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2009年3月24日(火)

増税かインフレか

世界的な政府債務大膨張の先にある必然的未来

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 しかし、日本と米国では大きな違いがある。BS協同組合の続きで言うと、「日本組合事務局」発行の債務証書(国債)はほとんど日本組合の会員によって保有されている。その結果、事務局が徴税権を発動して、増税と同時に債務返済を行っても、事務局と会員の間の債権・債務の付け替えが起こるだけだ。

 ところが「米国組合」の債務は日本を含む他組合の会員によりかなりの部分が保有されている。その結果、将来債務を返済する時には、クーポンを他組合の会員に支払わなくてはならない。他組合の会員は返済されたクーポンで米国組合からサービスの提供を受けることになり、その分だけ、将来の米国組合会員の消費できるサービス量は減る。つまり、海外の投資家への米国政府の債務返済は、そのまま海外への購買力の移転となる。

 さて、最初の問題に戻ろう。政府でも債務破綻することはあるのだろうか。

 アルゼンチンは国内外の投資家にペソ建て、外貨建て双方で莫大な国債を発行した揚げ句、2001年にデフォルトとなった。その後、政府は一方的な債務再編案を宣言し、大幅な債務棒引きを強行した。この時、日本でもアルゼンチン政府発行の円建て国債を保有していて大損した投資家が大勢いる。

 しかし、米国政府が国債の返済をデフォルトしたら、その時こそ世界の金融・資本市場は修復不可能な崩壊を起こし、世界経済は壊滅するだろう。従ってそうした選択肢は米国にとっても世界にとってもあり得ない。それに返済するのは米国にとっての外貨ではなく、自国通貨のドルだから、その気になれば幾らでも増発できる。

そろそろ「ポスト金融危機」の世界が見えてくる

 代わってあり得そうなシナリオは、米国はある程度のインフレとなり、米国債の実質価値が減少することで政府債務の実質価値を減少させることである。インフレに伴って国債の金利は上昇する(価格は下落する)。その時、ドル相場はどうなるか。今後の景気の回復で米国がユーロ圏や日本に先行すれば(私はその可能性が高いと見ている)、欧州や日本から米国への投資が復活し、短期的、中期的(2〜3年)にはドル高となり得よう。しかしより長期的にはインフレ格差を反映してドル相場は下落する。

 現下の危機の最中、投資資金はリスクのない資産として国債に向かったが、長期投資の視点からは、そろそろ逆の投資を考えた方がよい。すなわち、こういうことだ。

「世界不況の今日、米国債も日本国債も売っておきなさい。代わりに資産デフレで価格が下がり投資(インカム)リターンの上がった実物資産に厚めに投資しておきなさい。ドルは買ってもいいが、途中で売り抜けないと長期的には下がりますよ」



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著者プロフィール

竹中 正治(たけなか・まさはる)

竹中 正治

国際通貨研究所、経済調査部長・
チーフエコノミスト

1979年東京大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の為替資金部次長、調査部次長などを経て、2003年3月よりワシントン駐在員事務所所長。ワシントンから米国の政治・経済の分析リポート「ワシントン情報」を発信する傍ら、National Economists Club(WDC)役員を務めるなどエコノミストとして活動。2007年1月に帰国、2月より現職。最近の著書に、『米国経済の真実』(共著編、東洋経済新報社、2002年)、『素人だから勝てる 外貨投資の秘訣』(扶桑社、2006年11月)、『ラーメン屋vs.マクドナルド』(新潮新書、2008年)、『今こそ知りたい資産運用のセオリー まず投資の魔物を退治しよう』(光文社、2008年)など。


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