山中龍宏
日本では40年間以上、子どもの死亡原因の1位は「不慮の事故」による
事故の状況と原因を詳細に検討し、対策を施すことが重要
子どもの事故がいかに繰り返し起こっているかは、ニュース報道を見てもおわかりだと思います。たとえば、プールの排水口に引き込まれた事故は、40年間で60件を超えており、そのうち55人が死亡しています。この数は事故直後に死亡した数ですが、事故が発生してから数年の療養後に死亡した事例も加えれば、100人以上亡くなっているのではないかと思われます。また、サッカーのゴールポストが倒れてきて頭を打って死亡、これも何件も同じ事故が起こっています。責任を問われた学校長が自殺した例もあります。子どもの事故が起こると、家庭が崩壊する例も少なくありません。これら人的損失、経済的損失、社会的損失は計り知れないものがあるのですが、現状は、その場逃れの謝罪で済ませ、予防しようという認識がまったくもたれていないのです。
私はプールの排水口に挟まれて死亡した子どもを23年前に看取ったことをキッカケに、事故予防に取り組み始めました。世間は、子どもの事故は親の不注意だと言い、企業は、誤った使い方をするからだと言います。しかし、それらの対応では何も解決せず、同じ事故が起こり続けています。
重要なことは、事故が起こった状況をできるだけ詳細に検討し、その現場や製品を見て徹底的に事故の原因を探ることです。一度起こった事故を放っておけば必ず第二、第三の事故が起こります。予防のためにはその原因を取り除き、製品であれば仕様やデザインを変更することが不可欠です。
キッズデザイン協議会は、こうした問題意識から生まれた組織です。企業をはじめ、さまざまな関係者が「子どもの安全」のために集った日本で初めてのNPOです。一刻も早く、各分野が連携できる体制づくりを進め、具体的な事故予防活動を展開していただきたいと思っています。社会全体が、事故は人々の重要な健康問題であると認識し、事故は予防できるということを理解していただきたいと思います。
小児科医。緑園こどもクリニック(横浜市泉区)院長。現在、産業技術総合研究所子どもの傷害予防工学カウンシル(CIPEC)代表、日本小児科学会こどもの生活環境改善委員会委員長、日本小児保健協会事故予防検討会委員長、日本学術会議連携会員。著書に「子どもの誤飲・事故を防ぐ本」(三省堂)など。
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