政府の消費者庁法案と民主党の消費者権利院法案が審議入りした。ともに消費者保護が目的だが制度設計の理念が異なる。譲歩を拒み、昨秋の臨時国会に続いて先送りすれば国民が失望する。
「政府全体の司令塔として政府内部から画期的な改革を行う」
消費者庁法案の趣旨説明をした野田聖子消費者行政担当相に、民主党の権利院提案者である階猛氏が「内閣の外にある機関だからこそ、あらゆる消費者問題について勧告権限を行使できる」と反論した。衆院での審議入り早々、激しくやり合い、全面対決の様相を見せ始めた。
最大の相違点は「内閣からの独立性」だ。組織や権限行使の在り方に根源的な隔たりがある。
政府案は消費者庁を内閣府の外局とし、各省庁にまたがる物価行政や食品表示など二十九本の法令を所管させて消費者行政の窓口一元化を図る。消費者行政担当相を常設し、全国の消費生活センターの機能強化も打ち出した。
対案である民主党の権利院は内閣から独立させ、トップの消費者権利官を民間から登用して各省庁に資料提出や調査、処分の勧告などを求める。都道府県には新たに地方消費者権利局を置く。官僚主導に陥らぬよう消費者の立場から権限を行使するとの設計だ。
司令塔を内閣に置くか、独立させるか。両者が自らの提案に固執すれば前に進まない。それでも、縦割り行政を排して一元化を図るとの認識は共通している。歩み寄るきっかけにならないか。
省庁ごとに進めてきた消費者行政は多くの教訓を残した。中国製ギョーザ中毒事件では発生現場の兵庫県などが警察に委ねるべき事案と判断し、厚生労働省への連絡が遅れて被害を拡大させた。パロマ湯沸かし器の事故は情報が経済産業省に滞り、対策の遅れが人命を奪うなど事故続出の事態を招いた。同じ轍(てつ)を踏んではならない。
産業振興優先の行政から生活者重視へ転換−と、一元化の検討が始まったのは食品産地偽装が相次いだ福田政権時代、昨年初めのことだ。昨秋の臨時国会に政府案が提出されたが、政局に押しやられて継続審議となり、この四月の創設を期待していた消費者を落胆させた。
今通常国会では共産、社民党などが、これ以上の先送りは避けなければならないとして政府案の修正を求めている。政府、民主党も消費者利益を何より優先し、妥協点を探る度量を示すべきだ。
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