【政治部デスクの斜め書き】ニュークリア・シェアリングを
2009/03/22 23:37更新
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日本は非核3原則に象徴されている、これまでの核政策を今すぐ抜本的に見直すべきであるというのが、今回の「政治部デスクの斜め書き」の趣旨です。少なくとも北大西洋条約機構(NATO)に加盟しているドイツ、イタリア、オランダなどが採用している米国とのニュークリア・シェアリング(核の共有)政策を参考にすべきだ-ということを主張したいと思います。以下、乱筆乱文ですが、その考えの一端をつづってみました。
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記事本文の続き■北朝鮮の弾道ミサイルに備えよ
いよいよ北朝鮮が「人工衛星」を打ち上げるようです。北朝鮮は4月4~8日の間に「人工衛星」を打ち上げるとしており、秋田県沖約130キロの海域と太平洋上の海域を危険区域に指定しました。たとえ、外観上は「人工衛星」であっても、打ち上げ技術のベースになっているのは、国民が飢餓に苦しむ経済的苦境の中にありながら北朝鮮が遮二無二に開発してきた弾道ミサイルであり、われわれ日本としては絶対に容認できるものではありません。
北朝鮮が弾道ミサイルの打ち上げを強行したら、われわれは同盟国である米国、そして韓国と連携しながら、国連安全保障理事会で北朝鮮に対する非難決議や新たな制裁決議の採択を求めるよう動き出すべきであり、中曽根弘文外相が公にしているように弾道ミサイルの一部が日本に落下してくるような恐れがあるなら、ミサイル防衛(MD)システムを発動させ、打ち落とすことも躊躇すべきではないと思います。
特に今回の北朝鮮の挑発行為は、米国に民主党のオバマ新政権が今年1月に誕生してまもなくのことであり、オバマ新政権のもとで、日米同盟が有効に機能するのかどうかという試金石にもなると思います。オバマ新政権は、ヒラリー・クリントン米国務長官が最初の外遊先に日本を選び、オバマ大統領自らもあまたいる外国首脳の中で、麻生太郎首相を最初にホワイトハウスに招くなど、対日重視政策をとっているとされています。北朝鮮による弾道ミサイルの発射に対して、日米が緊密な連携を取ることができるのか、オバマ新政権の対日重視というのが本物なのかどうかがまさに問われるわけです。
北朝鮮はすでに2006年10月に核実験を強行しており、事実上の「核保有国」です。そして、ノドンなど日本を射程に収めた弾道ミサイルを多数配備しています。核兵器以外にも化学兵器や生物兵器の生産と配備を進めているのは、間違いないといってよく、日本にとってはまさに目の前にある脅威です。日本の周囲では、北朝鮮のほかに中国やロシアが核兵器を保有しており、日本はこれらの“敵性国家”にぐるりと囲まれているわけです。
■米国の核の傘の信頼性は?
こうした状況の中、日本が自らの安全を守るためには、どうすればいいのでしょうか。ここで核政策の大胆な見直しに踏み切るときを迎えているのだといってもいいかもしれません。
今の日本の核政策を要約すると、(1)作らず(2)持たず(3)持ち込ませず-という非核3原則は堅持しながら、核攻撃の恫喝(ニュークリア・ブラックメール)に対しては、米国の核の拡大抑止力(核の傘)に依存するというものです。
米国は、北朝鮮が核実験に踏み切った直後に、当時のライス国務長官を日本に派遣し、ライス氏は麻生太郎外相との会談で、「米国は日本防衛の義務を果たす」と述べ、北朝鮮が核実験を行った後でも日本に対する米国の核の傘は有効に機能しているということを強調しました。
こうしたこともあって、現状の大胆な変更を厭い、問題先送りに傾きがちな日本の政界や官界は、北朝鮮による弾道ミサイル発射という今回の事態に直面しても、残念ながらこれまでの核政策をそのまま続けていく可能性が非常に強いのではないかと思います。
しかし、米国の核の傘は目に見えないものであって、日本に本当に差し掛かっているのかというこことを誰も証明することはできません。言葉では「米国の核の傘は有効に機能している」と言っても、実際に“そのとき”になってみなければ、分からないところが多いと思います。完全に開いていると思っていた傘が実は半開きになっていたり、また急に閉じてしまったり、雨漏りがしていたりするかもしれません。
われわれ日本が北朝鮮や中国やロシアからニュークリア・ブラックメールを受ける恐れは、十分にあります。いや、今のところ表沙汰になっていないだけで、すでに水面下の外交交渉では、似たような言葉で、揺さぶりをかけられたことがあるのかもしれません。
ニュークリア・ブラックメールを受けた場合、核の傘を有効に機能させるために在日米軍はどう動くのか。日本に来援する米軍はどうするのか。そして、日米の首脳レベルや外交・防衛当局の間で、どうしたら核の傘を有効に機能させることができるのかという真剣な議論が行われたことがあるのでしょうか? この点がおざなりにされているのだとしたら、われわれ日本の安全保障にとって大きな問題です。
■最貧国でも核兵器を持てば大国と渡り合える
核政策の見直しにあたっては、(1)やっぱり現状維持を決め込む(2)非核3原則すべてを見直して日本独自に核武装する(3)米国の核の傘に依存はするが、脅威がより深刻さを増している現状を鑑みて非核3原則の一部を見直す-という選択肢があるのではないかと思います。
この「政治部デスクの斜め書き」は、日本を取り巻く安全保障の環境が大きく変化し、日本に対する脅威が高まっているという認識のもとで、核政策の見直しを提起しているわけですから(1)のケースは除外したいと思います。
筆者自身は、日本が国家として存立を図っていくためには日本の独自核武装の可能性も排除すべきではないという考えです。究極的には、自らの安全は自らの手で守っていくしかない。これは、人類発祥の昔から今に至るまで変わっていないと思います。
「原爆は張り子の虎」と言っていた中国は、なぜ「ズボンをはかなくても核兵器をつくってみせる」と、核兵器開発に邁進したのでしょうか。その中国と国境紛争を繰り広げたインドは、なぜ1974年に「平和目的」と称しながら核実験を行ったのか。国際社会から経済制裁措置を受けるだろうということが分かっていたのにインドは再び1998年に核実験をしたのでしょうか。そして、世界の最貧国といってもいい北朝鮮が超大国の米国との直接交渉で、一歩も引かないで対峙できるのはなぜなのか。
それは、核兵器はたとえ少量であっても、それを保有する国のパワー(国際的地位や軍事的地位)を飛躍的に増大させる戦略兵器だからにほかなりません。
北朝鮮が核兵器をどの程度保有しているかどうかについては諸説ありますが、北朝鮮と相対する国は、北朝鮮が核兵器を保有しており、その気になれば実際に使用したり、第三国や国際テロリスト集団に譲渡してしまう恐れがあるということを常に念頭に置かなければなりません。国際社会における傲慢無礼とも言える北朝鮮の立ち居振る舞いは、核兵器の“威力”を国際社会に対して示しているといっても過言ではないでしょう。
■非核3原則は非核2・5原則化している
筆者は、日本は独自に核武装できるポテンシャルを十分に持っていると確信しています。一部の識者のように、核実験場がないから日本は核兵器の開発ができないとか、財政的な負担に耐えられない、技術的に困難だ-などとは思いません。インドに対抗して核実験を行ったパキスタンは開発途上国ですし、われわれ日本に核攻撃の脅威を突きつけている北朝鮮は、それこそ経済的に破綻しているではありませんか。こうした国々が核兵器の開発に成功したにもかかわらず、世界第2の経済大国であり、優れた科学技術を持っている国であるわれわれ日本がなぜ、核兵器の開発はできないとなってしまうのか。不思議でなりません。
これまで、日本の核兵器開発の可能性を探った政府の内部文書とやらが何度か表面化したことがあります。しかし、これらの文書は、日本にとって核兵器開発がいかに困難で負担を伴うものか、日本にとってプラスにならないことを内外にアピールすることを目的に作成されたと言ってもいいものです。有り難がって神棚に飾るような必要はないと思います。
ただ、報復手段として信頼できる独自の核兵器の開発や完成した核弾頭を運搬する手段(弾道・巡航ミサイルや大型爆撃機)などの核兵器体系の確立は、日本は一から着手しなければならず、独自の核の保有とその管理・運営システムの構築には、ある程度の年月がかかるのは避けられないと思います。
こうしたことを踏まえて、北朝鮮の核兵器の問題が差し迫った脅威であることを考えると、とりあえず(3)が最も手っ取り早い対処方法なのかもしれません。
米国は核兵器の所在について否定も肯定もしないということを原則としており、米海軍艦船が日本に寄港した際などに、核兵器を搭載しているのではないかという指摘を受けています。米海軍艦船が日本に入港するたびに、ハワイやグアムなどで核兵器を一度降ろしてから日本に立ち寄るというのは、軍隊の運用の面からは不合理な話です。少なくとも米海軍艦船は日本の領海や港に入るときは、核兵器を搭載したままなのではないかと、通常ならば考えるのではないでしょうか。もちろん、日本の“敵性国家”である北朝鮮や中国やロシアも当然ながら、「米海軍艦船は、核兵器を搭載したまま日本に寄港しているはずだ」と思っているではないでしょうか。
領海の通過や寄港は一時的なもので、米国は日本国内に常時、核兵器を持ち込んで配備しているわけではないという理屈も成り立つわけで、国際社会からみると非核3原則は、核兵器を搭載した米海軍艦船がそのまま領海を通過したり、一時的に寄港していることを日本政府が“黙認”する非核2・5原則化していると言ってもいいかもしれません。
ただ、非核2・5原則は、北朝鮮による核実験の強行や中国が核兵器の近代化を含むなりふり構わぬ急激な軍拡に乗り出す以前から“常態化”していたと言ってもよく、非核3原則から非核2・5原則への移行を公式に内外に宣言したとしても、これで米国の核の傘による抑止力が一挙に高まるということにはならないのではないかと思います。
■ニュークリア・シェアリングを真剣に検討すべき
ニュークリア・ブラックメールを受けることに伴うわれわれ日本国内の大きな混乱や動揺を防ぐには、日本国内への米国の核兵器の持ち込みと配備を容認するのが効果的ではないでしょうか。このケースで、われわれ日本にとって最も参考になりそうなのが、冒頭部分で紹介したニュークリア・シェアリングです。
最近では、歴史認識をめぐり政府見解とは異なる論文を公表したとして、航空幕僚長を事実上、更迭された田母神俊雄(たもがみ・としお)氏がその著作などで紹介しておられますので、お聞き及びの方もいらっしゃるのではないでしょうか。この政策は、NATOに加盟しているドイツ、イタリア、オランダ、ベルギー、トルコの5カ国が採っているもので、(1)あらかじめ米国の核兵器を国内に持ち込んで配備する(2)その核兵器は、駐留米軍が管理・保管するが、ニュークリア・シェアリングを採った国々は米軍から日常的に核兵器の運用方法の訓練を受ける(3)ニュークリア・ブラックメールを受けたなどの有事が発生した場合には、米軍はこれらの国々に核兵器を譲渡する-というものです。
もちろん、圧倒的な地上兵力を擁していた旧ソ連と地続きで対峙していたドイツやオランダなどと、四方を海でぐるりと囲まれているわれわれ日本とでは地政学的な条件はまったく異なります。また、ニュークリア・シェアリングは冷戦時代から始まった政策であり、当然その後の技術的な革新を考慮しなければなりません。ドイツやオランダなどに配備された核兵器をそのまま、われわれ日本国内に持ち込むというわけにはいかないでしょう。
ニュークリア・シェアリングに関して、ドイツやオランダなどでは、譲渡対象となっている核兵器は射程が短い戦術核兵器レベルであり、われわれ日本にとっては役に立たないと批判する論者もいます。しかし、先に指摘しましたように地政学的条件の差異や核兵器に関する技術的な革新を念頭に置きながら、米国と交渉するのは当たり前の話で、要はわれわれ日本にとって最適なニュークリア・シェアリングを追求していけばいいだけの話です。「あれも駄目。これも駄目。だから、日本は ニュークリア・ブラックメールや有事に対しては無力だ」などと思考停止に陥ってはならないはずです。
米国は自らの本土を直接、狙えるような大陸間弾道ミサイル(ICBM)の配備を認めるはずがないというのなら、ICBMより射程が短い中距離弾道ミサイル(IRBM)や巡航ミサイルなどの配備を検討すればいいではありませんか。「いや、政府解釈でIRBMは保有できないとされているはずだ」というのなら、その政府解釈を変えればいいだけの話です。そもそも非核3原則も国会決議で、法的な拘束力はないはすです。米国やロシアは核弾道の運搬手段としてICBM、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、戦略爆撃機を3本柱としていますが、イギリスやフランスは核戦略を見直した結果、SLBMに特化しています。このイギリスやフランスの例は、地政学的条件や国情が違えば、当然のように国によって核戦略も変わるといういい見本です。
■米海軍将兵から核兵器の運用を学ぶ
われわれ日本は海洋国家であり、目の前には広大な太平洋があるわけですから、潜水艦を遊弋させるにはもってこいの環境にあります。「イギリスやフランスは原子力潜水艦を持っているが、日本にはない」というのなら、とりあえず通常潜水艦を運用したらいいではないですか。通常潜水艦は、原子力潜水艦より静粛性に優れており、隠密性は高い。報復手段とし利用するにはもってこいです。
「ディーゼル機関に頼っている通常潜水艦は、換気のために浮上しなければならず、長期間は潜水できない」といわれていますが、最近では非大気依存推進(AIP)機関を動力とする潜水艦も世界各国の海軍で運用され始めています。AIP機関を利用すれば、原子力潜水艦には及ばないものの、かつての通常潜水艦に比べて長い間、潜水が可能になるといいます。
核弾頭を搭載した巡航ミサイルを発射できる、われわれ日本の潜水艦に原子力潜水艦の運用に熟達した米海軍の将兵に搭乗してもらい、彼らから自衛隊員が核弾道の取り扱いやミサイル発射などの訓練を受ければいいわけです。実際に潜水艦を運用する場合にも、ニュークリア・シェアリングに基づいて、やはり米国海軍の将兵が乗船して、われわれ日本が北朝鮮や中国やロシアからニュークリア・ブラックメールを受けたり、有事に直面した場合に、彼らから核弾頭の起爆コードや巡航ミサイル発射のために必要なキーの譲渡を受ければいいわけです。
もちろん、こうしたシステムは一朝一夕に構築できるものではありません。システムが完成するまでの間に、北朝鮮や中国やロシアからニュークリア・ブラックメールを受けないとは言い切れません。このため、米国の核の傘の信頼性を担保するため、核兵器を装備した米軍部隊の日本国内駐留を一時的に認めるなどの方法も考えなければいけないかもしれません。
筆者は、ニュークリア・シェアリングの運用の基盤となるものとして、潜水艦を例に挙げましたが、われわれ日本にとってもっと適したニュークリア・シェアリングの方法があるかもしれません。もし、あるのならばそれが追求可能なのかを研究していけばいいだけの話だ、と思います。
われわれ日本国内で「核問題」と言った場合、「唯一の被爆国」「広島・長崎の悲劇を繰り返すな」「核実験反対」と言った「核廃絶運動」に象徴される反核教育が前面に打ち出されてきた感があります。
「暴論」だと思われるかもしれませんが、「唯一の被爆国」であるならば、その惨禍に二度と遭わないためにも、われわれ日本国民は、世界中のどの国民よりも真っ先に核抑止力を保有する権利があるといっていいかもしれません。
確かに核兵器の威力はすさまじい。その惨禍が繰り返されるようなことがあってはならない。だからこそ、われわれ日本人は、米国やロシアはもとより、中国、イギリス、フランスなどの核戦略や核抑止政策をもっと真剣に研究し、知り抜く必要があるはずです。
いずれにせよ、われわれ日本人は「今そこにある危機」から目をそらしてはならず、それを前にしてひるんではならない。思索し、行動することをやめてはならないと思います。(笠原健)
□笠原健(かさはら・たけし) 昭和36(1961)年生まれ。山形市出身。山形大学人文学部経済学科卒。63(1988)年に産経新聞に入社。多摩支局(東京都立川市)を振り出しに社会部で遊軍、JR、厚生省(現在の厚労省)などを担当。平成7年に政治部に移り、官邸、自民党、野党、外務省、防衛庁(現在は防衛省)などを担当。平成18年の夏から政治部デスクを務める。
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