群馬県渋川市で非営利組織(NPO)法人が運営する「高齢者施設」が火災に遭い、高齢者ら10人が死亡した。まことに痛ましい事故だ。
この施設は高齢者施設と称しているが、介護保険法に基づく施設ではなく、介護サービスを提供するのに必要な届けを県当局に出していなかった。また入居者にからだの不自由な人がいるにもかかわらず、スプリンクラーがないなど安全面にも問題があった可能性が大きい。
無届け施設の実態をつかむのは困難を伴うが、各地方自治体は同種の施設の調査を急ぎ、問題点を把握すれば早急に改善を求めるべきだ。
火災は大都市圏の高齢化事情について構造問題もあぶり出した。この施設には東京・墨田区役所の紹介で生活保護の受給者15人の区民が入居していた。区は各人の生活保護費を施設の運営者に渡し、そこから利用料を引いた額が入居者に渡っていたという。区民の住み家について、こんなやり繰りをしなければならない背景には首都圏の高齢者住宅や施設の大幅な不足がある。
6年後の2015年には団塊世代のすべてが前期高齢者になり、認知症の高齢者は今の150万人強から250万人に急増するとみられる。また独り暮らしの高齢者は570万世帯と、全高齢者世帯の3分の1を占めるようになる見通しだ。
特に高齢化が加速するのは首都圏だ。15年までに高齢化率がどれだけ上昇するかの推計を県別にみると上から埼玉、千葉、神奈川の順となっている。夫に先立たれ十分な年金をもらえない独居女性や認知症を患っている人も念頭に、住まいの確保に取り組むのが優先課題になる。
その際はできるだけ自宅で暮らせるように配慮するのが基本だ。公営住宅や旧公団住宅をバリアフリー化したり、介護者がいるケア付き住宅に改装したりするのを急ぐべきだ。経済対策を兼ねて国の財政支援があってもよい。市区町村の主導で日常の面倒をみたり安否確認したりするボランティアも育ててほしい。
高地価のせいで老人保健施設など介護保険が適用される施設も足りない。安全基準を満たし高質のサービスを提供する民間の有料老人ホームの建設に税制支援するのも一案だ。