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社説1 本気度が伝わらない雇用の政労使合意(3/24)

 政府、日本経団連、連合の政労使三者は雇用の安定・創出のための取り組みで合意した。2002年以来、7年ぶりだ。今回の経済危機はいまだ改善の兆しがなく長期化も予想される。三者が危機感を共有し雇用の安定確保を目指すのは当然で、大切なのは実効性だ。

 第一にあがるのが「日本型ワークシェアリング(仕事の分かち合い)」推進による雇用の維持だ。各企業がすでに実施している労働時間短縮や休業などを「日本型ワークシェアリング」ととらえ、残業削減も国の雇用調整助成金の対象とし、非正規労働者も支援する。

 失業給付を受け取れない人や就職が困難な人に職業訓練と組み合わせた生活支援も進める。雇用不安が高まるなかで、緊急避難の雇用対策としては一歩前進だ。

 ただし、欧州のように社会の制度として根付かせるための本格的なワークシェアリングについての議論も必要だが、今回は全く触れておらず課題が残る。

 労使の取り組みは不透明だ。経営側は個々の企業の実情に応じて、残業削減や労働時間短縮で雇用の維持に最大限の努力をするというだけだ。労働側もコスト削減や新事業展開など経営基盤の維持・強化に協力するというにとどまる。

 いつまでに、何をどこまでやるといった具体的なスケジュールは書かれておらず、本気度が伝わってこない。

 職業訓練や相談・紹介業務の拡充・強化についても触れている。

 いずれも重要な課題だが、気になるのは、こうした訓練や相談の役割を担う機関として公共職業安定所(ハローワーク)への期待があまりに強調されていることだ。確かにハローワークの全国ネットワークを使って雇用のミスマッチを解消し、再就職や生活の支援は大切だ。

 だが、ハローワークが行っている職業紹介事業を民間企業に委ねるのは長年の懸案だ。とかく役所仕事に陥りがちな職員に緊張感を持たせようと、08年には官民併存を可能にする市場化テスト法案が国会に提出されたが成立しなかった。

 職業訓練や紹介業務は民間のノウハウが生きる分野だ。「雇用の危機」を理由にした、役所の勢力拡大につながってはならない。

 また、将来の雇用安定のためには新しい産業や職場をつくることが最も重要といえる。経営側の取り組みや働く側の意識改革も欠かせない。せっかくの合意が記念写真の撮影に終わらないよう期待したい。

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