障害者団体の定期刊行物に適用される割引郵便制度を悪用した郵便法違反事件で、大阪市西区の広告代理店「新生企業」(現・伸正)の元取締役、阿部徹容疑者(55)=同法、法人税法違反容疑で逮捕=が、かつて福島県でも同様に割引制度を悪用していたことが27日、捜査関係者の話で分かった。国税局による摘発後、大阪に拠点を移動したという。大阪地検特捜部は、制度を熟知した阿部容疑者が同社社長、宇田敏代容疑者(53)=同=に指南し、“二人三脚”で利益を拡大させたとみて調べている。
捜査関係者などによると、阿部容疑者は昭和55年、福島県郡山市で広告代理店を設立。約15年前から、低料第三種郵便物の割引制度を利用し、障害者団体の定期刊行物に企業の広告パンフレットを同封したダイレクトメール(DM)の発送業務を始めた。しかし5年ほど前、国税局に法人税法違反罪で摘発されたため、この事業をやめたという。
その後、大阪に拠点を移した阿部容疑者は、活動実体のない社会福祉団体「のぞみ援護会」(大阪市)を使って割引制度を利用していた宇田容疑者と知り合い、平成16年4月、共同で新生企業を設立した。阿部容疑者は昨年1月から1カ月間だけ取締役だった時期もあるが、設立当初から実質的経営者としてDMの発送業務にかかわったという。
のぞみ援護会の関係者は「阿部さんが来てから1カ月の発送量が(それまでの)数万通から、数百万通に増えた」と話す。
宇田容疑者は、墓石販売会社や不動産会社などの企業を経営しているため人脈も幅広い。この関係者は「新生企業は、宇田容疑者の持っている『営業力』と阿部容疑者の『経験』を駆使してもうけようとしていた」と明かす。
両容疑者は私生活でも“一心同体”だった。阿部容疑者は宇田容疑者の自宅マンション(大阪市北区)で同居しており、マンションの管理人は「いつも一緒にいたので、てっきり夫婦だと思っていた」と話した。
◇
大阪地検特捜部は27日午前、関連先として、石川県白山市に本店を置く大手印刷・通販会社「ウイルコ」大阪支店(大阪市西区)や、大阪府吹田市内の障害者施設2カ所の家宅捜索に乗り出した。
ウイルコによると、新生企業から持ち掛けられ、割引制度を利用した広告DM約6260万通の印刷・発送にかかわった。問題発覚後の昨年12月、当時の社長が引責辞任している。同社は「違法性の認識はなく、意図的に制度を悪用した事実もない。捜査には全面的に協力する」とコメントしている。
【関連記事】
・
ダミー団体設立、利益拡大への“切り札”か 郵便制度悪用事件
・
「だまされた」と吹田市議ら 郵便制度悪用事件
・
【因数分解】郵便割引悪用の疑い 広告代理店社長ら逮捕
・
「だまされた」「つぶれてしまう」…障害者団体悲嘆 郵便制度悪用
・
認可後「ほぼノーチェック」 郵便制度悪用事件