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「地域医療はいま」5 支援乗り出す開業医

2009年03月24日

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県立宮古病院の救急外来で診察する林節医師=県立宮古病院

 白衣の胸ポケットに入れた携帯電話が鳴ると、林節(たかし)医師(54)は足早に控室から診察室に移動した。患者は10歳の男の子。2日ほど前から熱があるらしい。「インフルエンザではありませんか」。心配そうな母親に、「調べてみましょう」。看護師に声をかけ、手早く処置を済ませた。

 林さんは、宮古市内で開業する整形外科医。県立宮古病院で救急外来の当番に入るのは、今年2度目だ。

 県立宮古病院と宮古医師会、宮古市は協定を結び、昨年12月から、日曜日に医師会の開業医が交代で県立宮古病院の救急外来の応援に入っている。深刻な医師不足による病院勤務医の過剰負担を少しでも減らすためだ。

 今月までは、協力に同意した9人の開業医が交代で、宮古市の休日診療所の当番に当たった際に、県立宮古病院で待機する。4月以降は休日診療所の当番そのものを2人から1人に減らし、毎週日曜日に必ず、1人が県立宮古病院の日直に加わる。同病院の当直は医師3人態勢なので、その分、勤務医の負担が減ることになる。

 救急外来は子どもやお年寄りが多い。林さんにとって風邪や急な発熱は専門外だが、えり好みはしていられない。重症ならば宮古病院の専門医を呼ぶ。最初の診断を付けるのが、応援医師の役割だ。

 取材に訪れた今月22日、林さんは午前中だけで約10人の患者を診察した。その間、他の勤務医は重症患者や病棟の入院患者を診ることができる。この日、日直に当たっていた同病院の曽我菜海医師は、「自分の仕事に初期診療も加わったら、手が回らなかったかもしれない」と話す。

 応援の9人のうち7人は同病院のOBだという。林さんも15年前、整形外科長を務めていた。「病院の事情や設備の配置を分かっているから入り込みやすい」。反面、県立病院での勤務経験がなければ連携しづらい側面もある。

 県立沼宮内病院と地域診療センター5施設の無床化をめぐる議論の中で、紫波町、岩手町では、地元開業医が県立宮古病院のような日直応援の協力を申し出るなど、連携が広がる芽が出始めている。県は4月以降に地域ごとに開く協議会の中で、提案を再検討する方針だ。

 また、県は、県立病院の規模や機能の縮小と並行して、県民自らの行動で医師を支える意識の啓発も始めている。

 84団体が参加し、昨年11月末に発足した「県民みんなで支える岩手の地域医療推進会議」だ。

 会議では「コンビニ受診」と呼ばれる安易な救急外来の利用を控え、定期健診の受診や、かかりつけ医を持つことなどを呼びかける。「医師を守ることが、県民の健康を守ることにつながる」と達増拓也知事。「医療の受け手」だった県民を、「医療の一方の担い手」に位置づけ直した。

    ◇  

 医師不足の問題は、医師の絶対数を増やすことによってしか解決しない。だが医学部の定員増など、国の政策の転換が進んでも、1人の医師が育つまでには最低でも10年がかかる。

 突きつけられている医師不足の深刻な現実にどう向き合っていけばいいのか。4月からは地域診療センター5施設の無床化が実施される見通しとなった。地域医療の再建は始まったばかりだ。

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