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2008年10月26日
0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ 第1回「崖の上のポニョ」は結局成功したのか? ]
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第1回 「崖の上のポニョ」は、結局成功したのか?(2)
    -早すぎる検証-

■ 「崖の上のポニョ」は、どう評価されたのか?

 これはもう、賛否両論に別れた。
 ただし、特定のシーンの意味や解釈をめぐって激論が交わされた、ということではない。いわば批評するスタンスの違いに起因するといったところだろうか。
 賛否両論の“否”=否定派が必ず指摘するのは、以下の点だ。
1=宗介が、母親のことを「リサ」と呼び捨てにする。
2=宗介が、金魚のポニョを、水道水を入れたバケツの中に放す。あれでは金魚は死んでしまう。
3=リサと宗介が住む家は、災害に備えて自家発電の機械まで常備しているにも関わらず、外部に面した窓に雨戸がない。
4=猛スピードで、暴風雨の中、自動車を走らせるリサ。かつてはヤンキーか?
5=フジモトの行動の意味・目的が不明確
 …ざっとこんなところだろうか。一言で言って、現実感、リアリティが欠如している。生活実感がない。そして否定派が口を揃えるのが「映画を見たという充実感、手応えがない」ということだ。「崖の上のポニョ」という映画を語る上で、この意見は重要な意味を持つ。つい先日、筆者は大学生約40人の前で講義をする機会を得たが、そこで「ポニョ」を見たという学生に感想を聞いたところ、真っ先に出たのが、この「映画を見た感じがしない」という意見だった。

 賛否両論の“賛”=肯定派の人たちは、上記の否定派による指摘すべてを「だって、これはファンタジーの世界なんだから」の一言でかたづけてしまう。1本の映画として、起承転結がはっきりしたエンタテインメントを求めるほうがおかしい、という意見が肯定派の言い分だ。
 こうした見解の相違は、鑑賞者の姿勢が大きく左右する。否定派の「生活実感がない」という指摘には、作品中の出来事や人物の言動を、現実世界のものとして捉え、違和感がないことを良しとする姿勢に基づいている。ところが肯定派のスタンスは、あくまで「宮崎駿監督作品」であることを前提に、その世界観やキャラクター独自の言動を、最初から受け入れる態勢にあり、多少の違和感があっても「ファンタジーだから」「宮崎作品だから」というエクスキューズで納得してしまう傾向が強い。ざっくばらんに言えば、否定派の姿勢は、アメリカの映画批評によくある視点、肯定派のそれは、監督を「作家」として敬う、ヨーロッパや日本的な批評的視点に基づいていると指摘できるだろう。だから宗介が実の母親を「リサ」と呼ぶことに対して、自身にも同様の経験がなくても、肯定派は許容してしまう。監督を作家として敬う姿勢は否定しないが、作品に描かれたあらゆることに対して、「宮崎監督がそうしているのだから、きっと深い意味があるのだろう」という理由で、全面的に肯定し、受け入れてしまうのはいかがなものだろうか。リスペクトの方向が、いささか違うのではないかと思う。

 個人的な感想を述べれば、否定派が指摘するすべての要素は、僕も感じたことである。それが作品評価のすべてではないが、「ポニョ」という映画をすんなり受け入れることが出来ない、一種の障害になっていることは事実だ。肯定派のように「これはファンタジーだから」という理由で鑑賞者たる自分を納得させることが出来ないのだ。無論すべての映画にリアリティを求めるわけではないが、ファンタジー世界の物語であるならば、それを少しでも知らしめるアクションや台詞が欲しかった。ちょっとしたディテイルにでもそれが感じられれば、この作品の楽しさは倍増するだろう。些細な部分で観客を現実世界に戻してしまい、また作品そのものがフォーマットから逸脱したストーリーで、なおかつ精神的なカタルシスも感じられないとあっては、どうしても鑑賞後の感想は「映画を見たという手応えが感じられない」としかなり得ない。
 初日の午後、新宿ピカデリーで「ポニョ」を見ていて気になったのは、映画の途中で座席を立つ観客の多さだ。これはまあ、言ってみればシネコン時代に入って見られるようになった観客のクセのようなものだが、こうした観客のリアクションもまた、ストーリー的一貫性のなさから来る戸惑いが原因だろう。
 ひとつ気づいたことがある。上映中スクリーンの前を横切って、足早で場外へと出て行く迷惑な人たち。彼らの姿を暗闇で追うと、そのすべてが大人の観客であり、子供たちの姿を見ることはなかった。子供たちが「崖の上のポニョ」という、監督のイメージが脈絡なく洪水のように押し寄せる映画を見て、何を感じたかは知らない。しかし、1時間41分じっと目をこらしてスクリーンを見つめる姿勢こそ、この映画を“子供たちのために作った”宮崎駿監督への、静かな、そして最高の拍手かもしれない。
[斉藤守彦]

3. 「崖の上のポニョ」と「となりのトトロ」の、ただならぬ関係?に続く

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posted by animeanime at 2008.10.26
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