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社説1 IT戦略を強化し成長力の底上げ図れ(3/22)

 IT(情報技術)を経済危機の克服に役立てる「3カ年緊急プラン」づくりを政府が始めた。行政や医療などの電子化を進め、道路の情報化など新技術を育てる。官民合わせ3年間で3兆円を投資し、関連分野を含め約50万人の雇用創出をめざす。IT戦略の強化を経済成長につなげる有効な施策を期待したい。

 緊急プランは4月初めにもIT戦略本部で決定する。日本は欧米や韓国に比べ公的部門での情報化が遅れている。年金の記録漏れなどが起きないように国民全員に「電子私書箱」を設け、個人情報を自分で管理できる枠組みを設ける計画だ。

 教育分野では教員のIT活用力を引き上げ、施設の整備も急ぐ。政府は2010年度までにすべての学校に光ファイバー接続や校内の通信網を整備する計画だが、まだ目標の半分しか実現していない。学校でのデジタル対応テレビの普及率もわずか1%にとどまり、買い替えを促すことで電気製品の需要も拡大する。

 新技術では車の安全運行を促す高度道路交通システム(ITS)や情報システムを省電力化するグリーンIT、街頭看板などを電子化し無線や高速ネットで情報を更新するデジタルサイネージ(電子看板)などを支援する。投資を新産業育成に振り向け、新たな雇用創出を狙う。

 政府が緊急プランをつくるのは、これまで行政の効率化などITの活用を促す政策が弱かったためだ。レセプト(診療報酬明細書)も11年度から電子化する計画だが、担当官庁による利害関係者との調整に時間がかかり、十分に進んでいない。

 IT本部は各省庁の施策を指揮する立場にあるが、最近は発言力の相対的低下も目立つ。緊急プランはそうした従来のIT戦略を見直し、国民的視点から実効性の高い施策や枠組みをつくろうというわけだ。

 「電子政府」を進める具体策としては、国民ID(証明書)の導入が欠かせない。電子私書箱は役所を回らなくても行政の手続きが一元的にできるようにする狙いだが、それには国民が自分の情報を管理できる仕組みが必要になるからだ。

 省庁間の縦割り行政も改めるべきだ。著作権管理やITSなどは複数の省庁が関係し、調整に時間がかかる場合が多い。縦割りの弊害を除くにはIT本部が中立的立場から指導力を発揮する必要がある。

 内閣に置かれているIT担当相はこの8年間に12人も入れ替わった。政策を確実に実現するには、政府内に専門のCIO(最高情報責任者)を置くことも考えられよう。

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