北朝鮮が「人工衛星」打ち上げ名目で予告している長距離弾道ミサイルの発射まで二週間を切り、国際的な緊張感が高まっている。日本の安全を脅かす危険な行為は断じて看過できず、発射阻止に向けた外交攻勢を強めなければならない。
北朝鮮は四月四―八日にロケットで人工衛星を打ち上げるとし、一段目は日本海、二段目は北太平洋に落下すると国際海事機関(IMO)などに通告している。
「宇宙の平和利用のための衛星打ち上げ」と北朝鮮は主張しているが、基本構造は二段式長距離弾道ミサイルの「テポドン2号」と同じとみられ、射程は六千キロ以上とされる。事故や発射失敗により、ミサイルの一部が日本領域に落下する恐れもあり、極めて危険な打ち上げ計画と言わざるを得ない。
この問題をめぐり日米韓は、人工衛星であっても「弾道ミサイル計画に関するすべての活動中断」を求めた二〇〇六年の国連安全保障理事会決議に違反するとの立場で一致。再三警告を発し、強い懸念を示してきた。
政府は北朝鮮が発射を強行すれば、国連安保理決議に違反するとして国際社会に新たな追加制裁を呼び掛ける方針だ。しかし、常任理事国である中国、ロシアは制裁論議には慎重な姿勢を崩していない。
まずは発射を阻止するため、政府はあらゆる外交手段を尽くすべきだろう。特に、北朝鮮への影響力が強い中国とロシアをどこまで「包囲網」に取り込み、協調して圧力を強められるかが焦点となろう。
先週行われた日中防衛相会談では発射準備を進める北朝鮮へ自制を求めることでは一致したが、制裁をめぐる日中の溝は埋まらなかった。今後も米国との連携を柱に、中国、ロシアとのハイレベルな会談を重ね、北朝鮮に対して強い態度で自制を促す圧力をかけていくべきだ。
北朝鮮が警告を無視して通告通り、発射を強行した際の危機管理態勢についても万全を期す必要がある。
政府は、ミサイルの本体や一部が日本領域に着弾した場合に備えて、月内にも自衛隊法に基づく「破壊措置」の閣議決定に踏み切るという。北朝鮮に対するけん制となる半面、態度硬化を招きかねない二面性も持とう。毅然(きぜん)とした危機対応力をアピールする側面もあるが、ミサイル防衛(MD)システムの運用をめぐっては法制、技術面のハードルも高い。対応には慎重な判断が求められよう。
戦後政治史の舞台となった神奈川県大磯町の吉田茂元首相の旧邸宅から出火し、木造二階の母屋を全焼した。
吉田元首相が幾多の内外要人と面会し、大磯詣での言葉も生んだ歴史遺産で、所有する西武鉄道から県が敷地を買い取り、県立公園にしようとしていた矢先だった。残念でならない。貴重な調度や要人から贈られた品々も焼けてしまった。
一夜明けて県警と消防が現場検証を行った。二階部分の燃え方が激しいという。原因をしっかり調べてもらいたい。
このところ、相次いで貴重な建物が火事で失われている。同じ神奈川県では横浜市で今月中旬、国の重要文化財だった旧住友家俣野(またの)別邸が全焼し、藤沢市では一月、保存運動が進められていた旧モーガン邸が再度の火災に遭ってほぼ全焼した。また東京都杉並区では二月、アニメ映画「となりのトトロ」の家を思わせることで有名な空き家が全焼している。
かけがえのない建物を火から守りたい。旧吉田邸は敷地内に二十四時間体制で警備員がいたが、文化財などに指定されておらず母屋にはスプリンクラーや火災報知機はなかったようだ。もしあればと悔やまれる。今回の火事を教訓に、関係行政機関などの対策強化が望まれる。有名な建物では放火の可能性も考えに入れねばなるまい。出火の早期検知などで工夫の余地はあるのではないか。
昨年伝えられた文化庁の調査結果が気になる。一月二十六日の文化財防火デーに合わせて市町村が行うことになっている防災訓練が、半数以上の自治体で実施されていなかった。岡山県も一部で未実施だった。
着実に訓練を実施していくことは、住民の防火意識を高めるためにも重要だ。
(2009年3月24日掲載)