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「大麻汚染」報道と公的大麻情報(上)

白坂和彦2008/12/11
大麻の危険性はどのような根拠と出典に基づいて書かれたものか。取材してみると、これは麻薬防止センターが15年ほど前までアメリカのテキサス州にある某団体から輸入し、国内の教育関係者向けに販売していた薬物標本レプリカの説明書の翻訳であることが分かった。
日本 人権 NA_テーマ2

「大麻汚染」報道と公的大麻情報(上) | <center>Drug Prevention Resources, Incが販売している薬物標本レプリカ</center>
Drug Prevention Resources, Incが販売している薬物標本レプリカ
 有名私立大学の学生が大麻栽培や所持で逮捕される事件が相次ぎ、マスコミ各社は横並びで「大麻汚染」と銘打って連日のように本名や顔写真を報じている。学生が逮捕される度に大学の当局者たちが記者会見を開き、深々と頭を垂れてお詫びの弁を述べている。だが、学生が大麻で逮捕されてニュースのトップ項目にまでなってしまう先進国は日本だけだろう。英国のガーディアンは、大学生の大麻取締法違反事件よりも、日本のメディアの大麻事件報道そのものを記事にし、『名門校の学生が、たまに大麻を楽しんだという暴露話をヘッドラインにすることはまずない−日本という国でない限り』と書いている。(意訳は筆者/注1)

 取り調べを担当する刑事たちは、大学には通報しないと言って逮捕された学生を安心させることがしばしばあるが、マスコミが本名や顔写真や大学名を報道することで事件が大学当局に知られ、その結果、退学処分となって学籍を失う事例が多い。学生たちは大麻そのものよりも逮捕と報道によって大きなダメージを受けている。

 大麻取締法には、大麻の種の所持や売買、大麻の使用を罰する規定がない。だから、それらを規制できるよう法改正が必要だという論調も見られる。

 だが、大麻取締法には、種の所持や売買、大麻の使用を禁ずる規定がないどころか、そもそも「目的」がない。薬物を規制する法には、大麻取締法のほか、覚せい剤取締法、あへん法、麻薬及び向精神薬取締法、麻薬特例法(国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法等の特例等に関する法律)があるが、大麻取締法以外は各第1条で法の目的を明確に示している。ところが、大麻取締法には目的が書かれていないのである。同法の第1条は大麻の定義である。(注2)

 なぜ大麻は禁じられているのだろうか。大麻取締法には目的が規定されていないので法文からは分からないが、「大麻汚染」報道では、大麻の害悪として、大麻を使用すると凶暴性を引き起こすといった説明がなされる場合がある。

 日本では、大麻の危険性について、大麻取締法を所管する厚生労働省の外郭団体である財団法人、麻薬・覚せい剤乱用防止センター(以下「麻薬防止センター」と略)が国民に周知している。麻薬防止センターは1987年に閣議での了承を得て設立された公益法人であり、専務理事職には厚労省OBが就任している。

 麻薬防止センターの事業は第一に「乱用薬物の精神・身体に与える影響等に関する正しい知識の普及啓発」だという。(注3)その「正しい知識」の普及啓発活動として、麻薬防止センターは、厚労省などからの補助金で運営されている。麻薬防止センターのウェブサイト、『「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ』には、規制薬物の危険性について記述があり、それらの情報はパンフレットや冊子としても頒布されている。大麻に関する情報は下記のウェブページに書かれている。

大麻とは
大麻常習乱用者の特徴
大麻の身体的影響
大麻の身体的影響(詳細)
大麻の精神的影響

「大麻汚染」報道と公的大麻情報(上) | <center>英語原本コピー表紙</center>
英語原本コピー表紙
では、麻薬防止センターが国民に周知しているこれらの大麻の危険性は、どのような根拠と出典に基づいて書かれたものか。取材してみると、これは麻薬防止センターが15年ほど前までアメリカのテキサス州にあるDrug Prevention Resources, Inc(注4)という団体から輸入し、国内の教育関係者向けに販売していた薬物標本レプリカの説明書の翻訳であることが分かった。

 その薬物標本レプリカの説明書の翻訳は、「薬物乱用防止教育指導者読本」として冊子化され、これもまた麻薬防止センターが啓発資料として販売していた。だが、麻薬防止センターが現在販売している薬物標本レプリカは国内で製造したもので、当時の英文説明書原本は既に保存しておらず、今やコピーしか残っていない。そして、厚労省は、私が指摘するまでこのアメリカ製薬物標本レプリカの説明書が我が国の公的大麻情報の出典であることを把握すらしていなかった。

 麻薬防止センターが輸入していた薬物標本レプリカと、厚労省への情報公開請求で入手した日本の公的大麻情報の原本は下の通りだ。

写真1(Drug Prevention Resources, Incが販売している薬物標本レプリカ)
写真2(英語原本コピー表紙)/写真3(目次)/写真4(本文1)
写真5(本文2)/写真6(本文3)

 『「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ』に書かれている大麻情報は、この英文の翻訳そのものである。ではその内容は医学的に正しいのだろうか。そこには大麻がいかに危険な薬物であるかが縷々述べられているが、医学的な根拠を示すよう求めたところ、厚労省麻薬対策課の情報係長(2007年10月当時)は、「まあ、根拠はないんでしょうね」と、あっけらかんと答えた。

 ここ最近の「大麻汚染」報道のなかで、11月8日、TBSのニュースキャスターという番組に、元麻薬取締官で、現在は麻薬防止センターの指導員を務める浦上厚氏が出演し、大麻を使用すると凶暴になるといったコメントをしていた。『「ダメ。ゼッタイ。」ホームページ』にも、大麻精神病として、大麻を摂取すると「理由のない自殺企画や、衝動的に他人に乱暴をはたらくなど粗暴な行動が現れる」と書かれている。果たしてこれは医学的に確認された事実だろうか。

 個人的に使用する少量の大麻所持を容認しているオランダでは、大麻愛好者たちが凶暴化して問題になっているだろうか。やはり大麻を非犯罪化している欧州諸国ではどうだろう。むしろ、2004年にポルトガルで開催されたサッカーのワールドカップでは、フーリガンの暴徒化を抑止するためアルコールを規制する一方で、大麻については公に容認している。2004年から少量の大麻所持を非犯罪化したイギリスでは、大麻の危険性を検証した上院科学技術委員会の顧問、レスリー・アイヴァーセン博士の著書「マリファナの科学」のなかで、神経科学者のソロモン・H・スナイダー博士は次のように述べている。

 「娯楽目的での大麻の吸引には有害なケースもあるが、コカインやアルコール、タバコほど危険なものではない。」(注5)

 またアイヴァーセン博士自身も次のように言う。

 「マリファナはその使用者をリラックスさせ、気持を落ち着かせるが、アルコールはときとして攻撃的で暴力的な行動を引き起こす。」(注6)

 「一部の科学者は大麻が有害であることを証明しようという道徳的方針のもとに研究を行っている。おおげさな警告が発せられ、大麻は染色体異常やインポテンツ、不妊、呼吸器疾患、免疫系反応の抑圧、人格変化、また永続的な脳損傷をもたらすきわめて危険な薬剤だと吹聴された。こうした警告のほとんどはその後まやかしであることがわかったが、ホリスターによるバランスのとれた論評(1986、1998)やL,ズィマーおよびJ.P.モーガンによる愉快な著作『マリファナの神話、マリファナの事実』(1997)では、これらの警告の多くが次々と効果的に論駁されていった顛末が記されている。」(注7)
 元麻薬取締官で現麻薬防止センター指導員の浦上氏と、アイヴァーセン博士やオランダ政府のどちらが正しいのだろう。

 11月11日。麻薬防止センターに電話取材した。

 (下に続く)

「大麻汚染」報道と公的大麻情報(上) | <center>英語原本コピー目次</center>
英語原本コピー目次
(注1)Japan frets over growing marijuana problem/guardian 2008.11.3
http://www.guardian.co.uk/world/2008/nov/03/japan

 記事の書き出しは次の通り。
『The revelation that students at the country's most prestigious seats of learning enjoy an occasional joint is hardly the stuff of headlines - unless that country is Japan.』

(注2)大麻取締法第1条/電子政府の総合窓口
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S23/S23HO124.html

 第一条  この法律で「大麻」とは、大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品をいう。ただし、大麻草の成熟した茎及びその製品(樹脂を除く。)並びに大麻草の種子及びその製品を除く。

(注3)財団法人麻薬・覚せい剤乱用防止センターのウェブサイト
http://www.dapc.or.jp/info/infor/2.htm

(注4)Drug Prevention Resources, Incのウェブサイト
http://www.dpri.com/index.html

(注5)「マリファナの科学」(レスリー・L・アイヴァーセン著、伊藤肇訳.築地書館)2003年5月20日初版 p.[

(注6)同書 p.109

(注7)同署 p.106

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</center>
英語原本コピー本文1
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[40087] 怪しげな情報
名前:山本恵也
日時:2009/01/02 18:35
>>40019
>その彼らの芸術が、大麻を使って得たインスピレーションをもツールとした作品
>であることで、何かその価値が貶められる理由

あなたは怪しげな情報を素直に信じる人間のようだ。

こういった情報はシビアに確認をしないといけないもの。
死なれた天才を怪しげな情報で貶めないように。
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[40066] いい加減な断定
名前:山本恵也
日時:2008/12/31 21:04
>>40019
>その彼らの芸術が、大麻を使って得たインスピレーションをもツールとした作品
>であることで、何かその価値が貶められる理由

あなたは怪しげな情報を素直に信じる人間のようだ。

こういった情報はシビアに確認をしないといけないもの。
死なれた天才を怪しげな情報で貶めないように。
[返信する]
[40055] 言う必要がないでしょう
名前:菅田一郎
日時:2008/12/30 18:40
斉喜さん

そんなどうでも良いこと事誰も聞いてはいませんよ

おしまい
[返信する]
[40054] 何度も言わせないで
名前:斉喜広一
日時:2008/12/30 18:03
菅田さん。
「作品」は評価するが、「行為」は感心しない、評価しない、ということですよ。
[返信する]
[40051] それだけですか
名前:菅田一郎
日時:2008/12/30 16:45
斉喜さん

従って

「薬物に頼って能力(感性、感覚の鋭敏さも含む)を向上させても、作品や業績の評価は、私は価値あることとも、有益なこととも思えます。」 (私的生活に一般人からすればははなはだ感心しない事があったとしても。)で良いんですね。

 初めから、こういう風に言っていましたっけ。私が少しというかちょっとというか斉喜さんの表現に対する忖度にかけていたようです。


[返信する]
[40036] 斉喜さんに最後のコメント
名前:白坂和彦
日時:2008/12/29 21:06
>あなたが、本当に法の改正を望まれるなら、もっと多くの人を説得してごらんなさいよ。
 
私はここまで海外の研究レポートなど、相当量のソースを示して説明してきました。が、斉喜さんは結局何も具体的なソースを示さずに、ドラッグへの偏見を拠り所に反大麻(反ドラッグ)の思いを披露されてきました。原発の危険性が限りなくゼロに近いと言う人に、大麻の危険性が限りなくゼロに近いことを説明するのは甚だ難しいと感じています。が、ここを読んで下さる方たちに、いろいろな根拠を示せればと思って続けてきた次第です。
 
良いお年を。
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[40034] 私も一般人
名前:斉喜広一
日時:2008/12/29 18:49
菅田さん。
「一般的にははなはだ関心できない」というのは、あなたの言葉ですね。
 私も、一般人(凡人)のつもりですから、やはりその「行為」は感心できない、と言ってるだけですよ。それ以上でも以下でもありません。
[返信する]
[40033] くどい
名前:斉喜広一
日時:2008/12/29 18:44
ほとんど同じループですね。
白坂さん。
「『大麻をやったから名作を残せた』などとも思っても書いてもいません」というのは、大麻説の否定ではないのですか。
それでいて、釈迦の悟りでさえ、(潜在能力を引き出す)大麻のお陰のように言われる。
そのことを先のコメントで指摘したのです。
「麻薬」の「麻」と「大麻」の「麻」の一件ですが、「お笑いになるかも知れませんが」という前置きを入れた意味をご理解していただけないなら、それも結構です。
「オランダの一部以外」という認識も変わりません。無知だと思われて、愚弄・嘲笑されるなら、それも結構でしょう。
あなたが、本当に法の改正を望まれるなら、もっと多くの人を説得してごらんなさいよ。国会議員を説き伏せてごらんなさいよ。さもなければ、法は動きません。
[返信する]
[40030] 誤った知識・認識を教育する行政の罪の重さを改めて感じます
名前:白坂和彦
日時:2008/12/29 17:24
斉喜さん
 
「白坂さんは、大麻説を否定しながら」というのは何を言っているのか分かりませんが、私は、天才的な芸術家や科学者たちが、アルコールや大麻やLSDでインスピレーションを得て作品や業績を上げることは実際にあることを例示し、一説を示しただけです。
凡才がドラッグを使えば天才と同じように素晴らしい作品や仕事を創れる、という意味ではないことも書いた通りです。
 
>結局、白坂さんは、何であろうと、とにかく「大麻」を肯定したい立場なのでしょう。
 
斉喜さんが、『世界中で、オランダの一部にしか認められていないものを、なぜ、わざわざ日本が嗜好用に解禁しなければいかんのですか』とか、大麻の「麻」は麻薬の「麻」だとか、言わば誤った認識と偏見を土台に話をしているので、縷々説明してきたまでです。
結局、斉喜さんは、何であろうと、とにかく「大麻」を否定したい立場なのでしょう。
[返信する]
[40029] だから、薬物などによって、創作された業績も価値があるのでしょう
名前:菅田一郎
日時:2008/12/29 17:15
>私も、大麻(によって名作が生まれたという)説には疑義をはさみながらも、仮にそれが事実だとしても、その「作品」に価値は認めても、「行為」に価値は認めない、と言っているのです。<


しかし、名作や大作にはそれを生み出した個人的な背景があるわけです。「一般的には感心しない行為」があったからといって、その業績を生み出した個人の生涯に、肯定も否定もないでしょう。その中からある特定の習慣の様な行為を抜き出して、それを「一般的には感心できない」といって、「それを認めません」という斉喜さんの考えをいうのは自由です。

従って
「その名作の価値がわからないから、その人の生涯も関心ももたない、大麻について何らの価値も認めない自分は、それによって生まれたとかいわれる名作そのものに何も感動も覚えないからだ。」

いっその事、そういう風に言った方が良いのではないでしょうか?でも、こうも言われていますね。


>私も、大麻(によって名作が生まれたという)説には疑義をはさみながらも、仮にそれが事実だとしても、その「作品」に価値は認めても、「行為」に価値は認めない、と言っているのです。<


 だからどうだっていうのかなあ。


>もちろん、菅田さんの言われるように、大麻以外でも、酒や女やその他に溺れて、私生活では感心しない、大家もいるでしょう。
その通りです。
で、その場合も、彼らの「作品」は価値あるとしても、その「行為」は、必ずしも「価値」あるものとは認められないことがあるでしょう。
菅田さん自身が「一般的にははなはだ感心できない」と認めれている通り、その「行為」自体はやはり感心できないのではありませんか。<


 あなたは何をいっているのですか?モーツァルトの金銭感覚がだらしなかったとか、シューベルトの女癖が悪かったとか言うのを感心しないと、言って、だから?何なのですか?それで終わりですよね。


>自分の感性や努力ではなくて、薬物に頼って能力を向上させる、ということは、私は価値あることとも、有益なこととも思えません。<


 最初の頃はこうおっしゃっていましたが、心境の変化があったんでしょうか?


あなたの、今の考え方は

「薬物に頼って能力(感性、感覚の鋭敏さも含む)を向上させても、作品や業績の評価は、私は価値あることとも、有益なこととも思えます。」

こういう事であれば私はあなたと特に何も争うことはありません。
[返信する]

3月9日〜15日 

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