斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」
第4回 私論:平成仮面ライダー・シリーズとの9年間(3)
「カブト」~「キバ」
斉藤守彦
☆天の道を行き、総べてを司る男。
「仮面ライダーカブト」
【DATA】
●オンエア期間=2006年1月29日〜2007年1月21日。全49話
●最高視聴率=10.9% 2006年1月29日(第1話)
●映画=「劇場版 仮面ライダーカブト/GOD SPEED LOVE」」2006年8月5日公開。興行収入9.5億円
【3years after impression】
●渋谷に落下した大隕石が惨劇を巻き起こし、同時にワームと呼ばれる宇宙生命体による浸食が開始された。人類は秘密組織ZECTを結成し、マスクドライダーシステムを開発。ワームに対抗する…従来のライダー・シリーズにはないハードSF的設定と奥行きのある世界観が感じられ、冒頭から大いに期待を募らせたが、残念ながらその期待は裏切られた。
●主役である天道総司が、「クウガ」〜「龍騎」「ヒビキ」の、いわゆるいいヤツ系とは一線を画する存在で、プチ傲慢な自信家であるあたりは新鮮なのだが、肝心のストーリーが当初の設定をさておいて、コメディ・タッチの料理バトルばかりに終始するあたりはいただけない。複数のライダーが登場することも、もはやパターンとなり、装着者の変更などには驚かなくなってきているのは、我々視聴者がスレてきたのか。
●それでも中盤からは、ワームやマスクドライダーシステムの誕生の謎を解明するエピソードがオンエアされ、意図した世界観が描かれるかと思えば、ライダーシステムに脱落したふたりの男を「地獄兄弟」として復活させたり、再びコメディ・タッチのエピソードが続いたり、これまた「剣」同様に、複数の要素をストーリーの中で消化仕切れなかったきらいが残る。
●「おばあちゃんが言っていた。手の込んだ料理ほど、まずい」(天道)。
☆いーじゃん、いーじゃん! すげーじゃん!!
「仮面ライダー電王」
【DATA】
●オンエア期間=2007年1月28日〜2008年1月20日。全49話
●最高視聴率=9.4% 2007年3月11日(第7話)
●映画=「劇場版 仮面ライダー電王/俺、誕生!」2007年8月4日公開。興行収入13.8億円、「劇場版 仮面ライダー電王&キバ/クライマックス刑事」2008年4月12日公開。興行収入7億3500万円、「劇場版 さらば仮面ライダー電王/ファイナル・カウントダウン」2008年10月4日公開。興行収入7億2000万円
【2years after impression】
●ついに視聴率10%を超えることなく終了したシリーズだが、それとは対照的に、ビジネス的には大成功を収めたシリーズである。電車をフィーチャーすることで、本来ライダー・シリーズのメインユーザーであった幼児層の人気を掴み、関連玩具の売上はすべてのライダー・シリーズを通してトップクラスと言われている。またTVシリーズ・オンエア時に公開された映画版も、久しぶりに興収10億円台を回復。さらに本来OVとして制作したものを中規模マーケットで劇場公開したところヒット。さらにもう1本制作・公開されるというおまけがついた。
●この成功の方程式は、「龍騎」のそれを基盤としているように思う。つまり、俳優の演技とスーツアクターの演技が違和感なくマッチし、ひとりのキャラクター像を確立する。「電王」では良太郎(佐藤健)に複数のイマジンが憑依するが、イマジンによって良太郎の表情や言動が変化するあたりを、佐藤がさながらカメレオンのような絶妙な演技で答え、加えてイマジンの声に人気声優を起用することで、幅広い層の人気に繋がった。
●「俺、参上!」「僕に釣られてみる?」「俺の強さにお前が泣いた」「答えは聞いてない!」など、小林靖子によるシナリオからは、キャラクターを強烈に印象づける決めゼリフが続々と誕生。これまた子供たちの人気を集めたのみならず、20代女性層のイマジン・ファン(その中心は、いわゆる“腐”の方々だそうだ)の大量発生にも寄与した。筆者は「電王」オンエア時、銀座のレストランで「でねぇ、リュウタロスがいいんだなあ…」「ねー」との会話を耳にした経験がある。発言の主は、OLとおぼしき妙齢の女性たちであった。
●白鳥百合子!!彼女演じるハナの、プチ・バイオレンスな振る舞いに、「俺もモモタロスになって、彼女のあの足で蹴られたい」というM志向の男が増殖。筆者は彼らを「ハナマゾ」と呼んで敬遠したが、まあ気持ちは分からないわけでもない。痛いだろうが。美人で強気、グラマーで美脚。ハナのイメージは、彼女を演じる白鳥百合子とリンクしているように見えたが、実際はそうではなかったようだ。かえすがえすも途中降板が悔やまれる。
●「電王」のビジネス的成功は「龍騎」を基盤としているというのが筆者の見解だが、同時に「電王」のストーリー・パターンもまた、様々な意味で「龍騎」を踏襲しているように見える。時の列車で旅をするという設定そのものが時間SF的な世界観であり、それらをあますところなく映像化するのはなかなか難しい。いきおいセリフによる説明が多くなってしまうが、そのことが明るいストーリーラインを志向する姿勢と矛盾してしまう。例えば「特異点」という言葉の解釈は言語では可能だが、それをストーリーの中で説明し、視聴者を納得させるのは至難が伴う。そして「龍騎」にも見られた、変身と同時に思考停止。アクションの爽快感に身をまかせるというパターンは、キャラクターの個性が確立した分、「龍騎」以上に強まったと言えないだろうか。本来「電王」の世界は、映像よりもむしろ活字に向いているのではないか?とさえ思ってしまう。
☆「その命、神に返しなさい!」
「仮面ライダーキバ」
【DATA】
●オンエア期間=2008年1月27日〜2009年1月18日。全48話
●最高視聴率=7.7% 2008年3月16日(第8話)
●映画=「劇場版 仮面ライダー電王&キバ/クライマックス刑事」2008年4月12日公開。興行収入7億3500万円、「劇場版 仮面ライダーキバ/魔界城の王」2008年8月9日公開。興行収入9億円
【1years after impression】
●白倉プロデューサーから武部プロデューサーにバトンタッチ。「電王」が子供たちに受けたことを踏襲してか、「キバって行くぜ!」などの決めゼリフ、キバットIII世、タツロット、キャッスルドラン等のキャラクターに、流行と玩具化を意識した節が見られる。しかしストーリーのモチーフは吸血鬼伝説で、父と息子、ふたりのライダー、ふたつの時代を並行して描写するという野心的な試みが行われた。しかしながら、この試みは成功したとは言い難い。
●キャラクター的には、バリバリの二枚目と思いきや、「753」のTシャツを着用して、突如弾けまくった名護の存在が筆者的にはツボ。その「753」Tシャツの視聴者プレゼントの際、加藤慶祐が名護になり切ってイクサの変身ポーズに「住所、氏名、年齢、職業」とフレーズを当てはめ、「これを着て、私の弟子になりなさーい!!」と、いつもの名護の押しつけがましさで告知したあたりは爆笑ものであった。
さて、「仮面ライダーディケイド」は、いかなるライダーを見せてくれるだろうか?
(文中の映画興収は、同時上映作品も含む番組興収/視聴率はビデオリサーチ調べ)
私論:平成仮面ライダー・シリーズとの9年間(1) 「クウガ」~「龍騎」
私論:平成仮面ライダー・シリーズとの9年間(2) 「555(ファイズ)」~「ヒビキ」
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