装置に血液を通し老廃物を除く「人工透析」を受けている患者数は毎年増加している。日本透析医学会のまとめによると、07年末現在、全国で27万5119人。近年では糖尿病の合併症で腎臓に障害が生じ人工透析が必要になる「糖尿病性腎症」が増えており、患者団体は受け入れ態勢の拡大を求めている。しかし、人工透析治療は採算性が悪いことから実施を取りやめる病院もあり、特に医療機関の少ない地方では、病院を探し回る「透析難民」が問題になっている。県の現状を調べた。【菅沼舞】
豪雪地帯の勝山市に住む南加代子さん(52)は腎臓の発育不全で17歳の時に慢性腎不全になった。以来、人工透析を受けている。市内に一つある病院の受け入れ枠は既に満杯で、今は隣の大野市の病院に通院している。
昨夏まではそこの受け入れ枠もオーバーしていたため、やむなく週3回、片道約40分をかけて福井市内の総合病院に通っていた。交通の便が悪いためマイカー通院し、道路が雪で閉ざされる冬場は万一に備えて入院していた。透析の副作用で骨がもろくなった体に運転はきついが、なかなか来ない電車を待つよりは楽だという。
「こちらに住む患者で福井市に通う人は今も多い。私が若いころに比べたら、透析患者は倍増している。勝山市や近辺の病院がもっと透析患者を受け入れてくれたらいいのだけれど」と願う。
県内の患者数は07年末で約1700人。前年から約140人増加した。一方、腎臓病患者らでつくる福井県腎友会の調べでは、県内で人工透析を実施する医療機関は28カ所(うち3カ所は緊急時の利用に限る)と少ない。特に、県東部の奥越地域(勝山市、大野市)や敦賀市は受け入れ施設が2カ所しかない。
勝山市で透析装置を持つ福井社会保険病院の担当者は「勝山のような山間部のへき地では医師や看護師がなかなか集まらない。(社会保険病院が)独立行政法人に移行して経済効率も重視せざるを得なくなっていることもあり、透析患者の受け入れが難しくなっている」と話す。
県立病院で腎臓内科医長を務める荒木英雄医師は「奥越地域や敦賀市の患者さんは受け入れ先を探し続けている。言葉は悪いが、透析患者の誰かが亡くならない限り地元の医療機関に受け入れてもらえない状態にある」と心配している。
社団法人「全国腎臓病協議会」(全腎協)の金子智事務局長・副会長は、人工透析の実施病院が少ない原因に医療スタッフ不足を挙げる。透析患者の多くは65歳以上の高齢者で、4割を「糖尿病性腎症」が占める。複数の合併症を抱える患者の急変に備え、透析中は医師と専門の臨床工学士、看護師が常駐する必要があるが、医師や看護師の不足で、受け入れ患者数を削減したり、経費がかかりすぎる「不採算部門」として切り捨てる病院もあるのが現状という。
地域医療の核となる公立病院も例外ではない。07年に財政再建団体に指定された夕張市(北海道)では、多額の負債を抱えた市立総合病院(07年4月に公設民営の市立診療所に移行)が透析外来を廃止し、患者は隣町の病院への通院を余儀なくされている。
こうした状況を憂慮した全腎協は、腎臓病を未然に防ぐ活動に乗り出した。今年3月には全国で人工透析一歩手前の慢性腎臓病(CKD)対策の講演会を開催。検診体制の拡充やCKD予防対策を求める署名活動を全国で行い、国会や厚生労働省へ働きかけている。腎臓移植を希望する透析患者が多いため、臓器移植への理解を訴えるキャンペーンでは、提供の意思表示カードを所持するよう国民にねばり強く呼びかけている。
毎日新聞 2009年3月23日 地方版