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2008.11.25
0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ 第2回河崎実監督ロング・インタヴュー ]
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「特殊映像ラボラトリー」

第2回 河崎実監督ロング・インタヴュー(1)
/「ギララの逆襲」顛末記。あるいは怪獣映画への異常な愛情。

斉藤守彦

−河崎さん、「ギララの逆襲」やってる時、「オレは命賭けてるからね」って言ってたじゃないですか。
河崎
賭けてたもの。 

こともなげに言い放つ、この軽さ。筆者と河崎実監督とは、彼の「河崎実大全」でインタヴューをさせてもらった他、メールなどでやりとりをしたり、時に仲間うちの飲酒にお誘いする、そんな関係である。
その河崎監督が、「オレは命賭けてるから、今回」と豪語した「ギララの逆襲」。彼は自身の事務所であるリバートップを通じてこの映画に出資をし、また監督として、プロデューサーとして参加を決めた。「映画とは、他人の金で自己表現が出来ること」などとほざく、どこぞの御仁は嘲笑するだろうか。
しかし、本気で自分が撮りたい作品を実現させるためには、どこかで経済的なリスクを許容しなければならないのだ。オーソン・ウェルズも、スタンリー・キューブリックも、フランシス・フォード・コッポラも、そして黒澤明もそうしてきたのだ。

■最初は「東京タワー/時々たけしと、しょこたんと、ギララ」を目論んでいた(笑)!

kawasaki2.jpg−どういう経緯で決まったんですか?
河崎
衛星劇場の深田さんという部長が、一昨年の国際映画祭で「電エース」を見て、「ああいうのを、うちでもやって下さい」って。それでギララの右手が残っているっていうんで、これを伏線にして、松竹の不良債権(笑)、いや、デッドコンテンツをなんとかしましょうと。それで鈴木さん(松竹の鈴木忍プロデューサー)が出てきて、タケ魔人というキャラクターを出すことになり、鈴木さんが「洞爺湖サミットがあるんで、それに便乗しましょう」って(笑)。

−あ、シノブのアイデアだったんですか?
河崎
その前に「東京タワー」に便乗しようとしたんですよ。リリー・フランキーの。「東京タワー/時々たけしと、しょこたんと、ギララ」(笑)。東京タワーの下に怪獣がいて、東京タワーは怪獣の角だったという(笑)。東京タワーってのは、我々としては怪獣映画の象徴だから。モスラもガラモンも、キングコングも壊した。

 −で、それはダメが出たんですか?
河崎 
ダメに決まってるじゃないですか(笑)。日本テレビが「東京タワーってタイトルは使うな」って言ってきた。

−ずーっとギララやりたかったんですか?
河崎
言ってみれば、怪獣映画って男の夢じゃないですか。ゴジラを撮りたいに決まってるけど、こんなゲリラ男に撮らせてくれるわけない。プロデュース的なことを判断して、オレにギララが来たのは運命かな、と。

−それが去年の年末の段階ですか?
河崎
年末の段階では、脚本が出来ていた。

−こういう話にしようってのは、最初から固まってたわけですか?
河崎
いや。オレの場合はね、プロットを書くんですよ。あとは右田昌万氏に書きかえてもらって、キャッチボールしながら書いて行く。出来たものは100パーセント、オレのものになってるってこと。いつもそうなんですよ。その時点で映画のルックは決まってるんですよ。だから、どうでもいいヤツらが入ってきて、朝まで徹夜して話すとか、そういうことは一切ないんです(笑)。

−松竹サイドからの要望って、どんなことがあったんですか?
河崎
一切ない。

−一切?
河崎 
大御所Y監督が怒ったんだよ。

−Y監督、ずっと映画を撮ってきたけど、唯一やってないジャンルが怪獣映画だと。それでプロデューサーに「シナリオ見せろ」って言ってきたらしいですね。
河崎
監督がホンを直したって話も聞きましたよ。「コチラ」って怪獣映画を作りたかったらしいんですよ、60年代に。「あちらを立てればこちらが立たない」のコチラ。その話を聞いた時、爆笑しましたよ(笑)。

−なんだかなあ…。
河崎
オレは昭和の怪獣映画を作りたかった。パターンの怪獣映画ね。狂ったものを作ろうとしてるんだから。

−「命賭けてる」ってのは、名言だと思いましたよ。目がマジなんだもの(笑)。
河崎
みんな「またふざけて言ってるんだろ」って思ってたようだけど。でも実はマジだったんですよ。

これがプロデューサー・デヴューとなる、松竹の鈴木忍君とも、筆者は長いおつき合いがある。大御所Y監督の介入も、彼が巧みに交わしてくれたおかげで、制作は順調に進んだようだ。しかし、いざ興行ということになると、それはまた別問題があり…。

■ベネチア映画祭は、 実相寺監督だって行けなかったんだから!!

−最終的に興行収入はどうでした?
河崎
いやあ、興収で制作費回収は無理でしたね。P&A(プリント代&広告費)に大分つぎこんだというところもあるし。でもDVD収入と、海外販売でなんとか元をとれればな、と。

−リバートップも出資されてますよね。
河崎
もちろん。10%出資してますよ。

 −それはエライと思いますよ。
河崎
エライとかそういうんじゃなくて、今回勝負したからね。バカ当たりさせたいし。

−出資する立場としては…。
河崎 
でもね、何からなにまでオレがやったことですから。すべて自己責任ですよ。

−色んなこと言われたって、やっちゃったモン勝ちなんですよ。
河崎
そういうことだよね。作品は残るし、怪獣映画は特に残りますからね。

−ベネチア映画祭にも招待されたし。
河崎
ベネチア、でかかったですよ。親が喜びましたから。だって黒澤明、溝口健二…。

−北野武、宮崎駿、そして河崎実(笑)。
河崎
もう自慢しないと(笑)。いかにマルコ・ミューラーがオタクでも。

−彼は怪獣映画とか好きなんですか?
河崎
北野武の映画が好きだと。それでたけしが出ているってことでギララ見たら「なんじゃ、こりゃ?」って(笑)。
それから全部調べさせたんだって。「タケちゃんマン」も「日本以外全部沈没」も見て、「なるほど!!あんたは面白い!!」って呼ばれたんですよ。

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−なぜギララをコンペ部門に出さなかったんですかね?ポニョと戦ったら快挙ですよ。
河崎
グランプリが、ミッキー・ロークの「いかレスラー」みたいな話でしょ?(笑)。

−いかじゃないっ!!
河崎
まあスペインにも行ったしね。

−シッチェス。あそこはファンタスティック映画祭の名門でしょ。
河崎
金かけてましたよ。

−これから河崎作品は、ベネチア出品がちらついてくる。
河崎
ベネチアはもういいんで、あとはカンヌとベルリンをどう制覇するかだね(笑)。来月、シドニー映画祭に行くんですよ。「コアラ課長」とギララが招待されてて(笑)。オーストラリアだもん。コアラですよ。

マルコ・ミューラーとは、ベネチア映画祭のプログラミング・ディレクターのこと。大変な日本映画好きとして知られる男である。筆者は10月に都内で行われた、彼の講演を聞きに行ったのだが、クロサワ、オヅなどの名作だけではなく、60年代のプログラム・ピクチャーなどにも愛情が深いことに驚いた。
そんなマルコだからこそ、今年のベネチア映画祭のコンペ部門に北野、宮崎、押井の新作が、またミッドナイト・シネマ部門に「ギララの逆襲」が上映されたのだろう。

河崎実監督ロング・インタヴュー(2)に続く

[筆者の紹介]
斉藤守彦
1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。

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0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ 第2回河崎実監督ロング・インタヴュー ]
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「特殊映像ラボラトリー」

第2回 河崎実監督ロング・インタヴュー(2)
/「ギララの逆襲」顛末記。あるいは怪獣映画への異常な愛情。

斉藤守彦

■怪獣映画は、もうダメだね!

河崎
やっぱり監督も、キャラを出さないとダメよ。たけしさんが成功したのはそこだったから。「たけしが毒舌言うんだったらしょうがないな」って。凄いのは、それが映画にまで行っちゃったことですよ。みんな当たらないとか言ってるけど。たけしさんとオレの悩みは共通ですよ。オレだって、今回怪獣映画やってダメだったんだから。

 −「怪獣映画だから」ダメなんですかね?
河崎 
たぶんそうですよ。これが「ゴジラ/ファイナル・ウォーズ」の続きでも、「ガメラの逆襲」でもダメだったと思いますよ。

 −「小さき勇者たち」みたいに、ファンタジーにしてもダメ?
河崎
そりゃダメでしょう。だから龍平と田崎君の失敗を見て、「これだったらいける!!」と思ったけど、でもダメでしたね(笑)。

− 怪獣そのものに嫌悪感があるのかな?
河崎
なんだか分からないから見に来ないんですよ。「相棒」とか「花より男子」しか当たらない。「あとでDVDで見ればいいや」ってことになっちゃうんですよ。みうらじゅんとかがやってるサブカルなものを、メジャーに持ってきても無理だってことですよ。

−でも最初、新宿ピカデリーで9月にレイト上映の予定だったのに、夏休み公開に早まり、しかも拡大上映になっちゃった(笑)。
河崎
我々も全力でやったんですけどねえ。ベネチア映画祭、これがすべて(笑)。だってウルトラマンやってるヤツらなんて、ベネチア映画祭行けたことないんですから。そうでしょう。実相寺監督だって行ってない。

■三島由起夫の「美しい星」を、 おバカ映画として撮りたいね!!

「ギララの逆襲」は、興行的には不成功だったが、ベネチア映画祭に招待された。その功績を河崎監督は「こんなヤツ、他にいないでしょ?」と強調するが、果たして彼は、そのことを本当に納得しているのだろうか?
かつて怪獣映画をディープに愛した、この日本の観客たちが、今、怪獣映画には見向きもしない。それなのにベネチア映画祭では、否コンペ部門(ミッドナイト・シネマ部門)とはいえ、「ギララの逆襲」を上映した。国内での失敗と海外からの注目。そのアンビバレンツな現実に、今後河崎実はどう立ち向かっていくのだろうか?

−今、私の周辺でも特撮映画やりたいってプロデューサーや監督って多いんですよ。
河崎
うーん。オレは特撮バカっていうか、ウィリアム・キャッスルみたいに、色々含めてのバカだから。映画作るだけじゃなくて、宣伝とかも含めてやってるから。普通そうじゃないでしょ、監督って。映画撮って、あとはプロデューサーがオロオロしてるだけ。そういうこと、一切ないですから。
この枠しかないから、これでやっちゃえー!!って。だから他の監督とは、違うリスクを背負ってやってますよ。こっちはもう、1日撮影伸びただけで、100万円出ていったりしますからね。

−そのあたりは、プロデューサー的感覚。
河崎
もう特撮ファンだけ喜んでるものは、やりたくないんですよ。たけしだとかザ・ニュースペーパーだとか、特撮ファンを超えてるでしょ。一般に向けてやったわけだから。

−狭いのはダメですね。
河崎
逆に狭かったほうが良かったな、とも思いますが(笑)。

−結局リバートップは事務所的に潤ったんですか?
河崎
いやあ、「沈没」の儲けをギララではき出しましたよ。DVDで戻ってこないと。

−「猫ラーメン大将」に続く次回作は?
河崎
いや、ちょっと今、女とも別れて…。

−よくやりますね。映画作りながら(笑)。
河崎
深く進行中なんですけど、困ってるんですよ。プレゼンでしたらいくらでも出来ますけど。今、日本映画で三池さんと堤さん、佐々部さんしか撮ってないじゃないですか。

−河崎監督だって、撮ってるじゃないですか、たくさん。
河崎
いや、オレは1億円行ってない作品ばっかだし。

−でも自由に撮ってるじゃないですか。それはみんな、うらやましいと思ってますよ。
河崎
それはいつかも書いてもらいましたけど。

−何が楽しいんですか、委員会にがんじがらめにされて。企画から何から決められて、そんな中で撮って。
河崎
マーケット・リサーチして「これが受ける」って言ったら、もう自明の理ですから、しょうがないですよ。 

−そういう話が来たらどうしますか?いわゆる製作委員会で、10億円の予算があって、「委員会の言う通りにやってください」って話が来たら。
河崎
来ないもん、まず。

−もし来たら?
河崎
やるんじゃないですか。つまり自分の誇りを捨ててまでやるかっていったら、そこが問題であって。

−怪獣映画だったらやりますか?
河崎
やるね(きっぱり)。

−先日の読売新聞のインタヴューで、「三島由紀夫の『美しい星』を映画化したい」と言ってたでしょ?
河崎
アメリカでインタヴュー受けても、みんな三島由紀夫って言うと食いつくし。そりゃもう、「美しい星」やりたいんだけど。

−それは、おバカ映画として(笑)?
河崎
宇宙人全員、縫いぐるみ(笑)。5000万円あれば余裕で出来ますよ。

−三島原作なら、河崎監督で「潮騒」やって欲しい。かぶり物満載(笑)。
河崎
久保明ね(笑)。タイトルがいいでしょ、「美しい星」って。実相寺監督がやりたかったんですよ。結局「美しい星」って「ウルトラセブン」の「狙われた街」なんですよ。三島+河崎+宇宙人ものといえば、みんな買いますから(笑)。

現実的に「美しい星」が河崎監督の手で映画化する可能性は、現在のところ決して高くはないだろう。しかし行動力抜群の彼のことだ。あれよあれよという間に、関係者を説得して、実現させてしまうかもしれない。そのバイタリティこそが、この男の真骨頂だ。
侮るなかれ、河崎実。

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