「ニュースを斬る」

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2009年3月24日(火)

増税かインフレか

世界的な政府債務大膨張の先にある必然的未来

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 世界的な不況への転落で欧米も中国も主要諸国は一斉に財政支出の拡大による景気対策に走っている。その結果、もちろん各国政府の財政赤字は今後急拡大する。

 2月26日に発表されたバラク・オバマ大統領の予算案では、2009年度の財政赤字は1兆7500億ドル(約172兆円)、GDP(国内総生産)の12.3%となり、戦時を除くと空前の規模になる。もっとも同時に発表された将来見通しでは、2012年度には赤字を5810億ドル(約57兆1000億円、その時点のGDP比3.5%)まで縮小させる計画が示されている。しかしかなり楽観的な前提で、かつ歳出歳入の抜本的な改革ができないとそうした改善は見込めない。

 西欧諸国の事情も似たようなものだ。日本も財政赤字の拡大、政府債務の一段の増加は避けられない。

 日本の政府長期債務残高(国と地方)は既に2008年度末に778兆円、GDPの148%(2008年度期初予算時点)であり、債務のGDP比率は先進諸国の中で最も高い。国のバランスシートで見ると、日本の特徴として政府負債と同時に資産も大きいので、純債務(=負債−資産)のGDP比率は100%近傍まで下がる。しかし、それでも先進国中「トップ水準」であることに変わりはない。

「危機後の3年間で政府債務は倍増する」

 米国をはじめこのままのトレンドが続くと世界の政府債務はどうなるのだろうか。

 米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授(元IMF=国際通貨基金=チーフエコノミスト)によると、過去の金融危機の歴史を検証した結果、「危機後の3年間で政府債務は倍増する」傾向が見られるという。1990年代の日本はその典型だった。ところが今は世界的な規模でそうした方向に動いている。この結果、現在のデフレ圧力はやがてインフレ圧力に転じ、国によっては債務不履行(デフォルト)にすらなる可能性が高まるとロゴフ教授は陰鬱な警告をしている。

 本当に先進国の政府でも債務破綻やデフォルトを考えなくてはならない時代になるのだろうか。不安を感じる人に「だから金(ゴールド)を買え」と説く評論家もいる。

 そもそも政府債務とは何だろう。まずこれを考えてみよう。

再びベビーシッター協同組合のモデルで考えてみる

 前回「禁断のマネー増発、挑む価値あり」(2009年2月18日「ニュースを斬る」)で取り上げたポール・クルーグマン教授紹介の「ベビーシッター(BS)協同組合」のモデルに少し手を加えて考えてみよう。

 念のために補足すると、クルーグマン教授は通常の金融政策が不況にどのように効くのかを説明するためにこれを語ったのであり、当時「マネー増発」を主張したわけではない。また、モデルとして単純化されている結果、BS協同組合が会員に増発して配るクーポンが、返済を要する金融資金なのか、それとも返済不要の財政資金なのか区別がつかないのが難点である。

 さて、BS協同組合は100人の会員に400枚のクーポンを配ってスタートしたとしよう。クーポン1枚で1時間のベビーシッター・サービスが受けられる。新規の会員を受け入れる時には新会員にまず初回のベビーシッターの提供を義務づけたとする。そうすれば新会員はサービス提供で旧会員からクーポンを受け取り、クーポンの流通が進むと考えた。

 協同組合は会員を増やしながら順調に展開したが、しばらくするとサービスの提供活動が減退し始めた。なぜか。会員が100人だった当初には1人が平均4枚のクーポンを保有していた。その後、会員が200人に増えた。だが、クーポンの発行枚数は400枚のままだった。このため会員1人が平均的に保有するクーポンは2枚に減ってしまった。



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著者プロフィール

竹中 正治(たけなか・まさはる)

竹中 正治

国際通貨研究所、経済調査部長・
チーフエコノミスト

1979年東京大学経済学部卒、東京三菱銀行(現三菱東京UFJ銀行)の為替資金部次長、調査部次長などを経て、2003年3月よりワシントン駐在員事務所所長。ワシントンから米国の政治・経済の分析リポート「ワシントン情報」を発信する傍ら、National Economists Club(WDC)役員を務めるなどエコノミストとして活動。2007年1月に帰国、2月より現職。最近の著書に、『米国経済の真実』(共著編、東洋経済新報社、2002年)、『素人だから勝てる 外貨投資の秘訣』(扶桑社、2006年11月)、『ラーメン屋vs.マクドナルド』(新潮新書、2008年)、『今こそ知りたい資産運用のセオリー まず投資の魔物を退治しよう』(光文社、2008年)など。


このコラムについて

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日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、NBonline編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。

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