ここから本文エリア 地域医療はいま 命の現場に経営視点2009年03月23日
「過疎地の病院は絶対に必要だ。しかし、全国の自治体病院の中には、赤字のところが非常に多い。税金を投入して存続させるためには、自助努力もしてもらわないと。そこを考えてもらう『きっかけ』にしたかった」 今月上旬、増田寛也元知事は朝日新聞の取材に、総務省が07年12月、全国の自治体病院に経営改善の改革プラン策定を求めた「公立病院改革ガイドライン」の意義をこう説明した。増田氏は当時、総務大臣を務めていた。 「総務省から通知を受けるのは初めてだったと思う」。県医療国保課の柳原博樹総括課長は振り返る。 本来、医療行政を担う国の機関は厚生労働省。地方自治を担当する総務省が病院経営に切り込むのは異例だ。背景には、「夕張ショック」を契機に、07年6月成立した地方財政健全化法がある。 ガイドラインにはこう記されている。「(同法の施行に伴い)地方公共団体が経営する病院事業は、事業単体としても、地方公共団体の財政運営の観点からも、一層の健全経営が求められる」 人の生命を守る医療現場に「経営改善」の視点が持ち込まれた。 県や市町村など自治体が運営する病院は全国に約980。そのすべてが、今月末までに経営改善の改革プランを策定しなければならない。 県内の自治体病院は県立22、市町立8。県はガイドラインを受け、この30病院の役割分担を示した公立病院改革推進指針を策定した。05〜07年度の経営実績を指標に、赤字が目立つ施設には病床削減や診療所化の検討を迫った。 07年度末までに138億円の累積赤字を抱えていた県医療局。2月に正式決定した地域診療センターの無床化などを含む「県立病院の新しい経営計画」は、改革プランそのものだ。医療の提供体制の縮小は、医師不足に加え、合理化による経営収支の改善の狙いもある。 ◇ 「健康に暮らすため、沢内病院を守ろう」「現状より後退しないよう強く望む」 地域医療の先駆けと称賛される沢内病院(40床)だが、経営は苦しい。転機となったのは06年。この年、3人体制だった医師のうち2人が相次いで退職。入院や救急の受け入れを制限せざるを得なくなった。 患者は盛岡や北上、秋田県横手市など近隣に流れた。「ここでは十分な医療が受けられない」。住民と病院の信頼関係が薄れ、「沢内病院離れが起きていた」と佐々木一・沢内病院事務長は言う。 経営収支も悪化。07年度は町の一般会計から病院会計に約1億7900万円を繰り入れたが、それでも赤字が出た。歳出総額約70億円の町には少なくない額だ。県の指針は沢内病院に、「病床削減あるいは診療所化について検討が必要」と改革を迫った。 町は昨年11月だけで、15回を超える住民説明会を開いた。繰入金のうち、国からの交付税約1億1千万円を除く6000万円余りが、町の一般財源からの支出。人口約7千人の西和賀町民が病院のために「自腹を切る」額は、1人当たり年約9千円だ。 対話を通じ、病院規模を維持する方向が固まった。南北約50キロ。盛岡―北上間に匹敵する距離を持つ西和賀町に病院がなくなれば「自分が患者になったとき」の不便さは計り知れないからだ。 ◇ 一方、洋野町国保種市病院が病床削減と介護施設の併設を決めるなど、改革の方向性は病院によってまちまちだ。 「大事なのは住民に病院の置かれている状況を開示すること。負担も含めて、病院のあり方を選ぶのは住民なのだから」。佐々木事務長は強調する。
マイタウン岩手
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