西松建設の違法献金事件をきっかけとして、与野党双方から政治資金規正法改正の声が上がっている。「政治とカネ」をめぐる問題が起きるたびに規制が強化されてきたが、今度こそは「抜け道」を許さぬ改革が必要である。
改正に取り組むことを宣言したのは小沢一郎代表の公設秘書逮捕に揺れる民主党だ。公共事業受注企業からの献金禁止を掲げた。かつてマニフェスト(政権公約)に盛り込んだこともあるテーマである。さらに小沢代表は記者会見で企業・団体献金の存廃について、公共事業受注企業の分別は不可能だとして「全面的に禁止すべきだ」と踏み込んだ見解を示した。
民主党の政治改革推進本部では、このほか政治家が代表となる政党支部の数の制限、政治資金パーティーの透明化などの論点を挙げた。
政治資金の規制で慎重な自民党との違いをアピールすることで、悪化した党のイメージを好転させる狙いもあるのだろう。献金規制に与党の公明党も前向きな考えを表明した。
政治資金規正法は、事件などを受けて改正を繰り返してきたが、その度に「抜け道」ができるいたちごっこだ。政治家個人への企業・団体からの献金は、癒着や腐敗の温床になると二〇〇〇年から禁止された。認められるのは、政党(支部を含む)と政党の資金を管理する政治資金団体だけになった。
しかし、国会議員が代表を務める政党支部で受けた企業・団体献金をその議員自身の資金管理団体に還流させる方法や、政党を通じて意中の政治家の政治団体に寄付する「ひも付き献金」などが指摘されてきた。パーティー券についても、限度額は決められているが購入額が二十万円以下の場合は名前などは公表されず、これも一種の「抜け道」といえる。
麻生太郎首相は「企業・団体献金自体が必ずしも悪とは考えていない」と話し、自民党として献金禁止には慎重な姿勢をみせる。しかし、繰り返される「政治とカネ」に関する不祥事で国民の政治不信は高まっている。信頼回復には抜本的改革が必要なことは明らかである。
一九九五年に実施された政党助成制度は、政治腐敗を根絶することを目的に、企業・団体献金をなくすことの見返りとして導入されたことを忘れてはなるまい。使われているのは国民の血税である。次期衆院選に向け与野党が政治資金の透明化へ向けて改革案を競ってほしい。
群馬県渋川市の老人施設「たまゆら」で起きた火災は、高齢者ら十人が亡くなる惨事となった。安全管理をないがしろにした施設の運営と福祉行政のひずみが招いた悲劇といえよう。
出火当時、三棟の施設に十六人いた入所者に対し夜勤の職員は一人だけだった。認知症のお年寄りも含め全員を避難させることなど到底不可能で、近所の人が救助に当たっている。建物面積が基準以下のため法令上の義務はないがスプリンクラーも設置されてなかった。
警察や消防は出火原因だけでなく、防火設備や人員配置など安全管理に問題がなかったかも捜査しなければならない。
介護や食事をサービスする施設は有料老人ホームにあたる可能性があり県への届け出が必要だ。しかし、運営者の特定非営利活動法人(NPO法人)は届けを出していなかった。
県は施設内容について文書提出を求めていたが、出された文書に不備があるため県が立ち入り調査を行う矢先だった。早く着手しておけば悲惨な結果は避けられたかもしれない。
入所者の多くが東京都墨田区で生活保護を受けている高齢者で、区役所の紹介で入所し、区が支給した生活保護費から利用料が支払われていたことも明らかとなった。背景には都市部の高齢者施設不足がある。特別養護老人ホームは定員いっぱいの状態だ。一人で暮らせなくなった高齢の生活困窮者が入所できる施設が少ないため、近県にある無届けの施設が受け皿となっているとみられる。
無届け施設は、厚生労働省の二年前の調査では全国に三百七十七あった。増えている可能性が高いだけに施設の運営実態などを把握する必要がある。その上で、介護の質向上や安全対策を急がねばならない。
(2009年3月23日掲載)