「特殊映像ラボラトリー」
第2回 河崎実監督ロング・インタヴュー(2)
/「ギララの逆襲」顛末記。あるいは怪獣映画への異常な愛情。
斉藤守彦
■怪獣映画は、もうダメだね!
河崎
やっぱり監督も、キャラを出さないとダメよ。たけしさんが成功したのはそこだったから。「たけしが毒舌言うんだったらしょうがないな」って。凄いのは、それが映画にまで行っちゃったことですよ。みんな当たらないとか言ってるけど。たけしさんとオレの悩みは共通ですよ。オレだって、今回怪獣映画やってダメだったんだから。
−「怪獣映画だから」ダメなんですかね?
河崎
たぶんそうですよ。これが「ゴジラ/ファイナル・ウォーズ」の続きでも、「ガメラの逆襲」でもダメだったと思いますよ。
−「小さき勇者たち」みたいに、ファンタジーにしてもダメ?
河崎
そりゃダメでしょう。だから龍平と田崎君の失敗を見て、「これだったらいける!!」と思ったけど、でもダメでしたね(笑)。
− 怪獣そのものに嫌悪感があるのかな?
河崎
なんだか分からないから見に来ないんですよ。「相棒」とか「花より男子」しか当たらない。「あとでDVDで見ればいいや」ってことになっちゃうんですよ。みうらじゅんとかがやってるサブカルなものを、メジャーに持ってきても無理だってことですよ。
−でも最初、新宿ピカデリーで9月にレイト上映の予定だったのに、夏休み公開に早まり、しかも拡大上映になっちゃった(笑)。
河崎
我々も全力でやったんですけどねえ。ベネチア映画祭、これがすべて(笑)。だってウルトラマンやってるヤツらなんて、ベネチア映画祭行けたことないんですから。そうでしょう。実相寺監督だって行ってない。
■三島由起夫の「美しい星」を、 おバカ映画として撮りたいね!!
「ギララの逆襲」は、興行的には不成功だったが、ベネチア映画祭に招待された。その功績を河崎監督は「こんなヤツ、他にいないでしょ?」と強調するが、果たして彼は、そのことを本当に納得しているのだろうか?
かつて怪獣映画をディープに愛した、この日本の観客たちが、今、怪獣映画には見向きもしない。それなのにベネチア映画祭では、否コンペ部門(ミッドナイト・シネマ部門)とはいえ、「ギララの逆襲」を上映した。国内での失敗と海外からの注目。そのアンビバレンツな現実に、今後河崎実はどう立ち向かっていくのだろうか?
−今、私の周辺でも特撮映画やりたいってプロデューサーや監督って多いんですよ。
河崎
うーん。オレは特撮バカっていうか、ウィリアム・キャッスルみたいに、色々含めてのバカだから。映画作るだけじゃなくて、宣伝とかも含めてやってるから。普通そうじゃないでしょ、監督って。映画撮って、あとはプロデューサーがオロオロしてるだけ。そういうこと、一切ないですから。
この枠しかないから、これでやっちゃえー!!って。だから他の監督とは、違うリスクを背負ってやってますよ。こっちはもう、1日撮影伸びただけで、100万円出ていったりしますからね。
−そのあたりは、プロデューサー的感覚。
河崎
もう特撮ファンだけ喜んでるものは、やりたくないんですよ。たけしだとかザ・ニュースペーパーだとか、特撮ファンを超えてるでしょ。一般に向けてやったわけだから。
−狭いのはダメですね。
河崎
逆に狭かったほうが良かったな、とも思いますが(笑)。
−結局リバートップは事務所的に潤ったんですか?
河崎
いやあ、「沈没」の儲けをギララではき出しましたよ。DVDで戻ってこないと。
−「猫ラーメン大将」に続く次回作は?
河崎
いや、ちょっと今、女とも別れて…。
−よくやりますね。映画作りながら(笑)。
河崎
深く進行中なんですけど、困ってるんですよ。プレゼンでしたらいくらでも出来ますけど。今、日本映画で三池さんと堤さん、佐々部さんしか撮ってないじゃないですか。
−河崎監督だって、撮ってるじゃないですか、たくさん。
河崎
いや、オレは1億円行ってない作品ばっかだし。
−でも自由に撮ってるじゃないですか。それはみんな、うらやましいと思ってますよ。
河崎
それはいつかも書いてもらいましたけど。
−何が楽しいんですか、委員会にがんじがらめにされて。企画から何から決められて、そんな中で撮って。
河崎
マーケット・リサーチして「これが受ける」って言ったら、もう自明の理ですから、しょうがないですよ。
−そういう話が来たらどうしますか?いわゆる製作委員会で、10億円の予算があって、「委員会の言う通りにやってください」って話が来たら。
河崎
来ないもん、まず。
−もし来たら?
河崎
やるんじゃないですか。つまり自分の誇りを捨ててまでやるかっていったら、そこが問題であって。
−怪獣映画だったらやりますか?
河崎
やるね(きっぱり)。
−先日の読売新聞のインタヴューで、「三島由紀夫の『美しい星』を映画化したい」と言ってたでしょ?
河崎
アメリカでインタヴュー受けても、みんな三島由紀夫って言うと食いつくし。そりゃもう、「美しい星」やりたいんだけど。
−それは、おバカ映画として(笑)?
河崎
宇宙人全員、縫いぐるみ(笑)。5000万円あれば余裕で出来ますよ。
−三島原作なら、河崎監督で「潮騒」やって欲しい。かぶり物満載(笑)。
河崎
久保明ね(笑)。タイトルがいいでしょ、「美しい星」って。実相寺監督がやりたかったんですよ。結局「美しい星」って「ウルトラセブン」の「狙われた街」なんですよ。三島+河崎+宇宙人ものといえば、みんな買いますから(笑)。
現実的に「美しい星」が河崎監督の手で映画化する可能性は、現在のところ決して高くはないだろう。しかし行動力抜群の彼のことだ。あれよあれよという間に、関係者を説得して、実現させてしまうかもしれない。そのバイタリティこそが、この男の真骨頂だ。
侮るなかれ、河崎実。
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