党首の発言とあらば、言いっぱなしでは済まされぬ。西松建設裏金事件をめぐり公設秘書が逮捕され窮地に立たされている民主党の小沢一郎代表が企業・団体献金の全面禁止を検討する考えを表明した。政治資金規制をめぐる議論が新たな局面を迎えている。
「政治とカネ」が問題となるたびに政治資金規正法が改正され、抜け道を探す政治家とのイタチごっこが繰り返される。与野党には小沢氏の本気度を疑問視する見方が多いが、根本解決には全面禁止が必要、との議論は理解できる。世論の批判をかわすためだけの発言ならば、論外だ。民主党は意見集約に真剣に取り組まねばならない。
小沢氏は記者会見で「今度の問題を教訓とすれば、全企業・団体献金を禁止するのがいい」と踏み込んだ。秘書の逮捕直後は「献金はどこから受けたって構わない」と公開性こそ重要と力説していただけに、まさにひょう変だ。発言の本気度をいぶかる声が出るのも無理からぬ面がある。
ただ、小沢氏の議論自体は、的はずれではない。民主党は今回の事件をうけて公共事業の受注企業からの献金禁止の法制化を岡田克也副代表らが検討している。確かに企業・団体献金すべてを悪と決めつけることはできない。だが、小沢氏が「仕分けできない」と指摘する通り、規制範囲をどう線引きするかは難しいのも事実である。
今回の事件では、政党側への企業献金の年間上限額を超える献金のため、西松建設OBが設立した政治団体が小沢氏の資金管理団体に献金した疑いが持たれている。そもそも企業や労組など団体による政治家個人の資金管理団体への献金は、00年から禁止されている。にもかかわらず政党や支部への企業・団体献金や、政治団体から資金管理団体への献金は認められ、抜け道ではないかと指摘されていた。
しかも共産党を除く各党は国から多額の政党助成金を受けている。その一方で企業・団体献金も受けることに多くの国民は割り切れなさを感じているはずだ。やはり政党への企業・団体献金も禁止し、抜け道を封じるべきだろう。
同時に、与野党で議論を進めてほしいのは、なかなか定着しない個人献金を拡充するための方策だ。「日本の政治風土に合わない」と説明されがちだが、本当にそうか。個人献金への税制上の優遇措置の拡充や、インターネットを通じた献金の環境整備などに向けた努力はまだまだ不足しているはずだ。
小沢氏の進退にかかわらず、次期衆院選に向け民主党が自浄能力を厳しく問われることは確実だ。党内には全面禁止への慎重論が根強いが、党首の発言をうやむやにしてしまうようでは、国民からの不信に拍車をかけるばかりである。
毎日新聞 2009年3月22日 東京朝刊