分なりに何かがわかった喜び」などを味わわせている。コンピュータによる調べ学習に偏りがちな児童に、改めて図書資料のもつよさを感じさせている。
 (8)学校図書館だよりの発行=月1回以上、職員用と児童用の図書館だよりを発行。
 (9)読書指導=学校図書館指導員や全教師による読み聞かせやブックトークなど、様々な手法を取り入れ、教科指導の導入や発展の場面で読書への意欲を育てている。また、児童によるブックトークも実践し、「読書の楽しさを伝え合う」学習を実施。
 (10)「読書月間」の取り組み=6月と11月のそれぞれ1カ月間を「読書月間」としている。各自が選んだ本を自由に読んだり、教師が読み聞かせを行ったりするなど、読書への興味・関心を喚起しながら、読書力の向上をねらいとした活動を展開。
■課題を発見し、調べて解決する授業
 研究発表会の当日は、自分が選んだ民話を聞き手を意識しながら紹介するとともに、友だちの紹介のよいところを認めながら聞くことを目指した1年生の授業「おはなしたんけんをしよう」、学校図書館を活用して、自分の課題を解決する資料を探して調べる学習活動を展開する3年生の授業「日本の年中行事を調べよう」、地域の伝統工業について、図書資料で調べたり、職人の方から直接伝授してもらうなどして、そのよさを体験する4年生の授業「土地のとく色を生かした伝とう工業」などなど、いずれも、課題を発見し、それに沿って調べ、まとめていく、という研究主題を具現化する授業が公開された。
 これらの取り組みで、同校の学校図書館はいつもにぎわうようになり、放課後なども調べものをしたり、ひたすら読書に集中したりする児童の姿が、常に見られるようになっているという。



[2月16日]

問題解決の7つの過程で理科授業

 東京都小学校理科教育研究会(林四郎会長)は「自然から学び、科学的に考え、共に知を更新する理科学習」を今年度の研究主題に掲げ、都内10校で研究を推進。1月27日には、研究校の1つである練馬区立豊玉第二小学校(山本泰成校長)が発表会を行い、各学年の実践を公開した。同校では、問題解決学習の過程を7段階に整理し、発達段階に応じた活動や育てる力を明確化したことなどが特長。3年1組「じしゃくのふしぎをしらべよう」では、クリップを磁石で引き寄せ、その間に物を介在させても磁力が働くかを実験。様々な物を挟み、その結果を表に示して意見を共有することで、科学的な視点を持った問題意識をはぐくんだ。
 
■探究過程を充実させ科学的思考力
 この研究では、知識基盤社会を見据え、子どもたちの主体性や問題解決能力をはぐくむ理科教育が課題。また、研究副主題を「探究し、習得し、活用する子どもの育成」とし、観察・実験による探究の過程を充実させることで、知識・技能の確実な習得や活用力も高めたいとしている。
 そのため、「自然から学び、科学的に考え、共に知を更新する理科学習」という研究主題を、“問題解決の過程”と捉え、3観点((1)自然から学び(2)科学的に考え(3)共に知を更新する)ごとに、同研究会が考える8つの問題解決場面((1)事象と出会う(2)違いの要因を見いだす――など)に当てはめ、問題解決力に向けた学びの具体化を図った。
 「自然から学び」の観点では「事象と出会う」「違いの要因を見いだす」など、「科学的に考え」の観点では「問題設定」「仮説設定」「仮説を検証する観察・実験の計画」などをそれぞれ明らかにし、問題解決力を育てる授業に有効な視点を示した。
 また、今年度は、新学習指導要領の内容も視野に、都内の研究校10校が2つの共通課題(問題解決、言語活動)を含む11項目(実感を伴った理解、知識・技能の習得、自然や科学への興味・関心、学習意欲の向上、実生活における活用――など)の課題に、それぞれ携わっている。
■予想・実験・話し合いで実感伴う知に
 練馬区立豊玉第二小学校では、「自ら考え、表現する児童の育成」をテーマに研究を推進。課題である子どもたちの思考や表現、課題解決の力をはぐくもうと、身近な生活題材を扱う工夫や、問題解決学習の過程を7段階(事象と出会う、学習すべき問題をはっきりつかむ、問題を解決するために結果を予想し、観察・実験の計画を立てる――など)に整理し、質の高い授業づくりに生かす方法などを模索した。
 授業では、様々な検証実験や話し合いを通して磁力への科学的理解を図る3年1組の単元「じしゃくのふしぎをしらべよう」などが公開された。この授業は、前時までに行った磁石と物を引き合わせる実験を踏まえ、「磁石の力は間に物が入っても働くのだろうか」というテーマを探るもの。
 これまでに学んだ、磁石は鉄を吸い付けるという理解をもとに、磁力へのさらなる問いかけを行うもので、クリップを磁石で引き付け、その間に様々な物を介在させる実験に取り組んだ。
 指導にあたった須藤五郎教諭は、冒頭、教壇上で実験を演示し、子どもたちにそれぞれの予想を立てさせた上でグループ実験に取り組ませた。
 挟む物は、厚紙やプラスチックの下敷き、アルミホイル、ガラス、1円や10円硬貨など様々。子どもたちは「段ボール2枚くらいなら大丈夫」などと予想しながら、磁石とクリップの間に物を挟み、その反応を確かめ合っていた。
 終結部では、所定の「かんさつカード」に記入しながら、各自の実験結果を報告。実験成果を言葉でまとめ、仲間との話し合いに生かす展開も図り、言語力の育成も強く意識した。
 そんな中、発表では、「1円玉は2枚までくっついた」などの意見が示され、子どもたちは同カードの「間に入れた物の名前」と、その「結果」の項目を意識しながら、磁力についての科学的視点をはぐくんでいった。
 全国サミットでは、小中一貫教育の推進とともに、義務教育学校の設立に向けた法改正を求める共同宣言が採択された。教育の地方分権の推進や教育効果など、あらゆる観点から総合判断して、法改正の時機は到来したとみてよいだろう。



[2月12日]

ネットいじめの予防と対応で「手引」

 埼玉県教育委員会は、昨今、問題が深刻化しているネットを通じたいじめやトラブルへの対応を探るために昨年5月、ネットいじめ等対策検討委員会を設置。1月30日には、蕨市民会館で、同委員会が作成した「ネットいじめ等の予防と対応策の手引」の紹介を兼ねた報告研修会を開き、県内の中学・高校で生徒指導に関わる教員約700人に、ネットいじめ問題の理解を促すとともに、対策への視点を説明した。
 
■発生件数が急増
 埼玉県がネットいじめ対策を課題にした理由として県教委はまず、文部科学省による「児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査」の平成18、19年度比較から、県内のいじめの全体数が減っているにもかかわらず、ネットいじめは19年度に252件起こっており、これは前年度比41.6%の急増であったことを指摘した。
 同時に、教員や保護者の理解が及びづらい分野であることを踏まえ、それぞれの現状への正しい目を養うとともに、的確な指導に役立つ対策を手引の作成などによって模索したことを説明した。
 検討委員会には、大学教授、電気通信事業者、警察、保護者、教員などが名を連ね、昨年5月から具体的な対応を協議。
 手引について同委員会の下田博次委員長(群馬大学特任教授)は、「先生にとって見えにくいネットいじめを理解しやすくするとともに、学校だけでなく、保護者と地域の協力が不可欠であることを強調している」などとアピールし、それぞれの現場の実状に合わせて活用してほしいと語った。
■実例から理解を深める
 手引(A4判、80ページ)は、「T ネットを巡る現状の理解」「U 事故発生時の対応策」「V 予防・防止策」「W 調査結果」「Xネットいじめ撲滅緊急アピール」――の5章だて。
 特に、携帯電話を介したインターネットの課題の追究と対策に力を入れている。
 「T ネットを巡る現状の理解」では、問題がある情報発信の例を、プロフ(プロフィールサイト)や電子掲示板、学校非公式サイト(学校裏サイト)、自殺誘引サイトなどの実例から紹介。さらに、「ネットの危険性を知りつつもフィルタリングには消極的」といったインターネット利用の状況や、ネット機能に応じた課題などを挙げながら、ネットいじめが、非対面、匿名的人間関係の場で発生するいじめであることを理解できるよう作られている。
 「U 事故発生時の対応策」では、「悪口等の書き込みをされた」「チェーンメールが回ってきた」などの事例から、対応方法や生徒指導における留意点などを具体的に記載してある。被害者、加害者ごとの対応や、謝罪・和解の場の設定、再発防止への取り組みなどについても説明している。
 加害者が特定できない中で、電子黒板上に「悪口等の書き込みをされた」事例の対応では、画面と日時などを記録し、管理者に削除依頼などをすることや、書き込みをされた子どもの精神的な動揺を十分に受け止め、支援を約束するなど、生徒指導上の留意点も示している。
■保護者向け通知文例も
 そのほか、「V 予防・防止策」では、情報モラル教育の事例や、ネットいじめに対応したリスク教育の指導案を提示。保護者の働きかけとしてネットの使用状況の把握や情報の管理などを行うことを示し、保護者向けの通知文例や、学校と家庭が連携して携帯電話の使い方を子どもたちに考えさせる「ケータイ契約書」の例なども掲載されている。
 研修会の中で講演した下田委員長は、「ネットいじめは、バーチャルな世界で不特定多数の人が関わるもの。一定の人間関係の中で起きる従来のいじめと違い、いじめのパラダイムシフトが起きている」などと指摘。
 その上で、「現在、携帯電話を介したインターネットはフィルタリングが不十分。ネットのメディア特性を理解し、保護者の目が行き届くペアレントコントロールを適切に行うことも大事」などの視点を訴えた。



[2月2日]

生徒が「食」を通して地域交流

 三重県立相可高等学校の上野哲八校長が、同校食物調理科の取り組みをまとめてくれた。生徒自身が調理・接客・経理と切り盛りして好評の「まごの店」で、食を通して地域の人たちと交流し、人として、調理師の卵として、生徒たちは成長しているという。
 
■地域活性化を図る研修施設
 三重県立相可高等学校は普通科、生産経済科、農業土木科、食物調理科の4つの学科からなる総合高校で、全校生徒が720人規模の学校です。「生徒の夢を叶え、地域とともに歩む学校」を目指す学校像とし、生徒の夢を育てながら、地域の協力を得て地域とともに発展を続けてきました。
 4つの学科のなかでも食物調理科は、調理師やパティシエなど「食のスペシャリスト」の育成を目指して、「地産地消」や「食育」の視点を持った地域の食産業を担う人材の育成を行っています。また、調理クラブが研修施設「まごの店」でレストランを運営していることでも知られています。
 「まごの店」は多気町及び「五桂池ふるさと村」が、相可高校食物調理科を応援すると同時に、地域の食材を利用した料理を提供し、地域活性化を図ろうと建設したものです。平成14年に農産物直売所「おばあちゃんの店」の前にオープンし、まごのような高校生が運営することから、この名前がつきました。現在の「まごの店」は多気町の全面的な協力により、平成17年2月にリニューアルされたもので、経営は「五桂池ふるさと村」が行い、生徒たちが校外研修の一環として、調理や接客業務などをすべて担当するという、珍しい高校生のレストランとなっています。
 「まごの店」は部活動である「調理クラブ」が運営し、土・日曜日と祝日、長期休業中だけに営業しています。食材の購入、調理、接客、経理などすべてを生徒が行っています。ここでは、調理技術はもちろんのこと、接客の練習も行っており、大きな声で「いらっしゃいませ」「ありがとうございます」と挨拶も繰り返し練習しています。
 営業日には、「いらっしゃいませ」の声が上がった瞬間から、普通の高校生が調理師の卵に変わります。料金をいただいてお客様に料理を提供するという真剣勝負によって、生徒らは日々鍛え上げられていきます。平日は学校で調理技術等の習得に励み、週末には自分たちが運営する「まごの店」で真剣勝負の体験をします。
 「まごの店」は地域と一体となって生徒の夢を叶えるキャリア教育の場であり、そこには教育の原点があると考えています。
■商品開発の依頼も
 このほか本校の食物調理科では、地域の「食育」の拠点となるべく、地域住民を対象とした料理・製菓講座や栄養講座の開催、公民館活動の料理教室など、生徒たちが講師やアシスタントとして、地域の食文化の継承と新しい食文化の提案に努めています。
 地元で行われるイベントにも積極的に参加し、「地産地消」のPRをはじめ、地元の産物を用いた料理やお菓子の販売も行っています。
 地元の小学校や保育園とも連携し、子どもたちが育てた食材を使った料理や製菓実習を通じて「地産地消」や「食育」について、子どもたちに楽しみながら学んでもらう活動も続けています。
 さらに、地域の産業界とのコラボレーションにも取り組んでおり、地域の食材を用いた商品開発やレシピの提案等にも挑戦しています。県内の各地域から商品開発の依頼があり、多くの団体等と技術協力を行いながら、県産食材の利用促進に努めています。
 また、地域の食材を使った創作料理の発表の場として、コンクールにも積極的に出場しています。「全国高校生食育王選手権」や「ごはんCUP」、「シーフード料理コンクール」などの全国大会で活躍し、地元食材を取り入れた料理で、地域に明るい話題を提供しています。
 このように、本校食物調理科では、「まごの店」をはじめとするいろいろな活動を通して、生徒の夢を育てながら、地域の食育ネットワークの核となり、学校の活性化、地域の活性化に一層寄与していきたいと考えています。



[2月2日]

全国初の「エンサイクロペディアスクール」

 「知」の森へ。学びとる子どもの育成を――と、東京都品川区立品川小学校(今村久二校長、児童数321人)は、全国初めて「エンサイクロペディアスクール(百科事典学校)」を実現するため、平成18年度から3年間、研究・実践を続けてきた。その研究発表会(平成19・20年度品川区教委研究学校)を1月23日に開いた。この研究は、校長の学校構想に基づいて構築されたもので、「学び」を学習材化し、「知」の生活化を図るのが最大のねらい。新学習指導要領の目玉である「言語活動の充実」とICT教育を組み合わせた点でも注目され、参加者から同スクールを支持する意見が相次いだ。
 
■学びの百科事典を作成し活用
 「エンサイクロペディアスクール」とは、百科事典の作成から活用までのすべてが、児童自身の学習の場や学習材となる動的なシステム環境であると捉え、これを学習活動の中に位置づけることで、「終わりのない学びのサイクル」(課題発見→調査取材→課題解決→表現)を機能させようというもの。
 学習への位置づけ方は、大きく分けて、児童自身が(1)情報を生産する(2)情報を拡充する(3)情報を活用する(4)情報を吟味・更新する(5)複数の情報を編集する――という学習形態だ。平成19年度は、百科事典の記事を生産、拡充する活動を通して、物事を論理的に捉える力を育てること、20年度は、百科事典の記事を活用した単元や学習活動の開発と可能性について取り組んだ。
 さらに、論理的思考力の研究を発展させ、全教科・領域の思考・認識にかかわる力と学校百科事典とを相互に支え合うものとして位置づけた。
 同校では、「自ら学びとる子どもの育成」という研究主題に迫るため、4つの手立てを講じた。
 1つめは、エンサイクロペディアを「日常的に学習に位置づける」ことにし、年間の学習指導計画を整理し直した。
 2つめは、エンサイクロペディアを通して「言葉の力を伸ばす」ために、記事を書くこと、情報の活用力を育てることにした。
 3つめは、エンサイクロペディアを「身近なものにする」ため、校内にエンサイクロペディアのシステムを紹介する掲示やQRコードを読み取って、使用できるように工夫した。
 デスクトップ型コンピュータは、各教室に1台ずつと教室外(玄関、職員室前廊下、PC室前廊下、図書室)に1台ずつ4台常置し、WebカメラでQRコードを読み取ることで、記事の閲覧・投稿などが可能だ。昨年11月現在、児童の検索数は、延べ8383件に達している。
 4つめは、エンサイクロペディアを「使いこなす力をつける」ため、メディアリテラシーや情報モラルを育てることに力を入れた。隣接する中学校の協力を得て行われた。品川区が重視している小中一貫教育が生かされている。
■言語文化・言語生活環境としての学校
 この日の研究発表会では、1〜6年の全学年で公開授業が行われた。
 各学年の単元と教科は、1年1組「おまかせ!わがやのお手伝い」(生活・市民)、1年2組「品川小のおきにいりを紹介しあおう」(国語)、2年1・2組「こちら品川まちかど情報室」(生活)、3年1組「品小ブックストアをひらこう〜民話を紹介しよう」(国語)、3年2組「調べて書こう〜食べ物はかせシリーズ」(国語)、4年1組「名画を鑑賞してみよう」(図工)、4年2組「ものの体積と温度」(理科)、5年1組「品小の誉れ〜品小年鑑をつくろう」(国語)、6年1・2組「残そう・伝えよう・品川小の生活」(市民・国語)。
 この研究について今村校長は、「知識や知恵は、外から注がれるのではなく、『かかわり』の中で自分からつかみ取るべきもの、その核に『かかわり』を明晰にする言語力がある、というのがこの研究の理念である。リンゴのなる『知の森』へ。根ざすべき動的な言語文化・言語生活環境としての学校のあり方から捉え直そうとした」と述べている。
 また、同校の研究を指導した東京学芸大学の田近洵一名誉教授は、エンサイクロペディアがひらく教育の可能性に言及、「子どもの学びは、記録され、時空を超えて共有され、継承されなければならない。エンサイクロペディアによって、動的な学びが生まれる。また、1人の学びは、言語化されることで、可視化され、多くの学びを触発し、他の学びの中に生きる。そこに学びのサイクルが形成される」などと述べ、その有効性を強調した。



[1月29日]

図や言葉を活用して「考える力」

 「考える力を育てる算数の授業づくり」に向けて研究を進めてきた東京・府中市立府中第三小学校(平原保校長)が1月21日、同校内で研究発表会を行った。研究では、図や言葉の活用など5つの方法を分析しながら、はぐくむべき「考える力」を明確化したことや、問題のつかみや振り返りなど問題解決の過程に沿った指導の工夫に取り組んだことなどが発表された。考える力の具体化に向けて、各学習段階で押さえるべき内容の明確化や、既習方法の活用、蓄積の重要性が認識できたことなどが成果として挙げられた。各学年の公開授業のうち、3年生の「2けたのかけ算」では、図と式を関係づけながら、既習した計算方法を使って、「4×30」といった乗数が2位数の計算を考える取り組みが行われた。
 
■問題解決の過程に沿って指導を工夫
 同校が、考える力を育てる算数に取り組む上で重視したのは、(1)はぐくむべき「考える力」を明確にする(2)問題解決の過程に沿った指導を工夫する(3)算数の学習環境を整備する――の3点。
 そのうち、考える力の明確化に向けては(1)図(2)式(3)言葉(4)既習内容の活用(5)友だちとの関わり――の5つの考える方法に着目し、それを分析。
 「図を使って考える」場面では、切る、張るといった具体物の操作や問題場面を面積図や関係図に表すことなどを挙げ、「言葉を使って考える」場面では、接続語などを意識させ、順序や根拠を明確にした言葉の使い方を指導するなど、各方法が効果を発揮する視点を明確化することで、指導の具体化を図った。
 問題解決の過程に沿った指導の工夫では、学びのプロセスを(1)問題をつかむ(2)考えをもつ(3)高め合う(4)振り返るという4シーンごとに考察。考える力の育成に向け、各観点から具体的な指導ポイントを追究した。
 その結果、「考えをもつ」段階では、数直線の活用や以前使った方法など考えるためのアイテムを持たせる支援や、小グループで教え合う場を設けることなどを指摘。「高め合う」段階では、似た意見を続けて出させ発言をつなげることや、それぞれの考えを図や式で説明してもらい比較検討に力を入れるなど、観点ごとに有効な働きかけを挙げた。
 両段階の学びでは、子どもたちが計算方法を示し、見比べるための「小黒板」を活用する工夫も行っている。
 算数の学習環境の整備では、職員室前に「三小サプリ」という掲示コーナーを設置。“段ボール箱と本の寸法を示し、箱の中に本が何冊入るか”などといった問題が低・中・高学年ごとに出題され、日常の中でも算数的な発想、新学習指導要領で示された「算数的活動」を楽しみ、学びの活用を図る機会を設けている。
■多角的な問題解釈の力を育てる
 各学年の公開授業のうち、3年3組では、既習事項を生かしながら、「1位数×何十」の計算を考える「4×30を説明しよう」の授業が行われた。
 授業を担当したのは永島美佐子、細川幸子両教諭。TTで、計算を「図」と「文」を使いながら考えていく内容を進めた。
 冒頭、永島教諭は、1脚4人がけのいすの図を見せ、そのいすを1つ2つと数えさせながら、既習の1位数のかけ算を振り返らせた。
 その後、このかけ算が「いす1こ分の人数(4)×いすの数=全部の人数」という言葉の式に置き換えられることなども指摘しながら、子どもたちは図に書かれた全部のいすを確認。「4人がけのいすが30こあります。全部で何人すわれますか」という文章題と合わせて「4×30」の答えと計算方法を様々に探り合った。
 図を見つめ、様々な視点を見いだした子どもたち。ある子は、4人掛けのいす3つが並ぶ配置を列を横に分けて考え、1列分の数を「4×3=12」とし、それに10列分を足す「12+12+12+12+12+12+12+12+12+12=120」という解き方を発見。
 また、ある子は、いすの配置を縦に分けて考え、縦1列では4人がけのいすが10個あるとして「4×10=40」を出し、その上で計3列をかけて「40×3=120」などと回答していた。
 そして、最後にかけ算の法則についても着目。「4×30は4×3の10倍だから、4×3の答えの右端に0を1
つ付けた数になる」ことを確認し、図と式を関係づけながら多角的な問題解釈の力をはぐくんでいた。
 同校の研究では、全教員が、授業の一番のポイントを示す「授業のウリ」「気づき」などを報告する「算数実践事例集」を作成。新たな指導法の発見など互いの授業向上に役立てている。



[1月26日]

地元紙から島のくらしを読み解く

 新聞を、教材や学習材として利用するNIE(Newspaper in Education)を通して、子どもたちの情報活用能力をはぐくむ授業づくりに取り組んできた東京・北区立王子第三小学校(関口修司校長)が、1月16日、その成果を同校の研究発表会で披露した。公開授業では、伊豆諸島・八丈島で発行されている新聞を読み解きながら、島のくらしについて検証する4年生の社会科など、各学年の実践が行われた。子どもたちが新聞づくりに携わる中で、情報モラルの基礎を学んだり、各教科学習で新聞記事の活用や読み比べなどをすることによって、主体的な学びの実現、情報の取捨選択、発信の能力などもはぐくんだ。
 
■新聞制作・活用・機能学習を柱に
 若者の活字離れといった課題も視野に、NIEを通した子どもたちの情報活用能力の育成に取り組む同校。
 新聞を題材とした理由として、「読み、書き、取材」の具体的な活動を通じて、適切な情報活用能力をはぐくみたいとするとともに、発達段階に応じた多様な教科領域での活用が図れることなどを挙げる。
 具体的には、(1)情報に親しむ子(2)情報を活用できる子(3)情報手段を選べる子――の育成を目標に、「新聞制作学習」「新聞活用学習」「新聞機能学習」の3分野を柱にした学習を実施。
 新聞制作学習では、子どもたちが取材、編集、発信といった実際の紙面制作プロセスを経験しながら、情報モラルの基礎も培うもの。
 その際、共同制作を通してコミュニケーション力を育てるなど、人間関係の構築にも役立てようとした。
 新聞活用学習は、新聞を各教科・領域の学習資料として生かす学び。新聞スクラップなどの作業を通して、情報収集や選択などの力を高め、子どもたちの主体的な学びを実現することにも役立てようとしている。
 4年生の社会科「火事を防ぐ」の事例では、火事の写真と被害記事を見比べ、事件の状況を様々に読み解き合った様子が報告された。
 新聞機能学習は、実際の新聞社や紙面発行の過程を調べながら、情報媒体としての新聞の機能を理解する活動。新聞記者へのインタビューや紙面の読み比べ、分析などを通して、人権、個人情報など情報モラルへの気づきも目指している。
 6年生の体育科「エイズを学ぶ」では、記事とともに、紙面には書かれていない記者の思いも聞き、エイズについての正しい知識と取材の努力について、理解を深めた。
 このほかにも、全校児童を対象にしたNIEタイムなどを実施。朝学習の中で、子どもたちが新聞記事をスクラップし、要約や感想を書き込むことで、情報活用力の基礎を磨いている。
 一連の学習は、PISA型読解力の育成や、社会への関心を高めることなどにもつなげていきたいなどとしている。
■地域ならではの情報を選び出す
 公開授業では、学年・教科ごとにNIEの実践を紹介。
 4年1組の社会科では、八丈島のくらしについて地元の新聞記事から考える小単元「島にくらす人々」の授業が行われた。
 冒頭、アロエの花が咲く風景の写真を児童に見せ、その場所がどこかを尋ねた平松貴子教諭。「南の方だと思う」「沖縄かな?」など、子どもたちの様々な意見が飛び出す中で、同教諭は「ここは“東京”の八丈島です」と答えた。子どもたちが島に関心を抱くための導入を工夫しながら、風景写真を引用した地元紙「南海タイムス」を活用し、八丈島のくらしを探る展開を図っていった。
 子どもたちに配られた南海タイムスには、一般紙では見慣れない記事がたくさん掲載されていた。平松教諭は、そんな紙面から、島ならではの記事を選び出すよう指示し、子どもたちは「1面にあるマグロ豊漁の記事」「一軒一軒のお店情報がある」など、それぞれの発見を報告。記事中の出来事を読み解きながら、島のくらしへの興味を高めていった。
 また、八丈島の地理的な把握や気候特性を理解させる工夫も盛りだくさん。5万分の1の地図を順々につなげて提示し、都心から南へ300キロという距離感を実感させたり、島の気候の特徴を把握させるために、同校がある同じ都内の北区と奥多摩の檜原村の年間気温、降水量のデータを比較検討させる仕掛けなども披露していた。



[1月22日]

ファシリテーションで授業づくり

 横浜市教育委員会では、「しっかり教え、しっかり引き出す指導」の実現に向け、同市の教員を対象にした「授業づくり」「出前授業づくり」講座を現在、市内各地で実施している。そのうち、同市中区の教育センターで1月10日に行われた講座では、“ファシリテーション”に着目した「子ども主体の授業づくり」について研修。参加教員は、理論と体験を交えながら、ファシリテーターとしての授業の流れや効果を学び、具体的な場づくりや学習プログラムなど、授業改善に向けた研鑽を深めていた。
 
■「しっかり教え、しっかり引き出す」
 同講座は、市内教員を対象に平成17年度からスタート。各教科の授業づくりから学級づくり、特別支援などの多彩な内容(今年度は89講座)を設けている。講師には、同市指導主事、横浜優秀教員、授業改善支援員などがあたり、市内4カ所の授業改善支援センター(ハマ・アップ)を会場に、魅力があり、分かる授業の実現を支援する。
 今年度は、国の新指導要領を踏まえた「横浜版学習指導要領」を視野に、「しっかり教え、しっかり引き出す指導の実現」に向けた講座を設定。
 同市の「横浜の時間」の授業計画をはじめ、子どもの主体性を引き出しながらも、確かな学びの習得を実現できるような内容を盛り込んでいる。
■「ガードレール型学習」が必要
 そんな中で1月10日には、ファシリテーションの意義とスキルを学びながら「子ども主体の授業づくり」を考える講座が行われた。
 ファシリテーションをテーマとした理由として、同講座講師の高橋秀吉指導主事は、(1)子どもたちの学習意欲の育成(2)学び合いによって相乗効果を引き出す(3)多様な連携による学習に向けた教員のプロデューサーとしてのスキル育成――の3点を指摘。
 生きる力の育成が教育命題に掲げられる中、この講座では、教師が主導して教え込む「線路型学習」でも、子ども任せで自由放任の「放牧型学習」でもない、「ガードレール型学習」の必要性を掲げ、教師が学習目標、プロセスを明確に持ちながら、子どもたちの主体的な学びや集団での相乗効果を引き出すファシリテーションを生かした授業理論や技を伝授していった。
 また、講座内容は、「聞いたことは忘れる、見たことは覚える、やったことは分かる」(老子)をモットーに、学んだ理論と技をアクティビティによって体感し、確実に習得できるよう考慮されているのも特長だ。
 この日の参加者は、同市内を中心とした小・中学校教員18人。前半では、ファシリテーションの意味として「集団による知的相互作用を促進する働き」「個人の能力を引き出す」などを確認し、その後、授業での場づくり、プログラムデザインの方法を学んだ。
 場づくりでは、人数や列の組み方を変えることでグループメンバーの意識がどのように変わるかなどを体験。
 参加者は、グループの輪を縮めてみたり、2列平行に並んだ後、各列の並びを少し曲線になるように並びかえたりする中で、「それぞれのメンバーの顔が見えやすくなり、親しみが増した」「子どもの席に座って、場づくりを考え直したい」などの感想を述べ、学習環境を工夫することで、学びの雰囲気や学習者のマインドが変わってくることを実感していた。
 さらに、授業プログラムの工夫では、(1)ゴール(目標)の設定(2)ゴールに向けたプロセスを起承転結(導入、本体、まとめ)で考える(3)ワーク(作業)、アクティビティ(活動)の配置(4)体験→振り返り→気づき・学び→分かち合いという流れを大事に(5)時間配分を適切に行う――を押さえて組み立てることを指摘。
■「プログラムデザイン曼荼羅」を活用
 この授業プログラムの流れを体験するため、教材として「プログラムデザイン曼荼羅」(中野民夫作成)を活用し、ゲーム「up down catch」を生かした授業デザインを考える活動も進めた。
 この曼荼羅は、目標・ゴールを軸に、起承転結のある授業構成づくりに役立つツール。活動では、同ゲームを通して「ドキドキ・ワハハ」の和やかな雰囲気づくりを達成することを目標に、各参加者がそれぞれの授業アイデアを曼荼羅に記入。ある展開案では、何回か練習(起)した後、2チームでの対抗戦を実施(承)するなどを提案し、最後に代表者がその授業案を試行することで効果を確認していた。
 また、子ども主体の授業では、must(しなければ)から、will(しよう、したい)→can(できた、分かった)へと子どもの思いを変容させる仕掛けなどが重要とし、2通りのボールリレーに取り組みながら、早く渡す方法をグループで振り返り、分かち合う中で、違いや気づきの感度を高める活動も行った。
 さらに、複数のイラストをもとに、各自の豊かな発想を引き出す活動も行い、「考えさせる」「ほめる」など、ファシリテーターの働きかけに着目しながら、それがどんな影響を与えたかを検証し、学習後の振り返りが重要なことについても、実感を深めていた。
 参加した小学校教員は「ゴールを最初に決め、見通しのある授業を行うことの大切さを実感した」とし、ファシリテーターの働きかけとして、「子どもたちからの発想を『待つ』ことの重要性も分かった」などと感想を語っていた。



[1月19日]

「学びどころ」のある授業を創り出す

 「自ら学びを創りだす子どもの育成」に向けて、町との関わりを意識した総合的な学習、生活科を追究してきた横浜市立戸部小学校の研究発表会が昨年12月、同校で開催された。研究では、学びを創り出す力を、問題追究の力、振り返る力などと設定。子どもたちの学習課題への思いや追究を深化させる「学びどころ」のある授業づくりに力を入れた。実践では、プロのアドバイスを交え、大道芸の技を高める方法を模索した5年生の授業や、町の調査に基づいてお金をかけない地震防災の方法を考える6年生の授業などが公開された。
 
■学級ごとに自由に単元を開発
 同校(石川純一校長)は、「パイオニアスクール横浜『横浜の時間』実践モデル校」(今年度から)や、文科省「総合的な学習の時間モデル事業」(平成17年度から)などに指定され、総合的な学習、生活科の充実に力を入れている。
 研究では、「学びを創りだす子ども」を目標に、地域を舞台としながら、自然、社会、人と豊かに関わり、学び合える場を工夫。関わりを深める中で、課題を掘り下げ、活動を振り返りながら自分の考えを創り出せる子どもを育てようとしてきた。
 そのため、授業づくりでは、テーマ、活動、学習材を規定せず、学級ごとに単元を自由に開発。さらに、子どもの思いを揺さぶり、深められる「学びどころ」のある内容の設定を重視し、探究的で、子どもたちが問題を見いだす必要感が持てる学びを大事にしている。
 また、「学びどころ」のある授業を実現するために教師が意図的な“しかけ”を持って授業づくりを進めていることや、見通しを持った活動、振り返りの話し合いなどにも気を配ってきたという。
■話し合いで多面的な判断力
 5年1組の「とべっ子大道芸でスマイル満開!」と題した授業では、芸を通じて、町の人々に喜びを与え、地域との関わりを深めることをねらいに、子どもたちが大道芸を身に付けるため、大道芸人と交流しながらアドバイスをもらい、芸を向上させるために各自何をすればよいかを探り合った。
 授業では、大道芸人から送られた子どもたちの技への感想の手紙をもとに、子どもたちが芸の良い点や今後のレベルアップ策などを検討。「お客さんにかけ声をかけてもらい、会場を巻き込めるようになった」などのほめ言葉とともに、「ツッコミかボケか、自分の立場をはっきりさせよう」などのアドバイスを振り返り、良い演技に向けた改善策をみんなで話し合った。
 話し合いでは、課題を明確にするキーワードを掲げ、みんなが笑顔で演じることや、雰囲気のある衣装に気をつけるなどを提案。子どもたちが課題を見いだしていく学びを実現し、それを深化させるしかけや、話し合いの工夫などを示した。
 一方、6年2組では、子どもたちによる地域調査を通じて、地震防災対策を経費と照らしながら考える「安全で戸部のまちへ恩返し!」という授業が公開された。市民意識を高め、社会参画を考えていくのがねらい。
 前時までに子どもたちは、地域の町内会長や消防署に出向いて、町の地震防災について調べた。
 そんな調査結果に基づいて、授業前半では、町なかでの防災ベンダー(災害時に無料で飲料を提供する自動販売機)の普及率や、建物を補強するための補助金などの問題を挙げながら、「お金をかけないと地震防災はできないのだろうか?」という課題を考えていった。
 多くの課題を費用との関係で再考した子どもたち。「備蓄用食糧などは保存が利くけど、値段が高い」などといった現状を認識しながら、「命の方が大切。町の住民もお金をかけるべき」との意見や、お金をかけない対策として、食器棚などの固定に段ボールを使うなどのアイデアを出し合った。
 また、事前の防災対策の重要性も指摘。町内会長の話なども参考に「いざというとき、地域の人同士のつながりが大切。そのためにも、周りの人とあいさつしたり、良い関係を持っておくようにしたい」などの視点も飛び出し、町の現状を踏まえて、自分たちにもできる対策を確認し合った。
 また、指導を担った鈴木康史教諭は、子どもたちから出た様々な考えと事実を区別できるように板書に注意し、子どもたちの多面的な判断力をはぐくむ配慮を様々にちりばめた授業を進めた。



[1月15日]

株の模擬売買で経済の動き学ぶ

 「寒くなると電気をいっぱい使うんじゃない?」「年末年始は旅行に行く人が多いから航空会社は?」――。埼玉県立伊奈学園中学校(牧恒男校長、生徒数240人)の3年生の社会科「発展」の選択クラスでは、4月から株式学習ゲームに取り組んでおり、生徒たちが新聞を広げて株欄や経済面を読み、実際の値動きなどを探りながら、模擬売買をしている。
 
 同校は、平成15年に県内で初めて公立の中高一貫校として開校。学校で、毎年1000人を超す入学希望者がおり、各学年80人が全県から通学している。高校が併設されていることもあり、専門性の高い授業が行われたり、国語と英語を融合した「表現」、英語と社会を融合した「国際」などの選択教科が2年生から始まったり、3年生では国語、英語、数学、理科、社会の中から「基礎」と「発展」を選択できるなど、特色ある教育課程が組まれている。
 3年生各教科の「基礎」と「発展」は、それぞれ週に1時間と2時間ずつあり、苦手な科目は基礎でおさえ、得意な科目は発展で伸ばすことになっている。
 今年度、3年生の社会科「発展」の授業は18人が選択しており、教科書の枠を超え、大学入試センター試験で出された問題にチャレンジしてみたり、株式学習ゲームに取り組んだりしている。
 この株式学習ゲームは、アメリカの学校教育現場で30年以上にわたって実績のあるStock Market Gameをモデルとして、日本証券業協会、東京証券取引所グループが95年度から実施しているもの。昨年度は全国で1410校が参加した。
 学習方法は、模擬売買として1000万円を元手に、実際の株価に基づいて売買を行い、あらかじめ設定されたゲーム期間終了時の保有株式の時価と所持金残高の多寡によって投資成果を競う。
 同校では田中浩之教諭が導入し、4月から生徒たちは週に1回ずつ取り組んでいる。3人1組となり、それぞれが情報を集め、どの銘柄に投資するかをディスカッションで決めていく。
 模擬売買とはいえ、実際の株価で行うので、昨年のように株価が一気に下落すると、生徒たちの資金もぐっと目減りしてしまう。売買代金だけを計算するAコースと、実際の取引と同じように証券会社に支払う売買委託手数料や税金を計算するBコースがあり、同校ではBコースを選択しているので、利益を出すのは大変だ。
 生徒たちは「年末は買い物が多くなるからスーパーは?」「ポニョの映画がヒットしたから東宝は?」など、社会情勢を考慮に入れながら株を購入する会社を決めていく。
 この学習を始めてから多くの生徒が新聞を以前よりも熱心に読むようになったということで、「テレビ欄とスポーツ欄の次に株価のページが気になる」「ニュースをよく見るようになった」など、社会に対する視線が主体的になったようだ。
 田中教諭は「株の売買で損をする経験は貴重だと思う」と、失敗を通して学ぶことは大きいと指摘する。
 また、社会情勢に対する関心が高まり、親との会話が増えたという生徒も多いとか。
 ある女子生徒は、「好きなタレントがCMに出てるからそのコンビニの株を買ったの」と無邪気な笑顔を見せつつ、「その人が新しいドラマに出るから、きっと売り上げはよくなるはず」としっかり株価上昇の予想もたてている。
 資金の多寡で競うゲームなので、ほかのチームに負けまいと熱が入る。自分が購入したい株に関しては、ほかのメンバーの同意が必要なので、説得するためにも知識が不可欠だ。
 株式学習ゲームの授業では、楽しみながらも真剣に取り組む姿が印象的だった。



[1月12日]

博物館学習プログラム53本を開発

 独立行政法人国立科学博物館(佐々木正峰館長)は昨年12月26日、文部科学省委託事業「科学的体験学習プログラムの体系的開発に関する調査研究」の中間報告会を、東京・台東区の日本学士院で実施した。調査では、博物館活用への教員の期待度は高い一方で、地理的な制約が課題と感じていることが分かった。また、同館では、貸し出しなどができる小・中学生向けの科学的体験プログラムがすでに53本開発されていると報告された。新学習指導要領・理科で「連携、協力を図り、積極的に活用するよう配慮すること」とされている博物館は、先行実施においても、新たな教育課程を練り上げていく上でも、重要な役割を担っていく。
 
 同調査研究は、学校での科学的体験学習の質の向上を目指して、理科、生活科、総合的な学習の時間、環境教育の授業などで活用可能な科学的体験学習プログラムの開発を行うもの。動物園、理工系博物館、自然博物館、植物園、水族館など20館も、研究に参加している。
 小学校理科の新学習指導要領での博物館の扱いをみると、「博物館や科学学習センターなどと連携、協力を図りながら、それらを積極的に活用するよう配慮すること」とされ、現行の記述にはない「連携、協力」が強調されている。中学校理科でも、現行にはない同様の内容が、新たに盛り込まれている。
 会の冒頭、有馬朗人元文部大臣が「豊かな未来を創る理科教育への期待」と題して講演した。同氏は、「義務教育段階での日本の子どもたちの知識力は下がっていないが、応用力や自ら考える力は、やや弱い傾向がある。学力のこの部分を伸ばすことが課題。理科と算数・数学の学力は国際調査でも高い。日本人は創造力、独創力をもっている。ノーベル賞受賞者もどんどん出ている。日本人はこの点について自信を持ってよい」などと語った。
 また、同館の小川義和展示・学習部学習課長が同調査研究の概要について説明した。それによると、学校のニーズに関する調査の結果から、子どもたちの興味関心を高めたり、体験や実物にふれたりすることによる感性の育成を期待する教員が多いことが分かった。ただ、博物館などを利用しにくい理由として、地理的・時間的制約があげられた。
 そこで、同調査研究では、博物館の活用経験のない教員などを対象に、単元に対応し、ねらいや達成度、効果を明確化した科学的体験プログラムを開発した。学校のニーズ調査から分かった地理的・時間的制約などの課題についても、ICTの活用や標本の貸し出しなどで対応する。平成19・20年度の2年間に開発した小・中学校向けプログラムは合計53本ある。
 例えば、「骨ほねウォッチング」の指導計画(計4時間)は、小学校4年生の「生きものを調べよう」、小学校5年生の「たんじょうのふしぎ」、中学校2年生の「動物の生活と種類」、中学校3年生の「生物の変遷と進化」の単元に関連したもの。
 このうち、中学校2年生の学習内容は、動物の骨格標本の観察やスケッチ、学芸員の話を聞いて進化の過程と環境への対応について学ぶもの。生徒は学習成果の発表活動を通して、言語力の育成も図ることができる内容となっている。
 このような科学的体験プログラムは、理科の新学習指導要領の先行実施にあたり、教育課程づくりにたいへん有用な資源となるといえる。



[1月1日]

移行期間で活用力をどう構築していくか

 小・中学校の学習指導要領の改訂に伴う移行措置がいよいよ来年度から実施される。移行措置期間中は、実施可能な学習指導要領の総則、道徳、総合的な学習の時間、特別活動が先行実施される一方、特に、算数・数学と理科については、新教育課程に円滑に移行できるよう、内容の一部を前倒しして実施されるのが特色だ。そこで、「新春対談」として、階玲治教育創造研究センター所長と山極隆玉川大学学術研究所特任教授にご登場願い、「移行措置期間中の学力の形成―活用力をどうつけるか」と題して話し合っていただいた。
 
■「活用力」「理数教育」を重視した新学習指導要領  

 小・中学校の新学習指導要領は、これからの日本を考える上で極めて大事な改訂だといえます。1つは、PISA(OECDによる国際的な学習到達度調査)型学力の影響があります。国際的な教育競争時代が始まっていますが、むしろどこの国も、国際化・情報化・グローバル化の時代に、お互いに手を携えてやっていけるような国際標準としての学力を明確にして、その方向性を目指すことが重要だと考えているからです。
もう1つは、社会が大きく変化する中で、知識基盤社会への参画が重視され、学力形成のあり方を変えるべきではないかという方向性が出てきました。
3つ目は、少子高齢化の問題との関連で、これからは、どんな地域にあっても、その地域に役立つ人材の養成が必要となり、一人ひとりへの確かな学力形成が重視されています。
ただ、学校現場では、そのような受け止め方はされていません。指導内容や授業時間がどう変わったか、ということに振り回されている状況で、「活用力」などを重視した学習指導要領の目指す本来の目的・目標が見えていないような感じがします。
山極 学校の先生方が改訂学習指導要領の理念や内容をしっかりと把握し、移行措置の段階で準備をしていくということは必要です。国際的な競争力の激化の時代に入り、どこの国でも技術革新や産業競争力の強化が大事になってきます。
特に、わが国のように、人間の知的創造力が最大の資源である国にとっては、将来、有為な人材を養成することは重要な課題になってきます。
一方で、科学技術者は、一朝一夕で育てられるものではなく、知識の基盤となる裾野が広くて充実していなければなりません。その裾野に相当するのが小・中・高校の理数教育です。これからの人口減少時代に入ってくると、ものづくりの継承などが目に見えて衰退していきます。技術者・研究者の数も大幅に不足します。
その意味でも、初等中等教育の段階で、もっと科学技術に関心をもってもらい、科学好きの子ども、豊かな科学的な素養をもった子どもを育てるという基本的な認識をしっかり持つことが大切です。
今回の学習指導要領の改訂は、そのような考え方に立って作られたものです。学校現場の先生方には、学習指導要領を理解し、指導に当たってもらうわけですが、同時に、国家の形成者としての自覚をもっていただきたい。言語活動や道徳教育の重視も、その同列にあります。
 多くの学校を訪問する機会がありますが、理科の話題はほとんど出てきません。全国学力調査が国語と算数・数学を対象にしているからでしょう。個人的な意見ですが、理科を学力調査の中に入れて実施したらどうか。OECD調査で、日本の生徒の学習意欲・態度が低下していますが、社会人自身も理科や科学に対する関心が低いのです。そのためにも、理科を社会生活に結びつけて、どう考えるかが大事になってきます。
もう1つ重要なこととして、活用型学習の問題があります。現在、「活用」という意味があいまいな受け止めをされています。文部科学省が全国学力調査を実施したとき、A問題(基礎)とB問題(活用)に分けましたが、その際、国立教育政策研究所が第1回目のときに作成した「解説資料」を読まずに、「活用」について単に表面的に「基礎的な知識・技能を活用する」というレベルの抽象的な説明ですましていることが問題だといえます。
山極 学習指導要領の改訂は、ほぼ10年に1回行われてきたわけですが、前回あたりから様子が違ってきたと思います。それは、学習指導要領の改訂だけでは物事が動かなくなってきたということです。何かというと、教員の資質能力の向上と連動していかなければならないということです。よく現場の先生方から「学習指導要領の改訂のねらいや趣旨はよかったが、現場では、なかなか実践されなかった」という声を聞きます。ただ単なる教師の力量だけの問題ではありませんが、うわべだけの理解にとどまっている感じがします。

■「活用力」の授業をどう実践するか

 これまでの学習指導要領の改訂では、学校裁量の時間(ゆとり)、市民科、総合的な学習の時間などの目玉がありましたが、今回の改訂では、「言語活用能力」と「活用型授業」などが目玉だといえます。「言語活用能力」に関しては、各教科で実施するということで案外わかりやすいが、「活用型授業」となると、何をどうすれば活用の授業になるかわかっていない。いままでの全国や県の学力調査をみると、基礎と活用を分けてはいないのです。その意味で全国学力調査が基礎と活用を分けた意味をきっちりと把握しておく必要があります。
日本の授業はほとんどが習得型ですので、「活用」といわれたときに、何を「活用」といったらよいのか、「どういう姿が授業として変わっていくのか」ということが曖昧のまま、「活用が大事ですよ」のムードで流れているような気がします。
「思考力・判断力・表現力を育てるのは活用だ」という指摘もありますが、それはすでに観点別評価の中に入っているのです。思考力・判断力・表現力を「養うこと」と「活用すること」とに違いがあるのかどうか、その辺も曖昧になっています。
山極 今度の改訂で、学力を習得型・活用型・探究型にはっきり分けたのはよかったと考えています。前回の改訂時でも、当然、思考力・判断力・表現力の重要性はいわれていました。ややもすると、基礎基本の理解・技能を身につけるという習得型の学習が薄くなり、思考力や判断力などが独り歩きしてきた面もあったようです。教育的な面からいっても、習得型の学習で基礎基本を身につけ、それをもとに活用力をつけるといったメリハリのある学習が大事です。
活用型の学習は、2つの意味合いを持っています。1つは、理科の勉強が生活や技術にどのように活用され、実際に応用されているのかどうか。もう1つは、習得した知識・技能をベースにして、問題解決に必要な思考力・判断力・表現力を養うことができるかどうかです。
実際、小学校の理科の授業では、観察・実験などをして、面白ければいいのですが、中学校になると、面白いだけではすまされません。それをベースにして、「できる」というところまでいかなければならない。そのためには、今回の改訂でもいっているように、観察・実験したあとの結果についての分析、解釈、処理について自分の考えを論述するというような学習が大事になってきます。
 授業時間が増えたことを活用力にどう結びつけていくかが大事になってきます。その辺のところは、中教審答申でも曖昧になっています。「繰り返しやればいい」などといったレベルなのです。もともと理科や社会科は問題解決型の教科なのです。
そこで、子どもたち自身が自分で課題を追究していく学習です。発見学習などは思考力や判断力を伸ばすのには適していました。それらがいまでは忘れられてしまったようです。形式的な「導入・展開・終末」ということになってしまっています。
山極 確かに、かつて、全国の教育研究所が実施した「教育現代化」のような講座を積極的に展開しないといけないと思います。


■学習意欲高める活用型授業を

 やはり日本の学力形成が「習得型」に固定化してしまったということが大きな問題です。フィンランドの国語の教科書が翻訳されていますが、それをみると、子どもたちの興味関心を高めるための内容になっており、ワクワク感があります。
ところが日本の教科書にはワクワク感がなく、ほとんどが同じスタイルになっています。現場の先生方は、活用型をワーク型の指導で行うので、どうしても活用型の授業は底が浅くなります。ぜひ、新しい教科書の内容を活用型の指導が十分できるように変えてほしいものです。
山極 小学校の段階では、子どもたちは理科が好きですが、中学校になると、内容が抽象的になり、実験したらそれを分析、考察、データ処理、グラフ化、規則性の発見などをする必要があるので、嫌がる傾向があります。ましてやその過程や結果をレポートにすることに積極的でない生徒もいます。
豊かな社会を反映したせいか、理科に限らず、学習離れ、思考離れという傾向が強くなっています。根気強く学習するというよりも、少しでも学習につまずくと、投げ出してしまうことになります。そのためにも、すべての教科で「規範意識」をもって指導に当たるようにしないといけない。「規範意識」とは、何も道徳的なことだけではなく、「学習の構え」みたいなものです。勉強とは「楽しい」だけではなく、「苦しい」ときもあり、また、「やりがい」があることを教えることが大事です。
 今の子どもたちの意欲は低下し、自己評価も低いのです。ある調査によると、「もっと勉強しておけばよかった」という回答は、小学生で5割、中学生で7割、高校生で8割に達しています。それでは「後悔しているので勉強するか」というと、それでも勉強しない。あきらめ型が多いのです。「自分がこれをやれた」ということに対して、教師や親がほめたり、励ましたりする言葉かけも少ないのです。だから日本の子どもは、外国の子どもに比べて自己評価が低い。「活用型学習」で学習意欲を盛り上げていくべきです。新しい学習指導要領では、表現や活用が重視されているので、そのことを徹底したら学習意欲も高まると思います。

山極 最近の傾向として、各県の教育研究センターなどの研修内容などをみても「教科」を対象にしたものが少なくなっています。また、毎年実施している全国学力調査のうち、国語と算数・数学は1年おきにして、理科も調査対象にすることを提案したいと思います。そこで「活用・応用・探究型」の問題を出して学力をみることも大事です。
 第1回目の学力調査ではいい面がありました。それは、学力調査と生活状況調査の関連を重視したことです。また、2回目に成績と授業中の学習規律の問題などの相関を調査したこともよかった。ここで、何が学力形成のもとになっているのか、しかも学校が努力すればやれることを示したのです。おそらくその辺の分析は、文部科学省でなされているでしょう。注目したいところです。
山極 多くの学校で授業のうまい先生はいます。「授業力」や「教科力」のある先生です。そうした先生は、授業中の規律をきちんと守らせています。「話をよく聞きなさい」とか「ノートをしっかり取りなさい」とか。
 また、最近、教育を国任せにするのではなく、地域や学校で責任を持つという方向性が出てきたような気がします。地域と学校との連携、小・中の連携などが進んでいることは、今後の改善の方向性を示しています。
山極 そのためにも、各学校は、自らの教育の成果を検証し、それについて地域や家庭に理解と協力を求め、教育水準を高めていく努力が必要だと思います。



[12月22日]

専門家が「大地のようす」で実感伴う授業

 広島市立戸坂城山小学校(松田孝司校長)で12月4日、6年生56人を対象とした社会人講師による理科単元「大地のようす(1)大地をさぐる」の授業が行われた。
 
 この授業は、文部科学省による「理科支援員等配置事業」と連携して行われている、経済産業省主催の「社会人講師活用型教育支援プロジェクト」の一環で、発明協会広島県支部がコーディネートし、広島市教育委員会と連携して実施している同協会の「理科大好き広島っ子おもしろプロジェクト」(昨年からの継続事業)として行われたもの。地元企業の技術者などが講師となり、企業の製品や技術を活用して、児童が学校で学ぶ理科と実社会とのつながりを、実験や体験を通して学ぶことを目的に行われた。
 この日、社会人講師を務めたのは、地質調査などを業務とする復建調査設計梶i本社・広島市東区)の地質の専門家である地盤環境部の佐竹伸二課長補佐ほか3人。2時間の理科の授業を行った。
 1時間目は、教室で、講師が実際に行っている地質調査の仕事について説明。児童に、なぜ地面の下を調べる必要があるのかを考えさせながら、地面の下を調べる方法を解説した。次に、子どもたちが住んでいる地域を取り上げ、学校近隣の約60年前と現在の立体地図を3Dメガネをかけて見させた。校舎が建つ場所の大地のつくりを考えさせ、学校周辺の地面の下に何があるのかを、地形から予測させたりした。
 2時間目は、まず、校庭の砂場で、講師が行っている地質調査方法「ジオスライサー」で、地層の採取を児童に実際に体験させた。その後、教室で、バケツに地層の材料を詰め、ジオスライサーによって地層を切り抜き、また、そのバケツを揺らして断層を起こし、その地層を切り抜いた実験を行った。
 子どもたちは、自分たちの住んでいる地域の過去と現在の立体地図を見たことや、地層の採取方法を実体験したことなどにより、通常の授業以上に、地層への興味関心を高めることができたようだ。
 同市教委指導第一課の田村浩一主任指導主事は「市教育委員会では、理科支援員配置校のすべての5・6年生の学級を対象に、大学教授や企業講師など科学技術に関する専門家を特別講師として派遣している。きょうは、普段の理科授業では児童に体験させることが難しい大地のつくりやその調べ方について、実感を伴った理解を図ることができたと思う。今後は、この事業で培われた学校と大学や企業とのネットワークを、より一層充実させる必要があると考えている」と話す。



[12月18日]

特別支援学級で道徳の授業を工夫

 愛知県安城市立安城西中学校(福田定夫校長、生徒数730人)は「自己をみつめ、共に学び、認め合う生徒の育成」を研究主題とし、心に響く道徳の時間を中心に研究実践を進めている。その中で、役割演技などで共感的な理解を促す特別支援学級での道徳の授業が行われた。
 
 その概要を、同校の加藤雅彦研究主任がまとめてくれた。
■紙芝居風に資料を提示
 特別支援学級の生徒にとって、絵や図など視覚的なもの、自分が実際に行う体験的なものは、理解しやすく楽しんで学ぶことができる。こうした実態を踏まえ、同学級では、普段から絵や体験的な作業などを取り入れ、学習を進めている。
 道徳の時間でも、資料の提示には必ず絵を添え、紙芝居風に示してきた。
 また、一人ひとりの障害の種類や程度、能力、適性などに違いがあるため、それぞれに合った課題を設定すること、より理解しやすい学び方を教示することを常に考えながら授業を行っている。
■「はしのうえのおおかみ」を演じる
 一本橋の上で次々と渡ってくる自分より弱い動物たちに意地悪をして、おもしろがっていたオオカミがいた。あるとき、自分より力の強いクマと出会い、そのクマに思いがけず優しく橋を渡してもらった。そのことで行動を反省し、今度はクマのまねをしてほかの動物たちに優しくする内容である。
 (1)生徒が資料の世界に入り込むための工夫
 資料の提示では、森、一本橋、登場する動物などのイラストを用意して、黒板上でパネルシアター風に動かした。教師2人が、物語の内容がより分かるように、表情や動作を工夫し、登場人物の役を演じながら話を進めた。また、ベンチ型の長いすを一本橋に見立てて、生徒たちがその上で演技を行うことで、登場人物の状況に近づけるように考えた。
 (2)登場人物の気持ちになって考えるための役割演技
 物語の主人公であるオオカミの役割を演じさせることにより、オオカミの心情に迫れるようにした。オオカミの心情を考えることが難しい生徒たちにはウサギやタヌキなどの意地悪をされた動物たちを演じさせ、少しでもその世界に迫れるように工夫した。
 (3)一人ひとりの生徒を生かす場面の設定
 お面を喜んでかぶるA男にはお面を用意し、タヌキ役を演じさせた。A男はタヌキの気持ちに共感することができた。深い読み取りができるB男には、中心発問の後半で指名した。B男からは、オオカミのこれまでの行動を振り返る視点をもつ意見が出た。
■生活スキル優位だった授業を改革
 パネルシアター風の資料提示から始まったこの実践は、生徒が実際に資料の中の役柄を演じたり、みんなで登場人物のせりふを唱和したりと、生徒がひきつけられるように展開した。また、一人ひとりに合わせた質問を考えたり活躍の場を設定したりすることで、全員が自信をもって授業に参加することができた。
 研究を始める以前は、同学級の道徳の時間は、基本的な生活習慣などのスキル的な授業になりがちであった。しかし、上記のような手だてを講じることによって、本校がめざしている「共感性を高める」道徳の時間を実現することができた。
 今後は、それぞれの生徒の良さを引き出す支援について、さらに吟味していきたい。



[12月15日]

外国語活動見据えた授業づくり

 約7年間にわたる国際理解教育や英語活動によって、子どもたちが外国の言語・文化に親しみながら、コミュニケーションする力をはぐくんできた神奈川県相模原市立上鶴間小学校が、その成果を12月4日の同校研究会で公開した。6年生は「ワールドツアー」と題した活動を実施。体育館にチケットカウンターや入国ゲートを設け、4カ国への海外旅行を想定しながら英会話を楽しんだ。ほかにも、模擬授業による研修として、曜日と時間割などを題材にした英語ゲームを参観教員が体験。新学習指導要領による小学校外国語活動のねらいを確認し、担任が主体となった授業や教材づくりを後押しする内容となった。
 
■興味関心を引き出す授業を開発
 同校(古川鉄治校長)では、平成14年度から国際理解教育に力を入れて英語活動を推進。聞く・話すを中心にコミュニケーション能力をはぐくむことや、外国の言語や文化にふれて国際教育の基礎を養うことを大きな目標とし、学年ごとに授業づくりを工夫してきた。
 授業づくりでは、英語にふれる(1、2年生)→英語に慣れる(3、4年生)→英語に親しむ(5、6年生)という流れで、子どもの願いに応じた活動を配慮しながら推進。
" 先生同士が協議し、修学旅行などと関連させながら海外への興味関心を引き出すゲームの要素を取り込んだ授業を開発したり、""Thank you""などといった感謝の言葉を数多く使うやりとりを盛り込み、人への思いやりを根底にコミュニケーション力をはぐくむ活動に力を入れてきた。""
"  そんな背景のもと、研究会では、英会話を通して道案内ゲームを楽しむ5年3組の授業と、海外旅行を疑似体験しながら、そのために必要な英会話を楽しむ6年2組の授業が公開された。
■保護者ボランティアが係官に
 「ワールドツアー」と題した6年2組の授業は、体育館を空港ターミナルのようにして子どもたちの海外旅行への夢をふくらませながら、実際の旅行に必要な航空チケットの購入や入国審査の手続きを、英会話を交えて体験する内容。
 旅行先はアメリカ、イギリス、フランス、フィリピンの4カ国。体育館に設置したブースでは、写真と英語で各国の名所や特産物などを紹介し、子どもたちはそれを参考に、訪問したい国を選定するようにした。
 また、各セクションでは、多数の保護者ボランティアが受付や係官に扮して対応した。手製のパスポートや、搭乗機の効果音なども交えながら、本当に海外旅行に出かけるような仕かけにも配慮した。
" チケットカウンターでは、受付の""Hello. Can I help you?""に対し、子どもたちが""Yes. Ticket please.""などと答え、国別の航空チケットを購入。飛行機搭乗後には、機内サービスのやりとりなども楽しんだ。""
" " さらに入国審査では、""What do you want to see?""の問いに、""I want to see Grand Canyon.""など、緊張の面持ちを浮かべながらも答え、各国への憧れを抱きながら、それぞれのセクションで懸命に英語で話そうとする子どもたちの様子が見られた。""
"  授業後は、同校研究主任の宇田川真美教諭とALTのマーク・パーソンさんによる模擬授業も実施。参加した他校の教員も加わって、曜日と時間割、教科を題材にした英語活動を体験した。
" 活動は、月曜日から金曜日までを英語で示したカードを使い、それぞれ引き当てた曜日と、それに該当する時間割から適切な教科を選び出し、英語で答えるというもの。出題の際には、自分なりの効果音を口ずさみながら""What do you have studies?""と尋ね、参加者が""Art""Music""などと回答。""
"  「『総合的な学習』は英語で何と言うの」などの質問も出て、参加者同士なごむ中で、ALTだけに頼るのではなく、担任とALTが共に作り上げる授業の大切さを噛み締めていたようだ。



[12月11日]

「話し合いのできる子」を育てる

 「度胸」「語い力」「応答力」など、7つの力を磨くことで、話し合いのできる子を育てる研究に取り組んできた東京・八王子市立七国小学校(吉村潔校長)が、11月28日、同校で、その成果を発表した。公開授業では、「コミュニケーション4か条」を意識しながら、児童が調べた各国の歴史を発表し合う6年生の社会科の実践や、参観者と絵画について対話を進めるギャラリートークなどを実施。聞く技術の強化や、話し合いに必要な7つの力を、あらゆる教育活動の中で系統的に学べるようにすることで、子どもたちのコミュニケーション力が着実にはぐくまれている様子が見られた。
 
■7つの力とコミュニケーション4か条
 同校は、教育目標としている「生涯をよりよく生きる力の基礎を育む」や、国際化の進展などを背景に、他者と良好なコミュニケーションができる「話し合う力」の育成に情熱を傾けてきた。子どもたちの状況からも、話し合いではない一方通行の会話や、互いの意思をきちんと伝え合う力が身についていない点を課題と考えていた。
 そんな中で、3年間にわたる研究では、「話し合い」を「自分の考えを正確に伝え、相手の話を積極的に聞いて、答えたり質問したりする双方向のコミュニケーション」と捉えた。そして、そのために必要な力を、(1)度胸(2)語い力(3)理解力(4)応答力(5)論理力(6)説得力(7)プレゼン力――の7つとして明確化。国語科を中心にした「聞く」「話す」力とともに、全教育活動を通じた実践・応用的な「話し合う」力を育てることを目指してきた。
 また、「聞く」ことの難しさを念頭に、話し合いを知的な共同作業として捉え、相手の話を積極的に聞き、受け止める力の育成も重視。
 話し合い活動を数多く設定しながらも、一方通行な“話し合い”や、活動あって学びなしとならない内容とするために、(1)目を見る(2)笑顔で(3)うなずく(4)相づちを打つ――の「コミュニケーション4か条」を踏まえた指導を実施。さらに、低・中・高学年ごとに「話し合いの到達度」(中学年では、「互いの考えの相違点や共通点を考えながら進んで話し合うことができる」など)を具体化し、その目標を見据えた指導法の追究や教材吟味に力を入れ、話し合う力を発達段階に応じて、明確に見定められるよう配慮した。
 「度胸」の育成を目指した2年生の国語の事例では、大きなサイコロの目に、「家族」「手伝い」「小さい時」などの身近な話題を書き、出た目の話題をグループの中で話す「サイコロトーク」を通じて、自分の思いや考えを伝え合う学習を実施。ゲーム的な要素の展開で、相手の目を見る、相づちをうつなど良い聞き手としての態度を学び、対話経験を重ねることや、発信において自らの意見を持つことの重要性を自覚させることで、話しの内容を踏まえた質問の投げかけなど、対話を深めていく力をはぐくんだ。
 そんな成果を踏まえ、各学年・教科で公開授業が行われた。
■良い対話のポイントは相手への傾聴
 6年1組では、「応答力」の育成に着目した社会科の授業が矢島一彦教諭の指導で行われた。
 授業は、これまでの学習を振り返りながら、子どもたちが調べた、日本を中心とした中国、韓国、アメリカ、ロシアの近現代の歴史をグループでそれぞれ発表、意見交換するというもの。
 1人が発表し、ほかの子は聞き手に回る中で、それぞれ「コミュニケーション4か条」を確認し、発表にうなずいたり、声の大きさに気をつけて話し合いを展開していった。
 子どもたちからは、日本の高度経済成長と朝鮮戦争の関係や、資料集、新聞を使っての北方領土問題と日本とロシアの動向などについて紹介。
 聞き手は「日本と他国との関係」といった視点をもとに、「当時の日本の総理大臣は何をしたの?」と質問したり、「資料をもとに説明してくれたので分かりやすかった」など具体的なポイントを挙げて評価したりすることで、聞いて話すという双方の力が着実に育っていく様子が見られた。
 また、「応答力」に着目したこともあり、授業冒頭や中間には、子どもたちによるインタビュービデオを流し、良い対話の要点を確認。映像の中で、子どもたちの質問を批評する徳光アナウンサーのアドバイスも交え、相手の答えを汲んだ質問で会話が膨らむことや、良い質問を返すためにも相手の意見に丁寧に耳を傾ける必要があることを学び、話し合う力を伸ばしていたようだ。
 なお、この研究が深まる中で、それぞれの児童の発想を引き出す「マインドマップ」を使ったトレーニングも深化。その成果は、公開授業後、子どもたちが自分の絵画作品などについて参観者と意見を交わす「ギャラリートーク」でも示され、作品の思いやプロセスについて堂々と話し合う様子からうかがえた。



[12月8日]

自己への問いかけを深める道徳授業

 「豊かな心を持ち、たくましく生きる生徒の育成〜生徒が伸び伸びと表現し、自己への問い掛けを深める道徳授業の創造」を研究主題に掲げ、魅力ある指導資料の開発や掃除ボランティアなどの体験活動による道徳教育に取り組んできた、さいたま市立尾間木中学校(根本政廣校長)が、11月18日、その成果を同校研究発表会で公開した。研究にあたっては、あいさつなど日々の授業規律の確立や、書くことを通じた互いのコミュニケーション力の向上なども図りながら、各学年の授業づくりを追究。公開授業のうち、2年4組では、教材「夜の果物屋」を読み解きながら意見交換をし、感謝や思いやりについて、生徒それぞれが考えを深めた。
 
  ◇   ◇   ◇
■学習環境の整備に配慮
 研究主題に迫るため、同校では、@人権意識を高め、いじめや差別をしない生徒を育てるA魅力ある指導資料の開発と共有化Bボランティアなどの体験活動――に重点を置き、指導に取り組んできた。
 さらに、時間厳守、あいさつなどの授業規律や基本的生活習慣の確立に努め、掃除活動や掲示物の充実によって潤いのある学習環境を作り出すことにも配慮している。また、これまでの「国語力向上」の研究を生かし、「書く活動」で生徒のコミュニケーション力の向上を図り、思いやりの心をはぐくむことにつなげたことなどを、成果として挙げる。
 そんな研究成果を生かし、研究会では、各学年の道徳授業を公開。
 1年生では、「世界がもし100人の村だったら」を教材に、児童労働の現状や、医療援助の方法などを切り口にした授業を展開。世界が抱える課題の理解や、異なる考え方を尊重して共生する力をはぐくんだ。
 3年生では、「家族愛」を主題に、子どもと母親との関係を描いた同校の元校長のオリジナル教材を使った授業を実施。生徒は、教材内の母子のやりとりを見つめながら、母親の愛情やその姿について、改めて考えていった。

■さりげない行為から思いやりを読み解く
 2年4組では、教材「夜の果物屋」をもとに、感謝と思いやりについて考える授業が、高橋千春教諭によって行われた。
 この教材は、部活動の練習を終え、暗い夜道を帰宅する少女と、その夜道を照らす果物屋との温かい交流の話。
 授業では、教材を高橋教諭が朗読しながら、ストーリーに描かれる少女と果物屋のおばさんとの関わりについて、自分自身への問いかけを深め、意見交換をしながら考察。感謝や思いやりの意味を考えていった。
 合唱部の練習のため、いつも帰りが遅くなる少女。ある日、練習に熱が入りすぎ、いつにもまして帰宅が遅くなってしまうが、心細さを打ち消すように、コンクールの課題曲を口ずさみながら夜道を歩くと、いつものように果物屋の明かりを見つけ、明るい気持ちになり、お礼の気持ちからリンゴを買おうと店に立ち寄る。
 そんなくだりから同教諭は「少女は帰り道に、どうして歌いながら歩いていたのか?」「果物屋の明かりを見て少女はどう思ったのか?」などと生徒に質問。
 生徒からは「夜、ひとりで歩いていて心細かったから」「心が落ち着いた」などの意見が出る中で、果物屋の明かりが少女をたいへん安心させていたことを確認し合った。
 その後、物語では、店に立ち寄った少女が、自分が帰り道に口ずさんでいた曲を店のおばさんがハミングしていたのにびっくり。
 おばさんの口からは毎日、帰宅の遅い少女を気遣い、店の明かりをともしていてくれたことや、最近は歌声が聞かれなくなったことを心配していたことなどが語られ、最後に「おばさんの話を聞き、少女はどんな気持ちになったか?」との質問が投げかけられた。
 生徒は「毎晩、自分のために店の明かりをともしてくれてありがたい」「見ず知らずの人のための思いやりに、感謝したい」などの感想を述べた。
 それを聞いたゲストティーチャーからは、互いに支え合い、補い合ってはじめて空を飛べる「比翼の鳥」という言葉を通じてこのことを大事にしようと訴え、相互の支え合い、互いの思いやりと感謝の心の大切さを実感させていた。
 同校=〒336―0926さいたま市緑区東浦和4―29―1/рO48(874)9733。URL=http://omagi -j.saitama-city.ed.jp/



[12月1日]

情報リテラシー教育を全町展開

 島根県東出雲町学校図書館担当者会(代表・野津明美東出雲中学校図書館主任)はこのほど、「図書館活用を中心とした情報リテラシー教育の全町展開」で、博報児童教育振興会の第39回博報賞・文部科学大臣奨励賞(国語・日本語教育部門)を受賞した。
 
 町内には、小学校3校(児童数1077人)、中学校1校(生徒数431人)がある。
 同町では、学校図書館を「読書センター」「学習情報センター」として学校に位置づけ、情報リテラシーを軸とした教育を展開している。また、全校に常勤の学校司書を配置して実績をあげた島根県内唯一の自治体だ。
 学校図書館担当者会では、03年度に学校間の情報交換、学校図書館の環境整備や電算化を実現してきた。その中で、「調べる活動で、資料探しに時間がかかりすぎ、情報収集の入り口でつまずいている」という問題点が出てきた。そこで、現状を解決するために、小学校と中学校が互いに連携をとり、学校図書館教育を充実しなければならないと考え、小中9年間でスキルを段階的に積み上げていくための「東出雲版 情報・メディアを活用する学び方の指導体系表」を作成した。
 07年度は、4つの学校で学年ごとの「学校図書館利用年間計画」を立て、すべての教職員が図書館を活用した授業を展開することを目指した。「ウェブ図」「情報カード」の活用などの取り組みを進めている。
 また、読書活動を進めるため、4校で作成した「必読書リスト」を活用するなど学校図書館が読書センターとして充実した結果、貸出数が大きく増加し、児童・生徒の語彙が豊かになり、言語力が伸び、児童・生徒が生き生きと主体的に学ぶ姿が増えるなど、目に見えた成果が現れ始めたという。
 



[11月27日]

学び合いから新たな発想

 「児童一人一人が分かり、共に学ぶ喜びを味わう指導の工夫」を掲げ、2年間の算数科研究に取り組んだ東京・北区立としま若葉小学校(稲垣光浩校長)が、11月14日、同校研究会でその成果を公開した。研究では、学習意欲を高め、考えを持たせる課題設定や、学び合う場の工夫などの指導改善を推進。学び合いから新たな発想を得たり、既習事項から問題に迫ったり、根拠をもとに筋道立てた説明ができる子どもを育てることを目指した。4年生の公開授業では、買い物劇で示された課題をもとに、子どもたちが乗除混合や言葉を使い、自分なりの計算式を表す単元「計算のやくそくを調べよう」の授業などが展開された。
 
■成就・満足観を伴い理解に奥行き
 研究にあたり、子どもたちは問題を解きたい、できるようになりたいという強い思いを持つ一方、基本的知識・技能が不十分なことや、問題の考え方を説明、表現することに苦手意識があるといった点が課題に挙がった。
 そんな中で、「分かる」と「共に学ぶ」の学習方策に着目し、「学習意欲を高め、考えを持たせる課題の工夫」「学び合う場の工夫」など複数の視点による授業改善を進めた。
 「分かる」学習に向けては、子どもたちの成就・満足観を伴う奥行きのある理解が果たせるように、表現力の育成を重視した指導を追究。問題解決を図る学習では、既習の内容や経験を思い出し、問題解決の方向性を具体例を挙げて定められるなど、学習段階ごとにはぐくむべき表現力も示した。
 ほかにも、子どもの興味をひき、学習内容をイメージしやすくするため、サッカーボールを袋詰めにする活動などを3年生で実施。割り算の包含除の概念を把握しやすくし、学習意欲の向上を図った。また、5年生の単元「垂直・平行と四角形」では、前時の学習内容を掲示したり、2本の直線を示したヒントカードなどを用意。平行四辺形の角度や辺といった定義を意識させながら、自力解決につなげていくための学習プロセスの工夫や支援などを行った。
 一方「共に学ぶ」ための学習では、互いの考えを認め、安心して発表、質問ができる学習環境を確保することで子どもたちの発表意欲が高まるよう工夫。さらに、順序よく説明できるような話型(例「〜です」「〜だと思います」「どうですか?」)の活用や、“いつでもはかせ”というキーワードから「いつでも(一般化)、『は』っきり(明瞭)、『か』んたん(簡潔)、『せ』いかく(正確)」という良い考え方の視点を確認させる支援も展開。
 仲間との比較、検討、関係づけなどから、コミュニケーション力の向上を図り、新たな発想の研鑽にもつなげている。
■多様な計算式を比較・検証し問題解決
 公開授業の4年1組では、岡庭智憲、戸森樹里の両教諭の指導で、買い物劇で課題を示し、言葉や乗除混合、カッコを駆使して自分なりの式を発表、検討し合う単元「計算のやくそくを調べよう」が行われた。
 冒頭、両教諭の買い物劇に興味津々な子どもたち。1袋につまったあめは5つ。このあめを4袋買って800円を払ったが、あめ1つの値段はいくらになるかを考えるのが本時の課題だ。
 一通り、買い物劇の内容を確認する中で岡庭教諭は「言葉での式」「割り算、かけ算」「カッコを使う」といった条件を提示し、子どもたちは、これまでのノートを確認したり、仲間との相談から、それぞれの考えをまとめていった。
 両教諭のアドバイスによって、児童は様々な計算式を書き上げた。最後はたくさんのアイデアから4つの方法を選び、黒板上でその考え方を語らせた。
 1つ目はあめを実際に図に示して考え「800÷4=200から、200÷5=40円」という答えを出したもの。2つ目は「800÷4÷5=40円」という1つの割り算にしたもの。3つ目は「800÷(5×4)=40円」というカッコを使った式。最後は「800÷(5×4)=40円」というカッコ式とともに、それぞれの数に“代金”など該当する言葉を示して考えたアイデアだ。
 発表では、それぞれの考え方を聞きながら、説明発表者の「どうですか?」の問いに「合ってます」などと返答。自分の式との比較・検証や、劇や図などの具体物から計算の概念を分かりやすく理解し、互いのコミュニケーション力も高めていた。
 検討の中では、「800÷(5×4)」の式に対し「かけ算と割り算がまざった計算なら、カッコは必要ないんじゃない?」という質問も出され、改めてカッコを外して問題を解き直したところ、答えが40にならなかったことから、再度問題を追究するきっかけなども生まれていた。



[11月24日]

問題解決力を育てる生活科・理科授業

 自ら考え、主体的に学習する子どもをはぐくむための生活科・理科の授業研究に取り組んできた東京・武蔵野市立第二小学校(守屋るり子校長)は11月7日、研究成果を発表した。研究では、体験による自然事象への興味・関心の喚起や問題解決的学習の方法を工夫。ふれる・つかむ・調べる・深める・まとめるのプロセスで、課題や仮説をそれぞれの子どもが見いだしながら、確かな知識・技能による問題解決力を育てようとした。6年生では、カエルの観察とその気づきから話し合いを進め、人と動物の体の仕組みや働きについて理解を深める授業が公開された。
 
■2つの力が相乗的に育つよう授業展開
 同校は「自ら考え、主体的に学習する子どもの育成」を主題に、昨年度から生活科、理科の授業改善に取り組んできた。知識基盤社会の到来や新指導要領も視野に、「問題を発見し、解決する力を高める指導の工夫」を副題に掲げ、問題発見とその解決の力を磨く学習のあり方について様々な角度で検証を進めた。
 その中で、“問題発見力”を「自然の事物や現象に興味を持ってかかわり、そこでの気づきや疑問に対して自ら思考・判断し、自己の問題に引き上げる力」とし、“解決する力”を「観察・実験から得られた結果を分析・考察(自ら思考・判断)して結論を導き出す力」とした。
 学年分科会ごとに「自分の疑問や発見を大切にし、興味・関心をもって問題解決に取り組む子(中学年)」などの主題を掲げ、問題発見と解決する力が相乗的に育つよう、(1)ふれる(2)つかむ(3)調べる(4)深める(5)まとめる――というプロセスによる授業展開に取り組んだ。
 各段階の具体的な指導例としては、3年生で、アリとモンシロチョウの体のつくりを比較して共通点を見つけさせたり(ふれる段階)、昆虫を観察する際に「足のつき方」「体の分かれ方」などの調べる視点を示す(つかむ段階)といった学習を実施。さらに、少人数グループの話し合い活動を取り入れ、昆虫の体のつくりについて、互いの考えを学び合わせ(深める段階)たり、話型(例=〜だと思います。なぜなら〜だからです)を用いて理由とともに自分の考えを説明し、文章にまとめる(まとめる段階)流れを工夫したことなどを発表した。
■カエルの解剖を前に人体との相違・共通を探る
 6年生理科の公開授業では、ウシガエルの解剖と、その体の器官や特徴を観察し、人体の仕組みとの違いなどを議論する単元「人の体のつくりとはたらき」の授業が行われた。
 この単元では、観察や実験を通して、人や動物の体のつくりや働きへの理解を深めるのが目標。
 6年1組では、「カエルの体の特徴を観察し、体のつくりについて考えよう」が課題。今時は、「深める」段階として、解剖を控えて子どもたちがウシガエルに触れながら体内の各器官を観察する活動に取り組んだ。
 冒頭、指導した田中洋子教諭が、代表の子どもたちにケース内のカエルに触らせて感想を語らせながら、数人グループでの観察、意見交換を進めた。
 カエルのお腹に触れながら、「ぷにょぷにょしている」などと歓声をあげる子どもたち。そんな様子を見ながら同教諭は、次いでカエルの体と人を比べ、「同じ所」と「違う所」に着目するよう指示した。
 子どもたちは、「鼻があって穴は2つ(同じ所)」「水かきがある(違う所)」などの意見を出しながら、その働きと体の仕組みについて観察を深めていった。
 その後、同教諭は黒板上にパネルを提示。鼻・口→気管→肺(呼吸)などの働きから、前時に学んだ「呼吸」「消化」「血液循環」の仕組みを改めて確認した。
 これらのパネルも参考に、その後、子どもたちは、人体との比較も交え、カエルの内臓器官の働きや仕組みをイラストで予想。解剖実験を控えて「確かめたい」ことなどをワークシートにまとめた。
 検討時には、前時にまとめたノートを振り返ったり、仲間との意見交換にも刺激を受け、確かめたいこととして「呼吸の方法」を挙げたり、「生きるために必要な機能は人もカエルも一緒だと思う。そのため、内臓の仕組みはほぼ一緒」などの予想を発表。科学的な視点を持って予想や課題を見いだす力を磨いていった。
 なお、同校にはビオトープがあり、自然体験の場として活用している。各学年の授業に位置づけ、子ども委員会による整備や情報発信なども行われている。



[11月20日]

保健室登校生徒にITCで学習支援

 不登校から保健室・別室登校に至るまでのカベは高いが、そこから学級に復帰するまでには、さらなるハードルがある。不登校中の学業の遅れが目立ってしまう姿をクラスの中でさらすのには、大きな抵抗感があり、それを乗り越えることが大きな課題となっている。
 
 そこで、神奈川県相模原市立総合学習センターは平成18・19年度に、「保健室・別室登校児童生徒に対する学習支援の在り方―ICT利用の有効性を探る」をテーマに研究に取り組み、このほど、その成果を同センターの「研究集録」213集にまとめた。
 それによれば、エデュテインメントソフトによるパソコンでの学習導入は有効で、学習用ソフトによる反復練習を経るとプリント教材を好む傾向がある、などがわかった。
 同市内の小・中学校には800人を超える不登校児童・生徒がいる。不登校経験者によると、不登校になったきっかけは「友だち関係をめぐる問題」が45%でトップだったが、次いで多かったのは「学業の不振」で、約28%を占めていた。そうした子どもたちへの学習支援をどのように行うかは、各校にとって共通の課題となっている。
 この課題に対して積極的にICTを活用し、その効果を検証しようとしたのがこの研究だ。
 研究集録には、主な支援者として、(1)学級担任(2)養護教諭(3)生徒指導主任(4)教務主任を挙げ、それぞれについて、保健室・別室登校の児童・生徒の状況や学習支援の手だて、変容などをまとめている。
 2カ年の研究のうち、1年目でわかったICT活用の利点や状況は、(1)エデュテインメントは学習の導入としてはハードルが低く入りやすい(2)自由なインターネット検索は思ったほど盛り上がらない(3)学習用ソフトに取り組むまでには時間がかかる(4)個別学習に適した学習用ソフトが見つけにくい(5)学習はドリル・教科書を使用したものの方が有効である――などだった。
 これらの知見を踏まえて2年目の研究が進められ、市販やフリーウエアの学習ソフトなどが活用された。そこからは、(1)学習者は音や映像にひかれて興味を持つ(2)答えが違ったときには支援機能が付いていて、やり方や考え方を順序立てて何回でも教えてくれる(3)何度も反復学習ができ、間違っても周囲の目を気にすることがないので、学習意欲が高まっていく――などがわかった。
 同時に、(1)やっていくうちに機械的な反復操作だけになり、考えなくなりがちになる(2)瞬時に画面が変わるので振り返りができず、学習の達成感が薄くなりがちになり、確実な定着が図れない――などのマイナス面も明らかになった。
 総じて、学習導入や興味を高めるためにICTを活用し、学習者が自信を付けていくと、プリントなどで課題に取り組み、支援者とより直接的に関わりを持とうとする傾向が強くなっていくことがわかった。
 また、別室で取り組んだ工作の作品をデジカメで撮り、クラス内に張り出すことによって、学級への心理的な距離感が縮まるなどの成果も見えてきた。携帯電話やEメールも、コミュニケーション・ツールとして有効だったという。
 支援者側でも、こうした児童・生徒の変容をデジタル・ポートフォリオにまとめ、関係者間で共通理解を図るなど、ICT活用の成果が現れたという。
さらに、課題を付け加えると、学習塾との関連である。今のところ、きちんとした整理ができていない。今後の大きな課題になろう。同省は、来年度の子ども教室の設置個所として、今年度と同じ1万5000カ所を予算要求しているが、同教室が教育全体によい影響を及ぼすことになるかどうかを見守っていきたい。



[11月13日]

表現・討論などを通して探究

 子どもたちの「たくましい自己の確立」に向け、表現、討論、体験を通した各教科実践のあり方を追究する公開研究会が10月25日、東京・三鷹市にある明星学園小学校(一瀬清校長)で行われた。研究会では、各授業(国語、総合的な学習、体育など)の公開のほか、3つの研究対象教科(美術、算数、社会)の実践発表と分科会を実施。6年生の社会科では「未来をひらく歴史教育を目指して」として、明治維新以降の近現代史をたどりながら、日本が戦争に突入した原因を探究。今時は子どもたちが様々な資料や立場をもとに、「満蒙開拓」について考え、意見を発表し合う授業を進めた。
 
■どんな力を子どもたちにつけさせたいのか
 同校では06年度以降、「今、子どもたちにつけさせたい力」という問題意識をもとに研究を推進。共通課題として、(1)自然から学ぶ(2)自ら考える力を伸ばす(3)表現力を伸ばす(4)コミュニケーション能力を伸ばす――という4つの育てたい力を掲げ、あらゆる教育活動の改善・充実に取り組んできた。
 また、毎年、年間の研究対象を3教科に絞り、全教師がそれぞれの授業研鑽を深める分科会も実施。
 今回は、算数、社会、美術をテーマに、公開授業とその後の分科会協議で、表現、討論、体験を通した実践のあり方について議論し合った。
■写真などで検証し話し合い理解を深める
 社会では、「未来をひらく歴史教育を目指して」を主題に、6年生の「単元・明治維新からアジア太平洋戦争まで」と、5年生の「単元・日本古代国家誕生」の2つの授業が公開された。
 6年1組で行われた「単元・明治維新からアジア太平洋戦争まで」では、明治維新以降の近現代史をたどりながら、日本が戦争に突入した理由を様々な観点や意見交換から考える授業を進め、今時は「満蒙開拓」について、子どもたちが資料の検証と話し合いを行った。
 冒頭で川松泰美教諭は満蒙開拓の様子を示す写真6枚を黒板に提示し、子どもたちに気づいた点を発表させた。
 「農具を持って畑仕事をしている」「若い人がたくさんいる」など子どもたちの声が飛び交う中で同教諭は、国が国民に満蒙開拓参加を呼びかけたいくつかのポスターとチラシも掲げながら、そこに書かれている標語に着目させた。
 あるポスターには「新農村の建設へ 鍬の戦士よ起て」という言葉がおどり、ほかにも「五族協和」「王道楽土」の理想や「十町歩(約10万平方メートル)の地主になれる」など魅力的な言葉が一杯。
 その一方で、中国人の襲撃を恐れ、開拓民の女性までもが銃を手にしている写真を示したり、当時の証言資料などから、元々住んでいた中国人が無理やり家や土地を買い取られ、匪族として差別されたことなどについても説明した。
 子どもたちは、これらの写真や資料に基づいて、個人、さらにはグループで意見を交換。「戦争とはいえないかもしれないけど、土地を守る戦いに参加させられている」などの考えを述べ、国が掲げた理想と現実を熟考する中で、満蒙開拓の意味を多角的に捉えていった。
 このほかにも、大根をかじる少年の写真や、娘の身売り相談を掲げたポスターなどから、当時の日本国内が大変な不況にあったことも示唆し、「日本にいても飢えてしまうから、行くしかない」「五族協和などの理想の下、だまして働かせている」「日本の政府に裏切られた思い」など、歴史の多様な側面を示す中で、それぞれの子どもに、深い歴史観をはぐくむ力を磨かせていた。
 「美術」では(1)魅力ある動機付け(2)明確な目標と達成の見込み(3)一人ひとりが工夫・発展できる題材・授業――を課題に子どもが主体的に取り組める美術を追究。3年生の提案授業では、大小、重なりの遠近法を駆使しながら、紙版画で「生き物のいる風景」を創作する実践が披露された。



[11月10日]

学習特性に合う指導を組み合わせる

 「学びの質を問う」を掲げ、「知識・技能」「能力」「態度」の3要素の学力をバランスよくはぐくむ授業を追究してきた横浜国立大学教育人間科学部附属鎌倉中学校(種田保穂校長)は、10月11日、同校内の公開授業研究会で、その考え方や成果を発表した。研究では、各要素の学習特性に合う指導を組み合わせることや、知識・技能を活用することで課題解決や達成感が実感できる授業づくり、評価の工夫などを進めたことを紹介。公開授業のうち、2年生の国語古典では、「徒然草」の吉田兼好の言葉に着目しながら、その意図を仲間との議論を通じて考察、深め合う学習が展開された。
 
■「習得・活用・探究」をサイクルで
 「知識・技能」「能力」「態度」の3つの学力をバランスよく育てることを目指した同研究。さらに、「学びから生じた生徒の思いや考えに着目し、これを広げ、深める学習を展開する」ことを研究仮説として大事にしながら、各学力の育成に見合う指導の組み立てや、習得と活用の往復運動による授業づくりなどを追究してきた。
 具体的には「話す・聞く」「書く」「読む」を組み合わせた言語活動や、「個→集団→個」の流れによる集団(コミュニケーション)活動などを織り交ぜ、各授業の中で、育てたい学力要素を明確に位置づけながら、「習得、活用、探究」のサイクルによる学習を進めていくというもの。
 知的好奇心、意欲をくすぐる導入(関心・意欲・態度)に始まり、予備知識の指導(知識・技能)や応用問題の考察(思考・判断・表現)を経て、最後にこれまでの学習を振り返ることで、再び新たな学習への関心・意欲・態度を引き出すといった展開をイメージして授業づくりに取り組んだ。
 そのうち、国語の例では、「健康情報に踊らされない目を」をテーマにした新聞づくりの学習が発表された。
 食の専門家への取材や、インタビュー記録とインターネット・資料記録の比較などを通して、「情報の読み取り」「情報の考察、評価」「記事による情報発信」について考え、生きて働く言葉の力や、目的に応じた情報収集力、収集した情報をもとに思考、表現する力などを磨いた。
 さらにこの学習では、生徒たちにルーブリックを作成させた点も特長。自ら目標を設定し、振り返りを行うことで、学習への見通しを持ちながら、意欲・関心などを高めることにつなげたことなどを成果に挙げた。
 そのほかにも、3要素の学力を見取る評価の工夫についても指摘。
 理科の「圧力」に関する学習では、知識学習後に「卵が割れない理由を、圧力の知識を使って説明しなさい」などと問い、活用能力を記述の変化から読み取るといった工夫が語られた。
■情報を吟味し読み解く取り組みを重視
 公開授業は、各学年、全教科で実施。2年4組の国語では、丸山修一教諭による古典「徒然草」の実践が行われた。
 授業は、徒然草の「友とするわろきもの(117段)」が題材。古典を味わいながら、仲間との話し合いなどを経て、様々な根拠をもとにした思考力をはぐくむことがねらい。
 まず、丸山教諭は、文中の「友人にするのに向かない7つのタイプ」(威勢がよく強がっている武士、何にでも欲張る人――など)と、「最高の友の3つのタイプ」(何でも物をくれる人、医者、頭のいい人)という意見を掲示。
 次いで「兼好が『よき友』として挙げる『何でも物をくれる人、医者、頭のいい人』はそのまま読み取ってよいか」という問いを出し、それぞれの生徒が文章を読み解きながら、その意図を考え、吟味していくように促した。
 生徒からは、威勢がよく強がっている武士など、友人に向かないタイプの記述から、「兼好は職業より人格を尊重している」などと主張。さらに、よき友として「医者」を挙げているのは、「職業の中でも人格や内面が重要になるからだと思う。そんな点には共感する」など、当時の世相などを思い描きながら意見をまとめ、発表し合った。



[11月6日]

話し方や関わり方を学ぶ学級経営

 演劇表現による生き生きとした学級づくりなど、全国の特色ある実践から今後の学級運営を模索する第35回全国学級経営研究大会が10月24日、埼玉県熊谷市の市立熊谷西小学校で開催された。各分科会では、「学習」「生活」などのカテゴリーごとに、それぞれの実践を公表。同校の公開授業では、ロールプレイなどを交えながら、自他を尊重する会話や関わり方を考える特別活動などが行われた。
 
■演劇を取り入れ豊かな人間関係づくり
 同大会では、「生きる力をはぐくむ学級経営」を掲げて協議を進めた。その目標に向け、分科会では、全国の小・中学校教員が力を注いだ実践を「学習」「生活」「環境」「連携」のテーマごとに示し、参観者との意見交換を重ねた。
 そのうち、「学習分科会」では、生き生きした学級づくりのために演劇表現を取り入れた活動などを、兵庫県神戸市立塩屋小学校の前田忍教諭が発表した。
 「ステップアップ」をキーワードに、子どもたちが成長を実感できるような展開を工夫し、学期ごとの目標や集大成の活動をきめ細かに位置づけたのが特長。
 さらに、演劇表現を通じて、自己表現の楽しさや仲間との豊かな人間関係づくりを図り、「ストップモーションでの表現」や「プロットをもとにした劇表現」など、表現技術を段階的に磨くステップも設けた。
 各学年の事例のうち、6年生では、各学期で演劇表現を取り入れた活動を実施。自己肯定感や仲間との協働の喜びをはぐくみながら、「卒業フェスティバル」の発表に向けて、目標を共有した集団づくりを進めたことなどを挙げた。
■問題点を吟味しルールをつくっていく
 研究会場となった熊谷西小学校の学級活動も、公開授業を通していくつか紹介された。
 同校の5年3組では、良いクラスづくりに必要な言葉かけを考えていこうと、「自分の立場と相手の立場」をテーマとした学級活動が、貫井清賢教諭の指導で行われた。
 これまで席替えを巡っては、仲間はずれをつくってしまった課題などがあり、これを踏まえ、授業では、子どもたちのコミュニケーション能力を高めながら、円滑な人間関係や集団でのより良い意思決定のあり方をはぐくむことが目標とされた。
 そのために貫井教諭は、まず、いままでのクラスを振り返り、子どもたちに、楽しかったことといやだったことの両面を思い起こさせ、その上で「友だち同士のより良い言葉のやりとりについて考えてみよう」と、話し合いのテーマを投げかけた。
 また、話し合いの題材は、給食時のある出来事を3人の子どもたちが簡易劇で表現。給食を盛ったお盆を運ぶ子の傍らで、2人のクラスメイトが帽子の取り合いをしていたところ、そのお盆を引っ掛けてしまった際の2通りの対応から、良い言葉かけのあり方を議論した。
 その1つは、ぶつかった子に対して、「ばか! なにやってんだよ、お前がふけよな」というもの。この言葉について子どもたちは、「『ばか』はだめだし、言葉遣いが悪い」などの意見を出した。
 もう1つは、お盆を持った子が「あっ熱い。いいよ、私がふいておくよ」と対応するもの。これには、「悪いことをしているのに、すべてゆるしてしまっている」「自分の思いを言っていない」などの意見が出た。
 それぞれの対応に問題点があることがわかり、2通りのやりとりを踏まえてグループ討議で再吟味すると、子どもたちからは、「給食の時間はぼうしで遊ばないでね。ほかの人がけがをしたらどうするの」などの新たな意見が発表され、良い話し方についての考えを深め合った。
 そんなやりとりを見つめながら、貫井教諭は、「自分の考えとともに相手の気持ちを考えて話そう」と示唆し、もっと良い学級をつくるために話し合いのルールをつくろうと呼びかけると、子どもたちからは、「相手の気持ちを考え自分勝手な話し方をしない」などといった思いやりのある提案が交わされていった。



[11月3日]

教師の「相違」ある実践に学ぶ校内研究

 「相違・創意・総意」をキーワードとした校内授業研究によって、教師一人ひとりの個性を尊重した教育課程が創り出され、子どもたちの主体的な学びが生み出されている――。これは、新潟県上越市立高志小学校(小松隆校長、児童数552人)の研究実績が認められ、このほど博報児童教育振興会主催の第39回博報賞の教育活性化部門(団体)で、文部科学大臣賞を受賞した際の審査員の評価だ。
 
 同校では、従来の仮説検証型の研究手法をやめ、教師一人ひとりの「相違」ある実践に学び合うという研究手法で教育課程を開発。めあては、「喜んで登校し、生き生きと学ぶ子ども」という教育目標のみを掲げ、全教師が実践に取り組んでいるという。
 また、その実践をもとに、2週間に1回程度、具現した「喜んで登校し、生き生きと学ぶ子ども」の姿をA4判1枚程度のレポートに書く。それを印刷して配布し、互いに読み合い、ワークショップを開く。
 レポートと同様にテーマはなく、自分が語りたいと思うことを語るというスタンスをとっている。他者を否定・批判しないこと、結論を出して共通理解を図るのではなく、自分に必要な情報を得るための話し合いであることが原則だ。レポートは現在までに実に5000本にも及んでおり、自由に活用できるように整理・保存されている。
 同校では、「相違ある実践には、創意工夫が伴う。また、相違ある実践だからこそ、他の実践に学ぶことも多い。実践しながらよいことは推し進め、うまくいかない場合は、すぐに改める。その結果、よい実践、優れた実践、効果のあがった実践などが自然とはやり、そうでないことは新たな方法での実践が求められる」という考え方をしている。
 つまり、「実践→レポート→ワークショップ→実践」という繰り返しの中で、「相違」からスタートした教師一人ひとりの教育課程は、創意工夫を加えることで「創意教育課程」となり、さらに、全教師の総意を得るものは「総意教育課程」という形で進化させていくという図式だ。この繰り返しが子どもの変容・成長と教師の研修・力量形成を伴った教育課程の評価法となっているというわけだ。
 その教育課程の中核は、生活科と総合的な学習の時間である。「自立への基礎を養う生活科、自己の生き方を考える総合での学びは、自己を向上させようとする自己形成のプロセスそのものである。それが学校生活の基盤となり、子どもにとっては、毎日の活動に期待感が高まり、喜んで登校する要因になっている」としている。
 教育の志の高い確固たる理念の下での継続的な実践研究は、日本が誇る授業研究のモデルとして高く評価することができる――とは、審査員の評価である。
 高志小学校では、11月27日午後1時20分から研究会「トークin高志」を開く。全学級による授業公開、教職員によるワークショップの公開などを予定している。

 


[10月30日]

「13-9」計算の仕方いろいろあるね

 「13-9」の計算に、様々な仕方を工夫して子どもたちが挑戦――。10月17日、東京・大田区立西六郷小学校(嶋田英樹校長)では、昨年度から取り組んできた「学びあう楽しさを味わおう」を主題にした各学年の授業研究会を開催。「考える」「表現する」「かかわりあう」力の育成も視野に、各教科で創意あふれる授業アイデアを披露した。そのうち、1年2組では、引き算の様々な計算方法を仲間たちとともに考える授業をTTで実施。子どもたちは、数を分けて考えたり、文章による式を導き出したりと、自分の考えを発表しながら、減加法、減々法の計算法への理解と関わり合う学びの力を磨いていた。
 
■自分の考えを持ち、思いを伝えられるように
 同校(嶋田英樹校長)が、保護者アンケートの結果などをもとに研究をスタートさせたのは昨年度から。子どもたちの間で自分の考えを明確に持てないでいることや、思いを伝える力が不足しているとの課題が浮かび上がる中で、「考える力」「表現する力」「かかわりあう力」の総合的な育成が掲げられるようになった。
 その際、近隣幼稚園との連携も視野に、各能力の育成を目指す部会を立ち上げ、相互の関連づけを意識した研究を推進。部会ごとに発達段階を踏まえ、「自分になかった考えのよさに気づく」(3・4年時、「考える部会」)などとした「育てたい子ども像」を掲げ、目標に迫る授業づくりへの努力を進めた。
 また、各能力育成に向けた「教材の工夫や場の設定」「めあてと振り返り」「あたたかい言葉かけ」の工夫にも力を入れた。
 「表現する部会」の5年生国語の授業では、小学校入学を控えた幼・保育園児と児童の交流学習を設定した。5人前後の小グループによって、話し合いと活躍の場を確保(教材・場の設定)したり、言葉かけが園児の立場に立った内容かを確認させる支援などを行うことで、子どもたちが思考を整理し、自身の学びの足跡を確認できるようにしている。
■「ひくたすだいさくせん」や「ひくひくだいさくせん」
 そんな研究背景のもと、「考える」「表現する」「かかわりあう」視点を見据えた各実践が公開された。楽節を聞き取り、その表現特徴を仲間で発表しあう3年生の音楽の授業や、西六郷幼稚園児と交流しながら絵本の読み聞かせをする5年生の国語などが行われた。
 そのうち、1年2組の「表現する部会」では、「13-9」の式をもとに、子どもたちがそれぞれの計算方法を考え、それを発表しあう算数学習が実施された。
 授業では、具体物などを使った操作活動を交え、11から18までの2位数から1位数を引く、繰り下がりのある減法計算の仕方を理解させることなどが目標。TTによる指導体制によって、きめ細かな見取りにも注意を払った。
 指導したのは、森谷憲光、新井理以子の両教諭。「どんぐりが13こあります。9こつかいました。どんぐりはなんこのこっていますか」と問いかけながら、「13-9」の計算式を導かせ、その上で、計算式から、子どもたちなりの計算方法を考えさせた。
 式を、配られたホワイトボード上に記入させ、まずは1人で、次いで、グループでよい方法を検証し合わせた。
 子どもたちは、数式が示す数のブロックを実際に書き込んだり、友だちと互いの計算法を比較したりしながら、自分なりの計算方法を見いだそうと奮闘。
 苦労して生まれたアイデアが黒板に示される中である児童は「13-9」のうち「13」を「10」と「3」に分割し、その上で「10-9=1」と計算してから残った数を「1+3=4」と足し算して答えを導く方法を提案。またある児童は「13」を「10」と「3」に、9を「6」と「3」に分割。それぞれの「3」を引き「0」としたあとで、残った「10」から「6」を引いて「4」とする計算などを発表した。
 そんな計算を見て森谷教諭は、「これは足し算と引き算を使うから『ひくたすだいさくせん』、これは、引き算と引き算を使うから『ひくひくだいさくせん』と名づけましょう」などと言って場を盛り上げ、子どもたちの発案を整理し直しながら、減加法や減々法による3つの計算への理解を深めさせた。
 締め括りでは、ワークシート問題によって、覚えた計算方法を確かに定着させる工夫も盛り込んでいた。
 



[10月23日]

先行実施にどう対応するか

 若手教師としては、来年度に始まる移行措置は、初めての経験だ。中でも算数・数学、理科は、授業時数を増加し、教材を整備して新課程の内容を先行実施することになっている。経験の少ない若手教師にとっては、特に大きな不安要素かもしれない。そこで、算数教育に焦点をあて、東京学芸大学の藤井斉亮教授(附属竹早小学校長)に、若手教師が移行措置の準備に臨む際に考えたいポイントについて聞いた。
 
■子どもの潜在能力を信じる
 新しい学習指導要領における算数は、内容の学年間の移動が多く、それも、垂直、平行が5年生から4年生に、時間が3年生から2年生になったように、すべて現行より低い学年での指導となったことが大きなポイントである。授業時数も増加されることになった。
 このことについて藤井教授は、若手教師の経験則のなさを心配する。
 「内容が下の学年に下りてきたので、若手教師はこの内容がこの学年で理解できるのか、この学年ならこのように教えていけばわかるようになるということを経験していないから、いまの段階ではわからない。下の学年に下ろして教えることには抵抗感があって、大変不安なのではないでしょうか」
 若手教師の対策としては「子どもの潜在能力を信じることです」と強調する。「内容が削減された10年度版学習指導要領に基づいた指導しか経験していない若手教師が不安になるのは、仕方がありませんが、日本の子どもの学力は結構高いのです。その潜在能力を信じて前向きに指導する」というのが、移行措置に対する基本姿勢であるという。
■教材の系統性学ぶチャンス
 算数の内容については、現行の学習指導要領の前、平成元年度版学習指導要領にほぼ戻ったといわれている。その元年度版の算数の学習指導要領は、従来より「とても完成度が高い」との評価を得ている。
 「元年度版は、教材の系統性、配列がしっかりしています。その内容にほぼ戻るわけですから、今回の移行措置、改訂は、この教材をなぜこの学年で学ぶのか、ということを理解する絶好のチャンスです」
 例えば、分数は現行では4年生から学ぶことになっているが、今回は2年生で分数を見せて、3年生で簡単な加法・減法、4年で同分母の加法・減法などと自然な流れになっており、前後の学年とのつながりもよくわかるようになっているのだ。
■解釈と説明の指導で
 「算数的活動」が規定されたのも、今回の大きなポイントだ。その典型的な活動は、運動会で行う「玉入れ」だという。円の中心にカゴがあって、その周りを子どもたちが中心から等距離で円になって囲む。
 「同じ円周上に並べば公平になります。円の性質がゲームのルールの適切性に結びつきます。円の概念がゲームと活動からわかっていくわけです。このような活動や課題をできるだけ多く設定できるといいでしょう」
 この算数的活動を学ぶ際は、中学校数学の解説書に示された説明のほうが具体的にわかりやすいのではないか、ともいう。
 また、算数の中心的な課題である数学的な考え方の育成に関連して表現力の育成も、今回の目標に明示された。
 「もともと思考力と表現力はセットで、不可分のものであると考えます。考えたことを表現する、それを吟味して思考を深める、というのはオーソドックスな流れでしょう」
 数、式、表、図、グラフなどについて、相互の関連を理解するとともに、それらを用いて考えを説明することが求められているが、実践としては「式や表を作成した子どもに説明をさせているケースが多いのですが、別の子どもに解釈をさせて説明をさせる、それを本人に確認させる、という展開のほうが適切です」とアドバイスする。
■意欲を育てる工夫こそ
 実は、同教授が一番憂いているのは、算数に限らず、子どもたちの意欲の低下であるという。
 「基礎学力の低下も、根底には、この意欲低下の問題があります。算数ができるようになるということを超えて、子どもたちが夢中になるようなものを与えてほしいですね。夢中になると意欲が出て、思考力や表現力が育成されますから」
 ぜひ、若手教師には、工夫を凝らしてこのような取り組みを実践してもらいたい。



[10月20日]

新任教員は改めて板書や発問の仕方を学ぼう

 新任の年も半年以上が過ぎた。授業にもようやく慣れてきて、自分なりの工夫などができるようになってきたころではないだろうか。ここで、学習指導案、板書、発問、教材研究など、改めて授業に関する基礎・基本を見てみよう。
 
■学習指導案の作成―的確な授業展開を予測
 作成の手順及びポイントを見てみよう。
 ▽題材を決める=まず、年間指導計画や教科書、学習指導要領を参考にして題材を決める。学年の横のつながりや学年間の縦のつながりも考える。
 ▽児童生徒の実態をつかむ=既習内容、前提となる知識の把握に努める。調査などを行ってもよい。
 ▽教材研究を進める=素材の特性や系統性を明らかにする。
 ▽目標を決める=学習指導要領をもとにして、児童生徒の実態を考慮して決めるようにする。単元の目標は観点別に、本時の目標は授業の終わりに示す行動目標として提示する。
 ▽指導の流れを考える=どのような内容を、どのような流れで指導するか、展開を考える。児童生徒の反応を予想するなどして、複数の流れを考えておくこと。思考、活動、話し合いなどの時間を十分に取ることに留意する。
 ▽発問や資料などを準備する=いつ、どこで、どのような発問をするか、どのような資料を提示するか、児童生徒の反応を予測して、それへの対応を考える。一斉、小集団など学習形態も考慮する。
 学習指導案の代表的な項目は次の通り。
 (1)単元名=題材、主題
 (2)単元について=単元の価値、教師の単元観、児童生徒の実態、指導上の留意事項などを記入
 (3)目標=観点別などで記入
 (4)指導計画=時間配分、本時の位置、評価計画など
 (5)本時の指導=本時の目標、本時の展開など
■板書―計画を立てることが授業力に
 板書計画を立てることが大切。その時間の展開の計画であるからだ。発問や投げかけをどのように行って、それに対して児童生徒がどのような反応を見せるのか、これを予測しないと計画を立てることができない。的確な板書計画を構想することが、授業力を鍛えることになる。
黒板の隅から隅までに書き終わらせるのが理想的な板書量である。教科の特性や授業内容、文字の大きさによって違うが、小学校では1回、中学校では2回書き終える分量が最大限度ではないだろうか。中学校では、板書せずに行う教師の説明をノートに書く習慣も付けたい。
 初歩的な板書の方法は次の通り。
 ▽児童生徒とともに確認した学習のめあてを書く(前時間などで共有されているのであれば、紙に書いたものを張ってもよい)。
 ▽発問や指示の内容に従って、児童生徒の発言を短い言葉でまとめて記していく。すべての発言を書くのではなく、類似のものはまとめていく。
 ▽補助発問を加えながら発言や意見を分類し、タイトルをつけるなどしてカテゴライズする。何が同じで、何が違うのかを、瞬時にとらえられるようにしよう。
 板書は、授業展開に沿って児童生徒の発言を構造化し、フィードバックする。1時間の児童生徒の思考の流れがわかるようにしたい。細かい点では文字の大きさ、色チョークの使い方、漢字の書き順などにも注意。また、教室の前後左右あらゆる場所から黒板を見て、児童生徒にどのように見えるのかにも留意したい。
■発問―数通りのやり方を準備
 教師の一方的な授業になることを避けるためにも、発問の工夫は必要だ。授業の成否は、実は発問次第といってもよい。
 しかし、教師の発問に対して、こちらが期待する回答や意見が返ってくるとは限らない。発問の仕方がまずいばかりに、予期せぬ反応が返ってきて、どう対処したらよいかわからず立ち往生してしまった、という経験もあることだろう。
 実際、児童生徒がどのように反応するかを予測するのは、ベテラン教師でも結構難しい。
 発問で重要なことは、児童生徒の発言をどのように取り上げていくかという対処法でもある。
 発問のむずかしさの1つは、年齢が上がるにつれて発言を控えはじめる、ということである。
 それまでは積極的に挙手して発言していたのに、周囲の目を気にしてか、発言しなくなることがしばしばある。小学校高学年からその傾向が出はじめ、中学生で顕著になる。
 そこで、発問だけでなく、指名の仕方も考えなくてはならない。「全員一斉に発問し、これに即して指名」「機械的に順番など1人ずつ発問する指名」「個々の児童生徒の能力に応じた発問を1人ずつに与える指名」などである。
 また、発問の留意点は次の通り。
 ▽1つの課題や問題について、数通りの発問の仕方を考えておく。
 ▽児童生徒一人ひとりの個性に即した発問を工夫する。
 ▽できるかぎり、児童生徒の言葉や概念を用いて発問する。
 ▽児童生徒の発言を的確につかみ、絶対に宙に浮かせてはならない。



[10月16日]

寺子屋での勉強が社会を元気にしたんだ!

 「『みんな意識』を育む授業の創造」をテーマに、3年間にわたる生活科、社会科の実践を続けてきた千葉県習志野市立谷津小学校(豊島英夫校長)の成果が10月8日、同校の第29回公開研究会で示された。6年生の社会科では、地域題材を絡め、「湧き上がる庶民の力」の単元として「1750年ごろから、なぜ寺子屋が増えたのか」という課題を、ゲストティーチャーの助言を生かしながら追究する授業などが行われた。学年ごとに社会参画を意識した展開を工夫し、様々な人たちの力に支えられて社会が活力に満ち、元気になっていくことを子どもたちに実感させながら、関わりを通して自分の良さに気づき、成長を促す内容が展開された。
 
■社会と自分の関係を意識化
 同校の研究は、社会理解と参画を通じて、子どもたちが自己成長していく力を支援しようというもの。
 研究に当たっては、まず、子どもたちが自分と社会との関わりをどう捉えているかを把握しようと、アンケートを実施。その結果、自分と社会を結ぶ関係性への意識が子どもたちに希薄であることが明らかになり、生活科と社会科における「みんな意識」と「自分意識」の育成が掲げられるようになった。
 「みんな意識」とは、社会を構成する様々な努力を理解するとともに、自身の社会参画の在り方を追究する力とし、同時に、「自分意識」として、身近な人や社会との関わりから、自分の良さを発見し、成長につなげるといった2つの力を、この研究の中で子どもたちの中にはぐくんでいくことを目指した。
■共生と市民的行動力を
 そんな研究背景のもと、生活科では「共生への志向を育む」、社会科では「社会市民的行動力を育む」をサブテーマに掲げ、教科特性に応じた授業設計を検討。
 生活科では、自分意識を基盤に「みんな意識」をはぐくもうと、身近な人や社会との関わりから、自分自身の良さを見いださせ、自信を持たせたり、仲間や社会の良さに気づかせたりする中で、それらへの愛着をはぐくんでいく構成を意識した。
 1年生の単元「秋ってオモロー!」では、学校や地域を巡りながら、季節の変化を感じ取る授業を実施。事前アンケートによって子どもたちの関心に基づく活動を設定し、虫探しや商店街の旬の商品に着目させる中で、一人ひとりの学びの充実感と仲間を認め合う関わりなどを生み出した。
 社会科では、社会認識を基盤に「みんな意識」をはぐくむ授業を設定。6年生では、社会認識の力として、社会の事象を読み取り、驚きや矛盾などから見通しのある問いを持って調べたり、発見した事実を相互に関係づけ、構成的に捉える能力の育成を図ったほか、みんな意識の育成として、社会認識を自分なりに意味づけて捉えたり、多様な立場や意見を尊重して意思決定できることを目標に、授業計画の工夫を凝らした。
■地元に誇りを持つ学びが成立
 そのうち、6年3組では、単元「湧き上がる庶民の力」から、「1750年ごろから、なぜ寺子屋の数が急激に増えたのか」をテーマにした授業を公開。山口学教諭とゲストティーチャーのTTで授業を進め、子どもたちからの質問に、地域題材を絡めた解説を返す形で展開した。
 冒頭、授業テーマに基づいて、子どもたちは、「寺子屋は誰が始めたの」「なにを教えていたの」などたくさんの疑問を投げかけた。
 それに対して、ゲスト・ティーチャーである習志野市立第二中学校の笹川裕教諭は、「寺子屋には『寺』の字が入っているよね。昔はお寺が学校の役割を果たしていたんだよ」などと、丁寧な回答を返していった。
 その後、両教諭は、当時の教科書のコピーなどを見せながら、「注文」「算用帳」などの言葉に着目させた。また、山口教諭は、いくつかのパネルを提示し、子どもたちに、江戸の物流状況と江戸地廻り経済圏と称する習志野市との関係を考えさせるなどして、寺子屋での学習内容が、どんな社会生活などに役立つ知識であったのかを想像させた。
 「寺子屋では子どもの頃から、仕事に役立つ内容を教えていたんだ」との答えが挙がる中で、子どもたちは様々な資料の検討を経て、江戸時代の経済の推移や発展と寺子屋の学びの影響を理解し、特に、江戸の商業の活性化に、地元の習志野が深く影響してきたことに誇りを持ったようだった。
 さらに、両教諭は、近代において世界の国力トップのイギリスの識字率は75%ほどだったが、江戸時代後期の日本は、それと肩を並べるほどの約70%という高さを誇っていたことも示した。
 それら、一連の状況を示す中で、歴史的にも、地域の人々が社会の繁栄に大きく貢献してきた事実を知ってもらいながら、一人ひとりの向学心が社会を向上させる大きな力となることを意識させていた。



[10月9日]

地域協働を支える教育コーディネーター

 文科省による学校支援地域本部事業のスタートなど、地域ぐるみの教育に向けた動きがますます盛んになっている。様々な大人の参画によって、子どもたちの生きる力が育っていることなどが成果として報告される一方、協働への疑問や課題も、まだまだ多いようだ。そこで、8年間にわたり、東京・杉並区立杉並第一小学校で、学校と地域を結ぶ教育コーディネーターを務めてきた伴野博美さんから、改めて協働による授業効果や体制づくりのポイントなどを聞いてみた。
 
■教員への要望も出すようになった
 ――東京・杉並区の学校と地域の協働体制は。
 杉並区では、平成13年から学校と地域を仲立ちする「学校教育コーディネーター」を創設し、学校教育を地域の人が支える協働を進めてきました。さらに、区が「教育立区」を掲げる中で、ここ数年間で地域ぐるみの教育をよりいっそう推進するための体制を整えています。
 具体的には、各小・中学校に対して、地域関係者による合議組織「地域運営協議会」と、地域ぐるみの教育活動を運営する「学校支援本部」という組織をそれぞれ立ち上げ、これまでの授業支援に加え、放課後活動や朝学習をも含んだ包括的な地域ぐるみの教育を進めています。
 そんな中で、学校教育コーディネーターは、区内の公立小・中学校計27校に配置され、私は、杉並第一小学校を担っています。コーディネーターは、教員の授業構想をもとに、そのサポートや学習にふさわしい人材を地域から募る役割を果たします。
 ――授業をサポートする際のポイントは。
関わった授業は総合的な学習が中心です。当初は、単発の授業で終わったり、地域人材の活用が、車いす体験など特定の形に留まってしまう課題がありました。そのため、スタートから1年ほどで、コーディネーター側からも教員に要望を出そうと考え、現在、学校側の依頼は基本的に尊重しつつも、地域(エリア)外も視野に入れた人材発掘や、授業づくりへの意見なども提案するようになりました。
 提案では、学習の効果を高めるため、継続性を持った授業構想を立てることや、外部指導者が担当する授業でも、教員が事前指導や振り返りに関わってもらえるよう訴えました。
■子どもたちの変化が何より物を言う
 ――具体的にはどんな授業を。
 「校庭にチョウを呼ぼう」と題した、杉並第一小学校3年生への総合的な学習では、校庭の植物や生態調査を進めながら、チョウを呼べる環境づくりを1年間かけて行いました。理科と環境などの横断的学習を学外人材の協力を得て進め、最後に3年生が2年生に成果報告をするという情報発信の力と、上・下級生の交流をはぐくむことを意図しました。
 また、5年生の総合的な学習では、区内在住の漫画家を迎え、「自分の10年後をマンガにしよう」という授業を実施しました。自分の生き方を考えながら、漫画家の指導により、ストーリー設定からコマ割り、作画などに取り組むもので、中学進学を前に子どもたちの表現能力をはぐくみ、同時に自分の生き方を考えるキャリア教育の要素も盛り込みました。
 地域人材の依頼に関しては、教育という観点を踏まえた指導ができる職業人などを選んでいます。当初はデータ登録による人材バンクも活用しましたが、人材の見極めや授業とのセッティングがうまくいかず、結局、出会いなどを通じて、実際に人柄に接してお願いしています。
 スタート当初、教員の方からの反応は芳しくありませんでした。しかし、共に授業を考え、外部人材を通じた子どもたちの変化に触れる中で、互いに意見し合える状況も生まれてきました。
■大人への信頼観をはぐくむことにも
 ――地域協働の目的や意義、成果は。
 私は協働教育を通じて、子どもたちに様々な物の見方や価値観を持ってほしいと願っています。
 今後、社会がますます多元化していく状況にあって、互いの違いを認めながら共生する力や、活用による新たな価値を創出することが、子どもたちに特に必要になると感じますし、そのための学びとして地域が関わる社会教育は、不可欠と思います。
 そのため、これまでに「ユニバーサル」と題した福祉授業も行いました。子どもたちが複数の課題を考えながら、企業人の力を借りてノーマライゼーションの発想に基づくリモコンの商品企画を考えるという内容で、違いを認識しつつも、それを排除せず、多様な価値を尊重する心を養おうとしました。
 さらに、地域人材を考える上でも、エリア内の住人だけでなく、学校・地域に関わるすべての人と捉え、幅広い人の影響によって子どもたちの多元的思考をはぐくんでいきたいと思っています。
 教員以外の大勢の大人が関わるということは、子どもたちの成績評価以外の側面が照らし出されることにもなり、心の安定と大人への信頼観をはぐくむことにもつながっています。
 また、授業に関わる地域の人も、義務で行うという意識がなく、自らのスキルを発揮、研鑽する生涯学習の場にもなっています。教員の方々にとっても、地域の目や刺激から教材研究により力が入るなど、良い相乗効果が生まれています。
■校長のリーダーシップが大切
 ――協働を進めるにあたってアドバイスを。
 地域協働に対してネガティブな見方や思いが出てきてしまうのは、地域協働がもたらす教育効果へのイメージが乏しいためだと思います。
 準備や交渉などに手間がかかることも確かですが、先生方も様々な人々から刺激やサポートが得られます。授業研究への意欲が高まるといった効果も、注目してほしいところです。学力への影響でも、国と都の学力調査で同校が著しい成績の伸びを示すなど、大きな影響を見せています。
 また、今後、地域の実状に応じた推進策も必要になるでしょう。その際、校長のリーダーシップが大切になると思います。今後の教育のためという信念を持ち、働きかけを学校が軸となって担うことで、様々なしがらみを抱える地域の結束も促せるのではと思います。



[10月6日]

学級づくりを支える教育技術

 エンカウンター、コーチングなどによる、子どもたちとの人間関係づくりや学級運営などに生かせる技術や考え方を伝授する「教師みらいプロジェクトin横浜」が9月27日、横浜市中区のかながわ労働プラザで行われた。テーマは「学級づくりを支える教育技術の不易と流行」。各地の小・中学校教師などが講師となり、「カウンセリング」「クラス会議」「スクールコーチング」「私立学校の実践、教育の不易」の4講座が開かれた。
 

 「教師みらいプロジェクトin横浜」を主催したのは、フューチャー・ドリーム〜子どもサポート研究所。この中で愛知県刈谷市立刈谷南中学校の神谷和宏教諭は「子どものやる気を引き出すスクールコーチング」について話した。コーチングの「傾聴」「承認」に焦点を当てながら、相手の心のブロックを外し、豊かな関係が育つ言葉のやりとりを、ロールプレイなどを交えて参加者らに理解してもらった。
 まず、心理学者のヘルムステッター博士のデータから、約20年間の人生の中で「だめだ」「無理だ」などの否定語が約14万8000回もやりとりされるのに対して、「うれしい」「ありがとう」などの肯定語はその10分の1しか語られていないと話した。
 これらの状況を踏まえ、参加者にペアを組ませ、一方が腕を押さえながら、肯定語と否定語を叫ばせ、その後、その腕を上げる力にどのような変化が起こるかなどを確認する実演などを実施した。
 参加者は、肯定語を叫ぶ方が否定語を叫ぶときよりも腕に力が生じるのを確認し、言葉が持つ力を改めて実感した。
 その後、「最後まで聞く」「相づちなどを打つ」といった心のブロックを外すための話し合いのポイントについても確認し合った。
 最後は、あなたを主語にした「Youメッセージ」(例「あなたの服は素敵ですね」)と、私を主語にした「Iメッセージ」(例「あなたのような服を私も着てみたいです」)を意識し、4人1グループで対話の方法を練習。
 1人をほかの3人がそれぞれのメッセージでほめていき、あるグループでは、「個性的なメガネですね(You)」「私も先生のように年を重ねたいです(I)」などの言葉が飛び交い、相手を承認し、豊かな人間関係をはぐくむ言葉かけについて磨きをかけていた。
 また、仙台市立向山小学校の八巻寛治教諭は、小1プロブレムや中1ギャップなどの課題とその対応に向けた構成的グループエンカウンターを駆使したクラスづくりの手法について解説した。
 エンカウンターとは、「本音と本音で交流できる親密な人間関係」「グループを通して何かを実現すること」であるとし、その上で、グループエンカウンターでは、エクササイズを介してメンバー同士のリレーション(本音の感情交流)を作り出し、さらに、そのリレーションを介して自己発見や他者発見などを促すものであるとした。
 そして、エンカウンターを進めるにあたっては、(1)ワンネス(相手の身になること)(2)ウイネス(相手に役立つことを共に行ったり、考えたりする)(3)アイネス(自分の気持ちや考えを表明する)という段階的な関わりを生み出すことが重要だとし、そのため、リーダーは自らをオープンにする自己開示能力が必要なことなども指摘した。
 そんな視点をもとに、この活動でも参加者がグループでのエクササイズを経験。
 「サイコロ・トーキング」では、メンバーがそれぞれサイコロを振り、出た目のお題について自己紹介。次の「『気になる自分』心のふれあいカード」を用いた活動では、各メンバーの良い点をカード内のキーワードから選び、それぞれに贈り合った。
 参加教員は「自分の短所」として、「結構物事をネガティブに考えてしまう」などを挙げながらも、各メンバーのカードから「話を聞いてくれる」「コツコツとがんばる」などの肯定的な言葉が贈られることで、それぞれ自信を持った様子。
 これらの活動によって、自己・他者理解をはぐくむプロセスを経験するとともに、様々な人と心の絆をはぐくむ手法を体験的に学べたようだ。



[10月2日]

「横浜の時間」でリーダー養成講座

 環境・食・キャリア教育などの今日的な課題を教員が学ぶ「『横浜の時間』リーダー養成講座実地研修」が今夏、横浜市教育委員会事務局教育センターの主催により、市内の博物館などの会場で7回にわたり開催された。この中で、「難民」をテーマとした国際理解の講座が、ワークショップ形式で、横浜市中区のJICA横浜国際センターで実施された。このワークショップでは、課題解決のために行うべきことを優先順位をつけて考える「ダイヤモンドランキング法」が紹介された。この手法は、国際理解教育のほか、各教科や学級活動の中で児童の話と課題に対する理解を深めるためにも活用できるプログラムだ。
 
■リーダー教員を500人養成
 「横浜の時間」とは、総合的な学習の時間を再構築し、道徳・特別活動・教科との関連を重視した同市独自の学習の枠組み。来年度からすべての市立学校で実施される予定だ。
 学習指導要領に示された総合的な学習の時間のねらいに加え、他者や社会と協働・共生する能力の育成を図る。環境・キャリア・食・健康・安全・多文化共生・福祉など、現在の横浜が抱える課題や「横浜」の特色に応じた課題について、地域の人々と関わりながら、体験的・問題解決的な学習活動を実施する。
 その準備として、各学校の推進役となる「リーダー教員」が、平成18年度から22年度までに500人養成される計画だ。
■現実の問題でワークショップ
 リーダー養成講座実地研修の1コマとして実施された国際理解の講座では、JICAの海外移住資料館を見学した後、民間団体のかながわ開発教育センターの木下理仁理事を講師に、国際教育(開発教育)に関して「難民」をテーマにしたワークショップが実施された。
 初めに「戦争に追われて国境に避難する家族を想定した避難用品の選択」が班ごとに実施された。パスポートや薬、食料など必要と思われるものを話し合いで所定のカードの中から選ぶもの。各班の発表の中で、「家族のアルバムは心の支えになるから必要」など、長期にわたる避難生活を想定した意見も出された。
 また、ベトナム難民の両親のもとで日本で育ったビン君の不登校問題に関するプログラムでは、在籍中学校の担任や所属する野球部の監督、アルバイト先の新聞配達所所長などの言葉が壁に張り出され、それを読み解きながらビン君の不登校の解決の方策を探るプログラムも実施された。
 実話に基づいたこのプログラムの発表では、カード化された9枚の不登校解決の方策を、優先順位の高い順にダイヤモンド型に張り付けて、班ごとにその根拠を発表した。
■学級経営にも応用範囲広がる
 講師の木下理事は「このダイヤモンド型ランキング法は、例えば、『自分たちの教室をきれいにするにはどうしたらよいか』など、ランキングを通して児童・生徒が話し合うことで学ぶことが多い。国際理解の学習では、相手国の歴史や話を聞く当人の個人史を理解した上で、多文化共生について考えることが重要」などと語った。
 このほか、福祉の講座では、地域の社会福祉協議会と連携し、大学講師を招いて作業所での活動を体験した。環境教育の講座では、環境・エネルギーをテーマとした博物館や自然観察の森で環境問題について学んだ。情報教育の講座では、新聞博物館でNIE活動による授業づくりを体験。キャリア教育では、市の若者サポートステーション(若者の職業相談や支援を行う施設)で就労支援について学んだほか、食教育の講座では、農家の協力を得て、農業体験をした。



[9月29日]

習得→活用→探究で学習サイクル

 実社会や実生活にも生かせる“活用力”をはぐくむ授業を目指して3年間の研究に取り組んでいる群馬大学教育学部附属中学校は、その2年間の成果を9月11、12の両日、同校の研究会で公開した。各実践では生徒の実態なども踏まえ、各教科の特性に応じた“習得〜活用〜探究”の学習サイクルを構想。理科では、ジグソー学習やコンセプトマップの手法を交え、意見交換や知識を活用することで確かな科学的理解を図る「天気とその変化」などの単元が展開された。
 
■思考の流れを明確に
 「学びを生かし未来を拓く生徒の育成」を目標に研鑽を重ねてきた同校。新学習指導要領をにらみ、(1)基礎・基本的な知識・技能(2)思考・判断・表現力などの自ら学び考える力(3)目的意識を持って学習を進める関心・意欲・態度――を段階的にはぐくもうと、“習得〜活用〜探究”の学習サイクルを各教科の特性に応じて追求した。
 中でも、実社会・実生活との関わりにも意識を配り、習得した学びを活用する力の育成に大きく力を割いた。
 教材開発の工夫では、思考の流れを明確にする学習プリントを使い、文章の内容や表現の仕方について自分なりの考えをまとめさせる国語の授業などを実施。
 さらに、3年間を見通した指導計画づくりや、習得する知識・技能を明確にしながら活用学習の場面を適切に設けたことなどを成果として挙げた。
■身の回りに置き換える
 そんな研究背景のもとで理科では、「科学概念を確実に習得し、身の回りの自然事象に対する見方や考え方を深める生徒の育成」を目標とした。
 各単元・領域の科学概念を系統的に身に付けられるよう指導計画を工夫するとともに、習得→活用→探究の学習ステップで、学んだ科学概念を汎用性のある概念に統合したり、身の回りの自然課題に置き換えて考察する力を持った生徒をはぐくむ授業を目指した。(例(1)火山についての学習項目の書き出し=習得的学習(2)マグマの粘性と火山噴出物について考察し、噴出元火山の推定レポートを作成=活用的学習(3)浅間山ハザードマップを使い、天明の大噴火が起こったと仮定して前橋の被害を推測=探究的学習/「1年・『大地の変化』から」)
■科学的根拠を表現する
 2年3組では、白井輝教諭の指導による単元「天気とその変化」で、「前線と天気の変化」の授業が公開された。
 これまでの学習で、それぞれの生徒が持つ知識を構造化するコンセプトマップの手法などを駆使し、前線や気団、天気図の知識習得を図ったり、モデル教材などで各前線の構造を把握させたりするなど、確かな知識と各生徒の課題意識を芽生えさせる展開を実施。その上で追究学習に取り組ませた。
 授業はグループによる話し合いでスタート。同教諭から気圧配置や気象記号を示した複数の天気図が配布される中、生徒は前時までに季節ごとの気象の特徴を記したノートをもとに議論し、それぞれの図がどの季節を示すかを検証した。
 天気図を眺める生徒たちからは「低気圧が日本海側を通って前線になっているから、この図は『春』だ」などの意見が飛び出す中で、同教諭は、複数の科学的な根拠を示した解答を要求。黒板上には「〜だと考える」「第1の理由は〜」など、その書き方も掲示し、課題追究に向けた視点を明確にするよう注意を促した。
 その結果、生徒からは「この図は『冬』だと考える。第1の理由は西高東低の気圧配置であるため。第2の理由は等圧線が縦になっているため。第3の理由は北西の季節風のため……」などといった既習知識を丁寧に踏まえた仮説が次々に語られていった。
 また、当初のグループメンバーの話し合いを経て、異なった意見をもとに、グループを再編成する「ジグソー学習」も工夫。各自の意見をシャッフルし、視点を再検証させることで、考察がより骨太になる様子も見られた。



[9月22日]

協同学習で互いの成長を喜ぶ

 愛知県岡崎市立六ツ美北中学校(山本悟校長、生徒数859人)は、平成18年度からの3年間、岡崎市教育委員会から「人間力向上のための具体的方策」の研究委嘱を受け、今年の6月24日に研究発表会を行った。人間力を「あらゆる学校生活で主体的な生き方ができる力」と定義し、生徒の実態から人間力育成の理念を具体化していくための研究主題を設定した。そこで、主題に迫る3つの力の育成をめざして研究を進めてきた。
 
 ■夢や目標の実現に向けて主体的に取り組む力をはぐくむ自立力の育成
 総合的な学習の授業を中心に生き方マップ作成の実践を試みている。
 1年時は、将来の生活を見つめるドリームマップ、2年時は、自分を見つめるリアルマップ、3年時は、未来に続く道を見つめるライフマップの作成である。
 また、マップの作成に職場学習、道徳の授業を関連させ、3年間、系統的に学習を進めている。過去と現在、未来を結びつけ、主体的に行動する基盤を育成する。
 ■他とうまくかかわる力をはぐくむ人間関係力の育成
 グループワークトレーニングの年間カリキュラムを作成し、総合的な学習の授業において実践している。南山大学ラボラトリー方式の体験学習研究協力校の委嘱も受け、研修を深めながら実践を試みている。
 ラボラトリー方式グループワークトレーニングとは、教師がねらいを明確にし、特定の体験を意図的に行わせる体験学習である。1時間の授業の中に、実習体験とふりかえりを設定する。
 特に重要になるのがふりかえりである。グループのメンバーと体験を分かち合い、思いを共有し、次回に向けたよりよい行動を考える場としている。
 ■他とかかわり合う中で、自らを高める力をはぐくむ学習力の育成
 9教科の学習において、共に学び合うことで意欲を向上させる協同学習を取り入れている。
 本校の考える協同学習は、個人を尊重し、かかわり合いを行い、学びのふりかえりをする4人を基本とするグループ活動である。生徒の実態に応じて、つかむ協同学習、深める協同学習、広げる協同学習の3つを設定し実践している。
 また、学習力を向上させるために、協同学習を支える手だてとして、生徒の変容を想定した働きかけを構築してきた。
 ■研究の成果と課題
 研究の検証として「継続観察生徒の抽出により、3年間を通して変容を追うこと」と「学校全体の変容を見取る質問紙法によるアンケートの実施」を試みている。全校体制で行うことで、研究方法を常に見直し、仮説の実証に努め、実践の推進に役立てることができる。また、検証の結果、成果と課題も明確になってきた。
 成果として、夢や目標に向かい、ひとと自信をもってかかわりながら自らを高めていくことができる生徒が増えてきている。課題としては、学習指導要領の改訂をふまえ、教育課程を見直すとともに、より有効な手だての構築が必要であることが見えてきた。(文責・中野渡善樹研究主任)



[9月18日]

地域密着の食育を推進

 千葉県立大網高校(松林謙悟校長、生徒数766人)は、農場生産物を地元の小・中学校の給食に供給し、「地産地消」を推進するなど、地域に密着した教育活動を展開している。同校に、取り組みの概要を報告してもらった。
 
 本校は、平成20年4月に旧山武農業高等学校と旧白里高等学校が統合して、千葉県立大網高等学校となった。農業系4学科と普通科で構成される学校で、地域に密着した様々な教育活動を実践している。
 「地域に密着した食育プロジェクト」では、千葉県学校給食会との話し合いに基づき、昨年4月から学校給食材料に本校の農場生産物を供給している。
 県学校給食会は、生産者である本校と消費者である町内学校給食実施校10校とを結ぶ仲介者として機能し、県学校給食会の公益事業の充実を図る一方で、本校は小・中学校との相互理解・交流を一層活発にし、あわせて「地産地消」を推進している。
 実施については、次のように進めた。
 まず、千葉県学校給食会と本校が町内小・中学校を所管する大網白里町教育委員会に事業概要を説明し、協力を要請。次に本校が供給できる学校生産物を小・中学校に提示し、取り扱いの希望を募った。
 本校と使用学校の希望が合致した場合には、生産物の供給を行うこととし、その際は、学校給食会がすべて生産物の引き取り・納品などの業務を無償で行ってくれることになった。
 さらに、本校と町学校栄養士会が協議し、提供品の商品説明や食育推進上の課題などについて話し合い、意思の疎通を図った。これにより、この事業が円滑に展開できるようになった。
 本校の生徒にとって、従来の市場出荷と異なり、消費者が町内の小・中学生と明確になったため、妹や弟においしい生産物を届けたいという願いが高まり、より学習意欲が喚起された。
 小・中学生にとってみれば、お兄ちゃん、お姉ちゃんや先輩の作った物だから、きっとおいしいし、残さず食べようということになり、給食残渣が急激に減少した、という。
 主な提供品目は、マスクメロン、トウモロコシ、ニンジン、ゴボウ、チンゲンサイ、ネギなどの野菜類や味噌、ほかにはエコ米やキウイフルーツなどであり、1年間を通して提供している。
 小学校で作成した網高特別給食と題した献立表や小学校からの食育通信などは、本校の授業教材として使用され、生徒のやる気につながっている。
 また、町学校栄養士会は研修会を本校の農場などで実施し、栽培の様子などを見学している。このことにより、各校の栄養教諭などが給食材料に関する知識を深め、食育を推進する力強い原動力となっている。
 栽培方法などについては、ほぼすべてのデータをインターネットを利用して各校に提供し、生活科や総合的な学習の時間の活動としていつでも活用できるようにしている。このことにより、小学生が本校農場を見学に訪れ、トウモロコシの栽培実習を行うなど、地域との交流は一層深まっている。
 現在、この活動は、町の広報誌や新聞などで広く取り上げられ、県内外からの視察者を受け入れるほどに注目されてきている。



[9月15日]

信頼関係深めるプロジェクト・アドベンチャー

 アメリカで開発されたプロジェクト・アドベンチャー(PA)の手法をアレンジし、様々なアクティビティーで人との信頼を深める技術を学ぶ、東京学芸大学附属世田谷小学校の夏の研修「信頼関係構築プログラム」が8月20、21の両日、東京・世田谷区の同校で開かれた。参加教員は、体育館と教室を舞台に、グループで戦術を練り合う“綱渡り”や、縦に割った竹筒とビー玉などを使った“パイプライン”などたくさんの活動を体験。楽しみながら、メンバー一人ひとりの力を引き出し、仲間との信頼関係を深める手法を学んだ。
 
■PAを学校教育に生かす
 このプログラムのベースとなっている「プロジェクト・アドベンチャー(PA)」は、アメリカで開発されたもの。参加者相互の努力を最大限に評価する約束を結びながら、数多くの体験活動によって仲間との信頼関係を深めていくことができる。
 そんなPAの有効性に着目し、研修の講師を務めた大熊雅士同校教諭らは、PAをより学校教育に生かせるようにアレンジ。活動の要であるファシリテーター(促進者)としての指導者の役割の周知や、教室など限られたスペースでも実施できるアクティビティーを工夫し、そのエッセンスを参加教員らに伝授すべく奮闘した。
■思いやりが深まっていく
 そのうち、体育館で行われた活動は、平均台やターザンロープなどを使う大掛かりなもの。
 マットを使ってスタート地点とゴールを設置し、ターザンロープでメンバー全員をゴールに渡すゲームでは、一人ひとりの体力なども考慮しながら、先に渡る人、サポートする人などをグループで相談。力のある人は、仲間がうまく渡れるようにロープに勢いをつけたり、ゴールでメンバーを受け止めたりするなど、役割を分担しながらグループの戦略と結束を築き上げていた。
 2つの平均台を使ったゲームでは、数人のメンバーが台の上にのったまま、誕生日順に並び直したり、動物の真似をして通じたら、台から落ちないようメンバーをまたいで通過するなどのルールで活動を楽しんだ。その際、相手が通過しやすいように様々な体勢を工夫することが求められ、体の大きな人は平均台に腹ばいになり、「上を踏んでいって」などと指示。笑いがあふれる中で、全員が無事通過することで厚い信頼をはぐくんだようだ。
 また活動内では、指導者の役割についても適切にサポート。
 ペアで、後ろ向きに倒れる1人をもう1人ががっちりと支える信頼ゲームでは、危険予防のために、倒れる人の手の組み方や、支える人は両手でしっかりと受け止めることなどが説明された。「大丈夫だからね」「私が支えるよ」「倒れます」「どうぞ」など信頼を築くための手順と作業を1言語、1動作、1確認で丁寧に行うことなども確認し合った。
 ほかに、教室でできるたくさんのアクティビティーも紹介された。
 「パイプライン」と題したゲームは、メンバーが各自、長さ30aほどの、縦に割った樋状の竹を持って横に並び、ビー玉などを落とさないように転がして順々にリレーしていくもの。ビー玉をスーパーボールや突起のある玉に変えると転がり方が不規則になり、様々な予想外の楽しい展開が起こる。
 また、床に一辺30aほどの四角いウレタンマットを組み合わせて敷き、そのスペースを足場にメンバー全員が一定時間留まるゲームも実施。足場の中心に体の大きな人が陣取り、小柄な女性がその体にぶら下がるなど、チームごとに戦術を工夫した。さらに、マットの組み合わせを変えて再チャレンジしたり、悪戦苦闘しながらもチームの結束がどんどん高まっていく様子が見て取れた。
■ファシリテーターの役割が大事
 指導のポイントについて大熊教諭は「指導者はグループの各メンバーが目標を持てるよう支援する役割が大事」と強調。命令、指図ではなく、ファシリテーターとして、場の雰囲気を盛り上げたり、それぞれのメンバーがアイデアを膨らませるためのヒントを与える役割を果たすことなどを心得として語った。



[9月11日]

市内小学校全教員対象に英語活動研修

 埼玉県行田市教育委員会は8月7、8の両日、市内小学校全教員を対象に「小学校英語活動カリキュラム研修会」を地域文化センターなどで開いた。同市の専属講師で言語文化教育の第一人者である聖学院大学講師の阿部フォード恵子氏を招き、英語活動を通したコミュニケーション育成のための技法を習得するとともに、人間関係形成にいたるまでの阿部メソッドが披露された。
 
■市民ボランティアがサポート
 小学校の国際理解教育の一環として総合的な学習の時間で、英語に親しむ授業を実施してきた行田市では、平成17年度から英語活動の教育特区(「古代蓮の里ぎょうだ」のびのび英語教育特区)として、小学校1〜2年生は月1時間、3〜6年生は週1時間、英語活動を実施している。
 市教委では、英語活動推進委員会を中心に、小学校から段階的に英語教育を行い、子どもたちの国際感覚と英語によるコミュニケーション能力を培い、将来、英語が使える国際社会に通用する人材の育成を目標として取り組んできた。
 指導体制は、外国人英語指導助手に加え、「のびのび英語ボランティア」と称する市民ボランティアがサポート活動にあたり、専属講師として阿部フォード恵子氏がスーパーアドバイザーとして関わっている。市内16小学校では、2校1組で定期的に「英語活動ペア校研修会」を設けるなど、英語研修の強化に努めている。
■人間関係力も伸ばす
 8月7・8日に行われた研修会では、阿部氏を講師に指導法が披露された。研修会はワークショップ形式で、ゲームやチャンツを交えながら、阿部メソッドから多様な指導法を学んだ。教員らはリズムに乗り、表情豊かに発話していた。
 英語活動推進委員会の委員長を務める同市立東小学校の松澤文子校長は、「当初はこわごわと臨んでいた教師も、いつのまにか英語の面白さを味わい、積極的にメソッドに参加するまでになった。教師にとって授業づくりのヒントを得る大きな機会で、講師の指導法は国語や算数などと同様、教科指導を通して、その先にある人間教育に及んでいる点が特長。英語活動を通して、人間関係力をはじめ、子どもの様々な能力を伸ばすところに学ぶべきものがある」と話す。
 4年生を受け持つ男性教員は、「英語に関して子どもたちはゼロから出発する。今回、歌に乗せてアルファベットを逆に追っていったが、意外に難しかった。教師は『子どもたちは理解しているはず』と認識し、次の課題に移ってしまうが、改めて子どもの側に立った指導の大切さを教えられた」と話す。
 2年生担任の女性教員は、「発話・発音の違いを単に注意するのではなく、繰り返し聞いて、本物に近づけていくことが大事だと痛感した」と語る。
■教員間の交流が盛んに
 ペア校では、教材研究をはじめ授業づくりで相互交流が活発だが、教員間の交流は、小学校間全体へと広まっている。さらに、小・中学校間の教員交流にも発展し、中学校教員が小学校研修に参加するなど、英語活動を介した小・中連携にもつながっている。
 同市教委学校教育課の柿沼耕一指導主事兼主幹は、「教師が英語活動の面白さにふれ、その様子が子どもたちに伝わり、子どもたちが英語活動に積極的に臨んでいる様子がうかがえる。同時に、教員間の連携も密になり、英語活動に限らず、他教科への波及効果もみられる」と指摘する。
 市教委では、これまで練り上げてきた「英語活動系統表・モデル案(小学校1〜6学年)」を年度内にも完成させる予定。
 「モデル」では、身につけたい力を示した上で、教材やプロセスなどの手立てがイラストを交えて細かく示される。授業づくりの上で、いろいろな工夫を施すことができ、同市だけでなく、全国のどの小学校でも活用できるのが特長だ。



[9月8日]

若手教員をサポート

 若手教員の資質向上を目指せ――。東京都の公立中学校教員で組織する東京都中学校清和会(会長・関本惠一東京都台東区立上野中学校長)は8月30日、東京都江東区立亀戸第三中学校で第1回若手教員研修会を開催した。採用5年未満の中学校教員が集まり、授業づくり、生徒指導、部活動など日頃の教育活動の課題や悩みを出し合い、講師を務めた校長や副会長らからアドバイスを受けるなど研修に努めた。
 
■大量採用時代に対応
 同会では従来、管理職選考への対応及び管理職の資質向上を目指した研修などを活動の軸にしてきた。最近は、30〜40歳代の教員が少ないこと、さらには、大都市圏を中心に教員の大量採用時代を迎えていることなどから、新たに若手教員の資質向上を目指した取り組みも展開していくこととした。
 「以前は教員の年齢バランスがよく、私たちの時代には、先輩教員からいろいろと教わったものだ。最近は30〜40歳代が少なくなり、ベテランと若手教員の年齢差が大きくなってしまったため、先輩教員に気楽に相談する、ということが少なくなってしまい、職場の人間関係が希薄になってしまった。ぜひ、若手教員の授業力向上などに貢献したい、という思いから研修会を催すことにした」と語るのは、関本会長。
■信頼関係を築くために
 研修会は、同会の前会長である池田忠東京都大田区立大森第四中学校長の講演「若手教員に期待すること」から始まった。
 池田校長はまず、教育に関する考え方の変遷についてふれ、「従前は、先進国に追いつくことが目的だったため、1つの型にはめて教育することが効率的であった。しかし、いまは変化の時代になり、画一的な教育では通用しなくなった。一人ひとりに目を向けた教育を実践していこう」と述べた。
 また、若手教員は学習指導要領の改訂を初めて迎えることから「今回の改訂では、ゆとりや詰め込みといったことが話題になっているが、それが本筋ではない。子どもたちの自発性を育て、勉強のおもしろさや知識を得ることの喜び、努力の大切さなどを実感させることが大切」と強調した。
 学級担任としての心構えにも言及し、「担任として必ず直面する問題はいじめである。この対策で一番重要なのは、信頼関係を築くことである。子どもはもちろん、保護者、管理職、同僚などとも信頼関係を築くこと。そのためには、日頃の実践の中で、うそをつかないこと、えこひいきをしないこと、時間を守ることが大切。こうした地道なことの積み重ねが、信頼を得ることにつながる」と話した。
■授業や部活などの課題に
 続いて、学習、生活、運営の3つの分科会に分かれ、同会に所属する校長、副校長らを講師に、日頃の教育活動に基づいた研修を行った。
 若手教員からの課題や悩みでは、授業に関することがやはり多く出された。
 「授業をどのようにまとめていけばよいか、悩んでいる。ほかの先生の授業を参考にしたいが、見る機会がほとんどない」「授業者によって学力に差が出てしまうと思う。どのようにそれを埋めていったらよいか」「授業中に立ち歩く子がいる。その子への対応と学習が進んでいる子への対応を両立することが難しい」など、次々に具体的な課題が出された。
 部活動の指導についての課題も多く、「顧問が2人いて、どのように連携をとったらよいかわからない」「ほかの先生の指導はすばらしいが、私は何もできず、生徒たちと信頼関係が築けない」「新設の部活動の顧問になった。1・2年生しかおらず、先輩部員のリードがないので、困っている」など。
 講師からは、授業づくりについては「教材解釈、教材開発」「指導技術(授業展開)」「指導と評価の計画の作成・改善」「統率力」「使命感、熱意、感性」「児童生徒理解」の6つの構成要素が示され、ていねいに解説されるなど、熱心な指導がなされた。
 短い時間であったが、課題に対する的確なアドバイスを聞くことができて、参加した若手教員の意欲も増しているようであった。
 同会では、今後も若手教員の研修を充実することとしており、11月には第2回を開く予定。



[9月1日]

違和感から深い対話が始まる

 独立行政国立美術館は、文科省・文化庁との共催で「美術館を活用した鑑賞教育の充実のための指導者研修」を7月28日から30日まで、東京国立近代美術館と国立新美術館を会場に開催した。全国から小・中学校教員、美術館学芸員、教育委員会指導主事ら140人ほどが集まり、ギャラリートークや鑑賞教育プログラムの検討などから、実践上の様々な課題解決に向けて精力的に取り組んだ。事例紹介では、大阪市立上福島小学校の内部恵子教諭が「子どもたちが美術館鑑賞から得たものは?―『小川信治展』の鑑賞を通して」と題して発表、違和感から深い対話が始まった実践を発表した。
 
 大阪市立上福島小学校は都心にあり、児童数94人。徒歩15分の所に国立国際美術館がある。同教諭は特に、国語教育に力を注いできた。03年に同校に赴任して以来、毎年、美術鑑賞教育に取り組んできたが、(1)事前学習ではワークシートの内容量がつい多くなりがち(2)指導者の役割(3)鑑賞と関連した表現のあり方(4)美術館との連携――が課題として浮かび上がってきたという。これらを意識しながら、5年生25人で「小川信治展」を鑑賞した。
 小川氏は忠実な模写をしながら、ミレーの「落穂拾い」の登場人物の1人やフェルメールの「牛乳を注ぐ女」の女性を削るなど、独自の視点で圧倒的な存在感のある「同時並行的なもうひとつの世界」を生み出している。元の作品とのずれから奇妙な感覚が生じる。
 指導にあたっては、(1)画家の世界観を指導者が観念的な言葉で説明したり押し付けたりしない(2)自然な子どもの言葉を待つ。言葉に置き換えることを無理強いしない(3)子どもが頭だけでなく、体全体の感覚を働かせて考えられるよう鑑賞と関連した表現活動を取り入れる――を配慮した。
 事前学習では元の絵画が描かれたアートカードゲームを楽しみ、当日は「小川さんは元の作品をどう変えたでしょうか。それを見て自分の中でどんな気持ちが起こったかのぞきこんでみましょう」と言葉をかけた。
 児童らは、1人で黙って絵の前でたたずんだり同じシリーズの絵を行きつ戻りつして見るなど、どの子も非常に興味を持って見ていた。驚きの声や不思議に思う声、見つけたことをみんなに知らせる声などが、ひそやかに響いていた。
 「いつも見る有名な画家と小川さんの作品は全然ちがいました。ぼくは小川さんが考えるもうひとつの世界が少しわかったような気がしました」など、「小川作品から不安感や違和感を感じ取り、自分なりにその世界に関心を持って対話する子どもたちの姿があった」と内部教諭は語る。
 鑑賞後には、いろいろな国の写真から気に入った部分を選び、各自が新しい絵を描き、それらをつなぎ合わせて直径約5メートルの大きな円環とし「ひとつの世界」を創作する表現活動を実施。児童らは既存のものから「同時並行的なもうひとつの世界」が生まれるダイナミズムを体感した。
 同教諭は「美術館研究員は私の『教えすぎ』に適切な助言をしてくれ、鑑賞当日の協力も大きかった。指導者のわかりやすい解説を子どもたちは求めていない。一連の鑑賞教育で子どもたちは自らの想像力を広げ、感性をはぐくんでいったと感じている」とした。



[8月28日]

総合的な学習で交通渋滞をねばり強く調査

 魅力ある実践例を交えながら総合的な学習のより一層の充実と現場教員への支援策を図るさわやか福祉財団主催による「総合的な学習の時間支援シンポジウム」が8月5日、東京・千代田区の科学技術館サイエンスホールで行われた。第1部では、各地の小・中・高校が実践事例を発表。仲間と試行錯誤しながらオリジナルのモーターカー作りに挑戦する小学校や交通渋滞をねばり強く調査した中学校など、様々な実践が報告された。
 
 生きる力を柱に、幅広い学力を育てるために重要な総合的な学習の価値や向上策を改めて話し合おうとしたのが、このシンポジウム。
 新学習指導要領の本格実施を前に、各地の学校で、これまで築いてきた総合的な学習の実践を披露しつつ、その学習効果や意義を検証。いまだ効果的なノウハウが乏しい同学習の充実を図ることを目指した。
 第1部では、文教大学の嶋野道弘教授によるコーディネートで、各地の小・中・高校の実践紹介が行われた。
 まず、長野県伊那市立伊那小学校の伊藤幹高教諭と6年生の梶原あさみ、榊原沙英さんが「内から育つ」をテーマに、自己をみつめ、友との関わりを深めながら、自らを高めていく学習について発表した。
 同校では、子どもたちが「内から育つ」姿を支える学力を、(1)意欲に関わる学力(2)情意的な学力(3)知識・技能的な学力――の3つの総体として捉えた。その上で、一人ひとりの子どもたちの意欲を大切にし、自らの学習を発想、構想、実践、自己評価していく学びの道筋づくりとして支援していることを語った。
 そんな考え方のもと、これまでの学習では、子どもたちがグループで、人が乗れるようなオリジナルモーターカー作りに挑戦。三輪車を分解してハンドルにしたり、扇風機や換気扇のモーターを活用するなど、試行錯誤を通じて工夫と気づきの力が育った。
 同時に、学習で生じた疑問を追究する調べ学習の時間も確保し、仲間の発表などを足がかりに、モーターの構造理解や、他者の知恵を作品制作に生かし合う学習が実現したなどの成果があったと報告した。
 つづいて、茨城県大洗町立南中学校の鈴木亮太教諭と3年生の大谷智紀君が、自分たちの住む町の産業や人々を見つめ、そこから自分なりの課題を追究する学習について話した。
 学年ごとに「私たちのふるさと『大洗』はなぜ観光地になったのだろう」といった共通テーマをもち、さらに「大洗町のかくれた名店を広めよう」といった1人調べテーマで学習に取り組み、何気なく暮らしていた町を改めて見直すことで、課題発見や追究、自らの生き方の問いなどにもつなげるねらいを示した。
 「町の活性化」をテーマに交通渋滞解消への調査学習を展開した生徒は、困難な課題にもかかわらず、調査を継続したいという願いから、規定外の時間も費やすねばり強い追究意欲が育ったことなどの成果を挙げた。
 最後に、山梨県立北杜高校の清水規与美教諭と3年生の入倉彩未さんが報告。3年間を通して、(1)いのち(2)つながり(3)あした――の3テーマで展開する学習を発表した。
 同学習が目指す力の育成は、(1)課題発見力(2)情報・知識を活用する力(3)問題解決力(4)まとめる力(5)自分の考えを発信する力――の5つ。生徒には▽自然・環境▽福祉・共生▽文学・歴史▽国際理解・語学など8分野の中から選択させ、課題選定、校外調査活動、討論会、発表などを行う。
 「戦争の歌」を扱った生徒の追究では、地域の人たちに、戦時中の時代などについてインタビューし、軍歌ばかりが響いていたとのコメントから、歌を通じて戦争と世相の両面を理解する学習などが実現したという。



[8月25日]

授業改善と授業評価を推進

 教育調査研究所(奥田眞丈理事長)は8月4、5の両日、「新しい教育の流れを創る」をテーマに第37回教育展望セミナーを東京・千代田区のアルカディア市ヶ谷で実施した。2日目の第1分科会経営部会では、東京都足立区立弘道小学校と福岡県朝倉市立秋月中学校の実践提案や参加者による意見交換が、寺崎千秋同研究所研究部長の司会で行われた。実践提案では、山田誠東京都足立区立弘道小学校長が知・徳・体のバランスのとれた学校づくりの実践を、佐々木隆良福岡県朝倉市立秋月中学校長が、授業改善と授業評価を推進し、地域の力でたくましく生きる生徒の育成の取り組みをそれぞれ報告した。
 
■頭と心と体のバランスをグランドデザイン=東京都足立区立弘道小学校
 足立区立弘道小学校の山田校長は、これまでの経験の中で、児童から「できね」「わかんね」「疲れた」の3つの言葉をよく聞いていたこと、1、2校時に眠そうにしている児童がいたことなどをあげ、児童の実態に課題意識を持っていた。
 さらに、「生きる力」の育成の観点から、「頭と心と体のバランス」の重要性に着目し、「頭と心と体のバランスのよい成長」を目標に、学校のグランドデザインづくりに取り組んだ。
 「頭を育てる」取り組みでは、授業システムの工夫・改善や教材開発による「基礎的・基本的な学力の育成」、児童の表現力を育て探究的な学習を充実させる「自ら考える力の育成」を進めた。
 「心を育てる」取り組みでは、授業の中で“できる”“わかる”“集中する”楽しさを味わわせたり、学校行事を充実させたりして「自分自身の力に自信を持たせる」、校内・教室内の学習環境の整備やあいさつ・返事など集団行動の規律を守らせるといった「学習の構えづくり」に取り組んだ。
 「体を育てる」では、体育的な行事を充実させ体力テストを実施するなど「児童の体力の向上」を図った。あわせて、早寝・早起き・朝ご飯や家族のかかわり合いの充実など、よりよい家庭生活習慣づくりを促した。
 これらを実現するために、教員間での組織目標の共有などによる「教員組織力の向上」のほか、区指定校としての研修・研究の充実などによる「教員の指導力の向上」が図られた。
 また、保護者・地域住民の学校教育活動への参画を促し、地域の人的資源の活用を推進した。
 この取り組みの結果、教員は学力向上だけに重点を置くことなく、全人格的な教育を目指すようになったという。
 学校や学校関係者の豊かで幅広い支援や実践が学校の財産であることに気づいたなどの成果が得られた。
■授業評価指標に基づき改善の有効性を確認=福岡県朝倉市立秋月中学校
 平成18年度からコミュニティースクールとして実践を積み重ねてきた朝倉市立秋月中学校は、授業改善システムや授業評価システムの効果的運用による習得・活用型学習の実践に取り組んだ。
 同校の授業改善システムは、授業評価指標に基づいて「模擬授業」「研究授業」「授業整理会」の順に進められるもの。
 「模擬授業」では、めあての焦点化や板書・資料提示の工夫が、「研究授業」では授業仮説の有効性の確認が、「授業整理会」では授業評価指標の評価結果をもとにした授業改善の有効性の確認が、それぞれ行われた。授業改善をより一層推進するために、長期休業中の校内自主研修会なども行われている。
 一方、授業評価システムは、「授業者による生徒の評価」「授業者の自己評価」「生徒同士の相互評価」「生徒による授業評価」「他教師による授業評価」「メンター(大学教授や県教委の指導主事)による授業評価」の6つの視点から行われるもの。
 地域の力を学校教育に生かすため、短歌・俳句サークルやコンピュータ教室の実施など地域人材の活用などを行う「温故知新」、大学生ボランティアによる勉強合宿や部活動の指導などの「秋中稽古館」、伝統文化の発掘などを行う「秋月コミュニティ」などにも取り組んだ。
 実践の結果、不登校生徒が減少し、学力診断テストでは県平均を3年連続で上回ることができた。保護者・地域住民からの高い信頼も得られた。
 教職員組織の中では“ムリ・ムダ・ムラ”を排除する組織マネジメントの考え方が定着したなどの成果がみられた。



[8月14日]

免許更新講習に向け試行講座

 独立行政法人国立青少年教育振興機構本部は、来年度から本格実施される教員免許更新制への試行事業として、「教科指導・学級経営に生かす体験活動」と題した講習会を7月28日から30日まで、東京・渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センターで開催した。講習では、講義とともに実際に自然体験のアクティビティーにふれる講座も実施。参加教員はソーラークッカーを使った野外料理やチームによるオリエンテーリングなどを経験し、それぞれの授業活用に役立てたようだ。
 
■光の反射など理科や算数・数学の学びにも
 講習は、新学習指導要領を踏まえた体験活動のあり方や手法に理解を深めてもらうとともに、教員自身が様々な自然体験活動に触れることで、その教育的な意義や価値を実感してもらいたいとして開催に至った。
 全国から小・中・高校の教員45人が参加。初日と最終日は「子どもの成長と生活リズム」「体験活動の教育的意義」などのテーマによる講義が中心で、2日目は野外での各種体験活動を実施した。
 体験活動では、ツリークライミングやソーラークッカーでの料理、火起こしに挑戦したほか、ナイフを駆使した竹とんぼづくり、チームワークを深めるためのオリエンテーリングなどに興じた。
 そのうち、オリンピックセンターの林で行われたソーラークッキングでは、太陽光を使った野外調理を経験。ソーラーエネルギージャパンの宮本ルミ子さんと木下幹夫さんの指導で、様々なクッカーの構造を学びながら、自然のクリーンエネルギーを活用した目玉焼きづくりなどを行った。
 用意されたソーラークッカーは、球面状の「パラボラ型」やボックス状の「熱箱型」など構造は様々。集光の原理や熱効率がそれぞれ異なることを説明し、各クッカーで焼いた芋などを教員に試食させたりした。
 また、金属板を使った本格的なクッカーがある一方、厚紙や銀紙を使い、簡易に制作できる小型テルケス型クッカーの作り方も紹介。簡易とはいえ、真冬でも約45分でゆで卵ができる構造で、光の反射や集光計算が理科や算数・数学の学びにも活用できるなどとアドバイスし、授業ですぐに使えるよう設計図なども提供していた。
■目標を共有してチームワーク
 一方、隣接した実習場では、ミニ釜戸と釜が置かれ、グループごとに火起こしにも挑戦。野外活動の基本スキルとして、林の中から小枝や落ち葉を拾い、焚き付けや火力調整などを工夫し、ふっくらご飯を炊き上げ、昼食で試食するなどの楽しい活動が進められた。
 その後は、室内で竹板やヒゴを削っての竹とんぼづくりや、チーム活動として「ビジュアルオリエンテーリング」などに汗を流した。
 ビジュアルオリエンテーリングは数人1組のチームで実施。各チームには、同センター敷地内14のチェックポイント(ごみ箱、照明、オブジェなど)の写真が載った用紙が渡され、制限時間内により多くのポイントを探し出すというオリエンテーリング風のゲームだ。
 スタートに際しては、チームごとに「代々木の自然と語らいながら」「みんな仲良く完全制覇」などと目標を決めて探査。ポイントの写真を確認しながら、おぼしき場所を見渡したり、メンバーの朝の散歩の記憶も掘り起こしたりしながら、どのチームも笑顔で活動に取り組んでいた。
 また、体験活動終了後には、「それぞれの持ち味を生かしながら役割を分担させた」「最初に目標を立てることで、グループでの行動の意識づけができた」などの意見がそれぞれ発表された。自然体験が授業にどのように生かせるかや、体験の効果を高める振り返りのあり方などについて考えることで、楽しい自然体験と教育効果の高め方を丁寧に学べる講習になっていた。
 参加した東京都の小学校教員は、「体験活動を交えた授業づくりに興味があり参加した。生活習慣についての講義なども役立ち、体験講習は臨海学校などで役立てたい」などと話していた。



[8月11日]

床掃除でコンクール

 岩手県立軽米高校(高橋光彦校長、生徒数304人)は、今年創立60周年を迎え、地域連携型、中高一貫教育校として8年目。同校には、清掃コンクールなど、他校に見られないユニークな取り組みがある。これらは生徒に体験させることによって、高校の魅力づくりを狙ったものである。
 
 ■盛会なハロウィーン・カボチャ祭
 まず清掃コンクールが、20年以上続いている。日ごろ使っている校舎に「感謝しよう」とベランダや窓枠などまで1日がかりだ。床掃除に至っては、靴下のまま歩いてもよいくらいに仕上げる。掃除後は校長をはじめ教職員が審査するが、審査は難航を極める。
 同校らしい活動では、ハロウィーン(万聖節の前夜祭=10月31日の夜。子どもたちはカボチャをくり抜いてお化けちょうちんを作ったりして楽しむ)がある。同町は隣接九戸村の戸田地区に近い。そこでは、毎年、お化けカボチャ祭りを行っている。このことに目をつけたアメリカへ派遣留学経験のある英語教師が、そのお化けカボチャをもらってきたのが、同校でのハロウィーン・カボチャ祭りの始まり。
 とにかく壮観だ。70キロ級のお化けカボチャが、校舎外に所狭しと並ぶ。生徒が力を合わせ、それぞれのセンスで顔をくり貫いたものだ。その数は、その年によって違うが、40〜50個で、最近はPTAが2トントラックで運搬を手伝う。昨年はテレビ局もきて、大々的に放送された。
 また、この行事に併せて毎年10月31日にコスチューム(衣装)コンテストが行われる。それぞれの生徒が自分のテーマを設定し、思い思いの衣装に身を包んで変装し、「トリック・オア・トリート」(お菓子をくれなきゃ、いたずらするぞ)と口ぐちに言う。英語科の早川真教諭によると「これは異文化理解です。英語を学ぶということは、文化を理解すること。生徒たちの表情も、授業以上に明るい」と話す。
 ■諸外国から同校に研修生
 異文化理解といえば、同校では町役場とともに東京外語大学と提携し、外国人留学生を毎年10人ほど受け入れている。外国人留学生の国籍は多岐にわたり、モンゴル、ベトナム、ラオスなどのアジアからブルガリアやブラジル、ペルーなどのヨーロッパや南米などの国の人たちが同校に研修にくる。期間は10日くらいで、ホストファミリーと一緒に授業を受ける。放課後は書道を習ったり、サッカーをしたりするが、特別扱いはせず、普通に取り組むことが、この交流を長く続けるコツらしい。
 圧巻は最終日の日本語劇。
 これは留学生らが、お世話になった日本人生徒たちに、自分たちの日本語学習の成果を見せるための企画で、毎年、在校生の前で日本語劇が披露されている。いままでに「桃太郎」や「浦島太郎」など、日本の有名な昔話が取り組まれ、わずか10日ほどの日程で、ここまで上達するのかと驚いている。
 このほかにも同校には、英語コンテストがあり、また全校エアロビクスダンスを体育館で行う。
 高橋校長は「文武両道を旗印に、地域に愛される学校として取り組み、生徒の表情も明るく、教師たちの熱意に真剣に応えている様子がうかがえる。最近では、地元新聞社への声欄に投稿する生徒も増え、学校の活性化のためにもいいことです」と話している。



[8月7日]

群読で“人のつながり”を実感

 詩歌や文章などを声を合わせ分読する“群読”による授業や学級づくりのアイデアを探る日本群読教育の会第7回全国研究集会が横浜市中区のかながわ労働プラザで7月26日に行われた。群読についての初級講座や、テーマ(詩、物語など)ごとの学習会が実施され、そのうち、“詩”の講座では、「雨」「なまけ忍者」などの作品をアレンジし、参加教員がグループごとのオリジナル群読を考案。講師の指導で練習を積み、最後に発表会を行うことで、楽しみながら各授業での活用スキルを磨き、教室での、言葉を介した子どもたち同士、子どもと教師のつながりを思い描き、実感していた。
 
 ■「世界のあいさつ群読」などの事例を紹介
 群読は、詩や文学作品などを声を合わせて分読する活動。大勢で声を出し合うことで、参加者同士の心と体を結び付けることもできるため、国語授業はもとより、学級づくりや学校行事などにも効果的な活動だ。
 研究集会では、そんな群読の魅力を知ってもらうための入門講座や発展的な学習法を示す中級講座などを実施。各学校の実践では、世界の言葉を使ったあいさつ群読などの事例も紹介され、全国から集まった教員に、群読の魅力を知ってもらい、それぞれの教育活動に取り入れてもらえるよう、たくさんのアイデアが提示されていた。
 テーマごとの学習講座では、「詩」「物語」「古典」「ふたり読み」「ことば遊び(入門期)」「集会行事の群読」の6つが設けられた。どの講座も、教員が実際に体験することで授業づくりへのヒントが得られるよう工夫されていた。
 ■オリジナルの演出を工夫
 そんな講座の1つ、「詩」では、岩手県一関市立南小学校の澤野郁文教諭の指導で、9つの詩をそれぞれのグループが担当し、オリジナルの群読発表にまとめる実習活動が行われた。
 使った作品は、「雨」(山田今次)、「なまけ忍者」(しょうじたけし)、「教室はまちがうところだ」(蒔田晋治)など。
 ギター伴奏を交えた同教諭の模範朗読などが進む中で、参加教員は数人ごとのグループで各作品を担当し、それぞれ音読パートを決めたり、手拍子によるリズムを盛り込んだりして、独自の演出方法を練り合った。また、最後は練習成果を生かし、ステージでグループごとの群読発表も行った。
 「雨」を担当したグループでは、“あめは ぼくらを ざんざか たたく”と音読するソロパートに対し、“ざんざか ざんざか”と雨が降りしきる様子をアンサンブルで表現。リズミカルな音読にするため手拍子や足踏みによるパーカッションも交え、高い表現力による群読を披露した。
 また、「なまけ忍者」のグループでは、“わたしの おへやの すみっこに なまけ忍者が かくれてる”と語る中で、そんな様子を表現しようと、メンバーの1人が、勢揃いしたメンバーの隙間から顔を出したり、引っ込んだりする演出を見せた。
 一連の発表を通じて、各グループが協力し合う中で作品の良さを味わい、群読による楽しい授業づくりへの視点を学んだようだった。
 ■古典の題材もおもしろい
 ほかにも、「古典」の学習会では、富山県滑川市立滑川中学校の毛利豊教諭が、“平家物語”を使った群読授業の活用例を紹介。「小督の局」と「衣笠の合戦」を題材に、効果的な読みの方法やポイントを学び、グループごとに発表を行った。
 「衣笠の合戦」では、冒頭の“ときは治承4年8月29日”との呼びかけを、はっきりとした口調で語ることの大切さや、「平家」を「ヘーケ」ではなく、「ヘイケ」と発音しましょうなどの注意をもとに、参加者は練習を繰り返した。
 発表では、メンバー全員が声を合わせ、“さしつめ 引きつめ”“駆け出で 駆け出で”など、見事な群読を聞かせ、古典独特のリズムを感じながら、その良さを実感できる講習となっていた。



[8月4日]

図書館の利用マナーで公徳心育成

 映像教材を活用した道徳授業の可能性を探る筑波大学附属小学校道徳教育研究部による第1回授業研究大会が7月24日、東京・文京区の同校で行われた。研究では、NHKの道徳ドキュメント教材を使用し、3テーマ(図書館利用のマナー、ポイ捨て問題など)の提案授業、実践発表などを公開。そのうち、2つの提案授業では、「みんなの本をどう守る」教材を使い、蔵書の切り抜きや破損の実態などを踏まえた話し合いを進め、子どもたちが図書館の利用マナーについて考えを深めたり、当事者意識を持った公徳心の育成などに役立てた。
 
 新指導要領実施を前に、「道徳授業の新たな模索を進めたい」とこの研究への思いを語る道徳教育研究部の山田誠教諭。授業数を多く取れない道徳授業に関して、短時間でも効果的な実践を追究し、教材研究や授業の模索を続けてきた。
 そんな中、研究では、NHKの道徳ドキュメントによる実践を提案。テーマは図書館でのマナーやポイ捨て問題などで、従来、ドラマ仕立てが多かった同教材が、実際の社会問題をより直接的に取り入れた内容に変わってきている点も踏まえ、映像教材を通じた新たな授業づくりを探る研究ともなった。
 そのうち、提案授業は、会場となった筑波大学附属小学校の5年生を対象に実施。地方図書館を舞台にした映像ドキュメント「みんなの本をどう守る」を使い、2通りの授業を公開した。
 内容は、蔵書の切り抜きや紛失など、現に図書館で起きている数々の問題を示し、その対応などに対する思いを図書館司書が語るというもの。
■自分の本が汚れて返されたら?
 早稲田実業学校初等部の星直樹教諭による指導では、「自分が貸した本が汚れて返ってきたら?」との問いのもとに映像教材を視聴。問題を見つめるとともに、司書の苦労や本への思いを考えさせ、子どもたち一人ひとりが当事者意識を持ち、マナーを考える心を育てる授業を展開した。
 書き込みがされた本や特定の記事だけが切り抜かれた雑誌などの映像を見つめる子どもたち。ついには目が届きやすいよう本棚の位置をずらしたり、入り口にセンサーを付けざるを得なくなった様子を見て、「一握りの人の問題が全体に及んで残念」「信頼を裏切られたようで悲しい」などの意見が飛び交った。
 一方で、無用な管理をなるべく減らしたいと考える司書の思いや、そのための話し合いなどを紹介しながら、子どもたちは、「本を大切にしている人もいるから、もう一度信頼しよう」「防ぐ対策だけでなく、呼びかける対策もしてみたら」との意見を述べ、利用者のマナー向上や問題行動への対処などについてそれぞれ話し、考えを深めていった。
■自分たちの学級文庫はどう?
 もう1つの授業は、筑波大学附属小学校の山田誠教諭によるもの。同教材内で描かれている雑誌管理の方法を題材に、その是非などについてグループで話し合い、アイデアを出し合った。
 破損や紛失などの問題から、オープンラックでなく受付で管理することになった図書館。
 そんな様子を踏まえ、子どもたちの話し合いでは、「開架で並べられるよう、カウンターを半円形にして見渡せるようにする」「開架にしても良いが、破損した本などを示すコーナーを作り、問題への反省を促してから」などの意見が出て、多角的な解決策が示された。
 そんな話し合いの一方、山田教諭は教室内のラックに乱雑に収められた本の写真を提示。「自分たちの学級文庫を振り返ってどうか?」と問い、これまでの考察が自分たちの図書の管理にどう生かせるかを促すことで、課題を自らの事柄として見つめさせる授業を進めていった。



[7月31日]

1学期の学級経営を振り返ろう

 学級担任、もしくは副担任として、何とかはじめての学級経営を乗り切ってきた1学期。自分の学級はまとまりがないのではないか、このままでは2学期になると学級が荒れてしまうのではないか、との心配もあるだろう。夏休みの間に、1学期を振り返り、自らの学級経営をチェックしてみよう。
 
◇はじめが肝心、だけれど◇
 年度当初は、初任者ということもあって、子どもたちも「今度の担任の先生はどんな人かな」と様子見であったが、連休明けぐらいからは子どもたちも慣れてきて、自分勝手な行動をとる者も出てくるようになる。授業中の私語や立ち歩きなどが目立ってくるのも、このころからだ。
 だからこそ、「学級経営ははじめの2週間、2カ月が肝心」であり、「学級経営は最初に手を抜いたら、あとで大変なことになる」などと言われるゆえんである。
 初任者の皆さんも、着任当初に校長や先輩教師から指導されたり、初任研でも取り上げられるので、重々承知に違いない。何もわからない中でも、学級経営案を作成したり、学習ルールの確立に取り組んでみたり、一生懸命やってきたことであろう。
 しかし、1学期の自分の学級の様子を振り返ってみて、どうであろうか。
 自分が思っていたように子どもが動かなかったり、うちのクラスは活気があると思っていたら、隣の学級の先輩教師から「君のクラスは騒がしいけれど、大丈夫か」と言われたりして、このまま2学期を迎えても大丈夫か、と自信を失いかけてはいないだろうか。
◇安心して学習と生活を◇
 改めて学級経営の基礎・基本を見てみよう。
 学級経営は、子どもたちが安心して学習し、生活できる環境を整える取り組みであり、学習指導と生活指導を両輪として進めていくものである。
 学級には、様々な個性をもった多くの子どもがいて、あらゆる出来事が起こるが、一人ひとりの子どものよいところを認め育て、どの子どもも充実した学級生活が送れるように指導することが、担任の仕事である。
 「一人ひとりを大切にするクラス」「わかり合えるクラス」「みんなを大切にするクラス」などの目標を掲げ、担任としては、一人ひとりの学力向上を図り、温かく互いに励まし合い、高めあっていく学級集団を作っていく。
 主なポイントとしては、授業、休み時間、当番活動など具体的な場面における言動をとらえ、「認める」「ほめる」こと。これにより友人から認められ、自信にもつながる。
 また、学級集団づくりにかかわらせることも重要だ。「学級の一員であることを自覚させる」「学級で起きていることを自分たちで解決させる」「何でも言える雰囲気にする」「他人の意見を受け入れる子どもに育てる」などがカギである。
◇“荒れ”の前兆はないか◇
 さて“学級が荒れる”とか“学級崩壊”とか、どちらにも絶対なりたくないものである。そうなる前に予兆がある、とよくいわれる。▽教師と子どもの信頼関係が崩れる▽教師に反発することで団結している▽力の強い順に給食が配膳され、食べ始める▽他のグループのことを言いつけに来る――など、自分の学級を振り返り、チェックするとよい。
 “荒れる学級”には、いくつか課題があるが、主に次の4点があげられる。
 (1)予防的対応・初期対応が不十分=子どもの問題行動の前兆を見逃している。
 (2)変化についての認識不足=子どもや保護者の意識・生活の変化にとまどい、具体的な対応策が考えられない。
 (3)抱え込む=自分で解決しようとの思いが強すぎて、孤立状態になってしまう。結果として、問題が一層深刻になってしまう。
 (4)ネットワーク活用力の不足=校内の人材やカウンセラーや関係諸機関との連携・活用について認識が不足し、対応が遅れる。
 特に、初任者としては(3)の「抱え込む」ことは絶対に避けたい。
 まずは、指導教員には必ず連絡する。場合によっては校長、副校長、主幹、学年主任、養護教諭などに相談して、計画的に対応していくことである。学校は組織であるから、たとえ自分の学級であっても組織で対応していくことが絶対に必要である。
◇リーダー養成を軸に◇
 もし、前兆があるとして、2学期の頭からすぐにできる対策は、リーダーの養成である。学級が荒れ始めたといっても、すべての子どもが問題行動を起こすようになってしまったわけではないだろう。「きちんとした学級にしたいと思う子ども」「まじめに学習したい子ども」もいるはずだ。これらの子どもの目を担任に向けさせ、学級のリーダーにするのである。
 例えば、このような子どもを班長にして、班長会を作る。班長会議では、学級の様子を聞いたり、今後どのような学級にしていったらよいかなどの意見を聞き、担任と学級運営上の役割分担をして、協力して進めていくのである。



[7月28日]

展開図を予想させ論理的思考

 「ハテナからナルホドへ」「算数を楽しむ」をモットーに、算数授業の研究に取り組むガウスの会主催の第1回授業研究会が7月12日、横浜市中区の横浜国立大学教育人間科学部横浜附属小学校で開催された。小学校の算数授業に役立つ公開授業、ミニ講座、ワークショップなどを実施。4年生では、紙で折った図形の展開図を予想する「開いたらどんな形」を公開し、子どもたちは三角定規を組み合わせたり、方眼紙の上で図形を予想したりして、対称に基づく図形感覚を養い、論理的な思考をはぐくんでいった。
 
 面白くて、不思議で、考えさせる算数教材を作成しようと、各地の小学校教員が集まって結成したガウスの会。第1回となるこの研究会では、同会メンバー教員による6年生の単元「三角形と四角形の面積」(馬場雅史埼玉大学教育学部附属小学校教諭)と、4年生の「開いた形を考えよう」(盛山隆雄筑波大学附属小学校教諭)の2つの授業を公開。
 会場となった横浜国立大学教育人間科学部横浜附属小学校の児童を相手に、図形を折る活動で、合同や対称の素地を養うなど、創意あふれる授業アイデアを紹介した。
 そのうち、盛山教諭による授業では、子どもたちに、折った図形の観察や、操作をさせながら、その展開図を予想させ、論理的思考による図形感覚を養わせる授業を行った。
 最初はウォーミングアップとして、2つ折りにした長方形(辺の比は1対2)の紙を提示。まず、この図形を開いたらどんな形になるかを予想させた。すると、これは簡単とばかりに、子どもたちからは「正方形」の答えが返ってくる。
 その上で次は、2つ折りにした不等辺の直角三角形を示し、再度、開いた形を予想させると、直角三角形の3辺それぞれを折り目と考え、2通りの二等辺三角形や、四角形になるという答えが多く挙がった。さらに、開いた一方の直角三角形を斜辺に沿って180度回転させて組み合わせ、長方形と解答する子もいた。
 あちこちで答えが挙がる中で同教諭は、子どもたちが図形の対称を念頭に入れながら、いろいろな図形構造に興味が持てるよう配慮。方眼の解答紙で実際に図形を書かせたり、三角定規で形を作らせるなど、思考を励ますための支援を行った。また、理解が遅い子どもたちにも目を配り、答えの確認もきめ細かく行っていった。
 最後は、3つ折りによってできた直角二等辺三角形を示し、折りの回数を意識しながら元の図形を予想させる課題に取り組んだ。
 1つ折り、2つ折りと折りの段階を重ねることでどんな図形ができるかを、方眼紙に書き込みながら、子どもたちは予想を進めていった。
 ある児童は、2つ折り目を「正方形」としたのに対し、ある児童は「直角二等辺三角形」と解答。続いて、1つ折り目では、2つ折り目の正方形から「長方形」の声が挙がる中で、もともとの図形までたどり、それぞれ辺ごとの折りに着目することで、どんな図形ができるかの見通しを持たせる展開が進んだ。
 授業後は、協議会の中で、参観者が気軽に感想や意見を言い合い、「図形感覚を豊かにするには良いが、図形の論理を学ばせる点ではどうか?」など、今後の実践に向けた有効なアイデアが検討されていた。
 また、同会メンバーによるミニ講座や4テーマのワークショップなども実施された。ワークショップのひとつでは、数式を言葉に置き換えるなどの算数嫌いな児童を算数好きにするための提案が示されていた。



[7月24日]

ユネスコのESD教材「kids X change」

 「持続発展教育(ESD)とこれからの学校の役割」をテーマとした「ユネスコ・スクール・シンポジウム」(主催・ユネスコ・スクール・シンポジウム事務局、共催・文部科学省、日本ユネスコ国内委員会、日本通運鰍ネど)が7月12日、東京・港区の日本通運本社ビルで開催された。ユネスコが作成したESD用教材の翻訳版「kids X change」(小学校向け)を使用した授業実践が公開された。
 
■若者向けを小学生向けに翻案
 公開授業で用いられた教材は、「国連・持続可能な開発のための教育の10年」用教材として作成された「kids X change〜子どもが変われば、地球は変わる」(A4判、20ページ)。
 もともとユネスコとユネップ(国連環境計画)では、主に10代の若者を対象に、持続可能な社会のための生活や消費への気づきを提供することを目的とした環境プログラムである 「youth X change」を開発しており、これをわが国の小学生向けにわかりやすく翻訳・再構成したものがこの教材である。監修には、北俊夫国士舘大学教授が当たり、日本通運鰍ェ作成に協賛している。
■エネルギーと温暖化を考えさせる
 公開授業は3コマ実施された。授業者は、東京都世田谷区立戸塚小学校の坂本正彦校長、東京都調布市立布田小学校の寺木秀一校長、東京都江東区立東雲小学校の手島利夫校長。授業を受けたのは、いずれも東雲小学校4年生の児童ら。同校は、ユネスコ・スクールとしてESDに積極的に取り組んでいる学校でもある。
 坂本校長は、社会科で「ごみのゆくえ」の授業を実施。まず、過去10年間のごみの総排出量推移のグラフや写真などを示し、ここからわかることを児童らにワークシートにまとめさせていく。
 続いて、教材「kids X change」を用いて、ごみを減らすために、世界中でどのような取り組みが行われているか、中国、インド、日本の実態について学び、自分でもできることはきちんとやっていかなくてはならないことに意識を向け、授業をまとめた。
 理科でエネルギー問題を扱った授業を実施したのは、寺木校長。冒頭、教材の「くらしに欠かせないエネルギー」のページを使って、児童らにエネルギーを「何かを燃やして作るエネルギー」と「何も燃やさないで作るエネルギー」に分類させ、エネルギーと地球温暖化の関係について考えさせていく。
 次に「光る風力発電キット」の製作を実施。ペットボトルを再利用して羽根を作り、太陽電池パネル、モーター、発光ダイオード(LED)などを取り付けるもの。太陽光でモーターを動かしたり、羽根を回してLEDを点灯させたりする中で、エネルギーと自然環境との関連について考えさせることに成果を上げていた。
■無意識のESDが成果を上げる
 手島校長は、ごみ問題を、総合的な学習として取り上げた。
 まずは、プロジェクタを活用して、韓国、タイ、ベトナム、中国、インドなどアジア主要国の93年から今日までのごみの推移について学んだあと、わが国のごみについて予測させた。
 児童たちの多くは、ほかのアジア諸国のごみが右肩上がりで増えているのと同様に、わが国もごみが増えていることを予測した。
 だが実際にはこの15年間に、わが国のごみの量は増えておらず、その事実がわかったとき、児童からは「エーッ」という驚きの声が上がった。
 ここで手島校長は参会者に向けて「ごみが増えていないのは日本の学校で無意識のうちにESDが進められてきた成果だと思う」と呼びかけた。
 授業ではこのあと、日本通運が取り組んでいる環境のための工夫である「えころじこんぽ」「エコリサイクル便」などが紹介され、環境問題には企業も含めて多くの人が協力して取り組んでいかなくてはならないことを理解させた。
■高校生が国際交流の重要性を
 公開授業の最後には、J8(ジュニア・エイト)サミット2008に、日本代表として参加した4人の高校生が登場した。
 J8は、北海道洞爺湖サミットに合わせて実施されたもので、世界15カ国39人の子どもたちが参加し、子どもの視点から国際問題について討論を行ったもの。
わが国の代表である東京・渋谷学園渋谷高等学校の4人の生徒たちは、J8の体験を報告するとともに、国際交流の重要性を児童らに語りかけていた。



[7月17日]

将来の夢を描かせるキャリア教育

 子どもたちに将来の夢を描かせるのがむずかしいといわれる中で、東京都江戸川区立上小岩第二小学校(眞舘良郎校長、児童数331人)は、新しく開発されたキャリア教育用のノート教材を活用して、将来の仕事と夢について考える授業を展開した。
 
■夢は一人ひとり違う
 黒板には「夢」と大きく書かれた画用紙が6枚張られている。6年2組の教室、担任の関川俊一教諭による総合的な学習である。
 「みんなこれを見てどう思う?」との関川教諭の問いかけに「字の色が違う」「大きさが違う」と子どもたち。これは、クラスの子どもたち6人に自由に「夢」という字を書かせたものである。
 「サッと書いてしまう人もいたし、すごくていねいに書いている人もいました。字を書いてもらっても一人ひとり、こんなに違います」と関川教諭。夢は一人ひとり違うものであることを実感させる導入だ。
 進路に関する指導では、これまでに自分のなりたい職業についてインターネットなどで調べるという取り組みをしており、今回の授業はそれに続くものである。
■生き生きとしたエピソードに触れる
 ここで活用したのが、「夢わくわくノート」(B5判、49ページ、光文書院刊)である。この教材の前半には「20人の夢モデルわくわくストーリー」が収載されている。
 元プロサッカー選手の北澤豪さん、舞台女優で劇団四季所属の青山弥生さんをはじめ、フランス料理シェフ、救急救命士、アニメーター、居酒屋経営、絵本作家、畜産家など各界で活躍する多様な職業人のエピソードが紹介されている。
 子どもたちには、前週にこの教材が手渡され、自分がなりたい職業や興味のある職業に関するページを読んでくることが、授業当日までの宿題となっていた。
 「自分がなりたい職業が出ていて、ためになったという人はいるかな?」の問いに、数人の子が手をあげる。サッカー選手になりたいという子どもたちは、北澤さんのエピソードに触れ、「ブーイングを受けながらもがんばったところがスゴイ」「サッカーは感動を与えられるということで、役に立つ仕事だと感じた」などと述べた。
 このほか、教材に掲載されている菓子職人、アニメーターなど、自分がなりたい職業のエピソードに関する感想を、次々に語る子どもたち。
■やりがいと楽しさをつかむ
 また、なりたい職業が掲載されていなかった子どもたちも、「自分の希望する職業に役立つと思った話はあるかな」の問いに、これも多くの子どもたちが手をあげて感想を述べていく。鉄道運転士志望の子どもはレーシングドライバー、インテリアコーディネーター志望の子どもはアクセサリデザイナーのエピソードが役に立ったという。
 この「夢モデルわくわくストーリー」は、生き生きと仕事をする模様について語られたものであるため、子どもたちの感想からはエピソードを読んで仕事の楽しさや、やりがいを感じ取っている様子がうかがえた。関川教諭の「将来、楽しんで仕事に取り組めそうだと思う人は?」の問いには、ほとんどの子どもが手をあげた。
 もちろん、仕事は楽しいことばかりではない。エピソードにも苦労した経験が綴られている。しかし、子どもたちは「つらいことがあっても、新しい発見があるとうれしいと思う」「自分にしかできないことができたら、楽しくなると思う」などと発言し、仕事への意欲を見せていた。
■夏休みには発展的活用を
 授業後、「これまでの取り組みでは、将来の夢について具体的な職業をあげることができなかったり、漠然とした考えしかもてない子どももいました。しかし、きょうの授業では、大多数の子どもが意見をしっかり述べていましたし、仕事に対する関心の高まりを見ることができました」と関川教諭。
 生き生きとしたエピソードに触発され、仕事に対するあこがれや、将来に関する具体的な思いが形づけられてきたようである。
 この「夢わくわくノート」には、身近な人や興味のある人の夢を聞く「夢のインタビュー」と題するワークシート欄がある。
 関川教諭は、夏休みにこれを用いて、「自分の興味のある職業の人にインタビューをさせ、より一層仕事に対する具体的な考え方をもたせるようにしたい」という。



[7月14日]

小学校理科授業の充実図る

 小学校理科授業の充実を図るため、科学技術振興機構は、小学校5、6年生の理科の単元学習で、実験や観察を支援する「理科支援員等配置事業」を行っている。全国の公立小学校が対象で、大学院生や企業OB・OG、退職教員、地域人材などが理科支援員や特別講師として、都道府県や政令指定都市の教育委員会によって配置されている。福岡市立香住丘小学校では、支援員がミジンコなどの観察で、標本採集などの授業の準備段階から、心強い助っ人として活躍している。
 
■「この中に生き物いるかな?」
 ケンミジンコやカゲロウを顕微鏡で見て大興奮!――。福岡市立香住丘小学校(三久保佐和子校長・児童数833人)の5年2組は6月25日、理科の「生命のつながり―たんじょうのふしぎ」の単元学習を行い、理科支援員の協力のもと、4人1組のグループで、学校の近くで採取した水を顕微鏡で観察した。
 顕微鏡で見た水は、学校の近くの干潟、川、池、校内の観察池、中庭のため水、クラスに置いてある水槽の6種類。授業の冒頭、担任の新名一世教諭は、用意した水に小さな生き物がいるかどうかを予想させる。
 「全部の水にいると思う」と答えた子どもは、「微生物がいないと水はどんどん汚くなるから」と言うし、「中庭の水にはいない」とした子どもは「雨が降ってできただけだから」と、いずれも説得力のある答えだ。
 この学級では、前日に顕微鏡の使い方を学習してあったので、予想をしたあとは早速、グループごとに顕微鏡と6種類の水が入ったシャーレを受け取り、観察を始めた。
 教師と理科支援員がそれぞれグループを回る。プレパラートにスポイトで水をたらしていると「そーっとね」と声をかけたり、ピントがなかなか合わないグループには「一番上に上げておいて、それから下げないと」など、適宜、適切にアドバイスをする。
 また、理科支援員が用意しておいた微生物の顕微鏡写真と解説を壁に張ると、顕微鏡に映った姿と見比べながら「ボウフラや」「おお、ケンミジンコ!」などと、発見した喜びの声を上げる。中には「こんなん見たら、夢にでてくるやん!」とつぶやく子どももいて、それぞれ夢中になっている。
 クラスの水槽では、メダカを飼っていたので、その卵や稚魚がいるのが見える。稚魚を見た子どもが「でっかい目玉!」と驚くなど、子どもたちには、一つひとつが刺激的な様子。
 手際よく見ていったので、授業時間内ですべてのグループが6種類の水の観察をすることができ、干潟にはゾウリムシ、川や池の水にはカゲロウやケンミジンコ、観察池にはボウフラ、中庭の水にはミジンコ、水槽にはメダカの稚魚と全部に生き物がいたことを確認することができた。
 教師がこの日の授業の感想を聞くと、「いろんなものが見えてすごかった!」「水にはいろいろな生き物がいることがわかって楽しかった!」と、心に響く1時間だったことをうかがわせていた。
■工夫凝らして教材を準備
 この授業のために水を採取したのは、同校の理科支援員を務めている地域人材の3人。前日までに干潟や川、池に水を取りにいき、当日は午前8時に学校に来て、グループごとに配るシャーレを準備したという。
 支援員の1人、主婦の岸原千秋さんは「雨が降っている中で、川や池に水を採取しにいったけれど、一度目は流れが速くて微生物が採取できなかったので、2回採取しにいった」と振り返る。
 「1回目は、微生物がいるかどうか確認ができなかったので、2回目は学校から顕微鏡を借りて、採取した水をその場で確認した。なるべく多くの微生物が採取できるように、石の周りをこそぐのにストッキングを使って網を作った」など、工夫を凝らしている。
 同じく支援員で元小学校教諭の古賀悠子さんは、「微生物が弱らないか心配だった」と、子どもたちが無事に観察できたことにほっとしたようだし、もう1人の支援員で主婦の麻生由紀子さんも「雨の日に水を採取しにいったときは、もうみんなびしょぬれで大変だった。子どもたちが目を輝かせて観察している姿を見ると、うれしくなっちゃう」と顔をほころばせる。
 同校では、昨年度からこの3人が理科支援員として活動しており、今年度は、九州産業大学の大学院生1人が加わった。実験や観察がうまくいくように、事前に準備を整え、学習に立ち会い、後片づけまでしている。
 三久保校長は、「支援員の人はとても熱心」と手間隙を惜しまずに子どもたちのために活動してくれることに感謝しながら、「支援員の人たちがいなかったら、きょうの実験はありえなかった」と、教師だけでは観察のために水を採取しにいくのも難しいし、ここまで準備するのは時間的に不可能だとする。
 また、「きょうの子どもたちの目の輝きはすごかった。こうした体験が理科を好きになるきっかけとなってくれるといいし、支援員の人たちとの交流も、子どもたちにとって良い刺激になっている」と話す。
 支援員たちは、学校の外でも子どもたちから「今度、いつ来ると? 早く来て!」と言われるそうで、やりがいが大きいと、楽しそう。
 今年度が2年目で、だいぶ慣れてきたという同校では、昨年度よりもパワーアップした理科実験を行っていきたいとしている。



[7月7日]

いじめ・ゼロサミット

 千葉県八千代市では、市内全小・中学校35校(私立中2校を含む)の代表児童・生徒が集う「いじめ・ゼロサミット」を昨年度から実施。子どもたちによる「いじめ撲滅への誓い」と、各校での対策が話し合われる中で、それぞれの学校での対応策や、市ぐるみの行動機運も盛り上がり、今年も8月18日と21日に、第2回目の同サミットが行われる。
 
 同サミットは、同市内の子どもたちが中心となって「いじめ」への問題啓発と対策を共有し合おうと始まったもの。千葉県が07年に行った「いじめゼロ宣言」への共感と呼応も背景に、市としての活動を模索したところ、約20年の歴史があり、子ども自身が市議会を体験する「子供模擬議会」の一環に、このサミットを位置づけることが決まり、第1回目を昨年8月20日と23日に実施した。
 同市議会などを舞台にした報告では、市内各小・中学校の代表児童・生徒52人が集まり、子どもたちの主導によって、各校の「いじめ」対策の様子や今後の行動策などが話し合われた。
 小学校の事例としては、学級会でいじめを取り上げ、共通の合い言葉を決めることで認め合いの心をはぐくんだことなどが紹介された。中学校の事例では、いじめを考える教材で道徳授業を実施したり、「言われてうれしい言葉」「いやな言葉」についてアンケートし、うれしい言葉を積極的に使う習慣をキャンペーンなどで進めていることなどが報告された。
 また、一連の議論の結果は、4カ条からなる「いじめゼロ宣言」にも結実。約1年間を経て、ある学校では、宣言を踏まえた学級活動が行われたり、他学年交流を深めるための長縄大会の実施や、自分と他者理解のためのピアサポート授業などが推進されるなど、より一層のいじめ撲滅活動にも結び付いていった。
 「いじめゼロ宣言」4カ条とは、(1)私達は「やめる勇気」をもちます。人の心や体を痛めつける行為は絶対にしません(2)私達は「とめる勇気」をもちます。いじめから目をそらして逃げません。必ず、いじめられている人に救いの手を差しのべます(3)私達は「はなす勇気」をもちます。誰かに傷つけられていたら信頼出来る人に相談します(4)私達は「みとめる勇気」をもちます。自分と違う考え方や行動をとる人がいても、それぞれの個性を素直に受けとめます。 
 サミットを支えてきた同市教委教育総務部指導課の嶺岸秀一指導主事は、「いじめゼロに向けたシンボル『イエローリボン』着用の輪などが広がるとともに、子どもたちの思いを受け、各校教員もいじめ対策に一層本気になる状況が生まれた」と、その波及効果を喜ぶ。
 そんな盛り上がりの中で、第2回サミットが8月18日と21日に実施される。今年度も、市内全小・中学校から代表48人が参加し、経過報告と他校との意見交換を図る。
 「サミットでは、教師が主導するのではなく、子ども自身が『いじめ』に向き合い、それぞれの視点で対策を話し合える場となれば」とその意義を語る嶺岸指導主事。さらに、「将来的には、『いじめ』だけでなく、市内すべての子どもたちが、学校の垣根を超え、気軽に話し合える場とするのが目標」との思いも示している。



[7月3日]

生命のメッセージ展

 愛知県弥冨市立白鳥小学校(山田良治校長・児童数331人)では、今年2月22日から24日までの3日間、体育館で「生命のメッセージ展in白鳥小学校」を開催した。「生命のメッセージ展」とは、交通事故や凶悪犯罪、いじめなどで「理不尽に命を奪われた人たち」(メッセンジャー)の等身大の人型パネルと遺品の靴などを展示し、オブジェとの対話を通して命の重さを伝えるアート展。
 
■PTA活動を通して
 「生命のメッセージ展」は平成14年から始まり、全国で48番目、同校で3回目の開催となった。開催に際して、子どもたちにメッセージが伝わるように、遺族の方々に一言メッセージを書いてもらい、合わせて展示することにした。
 同校のPTAでは、平成18年12月に「いじめ等撲滅のための教育懇談会」を開催し、いじめについて考える機会を持った。
 平成19年度に保護者のSさんが突然来校し、「生命のメッセージ展」の開催の要望が出された。Sさんの長男W君は、6年前の小学校入学直前に交通事故で亡くなった。Sさん夫婦は、同じ学年の子どもたちが卒業する前に来校したい願望をもっていた。
 そこで、Sさん夫婦や同級生のお母さんたち、PTA役員が中心になり、全校に呼びかけて実行委員やボランティアを募集したところ、50人あまりの有志が集まった。
 何回も会合をもち、自校にあった「生命のメッセージ展」のあり方を話し合い、体育館を生かした展示の準備を進めていった。
 ■生きたかった人の思い巡らす
 第1日目。開会式と「生命のメッセージ展」代表の鈴木共子さんの講演会を実施した。4〜6年生の子どもたちに命の重さを伝えてもらった。
 第2日目。パネル等を見学するオブジェとの対話に加え、ピアノ演奏があり、保護者・一般向けの講演会や音楽演奏会を実施した。涙なくして聞けない講演会であった。子どもたちに絵本などの読み聞かせを行うブースも設けられた。
 第3日目。パネルなどを見学する対話に加え、ピアノ演奏があり、閉会式では見学者全員で合唱を行った。参加者全員、胸が一杯になった。
 在名古屋のテレビ局による連日の放映や新聞各紙の報道もあって、全国から2500人の参加者があった。
 【子どもたちの感想】
「Wくん、Mちゃん、いっぱいあそびたかったね。お空の上で会いたいな」「みんな、死にたくなかった。みんなつらかったろうな」
 【保護者等の感想】
 「命はリセットできない。たった一つの命を大切に生きてほしい」「オブジェには命の重みとともに果たせたかもしれない夢が、絶たれた苦しみを強く感じた」
 今回のアート展はPTAが中心になり、弥冨市・弥冨教育委員会・地域の人たちを巻き込み、「『命の重さ』を伝える事業になったと確信している」と同校は話している。



[6月30日]

食育で自分の生き方を考えはじめた

 子どもの変容を通して家庭に刺激を――。文科省は6月19日、同省講堂で平成20年度食育推進交流シンポジウムを開き、今後の食育の取り組みを効果的に展開するには、どうしたらよいかを討議した。取り組みの中には、京懐石の話を聞き、自分の生き方までを深く考えはじめた子どももいた。
 
■京懐石のしにせが出前授業―自分の生き方まで考え始めた
 「学校・家庭・地域の連携による子どもたちに対する食育の推進について」をテーマとしたシンポジウムでは、京懐石のしにせ「近又」代表取締役で京都市内の小学校や教職員を対象に食育の授業を行っている鵜飼治二さんが、「最近、取材に来る人でもネットで情報を見ただけで来るので、薄っぺらな知識しか持っていない。もっと子ども時代から食の大切さや楽しさなどを実感して学んでほしいと思い、小学校にも出向いて授業をしている」と、出前授業を行うようになったきっかけを語り、「私は味覚、食材、調理を3つの柱として授業を行うので、まずは水にしょうゆなどの調味料を入れたもの、だし汁、だし汁に調味料を入れたものを子どもたちに味見をさせ、違いをきくところから始める」と話した。
 子どもたちに、はじめに日本料理の基本であるだしの大切さを意識させ、それから京野菜を生のまま食べさせて素材を発見させ、その後、かつらむきなどの技を見せて調理することの奥深さを知ってもらう。
 すると子どもたちは、わずか45分の授業でも、野菜嫌いだった子どもが食べるようになったり、「苦しいことってありますか?」といった質問をしてきたり、感想文に「私はバレリーナを目指しているが、もっとがんばろうと思った」など、自らの生き方にまでひきつけたことばが出てくるという。
 鵜飼さんは「子どもはちょっとしたきっかけで変わる。命をいただくということも知ってほしいので、目の前で生きている鮎を串にさしたり、跳ねている車えびの頭をとって開いたりする。子どもたちはびっくりはするが、他から命をいただいていることを認識する」と、本物を見せることで子どもたちは、驚いたり深く感じたりする中で、心が動くのだと語った。
■様々な教科の中で実践できる―幼い子ほど本物に出合ってほしい
 学校栄養職員として教員と連携して食育の授業に取り組んでいる愛知県犬山市立東小学校の倉橋伸子栄養教諭は「今ある教育課程の中で試行錯誤しながら取り組んでいる」と前置きし、「今年度、私の学校では全ての学級で食育を行おうということで、それぞれの教員が実践している。先だっては、新任教員が道徳の中でやりたいと相談してきて、既存の教材ではどうしてもできないのでと言って、自ら新しい教材を作るので手伝ってほしいということで協力した」と語り、やろうと思えば、様々な教科の中で実践が可能だ。
 保護者代表として発言した(社)日本PTA全国協議会の加藤二佐雄副会長は、「早寝早起き朝ごはんといわれて、親たちもずいぶんと食に対する意識が高まってきているようには思うが、まったく頓着しない親も依然として多く、二極化しているといえる。食育は家庭ですべきと言われても、若い世代の親たちには難しいところもあり、やはり学校の影響は大きい。親は子どもの言うことやすることは自然と受け止めやすいので、ぜひ、学校でいろいろなことを教えてもらって、親を刺激してほしい」と、子どもから取り組んでいくことが効果的であるとした。
 長く小学校長を務めた松本和昭長崎純心大学人文学部准教授は、「たしかに、子どもが変容すると、親はそれを受け止める。幼い子どもほど本物に出合ってほしい」と、鵜飼さんのような人の出前授業はもちろん、お米作りなども理科の実験のようにするのではなく、最後には、命をいただくというところまでもっていってほしいと要望。
 そうした農作物を育てる体験などは、教職員にとっても難しい場合があるので、そんなときには地域の人の力を借りるなど、教職員も子どもたちと一緒に学ぼうという姿勢が大切とした。
 そして「せっかく栄養教諭制度や食育基本法なども整備されてきたのだから、各学校で、農業も含めた食育に、もっと取り組んでほしい」とし、体験を含めて、子どもたちの心に響く食育の授業が全国で広まっていくことを期待した。



[6月26日]

「校庭しぜん体験博物館」で学ぶ

 横浜市立下永谷小学校は、地域協働などを交え、あらゆる学習の軸に“環境”を位置づけた実践を進めている。敷地内に設けた「校庭しぜん体験博物館」というフィールドを有効に生かしているのが特長で、地域のゲストティーチャーも参画しながら、子どもたちは、田畑やカエル池、野鳥観察コーナー、ビオトープなど十数種におよぶ自然体験ゾーンの中で、豊かな体験知をはぐくんでいる。「環境」を全学習の柱にした実践が志向される中で、給食残菜量を折れ線グラフに表す算数授業なども実践され、環境理解を幅広い視野で捉える力もはぐくまれている。
 
■14のフィールドで生き生き学習活動
 同校(大石久宜校長、児童数815人)の「校庭しぜん体験博物館」は、「子どもたちが自然と関わる場を身近な場所に」との思いで、10年ほど前から設置を始めたもの。
 学校の敷地内に、様々な昆虫が生息できる「ムシムシランド」と称した茂みや、木材で囲って作った「丸太の畑」、オフシーズンのプールに貯まった水を生かした「ヤゴプール」など14カ所におよぶ「小さな自然」で生態系を体験できる小フィールドを整備。これらのエリアを総称して「校庭しぜん体験博物館」と名づけた。
 そんなフィールドを活用した授業は盛りだくさん。生活科では、田んぼでの収穫作業とともに、刈り取った後の稲束をプールの中に投げ入れ、ヤゴの生息環境に生かす取り組みを行うなど、様々な体験活動を絡め、子どもたち自身が、自然界の様々な関係や生態系を深く実感できるよう工夫が図られている。
 ■地域との連携の輪が広がる
 また、これらの活動を進める中で、地域との関わりの輪も拡大。同博物館作りでは、教職員はもとより、同校卒業生(下永谷卒業生クラブ・メンバー)も参加し、共に汗を流したり、同博物館の田んぼの授業では、苗代作りと収穫に地域の農家がゲストティーチャーとして加わり、専門家ならではのアドバイスによって、子どもたちの米作りの理解を一層深めることにつなげた。
 このような連携気運の高まりのもとで、昨年度からは、横浜市教委から「パイオニアスクールよこはま」の指定も受け、同博物館を活用した地域協働や学校間交流の輪を一層広げる活動にも取り組んでいる。
 具体的には、「地域交流室」の設置や、「学校運営協議会」の立ち上げにより、両者が連携した地域ぐるみの教育を本格的に実現させようとするもの。
また、地域内の小・中・高校の授業交流や合同事業の促進も目指し、話し合いの場である懇話会の拡充と機能強化も推進。学区内の学校間交流を密にすることで、小・中学校間の移行ギャップを減らしたいなどとしている。
 ■全学年・全教科で環境学習
 一方、同校の環境教育は、総合的な学習や特別活動だけで実施するのではなく、全学年のあらゆる教科学習に盛り込まれ、実践を進めている点が特長。
 2年生の国語では、子どもたちが育てた野菜を、5観点(見る、触る、嗅ぐ、音を聴く、気持ち)を押さえながら観察し、その様子を短冊上に文章でまとめたり、4年生の算数では、給食残菜をテーマに、その推移を折れ線グラフで表す授業などを行っている。
 そんな学習のねらいについて大石校長は「環境への素養は、あらゆる分野で必要なもの。特定の学習活動だけで考えるのではなく、各教科の特性を踏まえ、様々な教科に“環境教育”を位置づけることが大事」と指摘する。
 また、一連の活動成果については「長年、地域に在住するゲストティーチャーから教職員も教材開発などで刺激を得ている。田畑での収穫後は、楽しい餅つき大会などのイベントも実現し、相互の親睦にもつながった」などと成果を挙げる。



[6月23日]

他者と豊かに関わる学習を追究

 茨城大学教育学部附属小学校は、「人らしく生きる心をはぐくむ」をテーマにした各教科の授業研究会を6月6日に開催した。研究のサブテーマに「『あい』ある学びをつくる」を位置づけ、「出会い」「学び合い」「つなげ合い」などを通じて、子どもたちが自らを深めたり、他者と豊かに関わる学習を追究。6年生の社会科授業では、文化遺産を切り口に各時代(奈良、平安、鎌倉)の歴史を見る目(アイ)を育てようと、正倉院などの建築物と歴史上の人物との関わりを写真資料や学び合いで深めていく様子などが公開された。
 
 ■出会い・学び合い・つなげ合いで解決策導く
 同研究のテーマである「人らしく生きる心をはぐくむ」は、子どもたちが集団の中で学び、他とともに生きる心と力をはぐくむことを目標に設定したもの。
 3年間の研究では、各教科に応じた学習計画づくりから、教育環境づくり、出会いや学び合いを通じた「あい」ある学びの実現を段階ごとに積み重ね、各教科の特色ある学習へと結実させている。
 そんな研究背景のもと最終年を迎える今年度は、「自己内対話が生まれる『出会い』」「共に何かをつくりだしていく互いの『重ね合い』」の2つの“あい”を視点に、授業づくりへの工夫を積み重ねた。
 そのうち、各教科学習(みがきあいの時間)では、子どもたちに課題意識を持たせると同時に、協力して解決策を導き出せるための授業を模索。
 様々な詩などを使い、言葉を通してつながる実感を育てていく国語や、筋道を大切にすることをテーマに、チーム数からトーナメントの組み合わせを考える算数などを展開し、子どもたちが、学びの実感を得ながら知恵を磨いていけるような実践を実現させた。
 さらに、各授業設計に当たっては、重視すべき学びのポイントと評価観点を明確にするための「WISHプラン」というモデルを活用。各学習で子どもたちが触発された課題や思いを把握しながら、どのように知恵が膨らんだかの経過を見取り、その結果を新たな授業に反映させる努力を続けた点も特長だ。
 ■資料集や話し合いで時代を実感
 そんな中で、6年2組の社会科では「歴史アイ・時代に迫る〜奈良、平安、鎌倉時代の文化」と題する授業が公開された。
 授業では、子どもたちに3つの時代(奈良、平安、鎌倉)を代表する文化遺産建築(正倉院、平等院鳳凰堂、東大寺南大門)を見比べさせながら、各時代の特色を読み取ったり、歴史変遷を見る目を持たせたりすることがねらい。
 冒頭、黒板上に、3枚の文化遺産建築の写真がバラバラに並べられた。それらの写真を子どもたちが見比べ、時代順に並び替える作業から授業は始まった。
 検討の中では、資料集での調査や仲間同士の相談を交え、各時代の基礎知識も学んだ子どもたち。その後、時代順に並び替えた写真を見比べる中で「歴史をたどるごとに建物がだんだん大きくなっている」などの様々な発見をし、多様な意見を共有し合った。
 そんな気づきを受け止めながら指導した久地岡啓一郎教諭は「どうして3つの建物はそれぞれの時代の文化を代表しているといえるのか?」と子どもたちに問いをかけた。
 各建築物の違いや特徴をとらえながら、時代との関係を読み取らせる展開へと流れを進めた。
 その際、各建築物と関係の深い人物や収蔵品などの名も挙げるようにし、子どもたちが調査で混乱したり、学習の視点が拡散しないような指導上のサポートも実施。
 鎌倉時代の東大寺南大門の考察では、門内にある金剛力士像の写真を、作者の運慶の名前とともに補助資料として提示。実物は8メートルにもなるとの解説を加え、力強い彫像の迫力を大きなパネルで示し、子どもたちに武士の時代を意識させる手がかりを与えていた。
 これらをきっかけに、平安時代と平等院鳳凰堂の関係では、「当時の貴族のように華やかな極楽を地上にあらわしているから」といった意見も聞かれ、子どもたちが当時の生活を想像したり、現在とのつながりをも意識した奥行きのある歴史観を刻む一歩となったようだ。



[6月16日]

教え合いで学習意欲を向上

 日本協同教育学会(会長・安永悟久留米大学教授)は、第5回大会と国際協同教育学会創立30周年記念大会を6月6日と7日の2日間、中京大学(愛知県・名古屋市)で同時開催した。日本協同教育学会では、協同教育の研究や教育現場での実践など約20の発表があった。また、国際協同教育学会のイェール・シャラン会長が協同教育について講演した。国内外の教員や大学教授ら約200人が参加し、協同教育の意義を再確認する大会となった。

 
  日本協同教育学会では、静岡県立浜松東高等学校の山口権治教諭が「カウンセリングマインドを活かした協同学習」と題して発表した。
 山口教諭は担当する英語の授業で、協同学習を実践し、生徒に及ぼす学力と学習意欲について調査。協同学習の導入により、生徒同士の教え合いが生まれたことで学習意欲がかき立てられ、半年間で平均偏差値が48・4から51・7に向上するなどの成果をあげたと発表した。
 また、愛知県犬山市楽田小学校の川井英治教諭は、昨年度まで勤務していた犬山南小学校での実践研究について「学び合い、高め合う子を育てる授業改善の進め方」と題して紹介。子どもたち全員の学力を保証するため、学校文化をよりよいものにしようと取り組んだ。学級では子どもたちが学習に全員参加することや、発表の際子どもたちに向かってするなどの学習規律を子どもたちとともに作り、学校全体では教師全員が研究授業・授業公開を実施し校内研修に努めた。
 同教諭は、「これらの実践により、学校全体で教育活動を進めていくためのベースをつくることができた」と成果を述べた。
 さらに、新潟市立寄居中学校の関根廣志校長は、「中学校における自主協同学習の展開」と題して発表。「中学校教育に要請されている今日的課題は学力の向上と人間関係づくり。子どもたちを受容し支援しながら、自立する子どもを育てるのが道筋。学校経営にこそ、自主協同学習の真価が発揮されると実感している」と語った。
 パネルトークでは、都留文科大学の福田誠治教授、常葉学園短期大学の鈴木克義教授、常葉学園大学附属橘小学校の田中いずみ教諭が「協同学習と小学校英語で学力世界一ーフィンランド・メソッドの本質とは」をテーマに発言した。
" この中で田中教諭は、5・6年生の英語の授業で絵本の音読を取り入れて指導をした。当初、一斉指導と個人指導をしたところ、個人差が浮上した。そのため、協同学習を取り入れグループ学習で、""Roung&round reading""を実施したところ、開始3カ月後のアンケート調査では「以前より絵本が読めるようになった」と答えた子どもが95%に達した。""
"  また、オープンスペースでの補習授業は、多くの子どもたちの学習意欲を高めたことを紹介した。
 このあと、シャラン会長は、講演で「協同学習を教室に取り入れるためには、教師が子どもたちが多様な知識やアイディアを持っていることに気づくことが重要。そして、教師は子どもたちと『答えがたった一つしかないという質問はしない』という契約をしなければならない。協同学習を行うことで、より豊かな考えが教室に満ち溢れるようになるでしょう」と協同学習の意義を語った。 

一方、国際協同教育学会は、ジョージ・ジェイコブ国際協同教育学会理事(シンガポール)が「協同学習を導入したコミュニティの問題解決」、グワダベ・クラワ氏が(ナイジェリア)が「個人差対応に関する小学校教師の視点に関する研究」、ウイニー・ソ氏(香港)が「科学教育における協同学習グループの活用」について発表した。日本からは杉江修治中京大学教授らが「グループプロジェクト法によるHIV教育の効果」について発表した。



[6月12日]

動機づけ追究し学習指導を工夫

 埼玉大学教育学部附属中学校は「生徒の『学びがい』を引き出す学習指導の工夫」と題した実践成果を5月27、28の両日、同校の教育研究協議会で発表した。研究では、学びがいを持たせるための教科ごとの“動機づけ”のあり方を追究した点がポイント。国語、数学など10教科を授業公開し、社会科では、Jリーグなどの地域題材なども絡めて明治維新の政策を討議するワークショップ型授業を行ったり、公園の騒音について生徒がディスカッションを通して問題解決に参画し、法の意義や個人と社会の関係を考える授業などが行われた。
 
■「学びがい」を引き出す
 同研究では、生徒が学びがいをもって学習に取り組めるよう各教科の学びの「動機づけ」を3年間を通して明らかにしようとしたのがポイント。平成17年度から、(1)学習の動機づけの考察(2)学び続ける生徒の育成(3)学びがいを引き出す学習指導という観点で段階的な研究に取り組み、各教科の特性を踏まえた具体的な授業づくりを模索した。
 そのうち、学びの動機づけの考察では、意欲が生じない理由を、注意、関連性、自信、満足感の4観点から探る「ARCS動機づけモデル」なども交えて検証。学習動機が個々で異なる点を踏まえ、授業設計を工夫することなどを確認した。
 続いて、生徒の学習意欲についての追究では、「基礎・基本の習得」「やや難しい課題による克服経験」「学びが生活の中で活用できる」などが重要なことを明らかにし、研究テーマの「学びがい」を引き出す実践づくりへとつなげたことを報告。
 そんな検証を踏まえた各教科学習では、「学び合いや実生活との関わりをより意識した実践づくり」(国語)や、「学びがいを引き出す工夫と、それを生かす単元の指導計画を作成」(数学)などの研究観点を生かした授業をそれぞれ構築。
 公開授業では、1年生の国語で、リズム、タイトルなどに着目し、各生徒が薦める詩を紹介文にする授業や、林間学校のコース選択に向けて数字を整理したり、連立方程式で問題を解く力を磨く2年生数学の授業などを行った。
■地元J1チームから明治の学制へ
 そのうち社会科では、1年生の「世界と日本の地域構成」、2年生の「明治維新」、3年生の「個人と社会生活」の3つの授業を公開した。
 2年生の「明治維新」では、地域題材をふんだんに取り入れながら、日本の近代化のために明治新政府が取り組んだ諸政策を考察する授業を展開。基礎知識はプリント教材で押さえながら、生徒の学習意欲を喚起するワークショップ型授業を進めた。
 指導した鈴木和博教諭は、導入教材として地元のJリーグ1部の浦和レッズのエンブレムを活用。絵柄に描かれている埼玉師範学校(鳳翔閣)に着目させることで、明治の「学制」に興味を持たせ、その具体像を生徒に探究させていった。
 明治9年時の埼玉県浦和の小学校一覧を資料として投影し、見比べさせると、「女子の学び手が少ない」「寺を校舎代わりに使っていることが多い」などの声があがり、地元の過去をたどる中で、生徒が当時の学校教育の状況を読み取っていく様子が見受けられた。
 そんな地域題材に学んだ後は、グループの話し合いを交え、五箇条の御誓文、徴兵令などの政策を重要度の高い順に並び替える活動なども実施。
 生徒たちは資料集などを使い、各政策の意味などを調査。近代化という時代に思いを馳せながら、それぞれが論点を持って明治という時代を深める授業が展開された。
 また3年生の「個人と社会生活」の授業では、ある町内の公園で起きた騒音問題について、解決への話し合いをグループで進める学習を実施。
 各グループは、公園で遊ぶ子どもの声がうるさく、その元である遊具の撤去を求める近所の住民や、子どもの遊び場である公園は必要、遊び声は特に気にならないといった親など様々な立場を担当した。
 弁護士のゲストティーチャーも迎え、それぞれの立場の意見の中から、社会生活と法の関係を学び、新たなルールづくりやその妥当性の在り方について、考えが深められていった。



[6月9日]

モジュール授業の極意を伝授

 指導者養成講座(日本教育再興連盟教員事務局主催)がさきごろ、東京・江戸川区の総合文化センターで開催された。講座では、100ます計算などで有名な立命館大学・大学教育開発支援センターの陰山英男教授が、自身の指導メソッドの数々を紹介するほか、各講師から、教科ごとのモジュール授業の具体例や、ICTを生かした実践アイデアなどが説明され、参加教員は実際に教材に触れながら、その効果を確かめ合った。
 

 ■朝一番、教師の得意分野生かす
 陰山教授は、学習作業の質と量が学力を決定するとして、スピード、テンポ、タイミングを意識した徹底反復による「モジュール授業」の意義を強調する。「見栄えの良い授業と伸びる授業は違う」との主張のもと、同授業の意義やポイント、教科別の指導方法などを紹介した。
 モジュール授業とは、15分ほどの短時間で、計算(100ます計算など)や、漢字練習などの基礎を徹底反復する学習。音読なども交え、スピード感を持って繰り返し問題を解く作業を進める中で、脳の鍛錬や知能の向上につながるという。また、脳と体と精神の基礎が鍛えられ、学習に取り組む上での土台強化になると指摘する。
 そんなモジュール授業の効果をもとに、具体的な実践方法を陰山教授が解説。押さえるべきポイントを、@朝一番、できれば一斉に週3日以上、15〜45分間行うA脳トレーニングという観点も含め「スピード」「テンポ」「タイミング」を重視B内容はあまり縛らず、教師の得意なものを生かす――とし、各教科での活用例を示した。
 ■国語では音読、算数では「倍の概念」理解を
 まず国語では、脳を鍛える意味からも文章の音読練習の重要性を指摘。カルタや百人一首などを用いて、早くすらすらと読めるように繰り返させる点などを押さえた。
 そして、小学校の漢字指導については、まず教え、プリント上で書けるようにするという“詰め込み”学習の意義を語り、学年ごとの指導の要点を説明した。
 学習内容を前倒し、スピード感のある学びとするのを基本として、1年生段階では丁寧な指導を心がけながらも、2〜4年生では学期分か前後期分を、5、6年生では年度分をそれぞれ前倒して進める――などとした。満点が取れるような宿題を出したり、小テストで8割取れたら次の段階に進むなどの工夫も挙げた。
 そのほか、代名詞や主語―述語、修飾―被修飾の関係をきちんと理解させることや、「辞書に親しませる」「日記などで毎日文章を書かせる」「土・日曜日の宿題を読書にして読む量を増やす」などの国語力育成への留意事項を挙げた。
 一方、算数では、豊富な計算練習を通じて集中力を育てるとし、小学校低学年では、そろばん、おはじきなどの具体物を使って計算の理屈をじっくりと教えながら、基礎的な計算力を10ます、100ます計算と積み上げていく流れを提示。その際、低学年は3分以内、3年生以上では2分以内の時間で集中して取り組ませようと述べた。
 また、算数指導で注意する点として「倍の概念」の理解を挙げ、「文章題の式には単位を付ける」「解き方の説明は1文ずつ区切り、箇条書きに」「ノートは丁寧に書かせる」などのポイントを説明しながら、系統性を持った学習を大事にしようと呼びかけた。
 ■カード活用で遊びながら覚えひらめき速く
 ほかにも、各講師による様々な実践が披露された。
 学習カードカルタ研究会の三橋勉代表は、カードカルタを使ったモジュール学習の例を示した。そのうち「歴史人物カードカルタ」は、対戦ゲームやグループでのカルタ取りなど、子どもたちが夢中になって取り組める多様なバリエーションのモジュール授業に活用でき、これによって歴史上の人物とその役割などを遊びながら覚えることができるなどと、教材の特色を語った。
 また、広島県尾道市立土堂小学校の山根僚介教諭は、ICTを活用したモジュール学習について語った。資料のページなどを瞬時に表示できる「実物投影機」や、パソコン内に蓄積した資料を次々に表示できる「フラッシュカード」などを取り上げ、モジュール授業の“スピード、タイミング、テンポ”を生かす教具として大いに利用できるなどと提案した。
 同事務局/рO43(257)6815。





[6月2日]

教育格差拡大くっきり

 ベネッセ教育研究開発センターは、小・中学生のいる首都圏の保護者を対象に、昨年9月に「子育て生活基本調査」を実施。このほどまとめたその報告書によると、小学生の保護者の場合、経済的にゆとりがあり、学歴が高いほど、子どもに中学受験を志向し、多額の教育費を支出する傾向が強まり、家庭による教育の格差拡大は、確実に進行していた。
 
 調査は、98年12月(第1回)、02年9月実施(第2回)に次ぐ、第3回目。
 報告書は、「子どものしつけ・教育観」「子どもの学力・習い事・進路」「『子どもの学習』へのかかわり」「家庭による教育の格差」の各章からなっている。
 このうち、「家庭による教育の格差」(分析・木村治生ベネッセ教育研究開発センター教育調査室長)については、興味深い結果が出ている。
 まず、母親の学力観。9年前の第1回調査と比べて大幅に減少しているのは、「将来ふつうの生活に困らないくらいの学歴があればいい」47.0%(98年調査58.1%)、「どこかの大学・短期大学に入れる学力があればいい」24.7%(同30.7%)で、逆に増えているのは、「できるだけいい大学に入れるよう、成績を上げてほしい」25.5%(同18.0%)である。
 また、「ふつうの生活志向」の母親は高学歴志向が弱く、4年制大学以上を希望する者は38.1%にとどまっている。
 次に、「母親の学歴」の違いごとに、学力観がどう変化したか。「できるだけいい大学に入れるよう、成績をあげてほしい」という考えは、全般的に、経済的にゆとりのある家庭の母親や「大学・短大卒」の母親ほど強く、経済的にゆとりのない家庭の母親や「非大学・非短大卒」の母親ほど強くなく、両者の差が拡大していることがわかった。
 学校外の教育費の格差も広がっている。中学生では、「月2万円以上」の支出が42.3%。「月4万円以上」は小学6年生で20.0%、中学3年生で19.9%。
 その教育格差は、(1)家庭の経済状況(2)母親の学歴(3)中学受験――のいずれによっても拡大していた。
 このうち、家庭の経済状況では、経済的に「ゆとりがない」家庭よりも「ゆとりがある」家庭のほうが教育費は伸びており、小学生の場合は、9年前の差は1万3000円弱だったが、今回は1万9000円に拡大していた。中学生の場合は、小学生ほどの差はなく、5000円程度である。その理由については「多くの中学生にとって、高校受験が必須であり、そのため経済的なゆとりの有無を問わず、受験の準備が必要になるためである」としている。
 また、子どもに中学受験を「させる」と回答した場合の支出額は、年を追うごとに増加。9年前の調査では4万2500円だったが、今回は約4万7000円で4000円程度増えている。これに対し、中学受験を「させない」場合の支出額は、9年間ほぼ横ばいで1万1000円台。
 これらの結果について木村室長は、「00年前後に起きた学力低下に対する懸念や、その後の学習指導要領の改訂(完全学校週5日制、教科の学習内容の削減など)は、保護者の教育に対する不安感を高めたと考えられる。しかし、そうした教育の状況に敏感に反応した保護者と、そうでない保護者がいたことは否めない。そのための教育費は、より多く負担できるような条件をもつ家庭でのみ、学校外の教育費の支出が増えている。家庭による教育の格差拡大は、確実に進行しているようだ」と分析している。
 同調査は、昨年9月、首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の小学1年生〜中学3年生の子どもがいる保護者7282人(母親は6770人)を対象に実施され、約7割から回答を得た。調査項目は、「子育ての悩み・気がかり」「しつけ教育の情報源」「子どもの家庭学習の様子」「子どものメディア利用」「学力観・勉強観」「教育費」など18項目に及んでいる。




E-mail:kyoiku@kyobun.co.jp Copyright(c) Kyoiku Net
Kyoiku Netに掲載の記事・写真・図表などの無断転載を禁止します
著作権は教育新聞社またはその情報提供者に属します