大阪地検特捜部が強制捜査に乗り出した広告代理店「新生企業」(現・伸正、大阪市西区)による郵便法違反事件では、同社が障害者団体向けの郵便割引制度の“盲点”を巧みに突き、福祉をエサに130億円にも上る暴利をむさぼっていたことが明らかになった。郵便料金をめぐる過去最大規模の“巨額詐欺”だ。郵便事業会社は「制度が悪用されるという発想がなかった」としているが、制度自体を現場の職員が明確に知らないなどチェックの甘さが事件の背景にある。そのしわ寄せはすべて、新生企業に利用された形の障害者団体に向けられた。
[フォト] 新生企業(現・伸正)が発送したダイレクトメール
■だまされた障害者団体
2月27日午前8時すぎ、大阪地検特捜部の係官4人が雨のぱらつく中、大阪府吹田市内の障害者団体の施設へ家宅捜索に入った。
突然、捜索令状を示された施設職員は驚き顔で、作業中の障害者たちが不安そうに捜索の様子を見守っていた。
この団体の理事長は平成18年秋、知人から「いい話がある。ちょっとぐらいお金が入るかもしれない」と持ち掛けられ、新生企業で社長の宇田敏代容疑者(53)=郵便法違反などで逮捕=と会った。
刊行物の発行を勧められ、1通40銭が団体に入る約束。刊行物の同封で広告用ダイレクトメールの発送料金が15分の1にもなる仕組み。1年半で約240万円が銀行に振り込まれた。
理事長は「そのお金でスタッフの昼ご飯になったし、みんなで忘年会もできた。それがこんなことになるなんて…」とうなだれる。
問題発覚後、郵便事業会社から「発行所の責任」として、正規料金との差額約3億3000万円を請求された。
「このままではつぶれてしまう」
現在は大阪府の指導で弁護士と相談し、郵便事業会社と交渉中だという。
■注射器が落下
大阪市内が一望できる同市北区の超高層マンションの38階に住む宇田容疑者。最上階の部屋は有名タレントが所有していることで有名な高級物件だ。
同月26日朝、特捜部の家宅捜索が入った際、近所の住民らが騒然となるトラブルが起きた。
地検係官が部屋に入った後、宇田容疑者の部屋の窓から約130本の注射器が入った箱が落下してきたのだ。当時、マンション玄関付近でカメラを構えていた報道陣にも危うく当たりそうになったという。
宇田容疑者が薬物を使用しているといううわさは新生企業関係者の間で根強く、事実、部屋から乾燥大麻が押収された。
宇田容疑者は昭和51年、化粧品会社に入社。3年後に退社してクラブを一時経営した。平成16年に新生企業を設立してからは、銀色のポルシェに乗り、ブランド服に身を包んで営業活動に回ったという。
「世のため人のため仕事をやっている」「20年以上福祉の経験がある」。宇田容疑者の誘い文句は巧みだった。
「花には水を 人には愛を!」と書かれた名刺を配り、福祉を前面に出していたが、その場では本名を隠して「順子」という偽名を使っていた。
■郵便事業会社に批判の声
宇田容疑者の悪質な犯行の裏には、郵便事業会社のチェック体制の不備がある。障害者団体の関係者からも批判の声が上がる。
障害者団体向け割引郵便制度を利用するには、(1)1回の発行部数が500部以上(2)1回の発行部数の8割以上が有料購読(3)広告が全体の5割以下−などの条件がある。
これら条件を郵便局の窓口でチェックしなければならないが、郵便事業会社渉外広報部は「障害者福祉の向上を目的としていたため、不正があるということを念頭に置いていなかった。このため書類上のチェックしかしておらず、そこをつけ込まれてしまった」と話した。
実際に発送作業にかかわっていた障害者団体の関係者は「郵便局の窓口の奥の壁には『目標売り上げ●円!』と書かれた紙が張ってある。売り上げノルマを達成するために不正を黙認していたのでは」と批判している。
【関連ニュース】
・
「だまされた」「つぶれてしまう」…障害者団体悲嘆 郵便制度悪用
・
ダミー団体設立、利益拡大への“切り札”か 郵便制度悪用事件
・
障害者割引悪用“裏技”駆使して利ざや
・
郵便割引悪用の疑い 広告代理店社長ら逮捕
・
認可後「ほぼノーチェック」 郵便制度悪用事件