現在、全国のラジオ局では、放送終了後、番組をネット経由で再配信するポッドキャストサービスを提供中だ。また、在京・在阪局の一部では、来年の本格実施を目指して、インターネットや対応ケータイなどで番組を聴けるデジタルラジオ放送局を開設している。文化放送では、地上波放送を同時放送する「文化放送プラス」、ワールドミュージック専門局「UNIQue the RADIO」、アニメ・ゲーム情報の専門局「超A&G+」の3局を持っている。若者を中心にラジオ離れが進むなか、ラジオ端末がなくても番組を聴ける仕組み作りを進めているのだ。
しかし、ポッドキャストで配信されるのは、基本的にCMや音楽を含まない番組のトーク部分のみ。現状では「番組紹介用」の無料コンテンツとしての色が強く、広告収入といった収益構造は確立されていない。
「ポッドキャスト以外の新たな展開であるデジタルラジオについては、現在、聴取率調査の対象ではないため、広告効果の測定が難しく、CM枠を販売しにくい面があります。『超A&G+』では、ネットゲーム事業者とのタイアップ番組なども制作していますが、さらに新しいビジネスモデルは必要になるでしょうね」(橋本氏)
テレビやラジオ、ネットのコンテンツ制作・流通関係者を取材した『コンテンツ・フューチャー』(翔泳社)などの著者・津田大介氏によると、タイアップ以外にも広告埋め込み型の番組制作手法はあるはずだという。
「例えば、『自動車メーカーから出資を受け、業界PRのためにクルマ情報番組を制作する』方法も考えられます。番組は特定のメーカーに寄り添わず、主体的に業界の面白い情報だけを伝え、スポンサーの名前も出さない。そのかわり1口あたりの出資額は通常の広告料より安くする。広告の世界ではタブー視されている同業複数社からの同時出資を受けられる可能性もある。ステルスタイアップとも言えますが、制作側は決められた範囲内で面白い番組作りを追求できるメリットもある」と津田氏は分析する。
●限られたコストでもトークや企画で質を維持
では、ラジオの聴取率という面では、どうなのだろうか? 全体的には下落基調にあるというが、その半面、10年以上続く番組も数多いことからわかるとおり、ラジオには熱心なファンを獲得しやすい性格がある。
「音楽業界では所属アーティストのファンクラブをケータイの公式サイトで運営し、中には月額300円で数十万人の会員を抱えるところもあります。彼らのように毎月数千万円を稼ぐのは非現実的ですが、コアなリスナーを抱えている番組なら、数万人は集められなくても数千人なら現実的に集められる可能性はある。幸いラジオは制作費が安く、属人性が高いメディアなのでファンクラブが成立しやすい。コアリスナーにコミュニティ機能や番組アーカイブなどを提供すれば収益化の道も探れるはずです」(津田氏)
世界恐慌の影響をモロに受けることになる今年、ラジオを取り巻く状況は一層厳しくなるだろう。デジタル化に伴う、産みの苦しみも味わうはずだ。しかし、クイズ番組の連発など、予算削減により明らかに内容がショボくなったテレビ業界とは違い、ラジオはパーソナリティのトーク力や企画力次第で、限られたコストの中でも、従来と遜色のない、いやそれ以上の番組を制作することだってできる。
実際、新聞のラジオ欄を眺めてみると、過激でフランクな、いかにもラジオらしいトークを楽しめる『高田文夫のラジオビバリー昼ズ』(ニッポン放送)のような番組もあれば、どう考えても誰も聞かない時間帯に殴り込みをかけ、多くの若者を取り込むことに成功した『文化系トークラジオLife』(TBS)のような新たな潮流も存在する。文化放送でも、10代男子の占拠率6割超を誇る『A&G超RADIO SHOW~アニスパ!』や、放送時間中、女性リスナーから4,000通ものメールが殺到する関ジャニ∞の『レコメン!』のような、特定のターゲットのハートをガッチリ掴んだ番組が数多く放送されている。
不況、不況と嘆くなかれ。そう簡単にラジオは死なないのだ!
(文=成松哲/「サイゾー」4月号より)
ラジオ業界の裏話、ぎっしり。
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