吉備路をゆく巨鯨。造山古墳(岡山市)にはそんなイメージがある。昨日、巨大な墳丘のすそで発掘調査の現地説明会が行われ、多くの歴史ファンが詰めかけた。
調査は岡山大チームの手で今月から始まった。陵墓ではない発掘可能な古墳としては日本最大。周囲を巡る壕(ほり)の有無などの確認は、吉備地方だけでなくわが国の古代史に大きな影響を及ぼす。全国的な注目を集めるゆえんだ。
タイミングを合わせるように、吉備を舞台にしたミステリーが出版された。西村京太郎著「吉備 古代の呪い」。おなじみの十津川警部が殺人事件を追って岡山に入り、造山古墳や吉備津神社、鬼ノ城などを探索する。
彩りを添えるのは日本書紀に登場する吉備の反乱伝承だ。畿内の王・雄略に美ぼうの妻・稚媛(わかひめ)を奪われ、朝鮮半島で非業の死を遂げる吉備上道臣(かみつみちのおみ)田狭(たさ)。吉備の誇りをかけて立ち上がる稚媛と皇子。現代と古代の謎がからみながら話は進む。
今回の造山古墳調査では、埴輪(はにわ)片多数が出土し、墳丘全長は想定より短い三百五十メートル前後の可能性が出てきたが、周壕(しゅうごう)の有無は確認できなかった。
謎解きの続きは次回以降だが、手つかずだった「聖域」に調査のメスをいれた意味は大きい。地域と行政が一体となった遺跡の保護管理、活用への動きにもつなげたい。