きょうの社説 2009年3月25日

◎小沢氏秘書起訴 異論なき続投容認の危うさ
 公設第一秘書の起訴を受けた会見で、小沢一郎民主党代表が続投を表明した。同党執行 部は、小沢代表を全力で支え、党の結束を呼び掛けていくという。党内の一部に、辞任を求める声もあるにせよ、大きなうねりにはなりそうもない。異論なき続投容認には、危うさも感じる。

 小沢代表は会見で「私自身が犯罪に手を染めた事実はない」「秘書の逮捕・起訴は、合 点がいかない」などと述べた。以前のような強い口調での検察批判こそなかったものの、強気の姿勢は変わらなかった。今後の捜査の進展や世論の動向次第で続投支持の空気が変わる可能性もなくはなかろうが、小沢代表自身は政権を取るまで突っ走る腹を固めたのだろう。

 民主党執行部内で、続投論に異論が出ないのは、小沢代表が絶対的な存在になっている からだ。選挙対策の手腕が高く評価され、民主党を支える連合も小沢代表を支持している。ポスト小沢争いをして、党内がぎくしゃくするのを恐れる思いもあるに違いない。

 だが、小沢代表の続投は、政治とカネに厳しいとされてきた民主党にとって大きなリス ク要因になる。小沢体制が一枚岩であることを強調すればするほど、小沢批判がタブー視され、自由かっ達な空気が失われる恐れはないのか。

 西松建設から献金を受けた理由や経緯について、小沢代表は説明責任を十分果たしたと は言い難い。世論調査でも八割近くが小沢代表の説明に「納得できない」と答えている。「国策捜査」と息巻いて見せても国民の心には響かなかった。

 秘書の起訴で一区切りついたとはいえ、検察の捜査は今後も続く。報道の通り、東北で の公共事業をめぐる西松建設との癒着の構図が事実なら、小沢代表側は旧田中派の集金システムをそっくり継承していたことになる。小沢代表と一蓮托生の道を選んだ民主党の判断が吉と出るか、凶と出るかは、この疑惑がどこまで解明されるかにかかっていよう。

 もとより「西松マネー」は自民党議員にも流れている。国民の怒りは、小沢代表を「居 直り」と批判する自民党にも及んでいることを忘れないでもらいたい。

◎能登半島地震2年 「経験知」の継承に工夫を
 能登半島地震から二十五日で丸二年になる。本格復興の歩みが進む一方で、震災体験の 風化も避け難い。大地震の教訓を次世代に伝える努力と同時に、県や市町職員が得た行政上の経験やノウハウの継承に工夫を凝らすよう自治体に望みたい。

 過疎、高齢化が進む能登にとって、大地震からの復興は単なる災害復興ではない。将来 を切り開く「地域復興」が本質的なテーマであり、復興の取り組みを通して、地域の魅力をどのように引き出していくかが問われている。地震を機に、この地域をどうしたいのか活発に語り合い、実践する動きが広がってきたのは心強い。

 たとえば、輪島塗の海外販路開拓をはじめ、能登丼などの特産品づくり、地酒の統一ブ ランド化、マグロの畜養計画など、さまざまな分野で始まった新たな挑戦には目を見張るものがある。

 ただ、復興に伴って記憶の風化もいや応なしに進み、行政にとって難しさの増す課題も ある。震災対応の基本はマニュアル化されているが、教科書を読むだけでは分からない貴重な「経験知」を若い職員に伝えていくことである。復旧活動をリードしたベテラン職員は年々退職していくから、体験に基づく知恵やノウハウの継承は時間との競争とも言える。

 石川県は昨年、新採職員の研修を奥能登で行い、復旧作業などを参加者に体験させた。 職員研修で大地震の生きた教訓を伝え、危機管理能力を高めていく取り組みは各自治体で必要であろう。

 震災の復旧に欠かせぬノウハウの習得では、被災した建物の被害認定が自治体共通の課 題になっている。被災家屋が全壊か半壊かを判定する作業は、被災者生活再建支援法に基づいて行う住宅再建の基礎になる。しかし、その能力を持った職員は少ない。

 政府は被害認定の指針を出しているが、一読しただけで理解するのは難しく、実際の判 定では担当者ごとにばらつきがあり、被災者からの苦情が少なくないという。輪島市などは能登半島地震の経験で身につけた認定ノウハウの伝授に努めてもらいたい。