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2008.10.26
0斉藤守彦の特殊映像ラボラトリー ][ 第1回「崖の上のポニョ」は結局成功したのか? ]
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第1回 「崖の上のポニョ」は、結局成功したのか?(1)
    -早すぎる検証-

斉藤守彦

■ 「崖の上のポニョ」は、ヒットしたのか? 

 我ながらせっかちだとは思う。宮崎駿監督作品「崖の上のポニョ」は、7月19日の公開から約3か月を経過。スカラ座他でのファーストランが12月4日まで。翌日からはみゆき座他で続映されることが決定しているので、まだまだ上映は続くのだが、メインである夏休み興行も終わったことだし、とりあえずこのあたりで、ちょっと早い総括と検証をしてみようという試みである。
 まず最初の検証は、国民にとって最大の関心事であるだろう、「宮崎アニメは、今回も当たったのか?」ということからだ。

 全国481スクリーンで7月19日からスタートした「崖の上のポニョ」は、上映第13週週末(10月11~13日)までの87日間累計で、総入場人員1239万2477名、興行収入149億1573万8215円。この記事がアップされる頃には、興収150億円の大台を突破していることだろう。
 興行収入150億円。この額が、どれほどの価値がある数字なのか。現時点で興収150億円以上の作品が、日本映画には4本ある。まず「千と千尋の神隠し」304億円、次に「ハウルの動く城」196億円、「もののけ姫」194億円と、ベストスリーを宮崎監督作品が占め、4番目に「踊る大捜査線THE MOVIE2/レインボーブリッジを封鎖せよ!」の173.5億円が滑り込む。「ポニョ」の150億円という数字は、この5番目にあたるものだ。つまりこのまま興行が終了しても、「ポニョ」は日本映画歴代第5位のヒット作として、記録に残ることになる。もちろんまだファーストランが1か月半あることを考えると、150億円を上回るのは必須。ただし「踊る-2」の173.5億円を超えるのは、現在の興行推移から考えても、難しいと思われる。

 それでも日本映画としては、2004年11月公開の「ハウルの動く城」以来の興収100億円突破作品であることから、「歴史に残る大ヒット作」と形容しても良いだろう。 
 オープニング成績は、歴代トップの「千と千尋の神隠し」と拮抗した。第1週週末3日間の全国興行成績は、入場人員125万1107名、興収15億7581万7355円。これは興収304億円をあげた「千と千尋の神隠し」のオープニング対比、人員101.4%、興収96.6%というもの。ただし2001年夏に公開された「千と千尋の神隠し」のオープニング・スクリーン数は304であり、「ポニョ」は481という興行環境の差を考慮しなくてはならない。1スクリーンあたりのオープニング興収を算出すると「千と千尋…」541万1800円に対して、「ポニョ」は327万6128円であった。
 観客層や鑑賞動機などは、東宝がウェブでアンケートを実施。次のような集計結果が発表された。
〈男女比〉男=34%、女66%
〈年齢層〉20代=32.0%、30代=30.7%、40代=14.7%、16~19歳=10.5%、 12歳以下=7.1%
〈鑑賞動機〉「スタジオジブリ作品のファンだから」=28.2%、「宮崎駿監督作品だから」=25.6%、「内容が面白そう」16.3%、「主題歌を聴いて」14.8%
〈鑑賞後の印象〉「心が温まった」=38.8%、「可愛かった」=27.8%、「面白かった」13.1%
〈誰と見に来たか〉「家族と」=45.1%
 ウェブという媒体故に、幼年層の意見が反映されない傾向はあるものの、 20~30歳代の女性を呼び込むことには成功しており、その動機も「宮崎監督、ジブリ作品 だから」と、いわゆるジブリ・ブランドの変わらぬ強さを印象づけている。

 筆者は7月19日の初日、新宿ピカデリーで「ポニョ」を鑑賞したが、その時の観客層は、圧倒的に親子連れ、いわゆるファミリー客だった。アンケートに現れた「20~30代女性」とは、即ちヤング・ミセス層を指し、アンケートに現れない幼年層とは、つまり彼女たちが連れてきた子供たちのことだと考えて間違いないだろう。しかしながら、座席数607席の新宿ピカデリー・スクリーン1を占めた観客のほとんどが、こうした層だったのには驚いた。「ファミリー客がたくさん来ている」と言うよりは「ファミリー客しか来ていない」という印象さえ残った。
 夏休みシーズン中は、こうしたファミリー客で映画館はにぎわうだろう。しかし夏休みが終わった後、9月以降の興行には不安が残る。
 「千と千尋の神隠し」が31日間で入場人員1000万名を超えたのに対して、「ポニョ」は41日間で1000万名突破。確かに「ハウルの動く城」が44日間、「もののけ姫」の1000万名突破に66日間かかったことを考えると、このペースは速い。興行に勢いがある。事実、夏休み中は好調なペースで推移し、その強さは「インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国」「ダークナイト」といったハリウッド映画の大作、話題作を寄せ付けなかった。

 ところが、9月の半ば以降、目に見えてそのペースが落ちてくる。9月第3週(9/20、9/21)週末成績は、前週対比59.62%(興収)にダウンし、続く第4週では、ついに週末興収が1億円を割り込み(9880万3850円)、 興収150億円を目前に、一種の足踏み状態に陥ってしまった。
 これはファミリー客中心であることから、あらかじめ予測されたことだ。9月という時期は休日の数も多く、夏休み興行のペースをある程度持続出来るのだが、それが終わった後の客足ダウンは避けられない。期待されたベネチア国際映画祭での受賞が現実のものとなれば、あるいは客層が広がり、“オトナの観客”が押し寄せたかもしれないが、目論見通りに行かないのが世の常と言うべきか。

2. 「崖の上のポニョ」は、どう評価されたのか?に続く
3. 「崖の上のポニョ」と「となりのトトロ」の、ただならぬ関係?

[筆者の紹介]
斉藤守彦
1961年生れ。静岡県浜松市出身。
映画業界紙記者、編集長の経験の後、映画ジャーナリスト、アナリストとして独立。「INVITATION」誌で「映画経済スタジアム」を連載するほか、多数のメディアで執筆。データを基にした映画業界分析に定評がある。「宇宙船」「スターログ日本版」等の雑誌に寄稿するなど、特撮映画は特に得意な分野としている。

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第1回 「崖の上のポニョ」は、結局成功したのか?(2)
    -早すぎる検証-

■ 「崖の上のポニョ」は、どう評価されたのか?

 これはもう、賛否両論に別れた。
 ただし、特定のシーンの意味や解釈をめぐって激論が交わされた、ということではない。いわば批評するスタンスの違いに起因するといったところだろうか。
 賛否両論の“否”=否定派が必ず指摘するのは、以下の点だ。
1=宗介が、母親のことを「リサ」と呼び捨てにする。
2=宗介が、金魚のポニョを、水道水を入れたバケツの中に放す。あれでは金魚は死んでしまう。
3=リサと宗介が住む家は、災害に備えて自家発電の機械まで常備しているにも関わらず、外部に面した窓に雨戸がない。
4=猛スピードで、暴風雨の中、自動車を走らせるリサ。かつてはヤンキーか?
5=フジモトの行動の意味・目的が不明確
 …ざっとこんなところだろうか。一言で言って、現実感、リアリティが欠如している。生活実感がない。そして否定派が口を揃えるのが「映画を見たという充実感、手応えがない」ということだ。「崖の上のポニョ」という映画を語る上で、この意見は重要な意味を持つ。つい先日、筆者は大学生約40人の前で講義をする機会を得たが、そこで「ポニョ」を見たという学生に感想を聞いたところ、真っ先に出たのが、この「映画を見た感じがしない」という意見だった。

 賛否両論の“賛”=肯定派の人たちは、上記の否定派による指摘すべてを「だって、これはファンタジーの世界なんだから」の一言でかたづけてしまう。1本の映画として、起承転結がはっきりしたエンタテインメントを求めるほうがおかしい、という意見が肯定派の言い分だ。
 こうした見解の相違は、鑑賞者の姿勢が大きく左右する。否定派の「生活実感がない」という指摘には、作品中の出来事や人物の言動を、現実世界のものとして捉え、違和感がないことを良しとする姿勢に基づいている。ところが肯定派のスタンスは、あくまで「宮崎駿監督作品」であることを前提に、その世界観やキャラクター独自の言動を、最初から受け入れる態勢にあり、多少の違和感があっても「ファンタジーだから」「宮崎作品だから」というエクスキューズで納得してしまう傾向が強い。ざっくばらんに言えば、否定派の姿勢は、アメリカの映画批評によくある視点、肯定派のそれは、監督を「作家」として敬う、ヨーロッパや日本的な批評的視点に基づいていると指摘できるだろう。だから宗介が実の母親を「リサ」と呼ぶことに対して、自身にも同様の経験がなくても、肯定派は許容してしまう。監督を作家として敬う姿勢は否定しないが、作品に描かれたあらゆることに対して、「宮崎監督がそうしているのだから、きっと深い意味があるのだろう」という理由で、全面的に肯定し、受け入れてしまうのはいかがなものだろうか。リスペクトの方向が、いささか違うのではないかと思う。

 個人的な感想を述べれば、否定派が指摘するすべての要素は、僕も感じたことである。それが作品評価のすべてではないが、「ポニョ」という映画をすんなり受け入れることが出来ない、一種の障害になっていることは事実だ。肯定派のように「これはファンタジーだから」という理由で鑑賞者たる自分を納得させることが出来ないのだ。無論すべての映画にリアリティを求めるわけではないが、ファンタジー世界の物語であるならば、それを少しでも知らしめるアクションや台詞が欲しかった。ちょっとしたディテイルにでもそれが感じられれば、この作品の楽しさは倍増するだろう。些細な部分で観客を現実世界に戻してしまい、また作品そのものがフォーマットから逸脱したストーリーで、なおかつ精神的なカタルシスも感じられないとあっては、どうしても鑑賞後の感想は「映画を見たという手応えが感じられない」としかなり得ない。
 初日の午後、新宿ピカデリーで「ポニョ」を見ていて気になったのは、映画の途中で座席を立つ観客の多さだ。これはまあ、言ってみればシネコン時代に入って見られるようになった観客のクセのようなものだが、こうした観客のリアクションもまた、ストーリー的一貫性のなさから来る戸惑いが原因だろう。
 ひとつ気づいたことがある。上映中スクリーンの前を横切って、足早で場外へと出て行く迷惑な人たち。彼らの姿を暗闇で追うと、そのすべてが大人の観客であり、子供たちの姿を見ることはなかった。子供たちが「崖の上のポニョ」という、監督のイメージが脈絡なく洪水のように押し寄せる映画を見て、何を感じたかは知らない。しかし、1時間41分じっと目をこらしてスクリーンを見つめる姿勢こそ、この映画を“子供たちのために作った”宮崎駿監督への、静かな、そして最高の拍手かもしれない。
[斉藤守彦]

3. 「崖の上のポニョ」と「となりのトトロ」の、ただならぬ関係?に続く

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第1回 「崖の上のポニョ」は、結局成功したのか?(3)
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■ 「崖の上のポニョ」と「となりのトトロ」の、ただならぬ関係?

 日本映画歴代第5位の大ヒットに「ポニョ」を押し上げた、その最大の功労者は、おやじふたりと9歳の少女だ。藤岡藤巻と大橋のぞみが歌う「崖の上のポニョ」は、現在までにCD42万枚(9月現在)を売る大ヒットとなった。この主題歌は去年のクリスマスにリリースされたものの、当初はまったく売れなかったが、映画公開が近づくに連れ、ヒットチャートを席巻したことは、各種の報道で知られている通り。
 この主題歌の最初のフレーズを耳にすると、僕はどうしても「となりのトトロ」の主題歌の最初のフレーズを連想してしまう。
 ポニョとトトロは、いわば年の離れた兄妹のような関係だ。
 どちらの作品も、まず“キャラクターありき”が起点となった企画であり、そのキャラクターが世の中に広く受け入れられたという点も共通している。「崖の上のポニョ」という作品に対して疑問を持つ人でも、ポニョというキャラクターの可愛さ、魅力を否定した人は、少なくとも筆者の周囲ではひとりもいない。
 「となりのトトロ」は、劇場公開時の興行成績こそ奮わなかったが、その後のキャラクター商品やパッケージ・メディアの売上が莫大で、現在までのジブリ作品で最も収入をあげたタイトルとして知られている。

 今回の「ポニョ」に関しても、「トトロ」が受け入れられたプロセスを踏襲したとまでは言わずとも、意識したと思える箇所はいくつか見られる。とりわけ作品の情報を発信する際、常に強調されたのが、「ポニョ」という映画が子供たちのために作られた作品であること、CGなどを極力使わず、手描きのもつ素朴さ、温かさを大切にした作品であること、そしてポニョというキャラクターの可愛らしさだ。
 ジブリ作品ではお馴染みとなった、糸井重里によるコピーが初期段階での宣伝材料には使われず、結果的に鈴木プロデューサーによるコピー「生まれてきて良かった。」が採用されたが、彼は当初「『となりのトトロ』『火垂るの墓』の2本立てに使われた、“忘れ物を、届けにきました”というコピーをもう一度使おうと考えた」ということを、自身のラジオ番組で明かしている。

■ 宮崎駿監督の次回作についての提言

 「崖の上のポニョ」について、筆者が知り得たこと、また考えたことや感じたこと、分析したことをずらずらと並べてみたが、ビジネスとしての「ポニョ」は、冒頭で述べたように大成功を収めたと言える。
 しかし、1本の作品として、幅広く世間に受け入れられたか?観客を満足させることが出来たか?については、疑問が残る。ただしこのことは、宮崎駿監督の作家性、ポリシーに関わることが多いので、より大きな成功を収めるためにはかくあるべしといったことを指摘するわけにはいかない。
 もし宮崎監督作品が今後も、こうした作家的スタンスで作られるのであれば、現在のような全国クラスのマーケティングは不要となり、作品の個性を尊重するためには興行規模の縮小を余儀なくされるだろう。
 前作「ハウルの動く城」においても、その作家性に観客は戸惑いを憶え(しかし宮崎監督は、世間の「ハウル」に関する評価に「激怒しています」と、「CUT」のインタヴューで述懐している)、今回の「ポニョ」も作品に対する疑問は数々あれど、ポニョのキャラクターの魅力によって、あらゆる局面を打開したという見方は間違っていないと思う。

 もし監督自身が作品作りのスタイルを変えるというのであれば、次回作では、ぜひ脚本家を起用することをお薦めしたい。保守化が著しい昨今の映画観客の期待に応えるためには、まずはストーリー面での整合性が重要だと思うからだ。
 現在のペースで行けば、宮崎駿監督の次回作は、監督71歳の頃になるだろう。四十の手習いならぬ、七十の手習いとして、試してみてはいかがだろうか。
[斉藤守彦]

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