「ニュースを斬る」

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2009年3月24日(火)

増税かインフレか

世界的な政府債務大膨張の先にある必然的未来

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 手元保有クーポンの不足を感じた会員は自分のクーポンの使用を控え、サービスの提供で手元保有のクーポンを増やそうとした。しかし、多くの会員が同様の行動を取ったので、クーポンの使用が減り(=消費減少)、ますますサービスの相互提供が減退してしまった(=不況)。ここまでは前回と同じである。

 前回は協同組合の事務局がクーポンを増発して会員に配ることで「不況」から脱した。しかし、私の論考に寄せられた60件のコメントを見ると、デフレ不況回避のためでも「マネー増発は論外」とするご意見が多く、支持者は少数派だった。「返済不要の債務」という概念に反射的に「いかがわしさ」を感じる方も少なくないようだ。

 そこで今回は組合事務局(=政府)がクーポン増発を組合規則で禁じられていると想定しよう。

 それでは代わりに何ができるか。組合事務局は、サービスの相互提供活動を回復させるために、まず期間1カ月の「債務証書」を発行してクーポンを退蔵している会員からクーポンを借りることにした。債務証書を購入した会員は1カ月後にクーポンの返却とクーポン12分の1ポイントの利息を受け取る。延べ12カ月分のポイント(合計1ポイント)をためるとクーポン1枚と交換できることにした。

 事務局はクーポン200枚分の債務証書を希望会員に発行し、集めたクーポン200枚を200人の会員に1枚ずつ配布した。200人の会員の手元には、「債務証書クーポン200枚分+クーポン400枚=計600枚」が保有されたことになる。

 当面クーポンの使用見込みのない会員は「利息がもらえるなら」ということで債務証書を買った。一方、BSサービスの使用ニーズの高い会員はクーポンの追加供給を受けて安心し、クーポンの使用を増やした。この結果、組合の相互サービス提供活動は回復した。これが赤字国債を発行して国民に給付金を支給した場合の経済効果である。

BS協同組合の第2の危機、債務証書の借り換えが困難に

 話はここで終わらない。事務局は債務証書と引き換えにクーポンを提供した会員に1カ月後にはクーポンの利息分と元本を返済しなくてはならない。しかし、事務局はクーポンを増発できないので、毎月新しい債務証書を発行することで旧債務証書を返済した(=国債の借り換え)。

 そうやってしばらく組合は順調に運営されていたのだが、突然困った事態が起こった。これまで外出頻度が低く、BSサービス利用の頻度が低かった会員たちも、冬から春に季節が変わり、陽気が良くなると外出を増やし、サービスを利用する回数が増えた。その結果、事務局の債務証書の引き受け手がなくなってしまった。そればかりか、BSサービスの供給に対して需要が超過し始め、会員の中には「サービス1時間に対してクーポン2枚を払うからやってくれ」という者まで出始めた(=インフレ)。

 事務局の発行した債務証書残高は3カ月で利息と元本合計でクーポン250枚分になった。この借り換えができなくなったので、事務局長は総会を開き、次の3つの選択肢からどれを選ぶかを会員に問うた。

(1)会員すべてから平等に250枚のクーポンを徴収して、債務証書の保有会員に返済する(=増税)

(2)事務局がクーポン250枚を増発することで債務証書の保有会員に返済する(=マネー増発、あるいは日銀による国債買い取り)

(3)債務証書のデフォルトを宣言する(=政府の債務破綻)

 当然、組合員らの議論は紛糾した。債務証書のデフォルトを起こせば、怒った証書保有者は脱会し、組合は信用を失って崩壊するだろう。さりとてクーポン徴収(=増税)は嫌である。しかし、クーポン増発で債務証書を返済すれば、ただでさえサービス需要超過になりそうな状況であるから、クーポン価値が下落する形で事実上のコスト負担が会員に生じるだろう(=インフレタックス)。



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著者プロフィール

竹中 正治(たけなか・まさはる)

竹中 正治

国際通貨研究所、経済調査部長・
チーフエコノミスト

1979年東京大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の為替資金部次長、調査部次長などを経て、2003年3月よりワシントン駐在員事務所所長。ワシントンから米国の政治・経済の分析リポート「ワシントン情報」を発信する傍ら、National Economists Club(WDC)役員を務めるなどエコノミストとして活動。2007年1月に帰国、2月より現職。最近の著書に、『米国経済の真実』(共著編、東洋経済新報社、2002年)、『素人だから勝てる 外貨投資の秘訣』(扶桑社、2006年11月)、『ラーメン屋vs.マクドナルド』(新潮新書、2008年)、『今こそ知りたい資産運用のセオリー まず投資の魔物を退治しよう』(光文社、2008年)など。


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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

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