2009年3月21日

普段無口なコーリー（コスキー・三塁手）が、突然僕のところにやってきて、
「もう疲れたから、うちに帰るよ」
と言ったのは、本拠地での練習を終え、そろそろ遠征に出発しようか、という時でした。
最初ロッカーが隣だったというのに、「おはよう！」と声をかけても「ああ・・・うん・・・」という感じの選手なので、ほとんど会話を交わしたことがなかったのです。
歩き方にも覇気がなく、ぼんやりしている印象ばかりを持っていた彼が、
「疲れたからうちに帰るよ」

それは、もう２度とフィールドに戻ってこないという、引退の挨拶でした。

彼が２年半前、試合中にボールを追って転倒し、それ以来脳震盪の症状に苦しめられてきたのを知ったのは、彼が球場を去ったあとでした。
２年半もの間、車の運転はおろか、自分の子供と遊ぶことすらできなかったのだそうです。
頭痛やめまい、ふわふわと雲を歩いているような感覚、そして、記憶や意識の混濁。
そんな中で、ただひたすら野球を再びやりたいと願い続け、今年カブスとのマイナー契約を得て、復帰の道を探ろうとしていた矢先のことでした。

先日先発したゲームで、ボールを取ろうと飛び込んだ時、またしても脳震盪の症状が彼を襲ったのです。そしてそのことが、「家に帰る」ことを決意させるきっかけとなりました。

家庭があって、小さな子供がいて、３５歳のこれから先の人生はまだ長い。
今の状態で夢だけを追いかれば、その結果一生後遺症に苦しめられることになります。
野球をやりたいという気持ちを取るか、これから先の人生の平穏を取るか。
コーリーが取ったのは、家族との穏やかな日々でした。

ボールを追って転倒した悪夢の日、コーリーはただ倒れただけで、頭を直接打ったわけではなかったのだそうです。それでも脳震盪は起こる。そして、有能な三塁手をついに引退に追いやってしまいました。

思えば、心からすべてに満足して、やり遂げた、悔いはない、という気持ちで引退できる選手が何人いることでしょう。
おおよその選手は、仕事を失ったり、怪我に泣かされて、野球をあきらめざるを得ないのです。

僕はいつか穏やかな気持ちでユニフォームを脱ぐことができるのでしょうか。
カットが始まって、人数が少なくなっていく日々。コーリーが去ったあとはひときわがらんとして思えるクラブハウスです。

アリゾナ州メサにて　田口壮　

2009年3月20日

家に帰ったら、シュークリーム・ブームに続いて、うどんブームが来ていました。
しかも２次発酵を終えて「さらにこねて延ばして切ってゆでる」という、そこが一番大事やろ、という状態を残して、母とヨメが僕の顔を見てニコニコしているのです。
今夜の夕飯は「カレーうどん」「冷やしぶっかけ」など、うどんを主食に、おかず数品。
しかも僕がこねて延ばして切ってゆでた。主婦が二人もいるのに。
ちなみにシュークリーム・ブームは同時進行で細々続いています。
先日やっとシューが膨らんで、生まれて初めて「母親の小躍り」を目撃してしまいました。怖かった。

ご飯が終わったら寛が野球をしろと迫ってきます。
あのね、パパはついさっきまで野球してたの、と言っても、承知しない。
しかも、球が速いだの遅いだの曲げるなだの高いだの言うのです。
ピッチャーに注文をつけるわがままなバッター。そんなことが許されるなら、パパは８割打ってるぞ。
なんだかんだと、帰宅すると、球場にいる倍疲れます。

しかし、子供と遊ぶ、は、心の疲れを取ってくれますが、
うどんは腕の疲れを倍増するので、シーズン中はぜひ仕上げておいていただきたい。

アリゾナ州メサにて　田口壮　

2009年3月19日

最近野球がとっても楽しい。結果が出ていないのはさておいて、
まるで子供の頃に戻ったような気持ちでプレーしているのです。
白球が空に浮かび上がったら、何も考えずただ追いかける。
バッターボックスでも、来た球を打つ。
野球ができる、それだけで嬉しかった、小さな頃と同じ気持ち。
駆け引きも何もない、がむしゃらに突っ込んで行くだけの僕がいます。　

日本にいたらきっと今頃はもう引退していて、
こんな気持ちなど、もう二度と味わうことも
なかったでしょう。今ここにいられることが、とても幸せです。

カットが始まって、チームの人数もどんどん減ってきました。
明日にでも、僕もマイナー行きを告げられるかもしれません。
でも不思議なくらい、切羽詰った気持ちにならないのは何故なんでしょうね？

今日はピオリアに遠征。オープン戦が始まってから、若い選手も含めて遠征免除の日をもらっているのに、僕だけがここまで皆勤賞です。
身体はへとへとですが、休みをくれ、というよりも、
ここまで来たら全部行く！のが目標。

ちなみにオープン戦の遠征、最後を締めくくるのは、ＮＹでのヤンキース戦です。
「ＮＹに行きたいか〜！？」タッタッタッタラタラッタター♪
アメリカ横断ウルトラクイズ（※）の音楽が、毎日のように頭の中に響く今日この頃。
どんどん人数が減っていき、ＮＹを目指すあたりが他人事とは思えないため、今回のキャンプを「アメリカ横断ウルトラキャンプ」と呼ばせていただきます。


管理人注
※日本テレビ系列で放送されていたクイズ番組。いろいろなパターンがあるが、出発地の後楽園球場（東京ドーム）に集まった人々が、クイズに勝ち抜きながら成田、機内、アメリカ本土などでふるい落とされ、人数が減っていく。決戦の地はＮＹ（だったことが多い）。

アリゾナ州メサにて　田口壮　

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