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アフガニスタンの隣国であり、核保有国でもあるパキスタンの政情不安が世界の懸念を呼んでいる。
ザルダリ大統領と野党指導者のシャリフ元首相が対立し、半年前にできた文民政権が機能不全にあえいでいる。
両氏は昨年2月の総選挙後、連携して強権ぶりが目立った軍人出身のムシャラフ大統領を退陣に追いやった。ところが、すぐに自派の利益を求めて関係は決裂した。今回、ザルダリ氏は野党のデモを禁止し、シャリフ氏を自宅軟禁しようとし、逆にデモ隊と警察の衝突を招くなど、混乱が続いている。
先週、両氏は危機回避でとりあえず妥協した。しかし、この妥協で復職したチョードリ最高裁長官は、ザルダリ氏の汚職疑惑に対する訴追の免除措置を見直し、追及に道を開く可能性がある。火種は多く残されたままだ。
国内経済は世界経済危機に直撃され、国際通貨基金(IMF)の融資で何とか息をついている状態だ。ザルダリ政権が、IMFの融資条件である税率の引き上げに動けば、国民の不満は一段と高まる恐れもある。
隣のアフガニスタンでは、イスラム原理主義勢力タリバーンが勢力を盛り返している。パキスタンも、アフガンとの国境地帯を中心に国際テロ組織アルカイダやタリバーンの浸透が進み、治安の悪化が深刻だ。
米国のオバマ政権は、両国をまとめて安定化させ、国際テロの脅威を除こうと戦略を練っている。日本政府もパキスタンへの支援策を協議する国際会合を4月に開く。
それなのに肝心のパキスタンで内政の混乱が続くようでは、有効な支援策も立てにくい。両氏は国際社会の重大な懸念を深刻に受け止めるべきだ。そして、今回の妥協が文民政権の永続的な安定へとつながるように、ともに努力しなければならない。
パキスタンでは、腐敗と政治対立を続けた文民政権が軍部のクーデターで打倒され、軍事政権が成立するという事態を繰り返してきた。ザルダリ氏の妻で一昨年に暗殺されたブット元首相の政権も、シャリフ氏自身の政権も、90年代、同じようにクーデターや軍部の介入で倒されている。
パキスタンは98年に核実験をした。政治と治安の混乱のなかで、核兵器が国際テロリストの手に渡るような事態になれば、たちまち世界全体への脅威へと直結する。
この「核保有国の不安定化」を逆手に取ってパキスタンは先進諸国から支援を引き出してきた、と批判されている。その姿勢を改めねばならない。
国際社会がいま、やるべきことははっきりしている。支援が確実に民主化と安定の向上につながるよう、パキスタンの指導者たちに強く働きかけることである。
オバマ大統領の誕生と未曽有の経済危機が、「ガソリンがぶ飲み」の米国を変えることになるかもしれない。
自動車の排ガス規制の強化に及び腰だったブッシュ前政権から一転、オバマ氏は基準強化を打ち出した。
車の出す温室効果ガスを16年までに3割削減するカリフォルニア州の独自規制も認めるという。同じような規制を他に13州が導入する準備をしており、この厳しい基準が事実上の全米基準になる可能性が高まってきた。
大型車中心の米国市場でこの新基準を達成するのは、燃費で定評のある日本メーカーも「かなり厳しい」とみる。経営危機に陥った米自動車大手3社(ビッグ3)にとっては難問だ。だが、オバマ氏は「グリーン・ニューディール政策」の一環として自動車産業の環境投資を支援し、景気対策にもする考えだ。
米国の消費者が好んで買っていたのは、ガソリンをふんだんに使う燃費の悪い大型車だった。ビッグ3はそれに甘えて大型車ばかりを大量生産し、燃費改善努力を怠ってきた。米政府もビッグ3の競争力が一段と低下することを恐れ、容認してきた。
それを批判したのが環境問題に熱心なゴア元副大統領だ。日本でも公開されたドキュメンタリー映画「不都合な真実」でゴア氏はこう指摘した。燃費がいい車をつくっているトヨタ自動車やホンダと比べ、ビッグ3の経営が悪化している。つまり国内メーカー保護のために環境基準を緩くしている米国の政策は「時代遅れだ」と。
オバマ氏は、規制の強化により燃費向上をめざすメーカーの競争を促し、温室効果ガスの削減につなぐことを狙っている。「不都合な真実」の批判にようやく応えるものになる。
これは、破綻(はたん)寸前に陥ったゼネラル・モーターズ(GM)などビッグ3を政府が支援するうえで、格好のテーマにもなる。
支援には世論の批判が強いが、政府としては雇用への悪影響を考えると突き放すこともできない。ハイブリッド車や電気自動車、燃料電池車など次世代車の研究開発を促すという環境対策の一環としてなら、支援に理解を得やすくなるからだ。
もちろんオバマ氏にはもっと大きな構想もあるだろう。ビッグ3の環境車投資によって、環境ビジネスの厚みを広げることが期待できるからだ。この危機で壊滅的な打撃を受けた金融ビジネスに代わり、新たな経済のリード役を探さねばならない米国にとって、環境ビジネスは有望な分野だ。
米国でも環境車が中心になれば、次世代技術の研究開発熱が世界的に高まるだろう。燃費技術で優位な位置にある日本メーカーにとってはチャンスだ。全力で取り組んでもらいたい。