第1回 「崖の上のポニョ」は、結局成功したのか?(3)
-早すぎる検証-
■ 「崖の上のポニョ」と「となりのトトロ」の、ただならぬ関係?
日本映画歴代第5位の大ヒットに「ポニョ」を押し上げた、その最大の功労者は、おやじふたりと9歳の少女だ。藤岡藤巻と大橋のぞみが歌う「崖の上のポニョ」は、現在までにCD42万枚(9月現在)を売る大ヒットとなった。この主題歌は去年のクリスマスにリリースされたものの、当初はまったく売れなかったが、映画公開が近づくに連れ、ヒットチャートを席巻したことは、各種の報道で知られている通り。
この主題歌の最初のフレーズを耳にすると、僕はどうしても「となりのトトロ」の主題歌の最初のフレーズを連想してしまう。
ポニョとトトロは、いわば年の離れた兄妹のような関係だ。
どちらの作品も、まず“キャラクターありき”が起点となった企画であり、そのキャラクターが世の中に広く受け入れられたという点も共通している。「崖の上のポニョ」という作品に対して疑問を持つ人でも、ポニョというキャラクターの可愛さ、魅力を否定した人は、少なくとも筆者の周囲ではひとりもいない。
「となりのトトロ」は、劇場公開時の興行成績こそ奮わなかったが、その後のキャラクター商品やパッケージ・メディアの売上が莫大で、現在までのジブリ作品で最も収入をあげたタイトルとして知られている。
今回の「ポニョ」に関しても、「トトロ」が受け入れられたプロセスを踏襲したとまでは言わずとも、意識したと思える箇所はいくつか見られる。とりわけ作品の情報を発信する際、常に強調されたのが、「ポニョ」という映画が子供たちのために作られた作品であること、CGなどを極力使わず、手描きのもつ素朴さ、温かさを大切にした作品であること、そしてポニョというキャラクターの可愛らしさだ。
ジブリ作品ではお馴染みとなった、糸井重里によるコピーが初期段階での宣伝材料には使われず、結果的に鈴木プロデューサーによるコピー「生まれてきて良かった。」が採用されたが、彼は当初「『となりのトトロ』『火垂るの墓』の2本立てに使われた、“忘れ物を、届けにきました”というコピーをもう一度使おうと考えた」ということを、自身のラジオ番組で明かしている。
■ 宮崎駿監督の次回作についての提言
「崖の上のポニョ」について、筆者が知り得たこと、また考えたことや感じたこと、分析したことをずらずらと並べてみたが、ビジネスとしての「ポニョ」は、冒頭で述べたように大成功を収めたと言える。
しかし、1本の作品として、幅広く世間に受け入れられたか?観客を満足させることが出来たか?については、疑問が残る。ただしこのことは、宮崎駿監督の作家性、ポリシーに関わることが多いので、より大きな成功を収めるためにはかくあるべしといったことを指摘するわけにはいかない。
もし宮崎監督作品が今後も、こうした作家的スタンスで作られるのであれば、現在のような全国クラスのマーケティングは不要となり、作品の個性を尊重するためには興行規模の縮小を余儀なくされるだろう。
前作「ハウルの動く城」においても、その作家性に観客は戸惑いを憶え(しかし宮崎監督は、世間の「ハウル」に関する評価に「激怒しています」と、「CUT」のインタヴューで述懐している)、今回の「ポニョ」も作品に対する疑問は数々あれど、ポニョのキャラクターの魅力によって、あらゆる局面を打開したという見方は間違っていないと思う。
もし監督自身が作品作りのスタイルを変えるというのであれば、次回作では、ぜひ脚本家を起用することをお薦めしたい。保守化が著しい昨今の映画観客の期待に応えるためには、まずはストーリー面での整合性が重要だと思うからだ。
現在のペースで行けば、宮崎駿監督の次回作は、監督71歳の頃になるだろう。四十の手習いならぬ、七十の手習いとして、試してみてはいかがだろうか。
[斉藤守彦]
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