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山口の医療機関で産科医不足深刻、分娩制限や中止相次ぐ

 ◆過酷勤務、トラブル多発


分娩制限を打ち出した山口赤十字病院

 分娩の受け入れを中止したり、制限したりする医療機関が相次いでいる。医師不足や高齢化に加え、出産事故の刑事事件化や、看護師の内診問題などが医師の分娩離れに拍車をかけ、ただでさえ少ない産科医に過重な負担がのし掛かっている。

 「異常な事態。今後どうなるのか予想できない」

 山口赤十字病院(山口市)の辰村正人・産婦人科部長(59)がため息をつく。

 同科は4月から常勤医が4人から3人になる。昨年は5人。2人が退職し、鳥取大から1人を招いて4人で乗り切ってきたが、3月で1人が同大に戻る。

 医師たちの勤務は過酷だ。4日に一度のペースで回ってくる当直日は、午前8時半から午後5時10分まで通常勤務をこなし、翌朝まで院内に詰める。当直が明けても、外来患者への対応などで夕方まで勤務は続く。

 医療圏域は県北部や島根県西部まで広がっており、救急車による母胎搬送が週に2〜3件はある。緊急の手術などで頻繁に呼び出しがあり、1人の医師が夜中に複数の手術を行うケースも生じているという。

 常勤医が3人になることに伴い、鳥取、山口、九州の3大学に派遣を要請したが、すべて断られた。

 4月から分娩の受け入れを月30件以内に制限する方針を打ち出したが、「実数では20件が限度」(辰村部長)。遠方に住む妊婦が帰省し、母親らの支えで子供を産む「里帰り出産」も断り、当面は母胎搬送も一切受け入れない方針だ。

 「疲れ果て、良質で安全な医療を保障できる状況にない。このままでは産科を維持できなくなる」。辰村部長は言い切る。

    ◇ 

 2005年度以降に分娩の受け入れを中止、休止した医療機関は、県健康増進課が把握しているだけで病院2、診療所5の計7か所。4月には新たに1診療所が中止する。

 分娩を行っている病院も、予約制や里帰り出産の受け入れ拒否、「正常分娩のみ」「予定帝王切開のみ」などの条件を設けて妊婦の集中を回避。医師の負担軽減を図るが、分娩施設減少のしわ寄せは確実に押し寄せ、秋頃まで予約で埋まっている病院も少なくない。

 産科医不足の原因の一つと指摘されているのが、大野病院事件に象徴される出産事故の摘発や、愛知、神奈川県で表面化した看護師の内診問題などのトラブルの多発だ。

 4月から日本産婦人科医会県支部長に就任する藤野俊夫医師(下関市)は「大野(病院)事件など、とんでもないこと。勤務医の待遇見直しも重要だが、警察の容易な介入を許さない環境を整えなければ、若い医師の産科離れは食い止められない」と指摘する。

 「懸命に働いても、それに見合った報酬は得られない。患者の権利意識が高まり、すぐに訴訟になる。当然の処置を行っても逮捕される。そんなハイリスクな産科医になれ、と医学生や若い医師に言えますか」

 現職のベテラン産科勤務医の言葉に、問題の根深さが集約されている。

 大野病院事件 2004年12月、福島県立大野病院で、帝王切開手術を受けた女性(当時29歳)が失血死し、執刀医が06年2月、業務上過失致死などの容疑で逮捕された。福島地裁で無罪判決。

2009年3月21日  読売新聞)

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