経済協力開発機構(OECD)は、『図表でみる教育 OECDインディケータ(2008年版)』を公表しています。その中に初等教育から高等教育までの各段階で、教育機関に対する公財政と私費負担の支出が、GDP(国内総生産)に対してどのくらいの割合で行われているかの国際比較があります。どの段階においても日本の教育に対する公財政支出は、OECD加盟国中最低レベルです。
勤労世帯にこそ社会保障給付を
日本の場合、学校教育費だけでなく学習塾などの負担も重く、中学受験をする子供の学習塾関連費用は住宅ローン並みと言われています。FPとして資金計画のアドバイスを行う場合、お客様がお子さんを中学から私立に進学させたいと希望していれば、小学4年生から学習塾関連費を年間100万円程度織り込むことにしています。学校教育費だけでも家計負担が大きいうえに、学校外の教育費を織り込むと、さらに教育費が家計に与える負担は厳しくなります。
都留文科大学の後藤道夫氏は、総務省が行う就業構造基本調査を基に、貧困世帯数と貧困世帯率を推計しています。それによりますと、勤労世帯のうちの貧困世帯は674.8万世帯、貧困世帯率は19%です。ところが、18歳未満の子がいる世帯に絞りますと、貧困世帯は309.8万世帯、貧困世帯率は29.4%と一気に貧困世帯の割合が上がります。
日本は収入だけを国際比較すれば、特別に貧困率が高いというわけではありません。ところが、収入から税金・社会保険料を引き、社会保障からの給付を足した結果、貧困率が高くなる奇妙な国です。通常、収入段階では貧困であっても、税や社会保障からの給付を受けることで貧困率は下がるのですが、日本は社会保障の対象を一時的あるいは恒久的に勤労が不能な人に限定しているため、勤労世帯の貧困を防止する機能が働きません。
ある公立高校の教師の方から、「今年の卒業生の中に、とても成績優秀だったのに家庭の事情で進学がかなわず、就職を選んだ生徒がいるんです」とお聞きしました。教育費が賄えないだけではなく、一家の収入の担い手として期待されたという事情もあったようです。就職できればまだよいのですが、高卒での就職は大変厳しい状況です。進学がかなわず、就職もできないとなれば、将来にわたって安定した労働市場から排除される可能性が高まります。
社会保障と言えば一部の弱者のためのものといったイメージを持ちますが、海外では賃金プラス社会保障で暮らすのが当たり前という感覚のようです。税金や社会保険料として払ったものを、保育、教育、介護、医療など、必要に応じてすべての人が無料もしくは低い負担でアクセスできる形で還元すれば、勤労世帯にも分配が広く行き渡ります。国力の向上や社会の安定という点からも、勤労世帯にこそ教育をはじめとする社会保障給付を行うべきでしょう。
極端に狭まる若年層の正規雇用の道
私自身は働きながら4人の子供を育てました。お金と時間のやりくりに綱渡りのような日々を過ごし、時には友人知人、近所の方の手を借りながら、何とか綱から落ちることなくやってこられました。振り返れば、時代と運に恵まれたとつくづく感じます。では、今の若い人たちに「子供を産んだ方がいいわよ」と言えるかというと、躊躇せざるを得ません。子供を産むと数々の懲罰が待っているかのような今の社会では、なんだか無責任な物言いになってしまいそうだからです。