企業のトップ交代が相次いでいる。先週社長交代を発表した日立製作所と東芝のほかトヨタ自動車、ホンダ、ソニーなど日本を代表する企業が経営体制を一新する。今年は「比較的社長人事の少ない年」と予想されたが、フタを開ければ結果は逆。背景には深まる経済危機がある。
数ある人事の中で、最も意外だったのは日立。副会長に退く古川一夫社長は就任から日が浅く、続投説が強かった。他方で新社長の川村隆氏は古川氏より先輩で、日立副社長を経て子会社の会長を務めている。子会社役員が本社のトップに返り咲くのは、極めて異例だ。
日立は今期7000億円という巨額の純損失を計上する。川村氏はかつて日立のリストラを主導した経験があり、その手腕を生かして、再び企業再建の陣頭に立つ。
もう1つの驚きは、中鉢良治社長が副会長に就任し、ハワード・ストリンガー会長が社長を兼任するソニーだ。会長・社長で役割分担する従来の体制を改め、ストリンガー氏が全権を掌握する。
それにしても、重要企業のトップ人事がこれだけ集中したのは偶然ではあるまい。冒頭にあげたトヨタ、ホンダの自動車2社、日立、東芝、ソニーの電機3社の売上高を合計すると55兆円に及び、上場企業全体の1割弱に達する。日本経済をリードしてきた輸出型製造業が大きな転機を迎えた証しである。
世界的な経済危機の中で、日本の製造業を支えてきた2つの前提が崩れた。1つは円安、もう1つは借金してでもモノを買う米国の個人消費バブルである。この2つの「追い風」が消える中で、各社の新経営陣は収益基盤の再構築に取り組む。
言い古された課題だが、まずはスピード感を持って「選択と集中」を実行することが重要だ。同じ総合電機の東芝に比べても事業選別の遅れた日立は、重電や鉄道などもともと強みがあり、新興国を中心に高成長の期待できる社会インフラ系の事業に特化するのも一案だ。半導体を切り離した独シーメンスなどの事例が参考になるのではないか。
ソニーはネットワーク家電で米アップルなどにお株を奪われ、今後の巻き返しが注目される。
自動車各社も北米市場への依存を減らし、中国やインドなど新興市場で稼ぐ体制をつくる必要がある。
危機のさなかに登板する新トップの責任は重い。彼らの力量いかんは個別企業の域を超えて、日本経済全体の浮沈にかかわるほどの重要性を持っている。