ここから本文エリア 「地域医療はいま」3 県の医師確保対策2009年03月22日
3月15日、仙台。 会場の入り口付近には、医学生を自分の病院のブースに誘う病院職員や研修医がひしめきあっていた。われ先にパンフレットを渡し声をかける。さながら大学サークルの新入生勧誘のようだ。 東北厚生局主催の臨床研修病院合同説明会。東北6県から91病院が参加した。しかし、集まった医学生はわずか約100人。学生が来ず、ブースで手持ちぶさたにする病院職員の姿も目立った。 「少ない医学生を、県同士、病院同士で奪い合っている」。自ら会場に足を運んだ県立二戸病院の佐藤元昭院長は言う。 ◇ この日、岩手から参加したのは10県立病院を含む13病院。県医療局の組織内でネットワークを作り協力関係にある県立病院だが、研修医の確保は別。隣り合うブースで、互いに研修プログラムや所在地の魅力を競い合う。 04年から義務化され、地方の医師不足を決定的にしたとされる臨床研修制度。新卒医師が大学の医局を経ず、全国の指定病院から自由に選んで研修(2年間)を受けられることになった。 打撃を受けたのは地方大学だ。岩手医科大学では約80人の卒業生のうち、03年は41人が大学に残っていた。制度が始まった04年は22人。その後は5年連続で15人以下だ。最も少なかった07年は、2人しか大学に残らなかった。 500人近い県立病院の勤務医の半数は岩手医大出身。県と大学が一体となって岩手の地域医療を支えてきた。だが、臨床研修制度の導入後は「岩手医大が人手不足に陥り、県立病院に医師を派遣してもらうことが難しくなった」(県医療局幹部)。 ◇ 2月中旬のある夕方、県医師確保対策室の尾形盛幸室長は、札幌市内のホテルのレストランで、県出身の男性医師と向かい合っていた。北海道内の大学医学部を卒業後約20年、道内の病院に残って勤務を続けてきたという。 「カルテへの記入をサポートする『医療クラーク』の配置を始めた」「院内保育を拡大する」……。尾形室長は勤務医の待遇改善に向けた県立病院の取り組みを紹介し、「ぜひ岩手での勤務を考えて」と訴えた。約2時間にわたる面談の答えは「今は無理」。ただ、「両親が岩手にいるので将来的に可能性はゼロではありません」とも。 同室は職員6人。医師のリクルート部隊で、岩手に縁のある医師を探しては「ぜひ岩手へ」と口説いて回る全国行脚の日々だ。尾形室長も北は北海道・網走から南は九州・福岡まで足を運んだ。 06年9月の発足以来、面談した医師は延べ約900人。出身や専門、家庭状況などをデータベースに登録し、継続的に連絡を取りあう。各地の県人会を通じた情報提供の呼びかけも行ってきた。しかし、県外から招くことができた医師は2月末までに13人にとどまる。「即戦力となるベテラン医師は引き抜きが難しい」と尾形室長。全国的な医師不足の中、各都道府県とも医師の囲い込みを始めている。 「人生の転機でタイミングがあえば、戻ってきてくれるかも知れない」。地道な取り組みに期待をつなぐ。 ◇ 新たな医師確保の難しさから、県は勤務環境の改善を通じて、「今いる医師を引き留めること」に力を注ぎ始めた。医療クラークの導入、子どもを持つ女性医師のための院内保育の拡大、そして地域診療センターの「無床化」もその一つだという。 「そもそも県出身の医師が少ないことが問題」と指摘する声もある。医学部に進学する県内高校の卒業生は、年間35〜55人ほど。「小中学生の頃からの教育に力を入れる必要がある」と伊藤達朗・県立千厩病院長が指摘するように、社会全体の、腰をすえた取り組みが求められている。
マイタウン岩手
|