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政治家に不祥事が持ち上がった時、問われるのは法的責任だけではない。重い政治責任を負わねばならない。政権をうかがう大政党の党首となれば、なおさらである。
民主党の小沢代表の公設第1秘書が、西松建設の違法献金事件で起訴された。政治資金規正法違反の起訴事実は、逮捕容疑とほとんど変わらず、あっせん利得や収賄など別の容疑に広がることはとりあえずなかった。
この結果を受け、小沢氏は昨夜、記者会見し、引き続き代表にとどまる考えを表明した。
秘書の逮捕以来、小沢氏は「政治資金規正法の趣旨にのっとって正直に報告した。何ら悪いことはしていない」と検察の捜査に強く反発してきた。秘書も容疑を否認しているという。
そうであるなら、法的には裁判で争い、司法の場で決着をつければいい。秘書が逮捕され、さらに起訴されたからといって「黒」と決めつけるわけには、むろんいかない。
■説明責任を果たさず
だが、それとは別に、小沢氏には政治家としての重い責任があることを忘れてもらっては困る。
まず、説明責任だ。
検察が西松建設のダミーと認定した政治団体について、小沢氏は正体を知るすべもないと語ってきた。献金はどこからもらっても、公開していれば問題ない。そう胸を張ってもきた。
だとしても、なぜ素性も知らない団体からそんなに巨額の献金をもらい続けてきたのか。
秘書の逮捕後、小沢氏側が東北地方を中心に土木・建設業界に強い影響力を持ち、そこから巨額の献金を得ていたことが明らかになった。
業界に便宜を図ったかどうかはともかく、ゼネコンなどと深い、長い付き合いがあるのに、今回のカネの出どころは知らなかったというのは、どうにも不自然だ。
大規模な公共事業の受注をめぐってしのぎを削る業者との付き合いは、どのようなものだったのか、なぜ影響力を期待されるようになったのか。そうした事情をきちんと説明すべきなのに、小沢氏がその責任を果たしたとはとても思えない。
仮に小沢氏の主張が正しく、法的な問題がなかったとしても、だからそのカネを受け取ることが政治的にも妥当であったとは言い切れまい。たとえ法には触れなくても、政治家として受け取るべきでないカネはあるのだ。
政治資金収支報告書の誤記載であり、形式的な問題といわんばかりの主張にも違和感がある。政治資金規正法は、政治とカネの不祥事が発覚するたびに、渋る政党や政治家の尻を世論がたたくようにして強化されてきた。その違反はけっして軽い犯罪ではない。
政権交代によって、日本の政治を変える。官製談合や天下りを根絶し、税金の無駄遣いを徹底的に改革する。それが民主党の政権公約の柱のはずだ。
■変革の党にそぐわぬ
だが、肝心の党首が「古い自民党」そのままの土建政治にどっぷり漬かる姿が浮き彫りにされてしまった。果たして政権をとれば、本当に政治を変えられるのか。根本的な疑念を呼び起こさずにはおかない。
変革を訴える党の党首として、小沢氏がふさわしいとは思えない。国民の大方が納得できる説明を尽くせないのなら、代表から身を引くべきだ。
情けないのは、この間、小沢氏の政治責任にほとんど触れようとしなかった民主党議員たちの姿だ。
民主党はきょうからでも、党の態勢立て直しを真剣に議論すべきだ。民主党が目指す政治はどのようなものなのか。そのためには小沢氏が代表にとどまることが正しいのか。もう一度原点に戻って自らの姿を描き直さなければ、有権者の信頼を取り戻すことはできないだろう。
民主党だけの問題ではない。
朝日新聞が2月〜3月中旬に実施した政治・社会意識基本調査の結果は衝撃的だった。9割の人が「政治に不満を持つ」「政治が国民の意思を反映していない」「今の政治は社会の将来像や道すじを示していない」と思っている。7割が自民党と民主党の政策に大きな違いはないと考えている……。
2大政党がそろって国民の不信を浴びているのだ。日本の政党政治の危機と受け止めるしかない。
麻生首相に改めて言いたい。この危機を克服する第一歩は、一日も早い衆院解散・総選挙で政治に民意のパワーを注ぎ込むことだ。政治のリセットなしに、政治不信は収まるまい。
■検察は捜査を尽くせ
今回の事件では、検察の捜査にも国民は釈然としないものを感じている。
総選挙が近いこの時期に、なぜ最大野党の党首の秘書を逮捕したのか。金額の多寡はあっても、同様にカネをもらった自民党の議員たちはどうなのか。公共事業に絡む権限を握っているのは、与党の方ではないのか。
事件については法廷で明らかにするというのが、検察の立場だ。だが、もうひとつ腑(ふ)に落ちないという国民の疑念を放っておいていいものか。
捜査は日本の政治の行方に重大な影響を及ぼす可能性がある。国民の厳しい視線にさらされるのは当然だ。徹底捜査はもちろんだが、国民も相応の説明を聞きたいに違いない。