斉藤守彦の「特殊映像ラボラトリー」
第4回 私論:平成仮面ライダー・シリーズとの9年間(2)
「555(ファイズ)」~「ヒビキ」
斉藤守彦
☆哀しみを繰り返し、僕らはどこへ行くのだろう…
「仮面ライダー555(ファイズ)」
【DATA】
●オンエア期間=2003年1月26日〜2004年1月18日。全50話
●最高視聴率=11.6% 2003年5月25日(第18話)
●映画=「劇場版 仮面ライダー555(ファイズ)/パラダイス・ロスト」2003年8月16日公開。興行収入15億円
【6years after impression】
●派手なライダー・バトルを展開した「龍騎」の後番組であることからか、地味な印象を残すシリーズだが、その内容は再評価に値する。半田健人、泉政行ら若手俳優たちを丁寧に演出した、田崎竜太監督の手腕が際だっている。現時点において田崎監督が第1話と最終話の両方を手がけているのはこの「ファイズ」のみ。
●劇場版を含めて多面的なビジネス戦略を展開した「龍騎」は、いわば“外側に対するアプローチ”であるのに対して、「ファイズ」は作品そのもののクォリティを高めるという、“内側に対するアプローチ”を行い、成果を上げたシリーズではないだろうか。劇場版製作発表時における、白倉プロデューサーの「TVシリーズの延長ではなく、1本の映画として面白い作品にする」とのコメントが、このシリーズが目指すものを明確に位置づけており、その劇場版「パラダイス・ロスト」は、現在に至るまで劇場版平成ライダー・シリーズ最高の興行収入をあげていることから、その試みは成功したと言って良いだろう。
●とはいえ龍騎以上に奇抜なデザインのファイズに加え、「ロード・オブ・ザ・リング」ならぬ「ロード・オブ・ザ・ベルト」とも言うべき、複数のベルトが複数のライダーを生む面白さ。さらに携帯電話をモチーフにした変身アイテム、主人公・巧の正体がオルフェノクという驚愕の設定、ヒロイン・真理の死など、例によってサービス満点の内容。あまりにも盛りだくさんすぎて、状況を整理して見ないと混乱を来したほどだ。
●啓太郎が、メル友だった結花の正体がオルフェノクと知ってもなお彼女を受け入れ、晴れてファーストデートを果たした当日、ロブスターオルフェノクに襲撃され絶命寸前の結花が最後のメールを啓太郎に打つシーンは、平成ライダー史上最も感動的なシーンのひとつ(第44話/石田秀範監督)。筆者はこのエピソードを録画で見て涙し、巻き戻して再び鑑賞し再びさめざめと泣き、その足でクレインオルフェノクのソフビ人形を買いに行き、TVの隣に飾ったのであった…。
☆心に剣、輝く勇気。
「仮面ライダー剣(ブレイド)」
【DATA】
●オンエア期間=2004年1月25日〜2005年1月23日。全49話
●最高視聴率=10.0% 2004年1月25日(第1話)、2月1日(第2話)
●映画=「劇場版 仮面ライダー剣(ブレイド)/MISSING ACE」2004年9月11日公開。興行収入9.2億円
【5years after impression】
●さすがにこのあたりになると、いささか飽きがきた。というのも、「仮面ライダー剣」が、その名の通り剣を武器にしたライダーであり、昭和時代からの伝統たるライダーキックを決め技の座から引きずり下ろしてしまうのではないか、との危惧があったからだ。さらにトランプの意匠やルールを模した設定にデザイン、まだイケメン・ヒーローかいっ!とツッコミを入れたくなる、長髪でモデルっぽい兄ちゃん中心の演技陣。「クウガ」以降の平成ライダー・シリーズは、大胆なマイナーチェンジや設定変更、時に「こんなのはライダーではない」と言われるほどのリニューアルを行ってきたが、その根底には先人たちへの敬意が感じられ、その上で時代と向き合い、作品的にもビジネス的にも成功を収めようという、健全な野心が感じられた。残念ながら「仮面ライダー剣」の初期話数から、それを感じ取ることは出来なかった。これまでのライダー・シリーズからの“良いとこどり”をしたつもりが、結果的にストーリー、キャラクターを縛る要素が多すぎ、画面を真剣に見つめても、なかなか話が転がっていかないもどかしさ。それ故中途からは、筆者も録画したエピソードを、漠然と流し見する視聴姿勢になってしまった。
●むしろTVシリーズよりも、劇場版として製作された「MISSING ACE」に、注目すべきものがあった。全ての平成ライダー・シリーズに参加し、とりわけ「仮面ライダークウガ」における大胆なビジュアルメイク、時にシリアス、時にギャグとバリエーション豊かな演出技で注目していた、石田秀範監督が映画デヴューを果たしたのだ。その「MISSING ACE」は、いわば石田演出の集大成にしてカタログ。これぞ大泉のやんちゃ監督の面目躍如。しかし、興行収入は平成ライダー・シリーズで初めて10億円の大台を切り、また視聴率も第1,2話以外は、すべてひとケタに終始した。
☆少年よ 旅立つのなら、晴れた日に胸を張って
「仮面ライダーヒビキ」
【DATA】
●オンエア期間=2005年1月30日〜2006年1月22日。全48話
●最高視聴率=10.7% 2006年1月22日(第48話「明日なる夢」)
●映画=「劇場版 仮面ライダーヒビキと七人の戦鬼」2005年9月3日公開。興行収入11億円
【4years after impression】
●「仮面ライダークウガ」以来の高寺成紀プロデュース作品とあれば、否が応でも期待は高まる。鬼をモチーフにしたライダー、太鼓などの楽器から発する音撃で敵を退治、ディスクアニマル、主演は30代の細川茂樹…等々。「仮面ライダー剣」が、これまでの平成ライダーの成功要素を終結したのに対して、「ヒビキ」は新機軸たる要素を多数打ち出し、これまでのライダーとは一線を画す存在感を最初から見せつけた。
●特筆すべきは、「仮面ライダーヒビキ」というシリーズが持つ“視点”だ。29話までのエピソードにおいて、ストーリーを語る視点は、常に明日夢少年のそれである。高校受験を控えた、おそらく人生で最もヴィヴィットで感受性に富んだ時期に日常生活で起こる、様々な“事件”。過ぎてしまえば笑い話になるようなことばかりだが、その時は人生を揺るがすような出来事に感じるものだ。そんな時に出会った、ヒビキという不思議な男と、彼が「人助け」と称して行っている仕事を見ることで、少年は徐々に変化を見せていく。つまりTVシリーズの中で語られるエピソードは、高校受験についての悩みだとか、クラブで自分の望むポジションにつけない等のジレンマが、人類を襲う魔化網との戦いと同列に語られるのである。「僕、安達明日夢は…」で始まる冒頭のナレーションは、その時々の明日夢の心情、ものの考え方や心境の変化が語られていて秀逸。
●第1話「響く鬼」からして、冒頭からミュージカル仕立て!!石田監督のやんちゃぶりが炸裂した演出には、拍手を送った。じっくりと練り込まれた設定を、少しずつ明らかにしていく手法は、明日夢の視点を視聴者が共有する効果を上げ、新しいキャラクターが登場するたびに、新鮮な驚きがあった。
●しかし「クウガ」同様、今回も「おやっさん」は記号的存在で、下條アトムの飄々とした演技からは、かつて鬼であった、その風格もちらちらとうかがえるのだが、さすがに彼が変身して魔化網と戦う描写はなかった。
●神戸みゆきの早すぎる死には、今さらながら言葉もない。彼女が演じる日菜佳とトドロキのやりとりは、「ヒビキ」の中で最も楽しく、心温まるシーンであった。合掌。
●30話以降のエピソードについては、語りたくない。語るに値しないのではなく、語るべき言葉を持たないのだ。制作会社の1プロデューサーが交代することで、ここまで作風が変わったシリーズも珍しい。
私論:平成仮面ライダー・シリーズとの9年間(1) 「クウガ」~「龍騎」
私論:平成仮面ライダー・シリーズとの9年間(3) 「カブト」~「キバ」
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