名古屋市千種区の派遣社員、磯谷利恵さん(当時31歳)が07年8月、拉致・殺害された事件で、携帯電話の闇サイトで知り合って強盗殺人などの罪に問われた3被告は25日、名古屋地裁(近藤宏子裁判長)の初公判で、強盗殺人・死体遺棄の共謀の成立時期や情状面などで争う姿勢を示した。
3被告は住所不定、無職、川岸健治(41)▽名古屋市東区、同、堀慶末(33)▽愛知県豊明市、元朝日新聞セールススタッフ、神田司(37)。
共謀時期について、検察側は3被告が07年8月24日午後3時ごろ、名古屋市緑区のレンタルビデオ店駐車場に集まり、停車中の車の中で犯行を計画したと主張。これに対し、神田被告の弁護人は、同日夜に女性を物色するため3人が車に乗り込んだ時点とし、川岸、堀両被告側は「犯行直前」とした。
一方、情状面で、弁護側は神田被告が16歳のころから激しい頭痛に悩まされ、高額な治療費のため、まともな治療が受けられなかったと指摘。川岸被告側は「警察に自首したため、本件犯行が発覚した」と主張し、堀被告側は「犯行を深く反省している」と陳述した。【式守克史】
初公判後、磯谷利恵さんの母富美子さん(57)が25日、名古屋市内で会見し、3被告が「殺害を望んでいなかった」「虚勢を張っていた」などと主張したことについて、「いざとなると保身に走り、とてもひきょうに感じた。本当のことを言ってほしい」と話した。
法廷では凶器の包丁やロープ、ハンマーが証拠物として示された。富美子さんは公判後、名古屋地検の検察官から改めて凶器を見せてもらったといい、「コンクリートを壊す威力があるハンマーで、何回も何回も殴打されたかと思うと、娘がかわいそうで……」と声を詰まらせた。
「人の心など持ち合わせていない」と3被告を非難した富美子さん。特に監禁された利恵さんに性的暴行をしようとした川岸被告に対しては「母親として女性として絶対に許せない」と語気を強めた。【秋山信一】
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■検察側冒頭陳述要旨(呼称略)
◆犯行に至る経緯
川岸は07年8月16日、携帯電話の裏サイト「闇の職業安定所」にアクセスし「組んで何かやりませんか?」と書き込んだ。19~20日に堀、神田、別の男が返信し、連絡を取り合うようになった。
堀、川岸と男は21日、名古屋市東区で初めて顔を合わせた。堀の提案でパチンコ店の常連客を襲う計画を立てたが失敗した。
堀、川岸は21日午後10時過ぎ、同市中区の金山駅付近で神田と会った。神田は女性を拉致し覚せい剤中毒にして風俗店に売ればいいなどと提案。堀、川岸はパチンコ店常連客の襲撃計画の失敗を説明。その際、堀が金づちを示し「これで襲おうと思ってます」と話すと、神田が「顔を見られたら殺すんでしょ」と尋ねた。川岸と堀は「仕方ないですよね」と返答、互いに強盗殺人を行う意思があることを確認した。
22日午後6時ごろ、3人は別の男に「顔を見られるとやばいので、相手を殺してしまうつもり」と参加の意思を確認。男は「殺しは嫌です」と答えた。
23日未明、男は3人に「誰かを襲って金を奪い取ろう」と持ちかけた。神田は「どうせだったら若い女がいい。拉致って金とキャッシュカードを奪って銀行から引き出せば結構な金が入る」と女性に対する略取監禁、強盗殺人の犯行計画を提案した。
◆犯行状況
神田、堀、川岸の3人は24日午後3時ごろ、名古屋市緑区のレンタルビデオ店駐車場に集まった。車内で神田が「誰でもいいから若い女を見つけて、やっちゃいましょう。最後は殺しちゃうけどいいよね」と提案、堀と川岸が賛同した。堀が「OLならまじめに仕事していて口座に金がある」と提案し、20代後半から30代のOL風の女性を略取監禁し、キャッシュカードを奪い、暗証番号を聞き出して預金を盗み、女性を殺害して死体遺棄することを共謀した。
同日午後7時ごろから車で市内を走り、5人の女性を追尾した。同11時ごろ、歩行中の被害者を発見。千種区春里町の路上で待ち伏せた。同11時10分ごろ、被害者が車を通り過ぎた際、堀が道を尋ねるふりをして背後から接近、口を右手でふさぎ、左手で体を抱え込み、頭から車内に押し込み、シート下の床に座らせた。車外から目撃されないようシャツとタオルをかけ、愛知県愛西市の屋外駐車場まで走った。
25日午前0時過ぎごろ、駐車場で堀が被害者からバッグを奪い、財布から6万2000円とキャッシュカード2枚、クレジットカード1枚を取り出した。堀と神田は包丁で刺すまねをしながら「みんないらついてんだよ」などと執拗(しつよう)に脅した。被害者は叫び声を上げた後、虚偽の暗証番号を話した。
川岸は被害者に性的暴行を加えようとしたが抵抗されたため、顔を平手打ちにした。車外にいた神田と堀が悲鳴に気付き、川岸を制止した。神田と堀は被害者が逃げるかもしれないと判断、殺害することにした。
午前1時ごろ、神田が左腕を被害者の首に回した。川岸と堀が被害者の両手両足を押さえ、堀が粘着テープを鼻と口に張りつけ、その上から鼻をつまんだ。被害者が意識を失わなかったため、堀と神田が金づちで顔や頭を数回殴打。ロープを首に巻きつけるなどした後、粘着テープで顔を縦横に23回巻きつけた。神田はレジ袋を頭にかぶせ、開口部を粘着テープで約8周巻きつけ、ロープで首を絞めた。弱い脈が残っていたため、金づちで数十回殴打し、その間に窒息死させた。
被害者は「殺さないで」「死にたくない」と哀願したが、3人は耳を貸さなかった。
◆犯行後の状況
3人は奪った6万2000円を均等に分けた後、25日午前4時40分ごろ、岐阜県瑞浪市の山林で遺体に土や草をかぶせて遺棄した。
午前9時ごろと10時35分ごろ、名古屋市南区内など2カ所のATMで現金を引き出そうとしたが、暗証番号が合わず失敗した。3人は25日夜に再度集まって風俗嬢を襲う計画を話し合い、別れた。川岸は同日午後1時半ごろ、警察署に電話し犯行を打ち明けた。
毎日新聞 2008年9月26日 中部朝刊