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社説:名ばかり店長和解 不払い残業なくす一歩に

 「和解が過労で苦しむ店長たちの援護になれば」。日本マクドナルドの店長、高野広志さんは、同社を相手にした訴訟の和解が東京高裁で成立した18日、そう語った。残業代を支払われないまま長時間労働を強いられる「名ばかり店長」「名ばかり管理職」へのエールだった。

 労働基準法は、「1日8時間、週40時間以内」と規制する労働時間を超えて経営者が労働者を働かせる場合、残業代を払わなければならないと定めるが、経営者と一体的な立場にある「管理監督者」には適用除外を認めている。店長昇格で管理監督者とされた高野さんは何時間働いても残業代を払ってもらえず、長時間労働による過労のため医師から「脳梗塞(こうそく)の一歩手前」と診断されたこともある。

 1審で敗訴した同社が控訴したが、結局高野さんの訴えを全面的に受け入れた。高野さんが管理監督者に該当しないことを認め、不払い分などを支払うなどとする和解内容で、当然の結論だ。同社は昨年8月から各店長に残業代を払うことにしたが、長年にわたり管理監督者を隠れみのに、ただ働きを強いてきた企業姿勢を反省してほしい。

 この訴訟は、管理監督者という名ばかりの肩書を社員に与え、残業代を払わずに長時間働かせるまやかしが企業の間ではびこっている実態を浮き彫りにした。厚生労働省が昨年、小売業や飲食業などの66店舗を調査した結果、管理監督者扱いの店長や副店長らは55店で計88人に上り、その9割近い78人が本来の管理監督者とは認められなかった。

 管理監督者は職務上重要な責任と権限を持ち、勤務時間の裁量が認められ、賃金も厚遇されているなど、管理職の中でもごく限られた幹部だ。人件費抑制のために社員を安易に管理監督者扱いとしているような企業は直ちに改めなければならない。厚労省も幅広く実態調査し、指導監督を強化する必要がある。

 問題の背景には、日本に横行する長時間労働や不払い残業の実態がある。厚労省によると、07年度に100万円以上の残業代を払わずに是正指導を受けた企業は1728社と過去最多だった。急激な景気悪化で残業を減らす企業も出始めたとはいえ、企業によるずさんな労働時間管理が長時間労働を招き、過労死や過労自殺を引き起こす現実に変わりはない。今回の和解を名ばかり管理職の根絶だけでなく、不払い残業の一掃や長時間労働の是正につなげたい。

 長時間労働を抑制するため昨年12月に成立した改正労働基準法は、残業代の割増率を25%以上とする現行規定に加え、月60時間を超える分には50%以上にしなければならないと定めた。しかし、これだけではまだ不十分だ。欧米の多くの国のように割増率は一律50%以上とするように見直しを進めていくべきだ。

毎日新聞 2009年3月23日 東京朝刊

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