きょうのコラム「時鐘」 2009年3月23日

 卒業シーズンも過ぎていく。ことしも紙面に校歌の話題を見た。少子化で、またいくつかの校歌が消えていく

日本の校歌は明治二十年代から盛んに作られた。学校制度が定着していく時代と重なり、教育方針や地域の自然を美しく読み込んだ歌詞は、地方の隅々にまで郷土意識が形成されていく過程の名残といってもいい

石川県の加賀地方では、白山を読み込んだ校歌が多いが、奥能登に行くと海越しに見える立山を歌い込んだ校歌が少なくない。北陸には県境をこえた生活圏があったことも分かる。校歌は地域の文化遺産でもある

が、世界中の学校に校歌があるわけではない。先年、中国の大連を訪れた金沢の教諭らが、校歌を聞かせほしいと子どもたちに頼んだところ「校歌はない」といい、生徒たちは「好きな歌は国歌です」と誇らしげに歌いだしたという

お国柄の違い、と言えばそれまでだが「国歌あって校歌なし」の学校は寂しい。逆に「国歌があっても歌えない、歌わない」というのも哀しい。卒業式から入学式へ。ふるさとへの思いを「歌」に託した日本の春をじっくり味わってみたい。